現在時刻は朝の九時ぴったりである。
外では小鳥がチュンチュンしているし、太陽だってまぶしく輝いている。一方、俺の部屋がどうかといえば、光はカーテンの隙間から入るわずかな日光だけなわけで、部屋の持ち主はこうしてベッドにくるまっている。
その差を意識していながらも動けないでいると、ノックも無しにドアが開き、廊下の光と一緒に明るく小町が入って来る。あまりのまぶしさに一瞬、天からお迎えが来たのかと思った。
俺的天使の一人である小町はベッドの俺の膝がある辺りにちょこんと座り、俺と目を合わせて言う。
「お兄ちゃん、今日って出かけられる?」
小町の声の雰囲気と行動から察するに、何も今すぐ俺を部屋から連行したいとかそういうのではなく、ただ単純に少し話がしたいだけらしい。
「まぁ、出かけられるぞ。あとカーテン開けてくれないか?」
小町は嫌がりもせずにカーテンを開けると、ついでに電気もつけた。
俺の休日なんてどうせ暇だと知っていながらもそれを訊くのは、俺が疲れていないか気遣うといった要素も含まれているのだろう。それを読み取った俺のコミュ力はきっと高いに違いない。
俺が起き上がってベッドに座ると、小町は俺の肩を枕にして寄りかかる。そういえば、こんなことをすることも随分と少なくなった。
「お兄ちゃんってあったかいねぇ」
「そりゃあ、ずっと寝てたからな」
寄りかかった時に少しだけ触れた小町の手は冷たくなっていて、思わず心配してしまう。
「お前の手、冷たいけど大丈夫か?」
「小町の手、そんなに冷たいかな」
静かにそう言いながら、小町は俺の手の上に手を重ねる。俺が再び答える前に、その手を戻しながら言った。
「確かに冷たいね」
そう言われた時、俺はとても悪いことをしてしまった様な気がした。このところ、どうも感傷的になり過ぎるのはどうしてなのだろうか。
「何か、ごめんな」
小町はさらに俺に近づいて、腕を絡ませるというよりも、ほとんど腕を抱きしめる様な状態になっていた。
ずっと変わらないであるべき時間がもしあるのなら、それは今だろうか。恐らく、それを思っていても、願っていても、叶うことは無いのかもしれないが、俺は時々そう考えてしまう。
仮定なんて、意味は無かっただろうに。
俺の中で、様々な感情が渦巻いていくが、囁く様にして小町は俺に言う。
「お兄ちゃん、ありがとうね」
人は、いつでも感情が出てしまう可能性はあるわけで、俺はあやうく泣いてしまいそうにさせられる。
だが、小町は一層強く俺の腕を抱きしめたものだから、その感情が俺に抑えられるはずもなかった。
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