篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第11話 2組の転校生 from China

 一夏少年がクラス代表となってから数日。

 今の時刻は朝。

 HRが開始される前のこの時間、とある話題がこの教室にいる子たちの間で持ちきりになっていた。

 

「転校生?こんな半端な時期に?」

 

 一夏少年の疑問の声がその場に発せられる。

 只今一夏少年を中心に箒ちゃん、セシリア姫、鷹月 静寐お嬢ちゃんがその周りにいる。もちろん私も。

 

「そうそう。なんでも中国からの代表候補生みたいで、しかもたった1年の期間で代表候補生の座に上りつめた天才って言われてるみたいだよ」

 

 そう、クラス……いや恐らく学年中で話題となっているのがその中国からやってくる転校生のことなのだ。

 実はただの転校生というだけでもかなり注目すべくところがある。何せIS学園は入学試験だけでも世界屈指の難易度を誇るのだけれど、そこへ転校するとなるとそれ以上にレベルが難しくなるという。

 転入を最も難しくさせるポイントとなるのが、自分の国からの推薦を受けなければならないという点である。転入生として得られる注目度は普通入学の生徒たちよりも大きく、下手に成績不振や性格上に問題があれば出身国の顔に酷い泥がこびり付く可能性が高い。なのでどの国も、推薦に関しては簡単に首を縦に振る真似は出来ない。

 今回噂になっている転校生というのは、推薦元の中国としても充分に誇る事の出来るほどの人物であり、しかも短期間で代表候補生となった天才児だという。確かにこれは、気になるビッグニュースと言えるだろう。

 

「へぇ……やっぱり代表候補生ってことは凄いやつなんだろうな」

≪中国は人口に反してISの所持数は平均的だからね、そのぶん競争率も高くなって一生懸命努力する人もかなり多いみたいだよ≫

「そして今回来る転校生は、その中から選りすぐられた屈指の実力者……クラス代表になれたからといってウカウカできんぞ、一夏」

「まぁ、どんなエリートであろうとイギリスの代表候補生であるこのわたくしには敵う筈はありませんが」

 

 そう言って腰に手をあててポーズをとるセシリア姫。改めてみるとこういう誇らしげにしている動作は背伸びしているみたいで見ていて微笑ましいものがある。

 

「まぁ転入生のことも気になるだろうが、お前は自分の事をもっと気にした方がいいぞ」

「なんで?」

「織斑くん……クラス代表は来月の対抗戦(リーグマッチ)に出場しなきゃいけないんだよ?」

「……あっ」

 

 少年、そのリアクションは完全に忘れていたんだろう。

 そもそもクラス代表を決める話の時も対抗戦について触れていたんだけどね……きっとセシリア姫とのゴタゴタがあって頭の中から記憶が飛んでいってしまったかな。

 『忘れていたな、コイツ』という視線を3人から集中的に送られると、わざとらしく咳をはらって平静を取り繕うとする一夏少年。

 

「だ、大丈夫だろ。ISの訓練も本格的に出来るようになるんだし、箒とテオとセシリアの3人に教えてもらえるんだから」

「かと言って油断していると痛い目をみますわよ」

「無様な結果を残す羽目になりたくなければ、慢心は捨てることだな」

「oh……」

 

 皆から指摘を浴びせられ、少年はついに両手で顔を覆い隠してしまう。周りに君の味方はいないらしい。

 

「あれ?2組は専用機持ちじゃないのか?」

「うん、2組の子たちもそのことで愚痴ってたよ」

「2組のクラス代表を貶すつもりはないが、条件だけ鑑みれば今の一夏にとって唯一の有利な点だな」

「そうですわね。訓練機と専用機の差は大きいですから、それなら一夏さんも来月まで特訓を重ねれば勝利する可能性は――」

 

 と、その時であった。

 

「その情報、古いよ!」

 

 快活な声が私たちの会話を突然遮る。

 そこにいたのはツインテールの女の子だった。扉のふちに背中を預け、両腕を組み片膝を曲げるというナイスなポージングをしながら、その瞳は私達を捉えていた。

 

