「……というわけで、1組のクラス代表は織斑くんに決定しました。あ、『一』繫がりでなんだか縁起が良さそうですね!」
一夏少年とセシリア姫によるクラス代表を掛けた決闘から翌日。
現在教室では朝のHRが開かれており、真耶ちゃんが一夏少年のクラス代表就任をクラスの皆に伝えた。
真耶ちゃんの言葉でクラスの皆がおぉ、という感嘆の声と共に拍手を行う。瞬く間に教室は彼女たちの喝采で染め上げられた。
それがひとしきりのところで収まると、一番前の席にいる一夏少年が挙手を行った。
「山田先生。俺、負けちゃってるんですけど……」
「それは、わたくしが辞退したからですわ」
真耶ちゃんが問いに答える前に、セシリア姫が席から立ち上がり答えてくれた。質問をした一夏少年だけでなく、クラス皆の視線が彼女に向けられる。
「確かに今回はわたくしが勝利を収めました。しかし私はイギリスの代表候補生という身、ISに触れて間もない人に負けるなんて有り得ない話だというのに、そのうえで勝負に持ち込んだわたくしにも落ち度がありますわ」
「は、はぁ……」
悠々と語られるセシリア姫の言葉に、イマイチ要領を得ていない一夏少年。
「加えてこの度の日本国に対する侮辱の言葉の数々、クラスの皆様にも不快な思いを抱かせてしまったこと、イギリスの代表候補生として恥ずべき不作法をとってしまい大変申し訳ありませんでした。この場を以てお詫びの言葉を此処に示させていただきます」
セシリア姫は綺麗な姿勢でクラスのみんなに深くお辞儀をし、謝罪してみせた。謝罪する姿にも品性が窺え、こういった社会的な作法はバッチリマスターしているのだと改めて思わされる。
それにしても、セシリア姫の物腰が昨日と比べて随分と変わったような気がする。やっぱりこれも一夏少年の影響かな?というかそれしか思いつかない。
「そういうわけで、一夏さんにクラス代表を譲る形を取らせていただきましたわ。やはりIS操縦者にとって実戦こそ最高の糧、一夏さんには是非とも戦いを通して成長していただきたいですもの」
「うんうん、セシリアってば話が分かる子!」
「嫌いじゃないわ!」
「折角唯一の男性IS操縦者がクラスに居るんだから、ヨイショしておかないとね!」
「私たちは貴重な経験が積める、他のクラスの子に情報を売れる、お得だね!」
「本人の前で商売染みた発言は止めてくれ」
何を今更。
まぁでも、一夏少年の経験として良いだろうし私もどちらかというと大賛成だ。クラス代表は戦闘の機会が増えるうえ、少年は専用機持ちだから更にイベント参加がプラスされる。彼の成長を願うのであれば、この上ないポジションに違いない。セシリア姫も素晴らしい判断をしてくれた。
「そ、それでですわね一夏さん。わたくしのようなパーフェクトでエレガントなIS操縦者のもとで指導を受ければ、飛躍的にISの腕前が……」
熱弁しているセシリア姫を余所に、私と箒ちゃんはこっそりと内緒話を行っていた。
「さてテオ、彼女の訓練参加をどうみる?」
≪少年の都合を考えるならば、彼女の参加は非常に好ましい。私達では遠距離戦の訓練は務まらないからね≫
「ふむ……確かに先日の試合を見る限り、彼女ならばそれが務まるだろうな」
一夏少年のことをよく考えているようだ。代わりに自分が一夏少年のことを独占する気持ちが失せてしまっているのは年頃の乙女として痛手となるか……いや、私がいる以上独占とは言えないか。
兎に角、セシリア姫を訓練に加えるのは私と箒ちゃんによる同意で決定事項となる。一夏少年もなんやかんやで彼女の申し出を受け入れるに違いない。
……が、このままトントン拍子に事が運んでしまうのもどこか味気ないので、ここらで1つ年寄りのお茶目なイタズラを行うとしよう。
「う~ん……でももう箒に指導役を頼んでるからなぁ」
