黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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目標はたったひとつ

「黄瀬ちん引っ込めるの~?何で~?」

 

黄瀬の交代に疑問を持ったのは、誠凛だけではない。

モグモグと口を動かしながら試合を見ていた紫原もまた、この采配に疑問を抱いていた。

 

「さて、どうだろうか。生憎、監督のいろはを知っている訳ではないからね」

 

単純に考えれば、エースたる黄瀬をベンチに下げる理由はない。3回戦くらいであれば、温存も納得出来る。だが、誠凛には火神がいる。

キセキの世代と同格となった彼を止められるのは黄瀬だけだ。態々大切な5分を削ってまで得たリードを生かすのであれば、やはり黄瀬を起用し続ける必要がある。

そこには、何かしらの理由が無ければならないが、一選手の氷室には疑問の答えを持っていない。

 

「ところで、お菓子は控えるんじゃなかったのかい?」

 

「これはガムだよ。何か口に含んでないと、つい食べちゃいそうで」

 

「何か禁煙みたいだな」

 

誠凛に敗北したその夜。紫原は、お菓子等の摂取を控えると言い出していた。

とは言うものの習慣とは恐ろしいもので、無意識にスナック菓子の袋を開け、手を伸ばし口に運びそうになってしまう。その度に荒木の竹刀の音がなっていた。

我慢していると涎が溢れ、日常生活にまで障害となりそうなので、岡村からガムを手渡されていた。

 

「あと、ガムはそんな直ぐに吐き出すものじゃないよ」

 

「えぇ~、だって直ぐ味なくなるのに?」

 

「敦は飴を噛み砕く癖を持ってないかい?」

 

小学校低学年ばりにガムの消費が早い紫原。当然の様にミント系ではなく、甘いフルーツ系のガムを噛み、味がなくなると直ぐに取り替える。

岡村から貰ったガムはとっくになくなり、ポケットの中にはくしゃくしゃになった銀紙がぎっちり詰まっている。

 

 

 

 

第2クォーターは黄瀬のいないまま開始された。

代わって出てきたのは、2年生の中村慎也。181cmでポジションはSG。

 

「中村、OFで無理をしなくていい。お前の武器を見せ付けてやれ」

 

「はい!」

 

コート内の雰囲気は実際に立ってみないと分からない。途中交代後、直ぐに高いパフォーマンスを発揮する事は難しい。

3年生でもなく、まだ垢抜けなさがある2年生の中村に、笠松は一言かける。

 

「DFだ!絶対に楽なシュートを打たせるな!!」

 

そして全体へ。黄瀬のいない状態で、誠凛のOFを防ぎきれるとは思っていない。だが、それでも踏みとどまるくらいの奮闘をしなくてはならない。

火神へ中村と早川でダブルチームを仕掛け、失点を最小限にする。他からの失点をある程度覚悟しなければならないが、1番の得点源を抑える事で誠凛OFのリズムを狂わせる。

 

「1本だ!まずは1本集中!!」

 

主導権を完全に奪われ、ここから差を詰めていかなければならない誠凛。黄瀬が下がったとしても、相手は海常。揃って全国屈指の実力者なのだ。舐めてかかれば痛い目をみることになる。

リズムを立て直す為にも、最初が肝心。ここを潰されて20点差をつけられようものなら、今の誠凛に勝ち目は無い。

黒子や木吉がいない現状で、支えになろうと日向は声を張る。

 

「(出鼻をくじかれる訳にはいかない。ここは)」

 

インターバルを挟んだ事により、第1クォーターの様な海常の押せ押せムードは薄まっている。着実にゲームに入りたい伊月は選択肢を火神に絞った。

 

「火神だろ?簡単には通させねぇよ」

 

そのくらいの事は、笠松もよく分かっている。波にのった時のOF力は、陽泉ですら止められなかった。

だからこそ、波には乗らせない。チームとして若い誠凛のペースを狂わせれば、再び立ち戻るのに時間が掛かる。

 

「っぐ...!(なんてプレッシャーを)」

 