「このあたしが2組に入り、クラス代表を譲ってもらったからにはそう簡単に勝てると思わないことね」

 

 そう言ってニッと不敵に笑う少女。その口元からは、尖った白い八重歯が見える。

 

「何あの子?あんな子いたっけ?」

「もしかして、噂になってる転校生じゃない?」

「いや迷子よアレは。高校生にしては見た目が幼すぎるわ」

「そこのあんた、あとで屋上」

 

 彼女の登場と共に、クラスの皆の動揺が広がっていく。

 

「あなたがもしや、中国から来た転校生……!」

凰 鈴音(ファン リンイン)、2組のクラス代表としてここに宣戦布告させてもらうわ」

 

 ドン!という強調音が浮かび上がって来そうな雰囲気を放つお嬢ちゃん――凰 鈴音ちゃん。

 ふむ、そうだね……鈴ちゃんと呼ぶことにしようそうしよう。

 

「鈴……なのか?」

「ふふん、久しぶりじゃない一夏」

「久しぶりと言えば久しぶりだけど……なんだそれ、全然似合ってないぞ」

「んなっ!?」

 

 一夏少年の言葉に反応した鈴ちゃんは、先程まで浮かべていた自信ありありの表情を崩し、意表を突かれた様子となる。

 成程、こっちが彼女の『素』というわけか。

 

「あんたねぇ、人が折角いい感じの登場で決められたっていうのに――」

「おい」

 

 あっ。

 

「なによ、邪魔しな――てゃっ!?」

「ほう、教師に対して随分と嘗めた言葉遣いじゃないか。転校早々そんなに目を付けられたいか?凰」

 

 鈴ちゃんの背後から、いつもより割増で目つきが鋭くなっている千冬嬢がやってきた。まぁあの子のいる場所は皆が入るための入り口だし、もうすぐでSHRの時間だからこうなるか。

 

「SHRの時間だ、貴様もさっさと自分の教室に戻れ。そしてそこで突っ立っていると邪魔だ」

「ち、千冬さ――」

 

 バシーン!

 出席簿が鈴ちゃんの頭へと容赦なく叩きつけられた。

 

「織斑先生と呼べ、馬鹿者」

「は、はいぃ……」

 

 千冬嬢の威に押され、鈴ちゃんは涙目で頭を押さえながら自分の教室へそそくさと去ってしまった。

 

 なんとも言えなくなった空気の中、一夏少年がポツリと一言。

 

「……あいつ、IS操縦者だったんだ。初めて知った」

 

 その言葉に反応したクラスの子達はセシリア姫を筆頭に、その発言の意味を追究すべ彼に詰め寄っていった。

 

 当然SHRの前だというのにそれを見逃すような千冬嬢ではなく、一夏少年に駆け寄っているお嬢ちゃん達の頭に次々と出席簿の一撃を浴びせて、僅か数秒で鎮圧してしまった。

 

 

 

――――――――――

 

 それから鈴ちゃんと落ち着いて話が出来るようになったのは、昼休みになってから。それまでは休憩時間が10分と短かったり、教室の移動も行われたりでゆっくりと話せる時間が無かったのだ。

 

 私、一夏少年、箒ちゃん、セシリア姫が食堂に行くと鈴ちゃんが券売機の前でスタンバっていたので、それぞれ注文を取ると広く空いたスペースを見つけ、そこで食事を取ることになった。

 どうにも鈴ちゃんと一夏少年の話しぶりを聞いていると、昔から交友があるような印象を受けた。しかし私も箒ちゃんも鈴ちゃんのことは知らなかったので、一夏少年にそのことを尋ねてみた。

 どうやら一夏少年曰く、鈴ちゃんは私達が一夏少年と別れてから彼の学校に転校してきたらしく、なんやかんやあって少年と友達になったという。そしてそのまま同じ中学校に通い、彼女が中学2年生の終わり頃に中国に帰国することとなり、連絡が無いまま現在まで至る、と。

 

 このことから一夏少年は箒ちゃんの事を『ファースト幼馴染み』、鈴ちゃんを『セカンド幼馴染み』として捉えているとのこと。

 小学5年生から知り合ったって、それは幼馴染みと言えるのだろうか……?まぁいいか。

 