「篠ノ之さんだって部活動がありますし、いつでも頼めるわけでもありませんわ。その点わたくしはクラス代表となる一夏さんの力となれるなら、その、に、24時間いつでも承りますわよ……?」
「そんなコンビニ感覚で応じられても……けどそうだな、そういう事なら――」
よし、私の出番だ。
≪あぁ、少年よ。君はなんて罪深いんだろうか≫
「えっ?」
≪クラス代表を決める試合まで、箒ちゃんが懸命に君に指導をしてあげたというのに……こんな健気な子を捨てて他の娘に移り変わるなんて、恥を知りなさい≫
「いや、ちょっと待て!?」
いいや、待たない。というか周りが待てないみたいだね。
「織斑くん……それはちょっと無いわ……」
「箒ちゃんが可哀想……」
「ポニテの子かわいそう」
「顔が良いからってなんでも許されると思わないことね!」
「ゆ゛る゛ざん゛!!」
「おいぃぃぃぃ!!?何か一瞬で四方八方から殺意が向けられてんだけど!?」
そりゃあ、同じ女の子を捨てようとすれば黙っていられないだろうね。
「箒ちゃんとは遊びだったのね!?信じられない!」
「遊びって何が!?っていうか別に箒にはもう頼まないっていう訳じゃ――」
「織斑くん……それは先生もちょっと失望です……」
「山田先生まで!?だから違うんだって!」
≪この泥棒猫!≫
「いや、俺はそんなポジションじゃないし!っていうか猫はお前だろ!」
知ってる。
≪まぁ冗談はさておき、少年は別に箒ちゃんからの指導を受けないわけじゃないんだよね?あくまで、これからはセシリア姫も一緒に自分の指導をして欲しいって感じで≫
「えっ、そうなの!?」
「いや、だから最初からそう言おうとしてたのに……っていうかテオ、お前知っててあんなこと言い出しただろ!?」
≪私の可愛い娘を悲しませようとした罰だよ≫
「あれ、娘も何もテオって奥さんの猫いたっけ?そんな話全然聞かないけど」
ははは、こやつめ。
というかそこで箒ちゃんのことだといの一番で思わない辺り、まったくもって末恐ろしいよ。
「そういうわけだからセシリア。箒と一緒にこれからよろしく頼むぜ」
「あ、えっと…………わかりましたわ」
流石にセシリアちゃんも、あの騒ぎの後に反論を申し立てるようなことは出来なくなっていた。
ちなみに箒ちゃんはというと……。
「な、何故私はいきなり矢面に立たされたのだ……?」
クラス一同が味方になってくれるとは思っていなかったらしく、恥ずかしそうに俯いてしまっていた。可愛い。
――――――――――
「改めて織斑くん、クラス代表決定おめでとう~!」
「「「「「おめでとー!」」」」」
パンパンと、小気味よいクラッカーの音が賛辞の言葉の後に次々と現れていく。
クラッカーから放たれた紙ふぶきや紙テープが宙へと舞い踊り、センターに座っている一夏君の頭にも乗っかっている。
因みに今いる場所は寮の食堂で、『織斑一夏 クラス代表就任記念パーティー』と言う名目でちょっとしたパーティーを開いているのだ。夕食後の自由時間に開催されており、テーブルには市販のおやつや軽食系がメインでラインナップを飾っている。ジュースも結構な種類が用意されているみたいだ。
こういう場はやはり女の子達も心躍るようで、皆活き活きとした雰囲気で飲み食いやお喋りを行い始めている。
ちなみに本日の主賓である一夏少年、その表情は重々しかった。
「……はは。就任パーティー、ね」
笑いが乾いているよ、少年。
≪どうかしたのかい少年、こういうイベントは楽しまなければ損だよ≫
「いや、俺が担ぎ上げられてる時点で楽しめないんだよ……」
≪それは大変だね。ちなみに私は楽しいです≫
「だろうなチクショウめ」
恨めしそうにこちらを睨みつける少年を流して、自分が食べられる食べ物を口に運ぶ私。クリスピーキッスうまうま。
ちなみに箒ちゃんは、少年の右隣に座りつつ他の子たちとお喋りを楽しんでいる模様。残念だけど少年、今の箒ちゃんにこの状況を助けてもらおうとしても、手を貸してくれるか微妙だと思うよ?