木吉や黒子がいなければ、OFの起点は伊月だけになってしまう。笠松は伊月にタイトなチェックを行い、前へとプレッシャーを掛ける。

 

「俊さん!」

 

前へ前へと意識が向かっていた笠松の背後に、英雄がスクリーンを試みた。

 

「助かる!」

 

「っちぃ!小堀頼む!」

 

マークから解き放たれた伊月がそのままペネトレイト。その動きに合わせて小堀がスイッチ。

 

「(いかせない...)パスっ!?」

 

伊月の前を塞ぎ、距離を詰める小堀。だが、伊月は1度受けたボールを再び背後へとパスを出した。

 

「(ピック・アンド・ロール!ざけやがって...くそっ届かねぇ)」

 

スクリーン後にパスを受けに行った英雄をマークしていた笠松は、ジャンプシュートに手を伸ばすがあまりの身長差に苦い表情。

小堀も反応できず、早川が咄嗟に駆けつけ手を伸ばす。

 

「このっ...!」

 

「(パスコースが空いた...)よっとぉ」

 

シュートリリースの動きでボールを打ち放たず、コートを叩きつけるバンドパスに移行。マークが1人減った火神の手に渡り、絶好の得点チャンス。

 

「ナイスパス!」

 

受け取った火神のドライブは中村1人で止められない。

ドリブルで突っかけ、ミドルジャンパーを決める。

 

「(なんだよ...ソレ。実際にマッチアップするとこんなに高いのか?これじゃ、何人付いても飛ばせたらノーマーク同然じゃないか)」

 

平面で食らいついても、あの高すぎる打点のジャンプシュートを止める術がない。

優れたDFとして海常のユニフォームを着ている中村をしても火神を抑えられない。

 

「中村!今のは俺のせいだ!気にするな!」

 

中村に火神との1対1の状況を許してしまった原因は、己の責任だと笠松は言い。切り替えを促す。

 

「寧ろ抜かれなかった事を褒めてやるよ。その調子で頼むぜ。火神は外を苦手にしてる、中に切り込ませなきゃこっちのもんだ」

 

恐らく、偶々火神がそういう選択をしただけで、実際抜こうと思えばぬけたはず。だが、笠松の言う事も事実、早川と2人で失点を減らせる事はできるはず。

 

「はい!」

 

中村のスローインを笠松が受け、この試合の中盤戦の展開を物語るOFを仕掛けていく。

 

 

 

「(黄瀬の交代は正直予想外だったが、今の内に取り返す)」

 

OFを成功させた伊月は、手ごたえを感じていた。火神を2人でマークする以上、他へのチェックが甘くなる。火神以外がスクリーンを掛けてDFにズレを作っていけば、高確率で得点できる。

最短で逆転を狙うには、ここからのDFに懸かっている。ターンオーバーの分だけ点差が埋まり、主導権も取れる。しかし、主力を欠いているのはこちらも同じ。

黄瀬がいない場合、ボールを持つ時間が増える笠松をいかに止めるかが重要である。

 

「...?(こない?異様に静かだな。いくらなんでも、ちょっと慎重すぎるんじゃ)」

 

第1クォーターとは対照的に、海常OFはペースを落とした。

ショットクロックの数字は18、15、12と減っていき、ドリブルの音だけが耳に届いていた。

 

「森山!」

 

そして10から一桁へと変わった瞬間、海常のテンポが急変する。

中村のスクリーンで抜け出した森山の名を叫びながら、その実全力のドライブ。森山に意識を釣られて、虚を突かれた伊月には『鷲の鉤爪』を使うタイミングを読みきれず、笠松の侵入を許した。

 

「しまっ..!?」

 

がら空きのペイントエリアに入り込んだ笠松に英雄がヘルプで詰め寄る。

 

「(このっ...嫌なタイミングで...だが)小堀っ決めろ!」

 

「っげ、股抜き」

 