「それにしても、ホントに猫がIS使えるなんてね……一体どういう原理でそうなってんの?」

≪さぁ、私にもさっぱり。そんなこと言ったら少年の方こそどうなんだい?≫

「言われれば確かにね。なんであんたはIS動かしちゃってんのよ」

「さぁ、俺にもさっぱり」

 

 ちなみに私のことについては今しがた自己紹介をしたので、鈴ちゃんは既に理解済みである。私が喋った姿を見た時はかなり驚いていた様子だったが、翻訳機が正体だと知ると直ぐに納得して順応してくれている。理解が早いのは話を進めやすくて助かるが、個人的には愉悦を満たす為に面白いリアクションを……ゲフンゲフン。

 

「まっ、別に理由なんてどうでもいいわ。それより一夏、あんたクラス代表になったんですって?もうISには慣れたって言うの?」

「お生憎、まだまだ付き合いが浅いもんで慣れてないよ。ホントに何で代表になったんだか……」

「あたしが知るわけないでしょうが。ま、まぁISに慣れてないっていうのなら私としては好都合ね」

 

 その言葉を聞いた一夏少年は、ムッと機嫌を損なった表情になる。確かに今の発言は少年にとってはあまりいい気分になるものではなかっただろうね。

 

 まぁしかし、鈴ちゃんの言葉も仕方ないと言えば仕方ない。

 彼女は2組のクラス代表、そして少年は1組のクラス代表。今度のクラス対抗戦において戦う可能性のある相手となるのだから、クラスの勝利を狙うためには相手の実力が劣ってくれていた方が勝率が高ま――。

 

「だ、だからその……もしよかったら、あたしがあんたの訓練に協力してあげても……い、いいわよ?」

 

 察しました。

 この子も既に一夏少年に惚れた子(ハーレム要員)となってしまっていた。もう彼を見ている目が幼馴染みを懐かしむだとかそういうのではなく、完全に乙女のそれになってるんだもの、頬が赤らんでるんだもの。これは確定ですわ。

 

「おぉ、本当か!?それはありがた――」

「なりませんわ!」

 

 一夏少年の嬉しそうな声を遮ったのは、セシリア姫であった。バンッと力強くテーブルを叩きながら鈴ちゃんを睨みつける。

 

「もう一夏さんにはわたくしが指導を行うという方針で決まっているのです!2組の貴女から施しを受けるような真似は致しませんわ!」

「いや、私も指導に当たるんだが……」

 

 立ち上がって力説するセシリア姫を、傍らの箒ちゃんが呆れた様子で見つめている。

 

 だが一方の鈴ちゃんは、セシリア姫の力強い言葉を聞いても素知らぬ表情のまま。

 

「ふぅん、っていうかあんた誰?」

「ふっ……わたくしを知らないとは同じ代表候補生として恥ずかしいのではなくて?まぁいいでしょう、わたくしはイギリスの代表こ――」

「あ、やっぱり別に興味なかったからいいわ」

「――うほ……んなっ!?」

 

 もう少しで名前まで名乗れそうだったところを鈴ちゃんの容赦ない一言で妨げられたセシリア姫。しかもその内容が聞き捨てならなかったようで、自己紹介を忘れてより一層の敵意を鈴ちゃんに向ける。

 

 しかし鈴ちゃん選手、これも華麗にスルー。どうやらこの子の目には今、一夏少年しか映っていないらしい。猫のIS使いである私やファースト幼馴染と呼ばれた箒ちゃんはセシリア姫よりは興味を向けられているようではあるが、一夏少年に比べたら微小でしかないだろう。恋敵とマスコットキャラクターじゃあ恋人への視線を奪うなんて無駄か。

 

「ねぇ一夏、今日の放課後ってヒマでしょ?ヒマよね、ならどこかで話でもしない?積もる話も結構あると思うし」

「おっ、そうだな。じゃあ弾のとこの店にするか?あいつとも会っておきたいだろ?」

「えっ、いや……弾とはまた今度で、その、いいんじゃない?」

「なんで?」

「べ、別に良いでしょ!一々聞くんじゃないわよ、馬鹿!」

「なんで怒られてんだ、俺」

 

