篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第20話 ランチ・タイム

 

 午前の授業が終了し、昼休みの時間となった現在。

 私は箒ちゃん、一夏少年、セシリア姫、鈴ちゃんといういつものメンバーの中に新しくシャル・ボーイを交えて、以上6名で昼ご飯をとっている。

 ここ屋上には綺麗な花が咲いている花壇が一定の間隔で備えられており、傍の何か所かには丸テーブルとそれをコの字で囲っている木製のベンチがある。手入れの整った公園のような景観を持つこの空間は学園の女の子たちからの人気も高く、昼休みになるとここを活用する子も少なくはない。

 ただし、今回は私たち以外に屋上を利用している子は1人もいなかった。恐らく転校生であるシャル・ボーイは学食を利用するだろうと予想し、食堂の方に人が行ってしまっているのだろう。一夏少年もよく学食を食べに行くから、余計にその可能性を高めさせたのかもしれない。

 

 しかし、現実はこれである。箒ちゃんが昨日の訓練の際に『明日は晴れらしいから、偶には屋上で食事などどうだ?』と一夏少年に提案したからこうなったのだが、それが無ければ今頃は食堂で水族館の魚のような見られ方をしていただろうね、この二人は。

 ちなみに箒ちゃんはその際に、一夏少年の分の弁当も作ってあげると宣言していたよ。ヒュー!コブラ……じゃなくて愛妻弁当作戦だね、恋愛でも恋人の胃袋を掴むのは常套手段だと聞いたことがあるから実に興味深い。

 

「ほら一夏、お前に作った弁当だ」

「おお、サンキューっ。ホントに作って来てくれたんだな!」

「ふっ、武士に二言はないぞ」

 

 自慢げにうんうんと頷いてみせる箒ちゃん。

 可愛いからいいんだけど……武士がお弁当の約束事に二言目を加える姿が想像できない、いやそういう意味で言ったんじゃないのは分かるけどね。娘が自分を武士と言うのがちょっとシュールに思っただけで。

 

「ちょーっと待ったぁ!私もアンタの分を作っておいたのよ、ほらっ」

「ちょ、タッパー投げるなって!……おっ、酢豚かこの中身」

「前に食べたいって言ってたでしょ?」

 

 鈴ちゃんも今日の事を聞いて準備をしてきたようである。屋上のことも少年への弁当の事も箒ちゃんが2人に聞こえるように言っていたし、この子も乗りかかってきたというわけだね。

 

「あー、ごほんごほん。うぇっほごほっゲホゲホ」

 

 最初はワザとっぽい咳だったけれど、途中で本当に咳き込み始めてしまったセシリア姫。注目を集めるつもりでそれらしいアクションを起こしたのだろうけど、逆に後半の咳で注目を集めちゃったよこの子。

 

「ちょ、セシリア大丈夫か?風邪でも引いたのか?」

「げほ、だ、大丈夫ですわ……ちょっとむせただけですので。それよりも一夏さん、わ、わたくしも今朝は時間が空いていたのでこのような物を作ってみたのですが」

 

 そう言ってセシリア姫は近くに置いていたバスケットを少年に向けて差出し、被せていた布を取り外した。中から姿を現したのは、トマトやレタス等で彩りよく整えられたサンドイッチであった。

 

「前回と同じものなので不服な所もあるかもしれませんが、わたくしなりにアレンジを加えてみましたので……」

 

 しかし、一夏少年の顔色は優れなかった。

 

「あ、あぁ……また後で食べさせてもらうよ」

 

 一夏少年がこのような表情をする理由については、無人機襲来事件から数日後の昼食の話を語らなければならない。

 その日の昼ごはんはセシリア姫が一夏少年へのアピールを目的として、手作りのサンドイッチを持参してきた。外面だけなら今回造られたサンドイッチに劣らず出来が良く、一夏少年も一目見て美味しそうだと語っていた。

 

 しかし、一口目で一夏少年は卒倒した。

 原因は不明。食中毒かと思われたが保健室での検査ではそれらしい要因が掴めず、毒物の反応も無かったと保険医のお嬢が証言している。あまりの不味さに気絶した……と言うには確証が足りず、実は一夏少年はサンドイッチを口の中で噛もうとした瞬間に意識を失ってしまったらしい。味の認識をするまえに気絶したため料理の味が美味しかったのか不味かったのかすら分からなかったのだ。後遺症が残っていないのが幸いである。

 

