『待ってイスター!行かないで!』
『マリアン……来てしまったんだね』
映画鑑賞なう。
現在私は一夏少年とシャル・ボーイと一緒に、少年の友人から借りたというDVDを仲良く見ている所である。
映画のタイトルは『インフィニット・ストラトス~銀河大戦争~』といい、名前の通り作品内で架空のISが登場する映画である。あらすじは地球で生まれた少年が自国の防衛隊の一員となって地球を、そして幼馴染みの女の子を守るために、IS操縦士として仲間達と共に宇宙からやってきた侵略者と戦っていく……といった王道ストーリーである。
一夏少年という男性操縦者の出現がアイデアとなって生み出されたこの作品は、女尊男卑の昨今では珍しい男主人公とあって多数の女性からの批評が多く色々と否定的な意見もあったらしい。しかし主人公がイケメンなためそこに惹かれて好評を表す女性も少なからずおり、また男性層からも安定した人気を獲得することができたらしい。ISに関わりが無い男性にとっては専門用語が多くてチンプンカンプンだったそうだけど、雰囲気で楽しめた人も多かったんだとか。
『今度の侵略者は今まで地球に攻撃してきた種族よりもずっと強力で、凶悪だって聞いたの。今度の戦いはもっと死傷者が出るだろうって……』
『それでも、僕は行かなくちゃいけないんだ。僕は防衛隊の一員だから』
『イスター……!』
ちなみに今のシーンは、最後の戦いに出ようとしている
この主人公、戦う度に瀕死の重傷を負ってるからヒロインが心配するのも無理ないよね。1つ前の戦闘では仲間が電気ショックで蘇生させなかったら確実に死んでたし。
≪そう言えばこの主人公の声、少年と似てないかい?≫
「あぁ~……言われてみれば、確かにちょっと似てるかも。言っとくけど、声当てなんてやってないぞ」
≪まぁ、そんな暇無かっただろうしね≫
まぁ普通に考えて偶然だろう。声が似てるっていうケースは案外あるものだし、別段珍しがることでもないかな。
それにしても意識すればするほど似ているなぁ。一夏少年はアフレコしてないっていうけど、疑っちゃうくらい似てるね。
と、ここで鑑賞を続けていたシャル・ボーイが一夏少年にとある提案を。
「ねぇ一夏。折角だから劇中の台詞を言ってみてよ」
≪ほぅ、それはいいね≫
「俺がっ!?俺、声優なんてやったことないぜっ?」
「まぁまぁ、ちょっとしたノリみたいなものだよ。ほら、この後のシーンなんてどう?」
シャルルが映像の流れているテレビに指を指す。そこでは既に、主人公とヒロインが先程までの暗めな雰囲気を吹っ飛ばして甘ったるい恋愛の空気を纏わせていた。
そして……。
『マリアン……この戦いが終わったら、僕と付き合ってほしい』
『イスター……!うん。私、待ってるから!』
そのシーンが流れ終わると同時に、シャルロットが活き活きとした顔つきで勢いよく一夏の方を向き直した。
「これこれ!これなんてどうっ?」
≪良いチョイスだね、シャル・ボーイ。というわけで一夏少年、Say(言ってごらん)≫
「Say say~」
「ちょ、やるにしてももうちょっとカッコイイシーンの方が良いんだけど」
「何言ってるのさ、こういう台詞も充分カッコイイんだよ!ほらほら!」
既にシャル・ボーイの中ではこれ以外を言うことは許されないらしい。渋る一夏少年の意見を強引に押し込み、あくまで先程の台詞を言わせようとしている。
そしてこのニコニコっぷりである。どれだけ言わせたいんだい、いや私も勿論言わせたいけどさ。
「はぁ、分かったよ。たった今知ったけどシャルルって意外に強情なとこあるんだな」
「そうかな?あっ、それじゃあ強情ついでにお願いということで、台詞を一夏の境遇に置き換えてみない?」
「お、俺の?」
「うんうん」
それにしてもこのシャル・ボーイ、物凄くノリノリである。
気持ちは凄く分かるけどね。箒ちゃん相手にああいう台詞言ってもらいたい。箒ちゃん泣いて喜び……最近のあの子だとどうなのだろうか。
しかし一夏少年は、シャル・ボーイのその提案に対してウンウンと唸り始める。
「そうは言ってもなぁ……いきなりそんなこと言われてもパッと思いつかないって」
「あんまり深く考えなくてもいいんだよ、最近のイベントからワードを引っ張り出してもいいしさ」
