なんで居るの...?
「謀ったな、コマチィ!」
「いや、知らないよ」
...素で返されました。
「そこは『坊やだからさ』とか言おうな?」
「やだよ、痛々しい。そんなことばっか言ってると平塚先生みたいになっちゃうよ?」
確かになっちゃうな。そんなイタい人になるのは勘弁なので古いネタを引っ張るのは止めた。
...小町にも平塚先生がイタい人認定されているのを知って、全面的に平塚先生に同情したくなった。
このままでは先生が人でなくなってしまう!
つくも神とかになっちゃうかな。もう逆に神々しいレベルに突入してる。
話が逸れたが、ここはもう逃げるしか選択肢が無い。だって、親父に捕まったら絶対に磔以上のことされるぞ。あ、でも磔とか俺、キリスト教的にマジ聖人。
コマチ教を信仰し過ぎた為に同じコマチ教徒に捕まって殉教するとか、偉大過ぎて歴史に残るんじゃねえの。
とにかく逃げると決めた俺は、小町も食べ終わっているのを確認してから素早くレジへ向かう。会計が終わってから店の外に出るまでの時間、実に五秒。
多分、サイゼで会計終わってから店を出た秒数があの距離だと世界最速。ギネス取れるんじゃねえの?あんまり嬉しくないけどな。
俺が世界最速でサイゼを出ると外の透き通る様な風が俺を出迎える。
外の冷たい空気をすっと吸って感傷的な気分になっていると、小町が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、この前一人っ子の友達と話してたらさぁ」
急な話だが最近、俺にとっての家族はとても大きい存在だと知ったので、自然と「一人っ子の友達」の話が気になる。
「やっぱり、羨ましいって言われてね、『何で?』って聞いたんだよ」
「一人っ子でそういうヤツ多いよな」
「そんで、友達が言うにはさ『一人だと寂しいんだよ、多分、年が近いからお互い出来る話ってあるでしょ。それを全部一人で背負い込まないといけないんだからさ』って言ってたっていう話」
とても考えさせられるお話でした。うん、そうだな。
「小町はどう思うんだ?」
「...いや、多分寂しいしすごい悲しいと思う」
小町は下を向きながらそう言ったが、俺は小町にとって十分な兄として存在しているのだろうか。
「お兄ちゃんは?」
小町の居ない比企谷家。小町を知らない俺。
例えば、それで今日を仮定しよう。
朝、俺は誰も使っていない部屋を通り過ぎてからリビングに向かうが、誰も何も作っていないので、朝食を無言で軽く済ましてから学校に行き、そして帰って来る。
学校であった色々なこと、思った色々なこと。それを自分だけで背負い込んで、家の鍵を開けても誰の返事も返って来ないし、いくら待っても誰も帰って来ない。
家はいつも静かなので、お腹も空いたから外に何か食べに行く。
ただ冷たい風が吹いていて、何か話したいと思っても誰の耳にも届かないまま一人で歩いて行くだけ。
その場所では俺は誰にも頼れないでいて、一人で抱え込む。
どんなに待っても誰にも悩みを話せない上に、その気持ちが親に届くこともない。
そこまで考えて俺は止めた。
悲し過ぎる、寂し過ぎる。考えただけで涙が出て来たぜ、本当に。
もし他にも色々な世界があり、色々な俺がいるとして、その中にそんなシチュエーションの俺がいたら多分生きていけない。
毎日泣いているかも知れない。
「まあ、分かるでしょ。お兄ちゃん」
しばらく無言になってしまった俺を察してか、小町は話を終わらせてくれた。
だが、それを聞いてあげただけだとその友達がかわいそう過ぎる。
「その友達の話は聞いてあげたのか?」
「うん、たっぷり下校時間まで話してたよ。帰りにサイゼも寄って話したし」
小町はいい友達をもっている。友達としての小町はどんな存在なんだろうか。
「良いヤツだな、お前。」
小町はしんみりした感じで答える。
「.....だといいね。そう思ってくれたかなぁ。小町も色々考えちゃったよ。明日はちゃんと学校に行って、もっと話そうっと」
「色々」とはどんなことなのだろう。小町は俺を頼っているのだから、俺はそれにきちんと応えてあげられているのだろうか。それが気がかりである。
小町には、ちゃんと人に必要なものを分かってあげられる人になって欲しい。
そんなことを思いながら俺と小町は二人きりの静かな夜道を歩いていく。
こんな日々がずっと続きますように、と願いながら。
読んで頂きありがとうございました。
次の話の追加は10/12(月)の06:40です。
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