 なお、セシリア姫は一夏少年が気絶する姿を見て『もしや英国料理の真の美味しさに気付いて、感動のあまり意識を!』と自己完結していた。食材の劣化が無ければ毒物反応も無い、美味下味の判別が出来ないということもあって私も他の子も姫の言葉を否定することは出来ても、別の理由をとり上げることが出来なかった。『感動でなければ、何が原因ですの?』と問われてしまうと、原因が不明なので誰も何も言えないんだ。

 

 故に、今目の前にあるこれは料理と言う次元を超えた『未知的物体(ミステリー・マター)』。セシリア姫という人類が生み出した、ある意味ISよりも驚異的な人口兵器である。

 

「そうですか……いえ、メインディッシュは後からというのはディナーの基本ですので寧ろ光栄ですわっ。最後のお楽しみということで期待していてくださいまし!」

 

 少年に逃げ道は無かった模様。

 これも色男の宿命、諦めて全てを受け入れるしかない。

 

「……シャルル、俺の希望はお前に託すぜ」

「いきなりどうしたの……?それよりも、僕が同席しても大丈夫だったの?」

 

 そうして誰にともなく問いかけてくるシャル・ボーイ。その表情は少し遠慮がちに見える。

 確かに傍から見ればこのメンバーは、開始早々コントを繰り広げるくらいの仲良しさんに見えるのだろう。そんな輪の中にいきなり入れられて困惑してしまうのも無理はない。

 

「気にすんなよ。この学校には俺とシャルルしか男子がいないんだから、男同士仲良く出来たら良いなって思ってるし。テオもオスだから同じ男っちゃ男だけど、やっぱり人間同士の男友達も欲しいしさ」

≪まぁ同姓の友達は気心が知れやすいものだから、私も気持ちは分かるよ≫

「だろ?俺もIS学園に入って結構日が経ったけど、やっぱり不便な所とかも多いし、もし困ったことがあったら気兼ねなく俺に相談してくれよ」

「うわ、生意気にも先輩風吹かせてるわよコイツ」

「もう少し普段から頼もしくしてくださっていれば、多少は様になっていたのですが……」

「ならばテオ、代わりに言ってみてくれないか?」

 

 ふむ、箒ちゃんからリクエストが来たね。

 ならばここはいつものシャル・ボーイでは無く真面目な呼び方を使って……。

 

≪シャルル君、困ったことがあったら遠慮せず私に相談してくれたまえ。出来る限り君の力になると約束するよ≫

「うん、納得の安心感」

「さすがおじ様ですわ」

「やはりテオは頼りになるな」

「お前ら俺をいじめて楽しいか!?」

 

 これも愛されているが故だ、少年。

 もちろん私も君の事大好きだよ。こうして面白い反応してくれてるし。

 

 すると……。

 

「ふふ……あははっ」

 

 突然、私たちのそんな様子を見ていたシャル・ボーイが声を上げて笑い出した。

 シャル・ボーイの笑いはさほど長かったわけではなく、少しの間笑ってみせたらスッと落ち着き始めていった。

 

「ははは……本当にみんな仲が良いんだね。なんだか見ていて羨ましいよ」

「だろ?だからシャルルも遠慮なんかしないで、俺たちと仲良くしていこうぜ」

「仲良く、か……うん、僕なんかで良ければ喜んで」

 

 いつの間にか一夏少年が差し伸べていた手を、シャル・ボーイは掴み返して握手を交わした。2人はまるで友情マンガにおける絆が結ばれるシーンのように、互いに見つめ合い、微笑みあっている

 

 あっ、シャル・ボーイが恥ずかしくなって目を反らした。流石少年、安定のニコポである。いや、まだポまでは至っていないか。

 

「って、喋ってる間に昼休みが半分くらいになってるじゃない。さっさと食べ始めましょ」

「うお、ホントだ」

 

 鈴ちゃんが時計を見るのに倣い、少年もそれを真似するように時計の針を確認しだす。彼女の言うとおり、雑談に華が咲きすぎて昼休みが半分くらいは消費されていた。このまま喋りつづけるのもそれはそれで楽しいが、食事なしで午後の授業を受けるのは体力的に持たないと思われるので大人しく食事を始めるとしよう。

 

「ほら、テオの分も用意してあるぞ。今入れ物に移し替えるからな」

≪おぉ、ありがとうね箒ちゃん≫

 

 箒ちゃんは傍に置いてあったタッパーの蓋を開けると、その中身が零れないよう丁寧に私が愛用している皿に盛り付けてくれた。

 今日の私の食事は、箒ちゃんが今日の為に作ってくれた特製肉じゃが。豚バラ肉、にんじん、えのきなどが入っており非常に美味しそうに出来上がっている。

 

