篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第13話 剣VS.龍

 クラス対抗戦、当日。

 結局、一夏少年と鈴ちゃんの関係が修復される事がないまま、この日を迎えることとなった。

 

 場所は前回の時と同様で第3アリーナ。

 授業の一環なので一般生徒は観戦する必要があり、アリーナの観客席は満席状態。専用機持ち同士の戦いとあってその熱気は一段と高まっている。

 

「一夏、今ここでちゃんと謝ってくれるなら少しくらいは痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」

「いらねぇよそんなの。全力で来いよ」

 

 開放回線(オープン・チャネル)でアリーナ内の二人が言葉を交わしている中、管制室にいる箒ちゃん達は鈴ちゃんの身に纏っているISを注意深く観察していた。

 

「あれが中国の第3世代機【甲龍(シェンロン)】か……一夏の白式と同じ近接格闘型のようだな」

「えぇ。しかも先の件を考えるとパワータイプである可能性が濃厚ですわね。一夏さんの今の操縦レベルでは、どの攻撃も気を抜くことは出来ませんわ」

 

 一夏少年は、クラス代表決定戦の時よりも確かに腕は上達している。

 しかし、一夏少年の前にいるのは中国でも特に実力の高い子だ。たった一月特訓したくらいでは、あの子の領域に届くのは到底不可能な話である。今回も恐らく、苦戦は免れない戦いとなるだろう。

 

『それでは、試合を開始してください』

 

 試合開始を告げるアナウンスが、二人のIS操縦者を突き動かした。

 

 一夏少年が開始と同時に召還した武器は、言わずもがな雪片弐型。日本刀型のブレードが少年の手に納められる。

 

 対する鈴ちゃんは、曲線の刃が特徴的な平型の剣を召還すると巧みな手つきでそれを回しながら、一気に肉薄して一夏少年に斬りかかった。

 

 少年も素直に喰らうわけが無く、刀で防御を行った。雪片弐型とサーベルが激しい金属音を散らかしながらぶつかり合う。

 

「お生憎、一本だけと思ったら大間違いよ!」

 

 互いの得物で鍔迫り合う中、獰猛な笑みを浮かべた鈴ちゃんのもう片方の手には、先程出現させたブレードと全く同じ形状の物が握られていた。そして、一閃が振るわれる。

 

 『なっ!』と慌てた声を漏らした一夏少年であったが、間一髪のところで第2撃の刃を回避し、後方へと飛び下がった。

 

 鈴ちゃんは少年をすぐに追いかけることはせず、2つの得物の後端を接続させ、チアバトンのように軽やかに振り回してみせた。

 どうやらあの武器はああして連結することができるらしい。攻撃のバリエーションを考えると、アイデアとしては非常に面白い仕組みだ。

 私もISで彼女の武器を確認してみるが……成程、あれは【双天牙月】という武器なのか。中々カッコイイ。

 

「さぁ、まだまだ行くわよ!」

「くそ……来い!」

 

 両者は再び剣劇へと場面を移し替えて行く。

 鈴ちゃんの武器の扱いは非常に器用なもので、薙刀のように斬りかかったかと思えば、すかさず連結を外して二刀流のように剣を振る舞って見せる。加えて武器の変化に合わせて瞬時に間合いを調整している辺り、意識の有無は判断出来ないが彼女の才能の高さが窺える。

 

 一方の一夏少年は、そんな鈴ちゃんの変則的な攻撃スタイルにかなり押されている様子。攻撃を防いでさぁ反撃!と思いきや鈴ちゃんの対応が素早くすぐにガードに移らないと逆に攻撃を喰らってしまうというシチュエーションが度々発生し、攻撃の機会を見失ってしまっている。これも白式の攻撃種類の少なさが災いしている。

 千冬嬢は『一夏はゴチャゴチャと物を持たせるよりも、1つの事に集中させてやった方が性に合っている』と言っていたし、そこはどうしようもない問題なんだけど。

 