周りに流されず、確実に笠松のシュートチャンスを潰した英雄。だが笠松は直ぐに切り替え、英雄の股を通して小堀へとパスを繋ぐ。

 

「させっか!」

 

フリーでのシュートに火神が強襲。小堀の放ったシュートに指を掠める。

 

「なっ!?(あの距離を一瞬で...)」

 

1m以上の距離を一瞬で詰め寄り、小堀の背後からブロックを届かせた。シュートは外れて、リングから零れ落ちる。

 

「リバウンドー!!」

 

「ぬっぅんがぁぁ!」

 

「(反応が..)速すぎるっ!」

 

誰よりも先んじて、スクリーンアウトを行った早川に土田はボールに触れる事すらできない。

奪ったボールを自ら決めて、海常の追加点。

 

「よーし!今度こそ止めるぞ!」

 

危うさはあったもののOFを成功させ、DFへの意気込みも増す。勝利までの過程にある難航な第2関門へと、笠松を先頭に駆けだした。

 

「おいおいおいおい...なんだよそりゃ。ペース配分無視かよ」

 

海常から放たれる気迫は、正に勝負所のもの。どう考えても完全なオーバーペースで、これが最後まで続くとは思えない。

形振り構わず必死になっている海常に日向は異様なプレッシャーを感じた。

 

「(っていうか、この場のディレイドOFって...やっぱり逃げ切り戦法?)」

 

海常の気迫よりも遅攻に及んだ理由が気になったリコ。

誠凛も陽泉との試合で使用したディレイドOF。1回のOFにおける24秒を目一杯に使用するものである。

意味合いとしては様々で、終盤の逃げ切り戦法でよく使われる場合がある。しかし、リコの考える通り、第2クォーターからあからさまに使用するという前例はない。

他にあるとすれば、走りあいからハーフコートバスケットに転換し、インサイドを重視するという意味もある。

 

「(いや、もっと重要な問題から目を離すな!一見デメリットばかりしか見えない、黄瀬君を下げる事によって発生するメリット...)それって、もしかして」

 

春先での海常はもっと強気に攻めてくるイメージがあり、どうしても今のプレーに違和感を感じてしまう。恐らく、この選択をした理由は黄瀬の交代にあるのだろう。しかし16点差といえど、こちらには火神がいて黄瀬がいない。逃げ切るといっても精々第4クォーターまでにはどうにか出来そうに思える。

そして、それを承知の上での海常。その狙いとは何か。

リコは第1クォーターで行われた事を思い返し、当りをつけた。

 

「そうか...前提が違ってたんだ...こうしちゃいられない!」

 

 

 

 

「伊月君!」

 

妙な感じはあるのだが、点差を少しでも減らしていかなければならない。

伊月がボールを運んでいるとベンチから誰かが呼んでいる。

 

「カントク?」

 

ベンチを方を見るとリコが両手を使ってTの文字を作っている。

 

「(TO?まだ始まったばかりだぞ?こんなところで使って...)」

 

伊月が怪訝な表情をするのも当然で、TOの回数はクォーター毎に定められている為、本当に重要でなければ早々使用しない。

だが、リコの目は真剣そのもの。ここで取らなければならない理由はまだ分からないが、断る理由はない。

リコの指示に従い、伊月はボールをラインの外に投げる。

 

「時間ないからとにかく聞いて。問題は、黄瀬君の『完全無欠の模倣』にあるの」

 

ベンチに戻った5人は、座ったままリコに目を向ける。

 

「多分海常は、その使用時間を増やす為の作戦を取ってるわ」

 

「ちょっと待ってくれ。5分以上にするって事か?その前に、そんなの可能なのか?」

 

黙ってきくつもりだったのだが、話の内容に反応してしまった伊月。

 

「可能よ。そもそも、5分ってのはフルに出た場合の話でしょ。序盤で半分使って、休憩を挟み、終盤で再び使う、これなら3分くらいは増やせるでしょ?」

 

