比企谷小町のわだかまり。   作:★ドリーム

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比企谷小町はもう一度、手をとりあって。

フードコートはそろそろ人が少なくなってきた。少し前までならば遊びに来た中学生とかが居たが、今となってはフードコートに似合わないまでの静けさである。

 

「そろそろ帰るか?」

 

俺がそう声をかけると、小町と戸塚がこっちを向く。ちなみに、小町に至ってはもう半分寝ていた。まあ、ここは結構な大きさだから疲れるもんな。

 

「ふぇ?」

 

寝ぼけた小町がなんだかよくわからない言葉をむにゃった。また同じことを言うのは疲れるのである。そして飽きる。

 

「もう帰るかってきいてんだよ」

 

やや不機嫌気味にきき直すと、状況をすぐに理解したらしい。戸塚は何か言いたげな顔をしていた。それを追求する間もなく、小町は控え目に主張する。

 

「え、うーん。もうちょっと居ようよ」

 

それに追従する様に戸塚も主張する。

 

「そうだよ、八幡。もうちょっと居よう?」

 

ああ、そういうことだったのか。ぼっちは進化の関係上、空気を読むというスキルが退化している場合があるので、そこは注意をしないといけない。仮に一人っ子で、完全なるぼっちならば、深海魚の目のごとく失われてしまうスキルなので、更に一般復帰の希望は失われる。

そして、同時に、パーフェクトボッチの誕生でもある。名前がカッコよくない上に中身もカッコよくなくて、もう救いようもないのはご愛嬌。そんなことないか。

 

「じゃあ、どこに行くんだ?」

 

小町はさっとマップを取り出すと、映画館を指さしながら、まるで十歳くらいの子どもの様にはしゃいで答える。その姿は、どこか懐かしい、もっと小さかった頃の小町を思い出させた。

 

「小町ね、ここ行きたい!」

 

「......そうだな、行こうな」

 

なんだか、なんと言えばいいんだ。まあ、要はすごく幸せな気持ちになったということは確かである。よく分からないが、そういうこともあるのだろう。

 

戸塚にも確認を取ると、俺達は映画館へ向かって歩いた。

 

「何か見たいのがあるのか?」

 

「そうだよ、面白いかなって思って」

 

「面白いだろ、きっと」

 

「そーだね」

 

そう話しながら、俺達は歩いていく。

 

「ねぇ、おにーちゃん?」

 

そう言って、小町は俺の左手を握った。

 

小町の暖かい手は、少しだけ俺の冷たくなっていた体を暖めてくれた気がした。

 

「ん、どうした?」

 

「小町さ、もっと頑張るよ。いろいろ」

 

「そうだな、応援してるからな。頑張れよ」

 

「うん」

 

あとは、エスカレーターを上がれば映画館はすぐのところにある。俺達はそのまま手をつないでエスカレーターを上がった。

とても懐かしい気分がするが、それを口にしたら、何かを壊してしまう気がして、俺は何も言わなかった。

 

 




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