 箒ちゃんは重要人物保護プログラムの影響で私と2人きりの生活――警護の人間が周囲にいたけれど――をするようになってから、私用のご飯を作ってくれていたのだ。流石に学業をこなしながら毎日作るのは骨が折れるし悪いと思って私が断ったんだけれど、健気にも箒ちゃんは時間に余裕がある時は積極的に料理をしてくれた。ここ数年は分かれて生活することになり箒ちゃんの手料理を頂ける頻度が少なくなっていたけれど、最近は頻繁にこうして振る舞ってくれている。本来猫に調味料はいらないから好みの味付けなどはないんだけど、ちょっとした香りづけをしたり食感に変化を加えたりなどの工夫をしてくれていて、学食に負けない美味しさで私の胃袋を喜ばせてくれている。

 親思いの良い娘に育ってくれて感激です、私。

 

 ちなみに猫のご飯はネットで調べると色々と出てくるから、興味のある子は是非見てくれたまえ。中々面白い料理が揃っているし、箒ちゃんもそういうところから取り入れて作っていたしね。

 

「さぁ一夏、まずはあたしの料理から食べなさいよ!」

「別に誰からでもい……いや、なんでもなかった」

 

 おっと、先ずは鈴ちゃんからスタートみたいだね。

 少年が既に判明させていたけれど、彼女が作って来たのはお得意の酢豚だ。

 

 少年は事前に渡されているタッパーのふたを開け、中身の酢豚を一口。数度の咀嚼を行った後に、うんうんと満足げに頷いて見せた。

 

「うん、美味いな。……だけど鈴、ひとつだけいいか?」

「なによ」

「なんでお前の分の酢豚は湯気が出てるくらい温かそうなんだ?」

「此処に来る前にご飯と一緒にレンジにかけといたからに決まってるじゃない。この容器の保温機能なめんじゃないわよ」

「俺のもついでに温めておいてくれよ……美味いから別にいいけど」

 

 あ、いいんだ。

 

「さて、最後に箒の分を――」

「一夏さん?最後はわたくしが控えていることをお忘れでして?」

「ははは、そんなわけないジャマイカ」

 

 しれっとセシリア姫の料理を逃げようとしたみたいだけど、残念だが逃げ道は塞がれていた。観念するしかない。

 

「はぁ……それじゃあ箒の弁当を貰うぜ」

 

 先に箒ちゃんから渡されていた弁当の蓋を開けた一夏少年。

 その中身を覗き込んだ瞬間、彼は思わず感嘆の息を漏らした。

 

 卵焼き、鶏のから揚げ、鮭の塩焼き、きんぴらごぼうにほうれん草のおひたし等々……弁当の定番をおさえたレパートリーがその中に詰め込まれている。見栄えを損なうような隙間が出来ないよう丁寧におかずが揃えられ、レタスやトマトなどの彩りがある野菜で見た目に華を注いでいるそれは、手の抜いた雰囲気が感じられないほどの出来栄えであった。

 

 市販の弁当とこの弁当を1つ選べと言われたならば、私が間違いなくこちらをとっているに違いない。それくらい美味しそうな完成度を誇っているのだ。いや、言っておくけど娘補正をかけて見てはいないからね本当に。

 

「おぉっ、すっげぇ豪華だな!」

「作ると約束した以上、手は抜かずに作らせてもらった。おかずについてもお前が嫌いだったものは入れてない筈だぞ」

「入ってても文句言えないってこれは。作るの大変だったんじゃないか?」

「なに、私の弁当も似たようなものだからな。作る種類が多くなった訳でもないし、これくらいは容易いさ」

 

 そう言って自身の弁当の蓋を開ける箒ちゃんだが、言う通り弁当の中身は少年のために作ったものと酷似していた。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 少年はどれから手を付けようかと弁当の中身を泳ぎ見ていたが、そう時間が掛からない内に決定して、それを箸で掴み口の中へと入れていった。

 少年が一口目に選んだものは、鶏のから揚げであった。

 

 咀嚼をした直後に突然目を見開く一夏少年。

 そこから噛むスピードを速めて、ゴクリと飲み込み終えると箒ちゃんの方へ無邪気な笑顔を振りまいた。

 