リコの予測通り、黄瀬が第4クォーターに再び出てくるとすれば、その間2つ分のクォーターとインターバルを合わせて30分以上休めることになる。

体力が戻れば使用した3分はリセットされ、再び5分使用出来る。

ここまで分かれば、海常がディレイドOFを試みている理由もわかってくる。

 

「黄瀬君は3分で16得点し失点なし。第4クォーターラスト5分で投入するならば、10点差くらいなら逆転可能。だから中盤戦はとにかく時間稼ぎに全力を注げばいいってね。やってくれたわよ」

 

読みが合っていれば、誠凛は既に窮地に追いやられている事になる。

海常からすれば、逆転されてもある程度猶予があるのだ。それどころか、今のペースだと同点に追いつくまで時間がかかる。

 

「それってヤベーんじゃ!?」

 

直接やり合った火神は、再び5分使えるという事実だけで顔を強張らせた。

3分間で16得点。5分だと一体どうなってしまうのか。

 

「うん。だから、先にこっちから動くわ。メンバーチェンジするから準備して」

 

現状は把握した。次にその対策をリコの口から説明される。

 

「...え?」

 

 

 

 

「もう感づいたのか。早いな」

 

海常ベンチでは、武内が作戦を看破された事を察した。

早すぎるTO、もう少し時間が掛かるかと思っていたが、どうにも頭がキレる監督だったらしい。

 

「しかし、感づかれたところでやる事は変わらん」

 

もっとも第2クォーター中にはと予想をしていた武内。

 

「いいか。ここからは我慢の時間が続く。辛く厳しい道のりだが、お前たちになら出来る。特に笠松・森山・小堀ら3年生には築いてきたものの違いを見せ付けろ」

 

誠凛の次の動きも重要だが、それよりも必要なのは選手への激励。体力もそうだが、精神的にも辛い時間帯が長く続くのだ。気持ちを強く保つ為に気休めでも力強く言葉を掛ける。

選手達も理解しており、無駄話をする体力すら惜しんでいる。

 

「黄瀬、お前は気付かれないように足を冷やしていろ」

 

今回の作戦自体は、武内が急ピッチで作り上げたものである。

少なくとも昨日の晩までは、正攻法の戦いを考えていたのだが、アクシデントに見舞われた為にそうせざるを得なくなったのだ。

そのアクシデントとは、黄瀬の負傷の発覚。

以前、夏のIHで桐皇と戦った時の負傷が完治していなかった。時間的に考えればとっくに治っているべきものだったのだが、そこからのオーバーワークによって爆弾となって残っていた。

眠っていた爆弾が爆発したのは、昨日の福田総合との試合。笠松が気付き、武内に打ち明けに来た。

一晩でとりあえず出場できるまでには落ち着いたが、実際には第1クォーターでもかなり無理をしていた。

 

「決して俯くな。いつでもいけるという顔を保て。そうすればあちらに少しでも危機感を与えられる」

 

これはただのはったり。終盤での投入という事は看破されていても、中盤での投入の可能性を感じさせられれば焦ってくれるかもしれない。

効果の期待は低いが、何もしないよりかはマシ。

 

「...っス」

 

「そうだ、その顔だ。今はとにかく前を向いていろ」

 

近くでよく見れば、焦りと不安を1番に感じている事が分かってしまうが、誠凛ベンチくらいの遠くからなら一目で分からない。

黄瀬は海常のエースだ。故に、過ちにいつまでもへこたれていてはいけない。

 

「(くっそ...いつまで俺は弱いままなんスか)」

 

薄っぺらな勝気を出す事しか出来ない自分に腹を立てていると再開のブザーが鳴った。

 

「先輩。俺、いつでもいけますから」

 

「ばーか。直ぐに出てこられたら意味ねぇよ。とりあえず後半まではおとなしくしてな」

 

簡単なやりとりの直後、選手交代の知らせが耳に届いた。

 

 

IN 水戸部  OUT 火神

 

 

先にコートへ入った4人とは別に審判席の前で軽くお辞儀をした水戸部。他の4人の中には火神はいなかった。

 

「何だとっ!?」

 