 解せないでしょうねぇ。解せたら今頃君には彼女が出来てるだろうね。

 

「……というわけで、悪いけど今日の訓練は休ませてもらっていいか?」

≪あぁ良いよ。ゆっくりお話ししてらっしゃい≫

「ちょっと、おじ様!?」

「サンキュ、テオ。それじゃあ鈴、後でメールで場所伝えとくから、メアド教えてくれ」

「しょ、しょうがないわね。そんなに言うなら教えてやってもいいわよ」

「別に言うほど頼み込んでないけど……」

 

 ちょうど食事を終えた二人は、そのまま食器を片づけに席を離れていった。

 

 二人が食器置き場のスペースにいる辺りで、セシリア姫がこちらに向かって切羽詰まった顔を近づけてきた。

 

「おじ様、一体どう言うつもりですの!?あのままではあの中国の子に一夏さんを取られてしまいますわ!」

≪落ち着きたまえ、姫。まさか今日1日で少年が鈴ちゃんと結ばれると思うのかい?≫

「だって幼馴染みですわよ!?互いによく知り合った仲が久々に出会いを果たして、何も起きないとでもお思いで……あっ」

「察してくれて何よりだが、私に対するその憐れんだ視線は止めてくれ」

 

 箒ちゃん、全然進展なかったもんね。

 いや、この場合は少年だけじゃなくて箒ちゃんがやたらと恋愛アピールに消極的だったのも原因の一環なんだけど。

 

≪そういうわけだよ。それに付き合いに関しては箒ちゃんの方が長いんだし、もし付き合いの長さ云々で付き合えるんなら、とっくに箒ちゃんが付き合ってるよ。ついでにあの子は、普段はハツラツとしているけれど恋事に関してはドが付くほどの素人で素直になれない、典型的なウブな元気っ子キャラだ。ストレートに告白とかは期待しなくていいだろうね≫

「したくもありませんわ。けれど、万が一一夏さんの方から言い寄ってしまったら……」

≪久しぶりに会えた女の子との話の場に、別の友人を加えようとしてるあの性格で?≫

「あぁうん、絶対にありえませんわね」

 

 納得してくれたみたいで何より。

 

≪男に限らず、生き物って言うのは自分の好きにしたい自由な時間というのが欲しいものだ。姫が少年と一緒に過ごしたい想いは重々理解しているけれど、それを汲んで程良い距離感を測るのも淑女として必須のスキルだと思うよ?下手にくっつこうとしたり、制限をかけるのは場合によっては逆効果となるのを覚えておいて損は無い筈さ≫

「っ!おじ様……流石は紳士の鑑、アドバイスは確かに受け取りましたわ!ありがとうございます!」

 

 セシリア姫は先程までの不安な表情から一変して晴れやかな表情で私にお礼を述べてきた。可愛い。

 個人的には箒ちゃんと一夏少年が結ばれることを望んでいるけど、そのために他の子たちを蹴落とすような真似はしたくないからね。恋する乙女に協力を求められたなら喜んで力を貸す姿勢でいるよ、平等に。

 

「ところで、箒さんが何も仰らなかったのはそういうことですの?」

「ん?いや、久しぶりに幼馴染みと会って色々と話したいことがあるというのは私も共感出来るからな、彼女の希望を踏み躙るわけにはいかないだろう?」

「……おじ様、箒さんは本当に一夏さんのことが好きなんですの?」

≪その筈なんだけどね≫

 

 

 

 

 

 その日の夜、微妙な表情をして部屋に帰ってきた一夏少年と、翌日には機嫌を思いっきり悪くしている鈴ちゃんの姿を見ることになったのは、流石の私も予想外過ぎた。

 

 

 

――続く――

 




原作では一夏の部屋で行われた酢豚プロポーズの件は、近場のファミレスで行われることになりました。
公衆の面前でいきなり怒鳴り出す鈴、そのまま置いてかれる一夏、気まずい雰囲気になった店内……みんなお気の毒ことに。




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