「最近、最近かぁ……あっ、それじゃあさ」
悩む表情から一変して、晴れた顔を浮かべながら一夏が口にしたのは今月に行われるイベントの名前だった。
学年別個人トーナメント。
その名の通り、IS学園の1~3年生がそれぞれの学年でトーナメント形式で試合を行うイベントである。
全生徒強制参加のこのイベントは開催期間が1週間ほど続き、1年生だけでも約120名という人数なのでそれだけでもその規模は非常に大きなものだと分かってもらえるだろう。加えてこのトーナメントにおいて、1年生はISの潜在的才能評価、2年生は1年間の勉錬の成果、3年生はこれまでの集大成に近い状態の能力審査と各学年で目的が異なっており、特に3年生に至っては早期段階でのIS企業からのスカウトすら掛かっているのだから、ただのお祭り騒ぎ的なイベントでは決して無い。
しかもトーナメントの日には有名なIS企業の重役や各国の首相クラスのお偉いさんたちが試合を見に来るのだから、下手な言動・真似をすればあっという間に自国のトップにマークを付けられてしまうかもしれないから、代表候補生は細心の注意を払わなければ大変なことになってしまう。
トーナメントの開催まであと10日程度の日数があるが、教師達は現在もその準備に追われているであろう。千冬嬢、真耶ちゃんを初めとする教師一同には激励の言葉をそっと送らせてもらうとしよう。ガンバっ。
というわけで、学年別トーナメントの説明はこれでおしまい。場面を戻させてもらおう。
「トーナメントで優勝したら、ってシチュエーションにしてみるか。相手は……マリアンでいいや」
「あっ、面倒臭がった」
「見逃してくれってことで1つ頼む。……んんっ」
喉の調子を軽く整える一夏少年。私もシャル・ボーイも横槍を入れることを止めて、一夏少年が集中できるように口を紡ぐ。もちろん、彼に向ける期待の視線を忘れずに。
そして一夏少年は、その台詞を口にする。
―――マリアン……今月の学年別トーナメントで優勝したら、俺と付き合ってくれ。
「……おぉ~」
≪おぉ~≫
正直に言おう。かなり似ていた。
「ふぅ、緊張したぁ」
「一夏、すごく似てたよっ。声優になっても全然大丈夫なくらいだった!」
≪一夏少年の意外な才能が掘り起こされたみたいだね。職に困るようなことがあったら、そっちの道を頼ってみても良いんじゃないかな≫
「そ、そんなに褒められると照れ臭いな」
私たちの賛辞を受けた一夏少年は、むず痒そうに頬を掻きつつ笑ってみせた。
「それにしても……この主人公も結構大げさだよな。大事な戦いの前だっていうのに、買い物の約束するなんてさ」
…………。
一夏少年……その思考は流石にどうなんだい?今のはストレートな物言いではなかったにしろ、完全に恋愛の雰囲気だったでしょうに。
ほら、シャル・ボーイも完全に呆れちゃってる。少年に向けてる視線も冷ややかだよ。
「あれ、テオもシャルルもどうかしたのか?」
「ううん、一夏はいっぺん馬に蹴られて頭を打った方が良いんじゃないかなって」
≪それだから君はいつまで経っても一夏なんだよ≫
「どういうこと!?」
こんな鈍すぎる子を振り向かせようと頑張っているんだから、箒ちゃん達に頭を下げる思いが改めていっぱいになってしまう。やれやれだね。
「あ、悪い。ちょっとトイレ借りてもいいか?」
「うん、いいよ。それじゃあ一夏が戻って来たら映画鑑賞を再開しようか」
一夏少年が用を足すために、席を立ちこの場から離れて行った。
「一夏のアレは流石に無いよね」
≪だよね。まぁラストで恋人らしいシーンが出るはずだから、流石の少年もそこで気付くでしょ≫
「そうだね」
流石にキスシーンを見れば一夏少年もさっきの言葉の意味を再認識してくれるだろう。これで分からなかったら本格的に彼の感性を疑ってしまうよ。いや、既に十分疑わしいけれど。
さて、それはそれとして。
一夏少年が席を外している今のうちに、そろそろ私の方からシャル・ボーイの男装の件についてアプローチをかけさせてもらうとしようかな。