「いやー、織斑くんがクラス代表になれてよかったねー。やっぱり唯一の男子生徒なんだから目立ってなんぼでしょ!」
「「「「「そーですね」」」」」
「千冬様の弟でしかも専用機持ち!他のクラスには専用機持ちはいないそうだから、これで次のクラス代表対抗戦はもらったわ!」
「「「「そーですね」」」」」
「なんなんだ、俺の心に酷くのしかかってくるこの森○一義アワーは……」
というか相槌を打っているの、2組の子もいるようだ。道理で人数が多いなと思ったら。
「はいはーいちょっと失礼するねー」
すると、テーブルの前で立食をしているクラスの子たちの集まりを掻き分けて、一夏少年の前にやってくる一人の少女が現れた。
「新聞部の者なんだけど、今回は話題の転入生の織斑 一夏くんに特別インタビューを行いたいと思いまーす!あ、ちなみに私は副部長の黛 薫子、これ名刺ね」
テキパキした手取りで此処に来た目的と挨拶を済ませ、茫然としている一夏に名刺を渡す、薫子という名の新聞屋のお嬢さん。
この時期に部活動の副部長という事は、多分この子は私たちより一つ上の2年生かもしれないね。どことなく雰囲気が他の子たちよりも大人っぽいし。
特別インタビューという急イベントに、周りのお嬢ちゃん達のテンションも程よく上がっていく。
ただし、それらの板挟みとなっている一夏少年の顔は酷く疲れているように見えた。南無。
「それじゃあ早速、晴れて1年1組のクラス代表となった感想とか今後の意気込みとか、そんな感じのコメントをどうぞ!」
「え、いやぁそのぉ…………頑張ります?」
「え~、もうちょっとアクセントの効いたコメントちょうだいよー。この学園は今から俺の物だ!とか」
「俺は魔王か何かかっ!?」
一夏少年が魔王……イマイチパッとしないのは私だけかな。女の子を無差別にホの字にさせる辺りは魔王級の威力だけれど。
「ほらほら、なんか他にコメントない?」
「自分、不器用ですから」
「前時代的な台詞……まぁ適当に『不器用なりに魔王やって世界征服目指すぜ』とかにねつ造しとくね」
「俺をやたらと魔王扱いしたがるのはなんなんですかね!?」
「まぁそれはともかくとして、今回は織斑くん以外のピックアップ人物がいるから、そっちの方にもインタビューしようと思いまーす」
「っ!!」
その瞬間、ガタッと席から立ちあがるセシリア姫。その表情は誇りに満ち溢れている。
「なんと猫なのにISを動かせちゃったっていう、織斑くんに負けない衝撃のビッグニュースを出してくれたテオくんへのインタビューでーす!」
「……」
その瞬間、スッと席に腰を下ろすセシリア姫。その表情は何ともいえないものであった。
というか、私にもインタビューをするのか。
しかし私もかなりイレギュラーな存在だし、新聞を作る身としては是非とも情報が欲しい所なんだろうね。動物界には新聞の文化なんて当然無いから、マスコミの精神は良く分からないけど。
「それじゃあインタビュー開始ということで、えっと……その前にテオくんは喋れるっていう話を聞いてるだけど、ホント?」
そう言えば、この子が来てから一言も喋っていなかったね。
……ふむ。ちょっとからかってみるか。今日の私はからかうことが多いな。
「にゃー」
「えっ?」
「あぁ、やっぱりデマだったか~……まぁ普通に考えて猫が喋るなんて有り得ない話だよね~」
「にゃっ」
気にするな、という意味を込めて私の前に屈んでいる新聞屋のお嬢ちゃんの肩をポンと叩く。
「あはは、なんだかこっちの言葉が分かってるみたいなリアクションだね。喋れはしないけど、かなり賢いって感じかな?」
「にゃ~」
「それほどでもない、って?いやぁ中々謙虚な猫ちゃんだね」
そう言って新聞屋のお嬢ちゃんは私の喉を優しく撫でまわし始める。ほう、これは中々良いお手前で……。
「おい、テオ。なんでお前急に翻訳使わなくなったんだよ」
≪いや、折角だから遊んでみようかなと思って≫
「え、今の声って……うそ、やっぱり喋れたの!?」
私が喋れることを知ったお嬢ちゃんは、私の喉から手を離してひどく驚いた表情を浮かべる。完全に彼女の意表を突くことが出来たようである。
はっはっは、やはりいくつになってもこういう遊び心はやめられない止まらない。
≪いや失敬。試しに翻訳を使わずに喋ってみたけれど、上手く気付かせないようにすることが出来たみたいだね≫
「くぅ……新聞部が偽の情報に踊らされるなんて、副部長として一生の不覚!」
≪ははは、御免よ。お詫びといってはなんだけど、一夏少年の小学生時代の恥ずかしいエピソードを1つ公開してあげるから、それで手を打たないかい?≫
「乗ったわ!録音の準備もするからちょっと待ってて!」
「なんで俺何もしてないのに、一番ダメージ受ける仕打ちを受ける羽目になってんの!?」
≪私のジョークの種明かしをしたから、とかでいいんじゃないかな≫
一夏少年は犠牲になったのだ……クラスのお嬢ちゃんの好奇心を満たす器となる、その犠牲にな……。
「く……頼むセシリア!テオを止めてくれ!」
「テオおじ様!是非詳しく話をお聞かせくださいませ!」
「ほ、箒!箒なら……」
≪さっき他の子と一緒にお手洗いに行ったよ≫
「ちくせう」
この跡、一夏少年の少年時の赤面エピソードでパーティーは大盛り上がりした。
――続く――