「ほらほら一夏、遠慮せず攻撃してくれてもいいのよっ?」

「く……調子に乗るなよ!」

「アンタがね。貰ったわ!」

 

 一夏少年の刀が横に逸らされた瞬間、甲龍の肩部の球型のアーマーが作動して光を放った。

 そして一夏少年は、その場から吹き飛ばされた。

 

「なにっ!?」

 

 突然の出来事に目を見開いている少年。しかし状況は彼に理解する時間を与えることを許してはくれなかった。

 甲龍のアーマーの同じ部分が、先程よりも強い光を放ったのだ。

 そして一夏少年は、更に勢いよく吹き飛ばされてアリーナの壁に衝突した。

 

「……」

「一夏さんっ!」

 

 箒ちゃんとセシリア姫。反応は異なるが少年の身を案じているのはどちらも同じであった。

 

≪うーん、衝撃砲を初見で見破るのはやっぱり難しいか。厳密には初見という訳じゃないけど≫

 

 私の独り言を聞き取った箒ちゃんとセシリア姫が、苦戦する一夏少年の姿で揺らいだ心を落ち着かせ、その頭の中で情報を整理し始める。

 

「衝撃砲……聞いたことがある。空間に圧力をかけて砲身を作り出し、それによる衝撃自体を砲弾として撃つ兵器だと」

「えぇ、その通りですわ。砲身・砲弾共に見えないのが大きな特徴で、目視するのはほぼ不可能。ハイパーセンサーによる早期感知が無難な対策と言われていますが、間に合わないケースが殆どだと聞いていますわ」

「わぁ、篠ノ之さんもオルコットさんもすごいですね!まだ授業で教えていない項目なのに、ちゃんと知っているなんて」

「い、いえ。偶々知っただけですから……」

「わ、わたくしも代表候補生として他国のIS情報の知識を持つのは常識ですわ」

 

 謙遜している箒ちゃん達だが、真耶ちゃんに褒められて嬉しそうにしている。

 

 画面ではアリーナ隅から復帰した一夏少年が、衝撃砲に翻弄されている姿が移っている。やはり見えない攻撃というのは非常に厄介な代物らしく、上手く避けられずにポツポツと砲弾を受けて、着実にダメージを蓄積させられているようだね。

 射的距離はあまり長くないらしいから遠距離からの攻撃が有効打になるんだけど、少年は遠距離武器を一つも持ってないからねぇ……。千冬嬢から教えられた【瞬時加速(イグニッション・ブースト)】で一気に距離を詰めるしか今のあの子には手段が無いかもしれない。幸いにも鈴ちゃんは少年がそれを使えることは知らないだろうし、不意を突くつもりで一気に行けば、勝利の道筋になるだろう。

 

 何はともあれ、ここが正念場だよ少年。

 

 

 

 

 

 そんな時だった。

 

「っ!?アリーナ上空に高エネルギー反応を感知!」

「「「っ!?」」」

 

 私のISにも、瞬時に情報が掲示される。

 高熱反応感知、2.6秒後に着弾。発射源検索完了、一致無しのため所属不明のISと認識。

 

≪……っ!≫

 

 そして、ステージに大きな衝撃が巻き起こった。

 

 

 

◇   ◇

 

 アリーナの障壁が謎のエネルギーによって破られるまでは、2人は出し惜しみをするつもりなく戦っていた。一夏は零落白夜を発動するチャンスを見出しかけており、鈴音は一夏の纏う空気が研ぎ澄まされたことを勘で察知し、それに警戒を強めていた。試合はその時、フィナーレを告げようとしていたのかもしれなかった。

 

 だが、謎のエネルギーが障壁を破壊し、破壊された個所から謎の物体がアリーナへと侵入してきた。

 轟っ!と凄まじい音を立てながら落下してきたそれは激しい砂塵を巻き起こし、アリーナで戦っていた2人の視線を集めたのだ。

 

『所属不明のISを確認、ロックされています』

 