火神がベンチに下がり、誠凛のメンバーは伊月・日向・水戸部・土田・英雄となっている。

木吉や黒子の投入を予想していた海常に大きな困惑を与えた。

 

「(ははは...困惑してるのはこっちもなんだが)ん?コンニャクに困惑...ちょっと厳しいか」

 

「もう3日くらいしゃべんな伊月」

 

「俺PGなのに!?」

 

リコの指示を聞くまで、誠凛メンバーも黒子と木吉の投入だと思っていた。それどころか、火神の交代とは考えもしない。

 

 

 

 

 

【おいリコ!俺を気遣っての事なら間違ってるぞ!黒子はともかく俺を出してくれ!!】

 

少し前、リコの話を聞いて木吉と火神がいきり立っていた。

水戸部を否定する訳ではないが、少しでも早く追いつく為には木吉のいう事ももっともだ。

 

【そっすよ!何で俺が下がんなきゃいけねーんっすか!】

 

そして、エースの火神を下げる理由も分からない。

 

【っるっさい!時間無いって言ってるでしょ!】

 

【うぅっ...】

 

リコの一喝で男共を黙らせる。

 

【私達の目標は何!海常に勝つ事じゃなくて日本一でしょ!?洛山の強さだってその目で見たでしょ!?】

 

誠凛の目標は始めから変わってなどいない。あくまでも日本一になる事。

つい先ほど行われた試合で、秀徳を倒した洛山が相手になることが決まった。接戦を演じてはいたが、どうにも未だ底を見せていない様にも思えるのだ。

底が見えない以上、現時点で効果的な采配を出来るとリコには言えない。出来る事と言えば、少しでもベストに近いコンディションで試合を迎えさせる事。

 

【鉄平が入っても、遅攻が続く限り、直ぐに点差は埋まらないわ。だったら前半はみんなに任せなさい。第2クォーターで6点縮めて、後半はアンタに任せるから!文句ある!?】

 

【ぐうの音も出ないよ...悪いなリコ】

 

感情に任せながらも、言葉の内容は誰よりも目標に真っ直ぐで、冷静に理論的な物だった。

 

【それから火神君。自分の役割分かってる?】

 

【俺はエースだ。エースの役割はチームを勝たせることだろ?】

 

【もっと具体的に言えば、黄瀬君を倒す事よ。疲労した体で果たせると思ってるの?】

 

体力を回復させた黄瀬の『完全無欠の模倣』による恐怖の5分を防ぐのは火神に懸かっている。

ここから追いつき追い越せたとしても、火神の体力は削られるのだ。元々、陽泉との試合の疲労を抱え体力に不安を持っている火神に無理は禁物である。

 

【分かったら黙って休んでて!水戸部君、お願い出来る?】

 

水戸部は静かに頷き、リコの指示を了承する。

 

【テツ君はやけに冷静だよね】

 

【そうですか?カントクの作戦には結構驚きましたけど...信じてますから】

 

ベンチの端に座って状況を見守っていた英雄と黒子は、こそこそと話し合っていた。

 

【そういえば、英雄君も随分と大人しいですね】

 

【そっかな?ゴール下で小堀さんとやりあってて余裕無いのかな?まっ、リコ姉ががっちり束縛してくるからかもね】

 

少なくとも雑談をする余裕はある様で、全く気負いを感じさせない風体の英雄。

 

【そこっ!しっかり聞きなさい!】

 

早々に見つかり、お叱りを受ける。

 

【このクォーターで出来る限り点差を詰めるわ。具体的な作戦を今から言うから、しっかり聞くように】

 

 

 

 

見ている全ての者の予想の外。

誠凛のメンバーを見て、ざわついている人も少なくない。

 

「にひひ。リコ姉といると飽きないねぇ」

 

「お前も!言ってる場合か」

 

伊月同様、英雄のツッコミをしなければならない日向の負担が微妙に増えている。

 

「言ってる場合でしょ?」

 

「ぁあ?木吉も黒子も、火神だっていねぇのに余裕なんかねぇよ」

 