「……おぉ、美味いっ!美味いぞ箒!」

「ふっ、そうか。味は変じゃなかったか?」

「全然っ。えっと、これの下味になってるのは醤油と生姜と……にんにくかな?おろし状にしたら出来そうだけど」

「ほぅ、よく分かったな。コショウも少し使って味を整えてみたんだが。ちなみに他のから揚げも味を変えてみたから、遠慮せずに食べてみると良いぞ。蜂蜜を隠し味に使ったものと、梅肉ソースで下味をつけて青じそを包みながら揚げたものがある」

「あっ、確かに青じそは分かりやすいな。じゃあもう片方が蜂蜜入りだな……うん、これも美味いっ!」

「そうか……ふふ、私も頑張った甲斐があったという事だな」

 

 喜んでから揚げを味わう一夏少年を眺めるその顔はまさしく、恋する者を遠くから暖かく見守るかのごとき淑女のそれであった。

 

「箒も食ってみなって、ホントに美味く出来てるんだぜコレ」

 

 満足げに弁当のおかずを食す一夏少年であったが、ふとその箸先を箒ちゃんへと向け始めた。残ったから揚げを箸で摘まむと、ズイッと箒ちゃんの方へそれを運んでいったのだ。

 

「ちょ、一夏!」

「何をやっていますの!」

「え?何をって……あっ。箸に口つけちまってたから、逆の方で掴んだ方が良かったか」

 

 鈴ちゃんとセシリア姫の反応から、自分の口がついた箸で料理に触れたら相手が嫌がるだろうと察した一夏少年。しまった、と言わんばかりにその表情を窄ませている。

 

「ちが……くもないけど!」

「そ、その所作はアレですわよ……そう、あのアレ!」

 

 どのアレ?

 

 そんな外野たちの喧騒を余所に、箒ちゃんと一夏少年のやり取りが再開される。

 

「あー、大丈夫だ一夏。私は気にしないから」

「そうか?悪い、気が回らなくて」

「気にしないと言った筈だぞ?そもそも私がお前の為に作ったというのに、私に食べさせようとしてどうする……」

「だって箒の弁当にから揚げ入ってなかったから、この美味さを伝えるには俺の分をあげるしかないだろ。それにこの弁当が俺の分だって言うなら、それをどうするかも俺の勝手でいいんだろ?」

 

 一夏少年の言うとおり、箒ちゃんの弁当には一夏少年の弁当に入っていたから揚げの姿が見当たらない。恐らくあれがもっとも気合を入れた作品であり、少年に食べて欲しかった料理なのだろう。

 それにしても……その事をあっさり見抜いてみせる辺り、この子が時々発揮する観察眼は目を見張るものがあるね。恋愛に関しては終始ポンコツ並なのが実に悔やまれるけれど。

 

「というわけで……はい、あーん」

「ん、あーん」

 

 ノルマ達成。

 こうして一夏少年と箒ちゃんは、仲睦まじいカップルの定番行事を果たすことに成功した。

 というか箒ちゃん、本当に全然動じていない。最早不落の要塞になっているのではないだろうか。

 

「な、美味いだろ?」

「うむ。この出来ならば次も大丈夫そうだな」

 

 自身が手掛けたから揚げの出来栄えに満足げな様子を浮かべながら、ウンウンと頷くお箒ちゃん。

 

 しかし、その光景を見た他の子達がそのまま黙っていられる筈もなく……。

 

「一夏、今度はあたしの酢豚を食べなさい。いや、あたしに食べさせなさい!」

「一夏さん、わたくしのターンはまだ始まってすらいませんわ!」

「ひょ?……じゃなくて2人とも急にどうしたんだ!?」

 

 自分の分の酢豚を持った鈴ちゃんと、サンドイッチの入ったバスケットを持ったセシリア姫が少年の方へ必死に詰め寄っていく。

 少年は訳が分からないといった様子で、2人の相手をし始める。

 

 そんな彼らの様子を、シャル・ボーイと私で平和的に見守っていた。

 ちなみに私は箒ちゃんが一夏少年といい感じになっていた隙に移動しており、今はボーイの隣に座らせてもらっている。ボーイは快く私の相席を許可してくれたので、私も遠慮なく座らせてもらっている。

 

「ふふ、やっぱり仲が良いね」

≪そうだろう?みんな愉快な良い子だよ≫

「さぁ一夏さん!わたくしのバーサーカーソウル……ではなくサンドイッチをいただだいてくださいませ!先ず一口目、ドロー!」

「ヤメロー!シニタクナーイ!シニタクナーイ!」

 

 うん、いつも通りの光景だ。

 

 ちなみにこの後、一夏少年はまた意識を失った。

 

 

 

――続く――

 

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