 2人のISが、そのような警告を表示した。その時点で2人には2つだけ理解出来たことがあった。

 1つは、突然ここに侵入してきて、今は砂塵の中にある物の正体はISなのだと。

 そしてもう1つは、そのISに自分達は狙われているのだと。

 

「一夏」

 

 鈴音の声が、緊張の色を纏っている。

 ISのハイパーセンサーでそのことが容易に分かった一夏は『分かってる』とだけ返事をした。本当のことを言うと、分からないことの方が沢山ある。何せ今まで自分達は試合をしていたのに、急にこのような事態になったからだ。

 しかし、自分たちが今危険な場所に立っているということは、漂う空気が教えてくれていた。

 

「一夏、アンタはピットから逃げなさい」

「逃げろって、お前はどうするんだよ?」

「ここで食い止めるしかないでしょ。アンタを逃がすための時間を稼がなくちゃいけないんだし」

 

 砂塵に目を離さずそう伝える鈴音。

 

 しかし一夏は、それに強い反感を示した。

 

「馬鹿、お前を残して逃げるなんて出来るか!」

「アンタは弱いんだから、あたしがなんとかしないといけないでしょ!あたしだって最後までやりあうつもりはないし、先生たちも事態を収めるために動いてくれて――」

 

 反論をする一夏に対し、砂塵から視界を離して彼に視線を向けながらそう言い返す鈴音。

 視界から外した砂塵の中からレーザーが撃ち出されたことに気付き、刹那の時間でそれをいなす術を、その時の彼女は持ち合わせていなかった。

 

「鈴、危ないっ!」

 

 砂塵を視界に捉えていた一夏はレーザーの発射にいち早く気付くことが出来、彼女を即座に抱き抱えると間一髪のところでレーザーを回避することを成功させた。

 もしあのレーザーに当たっていればひとたまりもなかっただろうな、と嫌な汗を流しながらそんなことを想う一夏であった。

 

 なお、抱き抱えたということは、つまり一夏は鈴をお姫様抱っこしている状態なのだ。

 

「ちょ、馬鹿!早く離しなさいよ!」

「おわっ、分かった、分かったから暴れるなって!」

「ひゃんっ!?ちょっとアンタっ、ど……どこ触ってんのよ!」

「いや、っていうかこんなことしてる場合じゃ……!」

 

 そんな感じで空中でじゃれ合っている二人であったが、彼らの元に通信が入ってくる。

 通信元を見て見ると、それは山田先生からであった。

 

『織斑くん、凰さん!すぐにアリーナから脱出してください!先生達がすぐに侵入者の制圧に向かっていますので、攻撃が本格的になる前に早く!』

「……いや、先生達が来るまで俺たちが食い止めます」

「そうね。アリーナの障壁を破るような装備したあいつをこのまま放っておいたら、被害がもっと増えるかもしれないし」

『何を言ってるんですか!?危険ですから直ぐに退避を――』

 

 山田先生の声は、半ばでぶつ切りになってしまった。一夏も鈴音も通信を切ってしまったからだ。

 2人は既に、侵入者のISと戦う覚悟を固めているのだ。

 

「っていうかあんたはいつまで抱き抱えてんの……よっ!」

「ぶへっ!?」

 

 一夏の顔面を的確に捉えた、甲龍の腕部が彼の頭部に衝撃を与える。

 

 ここで説明するのはいささか場が違うかもしれないが、ISの絶対防御というのは完璧なものではなく、シールドエネルギーを突破する程の攻撃力があればIS本体にダメージを貫通させられてしまうようになっている。

 すなわち、今の顔面への一撃はシールドエネルギーを突破する程の鋭いものだったという事になる。そのキレは侵入者のISに向けて欲しいと思う所だが、この場で冷静にそれを思う者はいなかった。

 

「まったく……で、結局あんたは逃げないのね?」

「いつつ……当たり前だろ。さっきも言ったけど、お前を残して逃げるなんて絶対に嫌だ」

「あっそ。なら、いっちょ共同戦線といくわよ!」

 