「まぁまぁ、落ち着けよ日向。周りの顔を見てみろよ」

 

止まらない英雄の軽口に日向は更に困惑していると、察した伊月から促された。

 

「はぁ?分かってるよ。俺と伊月と英雄と水戸部と土田...か。そうだな、ある意味これが1番の面子かもな」

 

「コガは、爪の怪我で出られないから仕方ない」

 

集まった4人の顔を眺めて、1つだけ思い出した。ここに小金井を含めれば、練習を共にした長さが1番長いメンバーである。

それぞれがどれ程努力していたかを良く知っており、いいところも良く知っている。

 

「木吉には悪いが、この面子でどこまでいけるのか、なんて思ってこともある」

 

「ははっ。悪い伊月、正に今そう思ってるよ」

 

伊月の呟きに日向が半笑いで応えた。

去年、木吉がドクターストップで離脱し、英雄が加入した。

若干でもあった雰囲気はあっさりと消えてなくなり、再び日本一への目標を掲げたあの日から。同じボールを追いかけて、同じコートを走り、同じ時間を過ごしてきた。

基礎練習ばかりで練習試合もあまりなく、元々中学生だった英雄が参加できる訳も無かった。

しかし、想像するだけなら自由だ。そして、現実となっている。

 

 

海常ボールから試合は再開される。

OFは変わらず遅攻。徹底した時間稼ぎに、先日の陽泉の気持ちを理解させられた。

 

「こっちが楽になるから構わねぇけどよ。黄瀬が抜けたからって海常舐めてんのか?」

 

残り10秒になるまで淡々とドリブルを続ける笠松が、目の前の伊月に1つ質問をした。

誠凛DFはマンツーマン。水戸部が中村のマークを行い、残りはそのまま。

 

「いいや、こっちも必死さ。けど、これでフェアだ。あの時と少しメンバー違うけど、決着をつける」

 

「へぇ、言うな。それじゃ遠慮なく、行かせてもらうぜ!」

 

笠松は発言しながら、小堀にパスを送り、すぐさまカットイン。小堀から直接ボールを受け取って中村にパス。

 

「...!」

 

ヘルプの為、中村へのチェックは甘くなっていたところを狙われた。

 

「(15番!?ヘルプか!だったら小堀さんに...何!?)」

 

状況変化に伴い英雄が素早くヘルプに向かった。その場合、小堀のチェックが甘くなり、代わりのマークがあったとしてもミスマッチを狙える。

しかし、水戸部の滑らかなマークチェンジによって、最も無理の無いマッチアップを維持出来ている。

パスに移行できなかった為、中村は直接放つ。

 

「(やっべ、指掠めた止まり)」

 

「っぐ!」

 

英雄の中指に触れて軌道は狂いリングに弾かれた。

 

「ぃやぁー!」

 

誠凛DFは2度もいいところまで追い詰めてはいるのだが、全く同様の形でリバウンドを抑えられ、とめきれない。

早川が奪った後、森山にボールが渡り、3Pを決められる。

点差は詰めるどころか、さらに広がり19点差。

 

海常高校 35-16 誠凛高校

 

ゲームを1度切る為に仕方ないとはいえ、状況は深刻化していく。

 

「はっ...はぁ...(1本くらいならなんとかって考えてたけど)」

 

自身の甘い考えをあっさりと否定され、ペースダウンしたにも関わらず呼吸が粗くなる。

 

「(けど、今こそチームに貢献するんだ)」

 

リコがこのメンバーで逆転する方法を言った。

 

【第2クォーターは土田君の出来に懸かってる。朝も言ったけど、改めて言うわ】

 

その指示は、元々土田の役割でもあったが、再びリコは言う。

実際にやってみて、その難しさは充分に理解した。それでも、真っ直ぐに向かい合い言葉を掛ける。

 

【早川君を止めて】




『完全無欠の模倣』の制限時間に関して、この様な解釈を致しました。
疲れたなら休めばいいじゃない的な
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