比企谷小町のわだかまり。   作:★ドリーム

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それでも比企谷八幡はただ座って。

「お兄ちゃん?」

 

……ん、小町の声がする。

ゆっくりと目を開けると、小町が心配そうに覗き込むようにしてこちらを見ていた。

……なんでこいつ、俺の部屋にいんの? 起こしにきたのだろうか。もしそうだったらお兄ちゃん感動。

感動のあまり二度寝しそうになったので目を閉じた。いや、ほら、眠いし。大丈夫。寝ない寝ない、目を閉じるだけ。

無視するのも悪いので一応返事はしておこう。

 

「は?」

 

俺が思ったことを省略してそう言うと、今度は小町は機嫌悪そうに、ふぅーとため息をつく。

どうやら省略の仕方がまずかったらしい。頭文字を取って、「な?」とかの方が良かったのかも知れない。なにそれ意味不明。寝起きの奴にいきなり同意とか求められても困る。

 

俺のそんな考えも気にせずに、小町は薄目で呆れきった口調で言う。

 

「お兄ちゃん、まず周りを見ようね? ここがどこか分かる?」

 

「いや、俺の部屋だろ。基本休日部屋から出ないし」

 

そう言いながらも手近なところにあった掛け布団を顔に近づけながら再度目を開く。

 

そうそう、これだよこれ。このピンクがかったやつ。……えっ?

 

「ふぁっ!?」

 

俺がファービーさながらに気持ちの悪い声をあげると、丁度よそ見をしていた小町がビクッとした。

 

「へっ!? やめてよ、お兄ちゃん。ファービーじゃないんだからさぁ……で、ここはどこでしょう?」

 

他人から聞いてもファービーに聞こえるとかもう俺の就職先ファービーで良いんじゃないだろうか。専業主夫より酷い気がするのはきっと気のせい。

 

「なんで俺ここにいるんだよ……」

 

俺がそう言うと小町は机の上にある既に開けられたマッ缶を飲み、今度はそれを高く掲げながら言う。

 

「見覚えないの~?、これ」

 

確かにある。あるが、さすがにマッ缶を一つひとつ見分けるほどの能力は無い。こう考えてみると俺もまだまだなようで、これを見分けてこそ本当のマッカニストになれる。何だそれ、聞いたことねぇよ。

 

「ねぇよ。あれか、おまえ見分けちゃうの? マッカニストなの?」

 

小町は何言ってんだこいつ、みたいな顔をしながら答える。

 

「マッカニスト……なにそれ? ロックの人?」

 

「誰だよそれ。マッカートニーだろ、つぅか何でそれ知ってんだよ。古いな」

 

「あ……そっか。まぁいいや」

 

そう言った後、小町は少し嬉しそうに言う。何が嬉しいんだよ。

 

「それじゃ、種明かしするよ!」

 

「おう、早くしてくれ」

 

「お兄ちゃんは、小町にマックスコーヒーをくれたあと、なんと、寝てしまいました!」

 

……正直、驚く要素が何一つなかった。むしろそれに驚くまである。

 

「あ~と、良い知らせと悪い知らせがあるよ。どっちから聞く?」

 

「お前はスパイかなんかかよ……悪いので」

 

「えっと、それは……お兄ちゃんがもう結衣さん達とディスティニーに行っちゃったことです! なので小町は結衣さん達とお正月ディスティニーには行けません!」

 

最後の一文に含みがあった気がする。ここで確認せねば俺の休日が崩壊する可能性大。

 

「由比ヶ浜たち以外となら行けるのか? 俺の休日は貴重なんだからな。そこ考えろよ?」

 

「え、お兄ちゃん小町と一緒に遊んでくれないの? やっぱりお兄ちゃんは小町のこと嫌いなんだ……ぐすっ」

 

「分かった、分かったから泣くな。俺にとって小町こそは全てだからな?」

 

そう言うと、小町は向き直った。本当に目が少し潤んでいるのは気のせいだと思いたい。……悪いことをしてしまった。

 

「じゃあ……良い知らせ。ららぽーとに行けます。以上。」

 

「はぁ、まあ無難だよな」

 

ららぽに行くらしい。四人で行くのは初めてだろうか、雪ノ下とは行ったけどな。もうあれも何ヵ月前の話だろうか。

 

というかこいつの受験は大丈夫なのだろうか……

 

「受験は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だと思うけど、お母さんが許すかなぁって」

 

俺が小町の歳だった頃、俺はこの時期何をしていただろうか。

話せる友達もいない、遊べる友達もいない。そんな俺はどこにいったのだろう。

あの頃よりは、今は楽しい時間なのだろうと思うが。

あの頃は、こうなってるなんて思わなかっただろう。

 

小町の声を聞きながら、ふとそんなことを思った。

 




久しぶりの投稿です。忙しかったもので遅くなってしまいました。申し訳ありません。
この話もだんだんと終わりが近づいています。残すところあと数話の予定です。
評価、感想等頂けたら嬉しいです。
ありがとうございました。

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