ここまでシャル・ボーイの行動に野心のようなものが一切感じられなかったのは確認出来た。彼女が一夏少年に害を及ぼす存在かどうか……この数日間で確かめるべくある程度自由にさせてあげたのだが、視線・雰囲気含めて彼女の行動に悪意は生じられなかった。
もし一夏少年に危害を与えるような意志が存在していたのであれば、私はこの子を始末することも辞さなかったけれど、どうやらその必要も無いと見ていいようだ。
「……?どうかしたのテオ」
私の視線に気が付いたシャル・ボーイはキョトンと小首を傾げて尋ねてきた。
≪そうだね。どうかしたのかと言われたら、どうかしたと返すしかないだろうね。もっとも、それは君に当て嵌まることなんだけどね≫
「えっ?」
「シャル・ボーイ……いや、ボーイではなく君は――」
と、その時であった。
「うおわっ!?」
「っ!?」
≪?≫
ドタンッ!という激しい音と一夏少年の驚いた声が離れた場所から聞こえてきた。正確な場所を察してみるが、距離や声の響き方を鑑みるにトイレではなく洗面所から声が聞こえてきたような気がした。
私とシャル・ボーイは同時に席を立ち、声を上げた一夏少年の元へと駆けつけた。
「一夏っ!?大丈――」
≪少年、一体どうし――≫
私とシャル・ボーイは言葉を続けることが出来なかった。眼に映し出されたその光景を見た瞬間、私達はそれぞれ衝撃を受けたのだろう。
そう、何せ――。
――女の子の下着を頭に被りながら床に倒れている一夏少年が、そこにいたのだから。
「いっつぅ……何か踏んづけたけど、一体なんなんだ?」
女の子のパンツを頭に被りながら、身を起こして怪訝そうにその場を見渡す一夏少年。
彼の発言からして、先程の大きな音は何かを踏んづけた一夏少年が盛大に転んでしまった音なのだろう。そして肝心の踏んづけた物は、私も見渡す限りではそれらしいものは一切見当たらない。
となると……彼の頭に被さっているそれが犯人と考えた方が妥当だろうね。
で、転んだ際にパンツが宙へ舞い上がって、少年が転んだ拍子にその頭の上に見事着地。駆けつけた私達がその光景を目撃、と。なんというラッキースケベ。
「あ、あわ、あわわわわ」
この部屋に置かれていた事を考えると、あのパンツは十中八九シャル・ボーイ……もといシャル・ガールの私物だと見て間違いないだろうね。ガールのこの慌てようが、それを真実だと証明してくれているよ。
ちなみに下着の色は淡いピンク色で、軽くレースが掛かっている大人チックな仕様になっている。おませさーん!
「ん?あぁ悪いシャル、トイレの前にちょっと洗面台借りようとしたんだけど何か踏んづけちまって転んじまったんだよ。テオも悪かったな、大きな音立てちまって」
「い、い、いち、か……」
「どうかしたのか?そんなに顔真っ赤にして……そういえばさっきから頭に何か乗ってるな。何だこれ?」
そう言って一夏少年は頭に載っているピンクのパンツを手に取り、己の前にそれを持っていって……。
「きゃあああぁぁぁっ!!」
「えっ、これ、ってかシャル――るヴぉっ!?」
一夏少年がパンツの存在を認識しかけた瞬間、シャル・ガールの鋭い蹴りが一夏少年の顔面に叩き込まれた。流石は代表候補生、素晴らしい身のこなしだ。ワザマエ!
彼女の蹴りを顔に受けた一夏少年は、まるで漫画の演出のように顔面に窪みを残しながら、敢え無く気絶。サヨナラ!
「…………」
シャル・ガールが取り戻した下着を胸元に隠しながら、羞恥で染まった朱い顔のまま私のことを不安げに見つめ下ろしてきている。
彼女の言いたいことは分かっている。一夏少年を気絶させたところで、私という目撃者がバッチリ現場を押さえてしまっているのだから。仮に私を今気絶させたところで、覚えているかあやふやな一夏少年とは違って意味の無い行動になってしまうのだ。殺しでもしない限りは情報を秘匿出来ないけれど、この場で行うのは完全に悪手であるしこの子にそんな派手な真似が出来るとは到底思えない。
≪まぁ話の後は、そこでのびてる少年が目を覚ましてからにしようか≫
「……うん」
あれ、でもこれって一夏少年の蹴り&気絶させられ損?まぁいっか。
――続く――
前回の感想で『一夏がシャルを女と気付くのはまだ先か』というご意見がありましたが、早速ばれました。そしてバレた理由がこの有様だよ!原作よりひどいよ!