 その言葉を皮切りに一夏と鈴は互いに武器を構え直す。

 そして砂塵の中から現れた、一際大きい不気味なISに向けて、2人は果敢に向かっていったのであった。

 

 

 

◇   ◇

 

 私は今、アリーナの外へ出ていた。

 

 ふむ、アリーナの方が再び騒がしくなっているようだ。耳を澄まして聞いてみるけど、女の子達の悲鳴とかではなく者が壊れる音や爆発音などばかりが聞こえてくる。妥当な線として、侵入してきたISが暴れ始めていると考えるべきかな。

 

 それにしても、一夏少年と鈴ちゃんは無事に脱出しているだろうか。いや、あの子達の事だから十中八九戦うつもりでいくだろうし、脱出の線は考えるだけ無駄かもしれないなぁ。

 あまり無茶はして欲しくないんだけど、そればかりは現場の子たちに任せるしかない。

 本当ならば、彼らの傍にいてあげたいんだけどね。あのISがどれほどの危険性を秘めているか、私も把握しきれていないし。あのISからは左程嫌な予感は感じられなかったから、大事にはならないとは思うけれど。

 

 しかし、私も用事が出来てしまった。

 実はあの侵入者が障壁を破った直後のことなのだが、学園の郊外に微弱なIS反応をキャッチしたのだ。アリーナの侵入者の方にセンサーが強い反応を示してしまったことによって真耶ちゃんも多分気付くことができなかったのだろうが、恐らくそれは狙ってやったことの筈だ。

 つまりアリーナ以外にも、別の侵入者が現れている。

 

 これを終わらせないとあの子達のもとには戻れそうにないな。

 

≪そこまでだ≫

 

 私の視線の先にいる二つの存在に対して、声を掛けた。

 私の前で佇んでいるその二つは、この学園の生徒などではなかった。

 

 姿こそ人型に近くはあるが、腕と肩が一体化しているかのような形状をしており、この時点で人間が搭乗しているか怪しく思える様なフォルムをしている。加えて腰は不自然な細さと曲線を描いていて、足は人が乗るには窮屈そうな形をしている。

 形容してみれば、まるで土器人形を機械的にしたかのような物だ。

 

 私は奇妙なその2つに対して、続けて言葉を掛ける。

 

≪ここは関係者以外立ち入り禁止の施設だよ。騒ぎを大きくする前に、速やかに許可証もしくは身元を証明できる物を提示したまえ≫

『…………』

 

 反応なし、ね。

 普通なら私が喋れることに何らかのリアクションがあると思うんだけど、微動だにしないか。

 ……まぁ、どうせ無人機だろうから期待していなかったけどね。

 

『殺害ターゲット、篠ノ之 箒の阻害となる対象を確認』

『任務遂行の障害排除に移行、戦闘形態に突入』

 

 ……ほぅ?

 今、箒ちゃんを殺害……と言ったかな?機械のくせに随分と物騒な事を言うじゃないか―――

 

 

 

 

 

―――このガラクタどもは。

 

≪【銀雲】≫

 

 名を呼んだ刹那、私の専用ISである銀雲は、日の光を受けて銀色の輝きを放ちながらこの身を纏い終えていた。

 

 私のIS装着の直後、眼前のガラクタ2つは武装を各部に出現させて戦闘形態とやらに移り始めた。

 肩の部分には砲口が形成されており、腕部がそれぞれ大砲のような形状と機銃のような形状とに別れだし、いかにもといった武装具合になっていった。

 

≪私の家族に手を出そうとしたらどうなるか……頭のてっぺんからつま先まで教えてやろうか≫

 

 私が地面を踏み仕切るのと、敵方2体が一斉に銃口を向ける動作が重なる。

 そして、戦闘が始まった。

 

 

 

――続く――

 




視点が変更される際は、◇◇で区切るようにしています。基本的に一人称はテオのみで、それ以外は3人称による構成で行います。
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