篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第24話 子の心、親知らず

 私、一夏少年、シャル・ガール。2つ並んだベッドを使って、囲う様に私達は座っている。

 私達3人が落ち着いて話のできる環境を作れたのは、一夏少年が気絶から目覚めてからであった。少年の気絶時間は20分程度のもので、その頃にはめり込んでいた顔もギャグ補正ですっかり元通りになっていた。ギャグ補正って凄い。

 

 一夏に正体がバレてしまったことで、シャル・ガールは男装を解いて本来の姿を現すことになった。

 服装は先ほどと同様のジャージで変わっていないが、変化が現れているのは彼女の胸。男装時にはサラシか何かを巻いていたため全く膨らみがなかったその部分が、今は女の子らしくフワリと膨らんでいる。ザッと見でクラスの女の子よりも少し大きめなサイズが、余計にガールを女性だと主張させている。

 それ以外の違いとしては後ろに束ねていた髪を解き、ハイネックのシャツで隠していた首元が露わになっている等か。今はベッドに腰を掛けている状態だけど、居心地の悪さからちょっと内股気味になっていて所作の方も女の子らしくなっている。

 先程まで自分のパンツを少年に被られて顔を真っ赤にしていたシャル・ガールだけれど、ある程度はその頬から赤らみが抜けてきている。多少の名残は、まだ少し思い出してしまっているからか。

 

 対する一夏少年は気絶する前の事をちゃんと覚えているようで、女の子の姿に戻ったシャル・ガールを見ては顔を赤くしつつ背けている。事故だったとはいえ自分が女の子のパンツを被っていたり、それを思いっきり手で掴んでいたのだから、それを思い出して恥ずかしいと感じている……と見ていいだろう。こういうのが当然の反応だけどね。

 

 未だ気まずそうにしている2人には悪いけれど、だんまりしていても話は進まないし私から話を切り出させてもらおうかね。

 

≪さて、それじゃあ話を聞かせてもらってもいいかな?シャル・ボーイ……もとい、シャル・ガール。流石にあんな下着を男の子の私物と呼ぶには無理があるし、私物だったとしたらとんでもないからね≫

「あはは、確かにそうだね」

 

 シャル・ガールは私の言葉に笑って見せた……が、その動作は明らかにぎこちなかった。つられるように引き出された笑い声は、完全に無理をしている類いのそれだ。

 まぁ、この学園に男装をして潜り込むなんて犯罪がバレてしまっているんだから、子の落ち込み様も仕方がないだろう。これが露見してしまえば彼女は恐らく牢獄行き……いずれにせよ、普通なら明るい未来は確実に閉ざされている状況だからね。元気を出せと言う方が無理な話だ。

 

「シャルル……なんで男のフリなんかしたんだ?お前ISについてもかなり詳しかったし、こんな真似しなくても入学出来た筈だろ?」

「それは……僕の目的がこの学園への入学じゃないからだよ」

「シャルルの、目的?」

 

 先程まで酷い姿を晒していた一夏少年も、今のこの空気を感じて真面目な表情となっている。真剣な面立ちをシャル・ボーイに向けて、彼女から話を聞きだしにかかっている。

 

 シャル・ガールも少年の問いに重々しく頷くと、ポツリと口を開いた。

 

「一夏のフィジカルデータと白式のデータの入手……実家からその命令を受けたんだ」

「俺と白式のデータ?それよりも、シャルルの実家っていうと……」

 

 そう、デュノア社だ。

 そしてそこからの命令という事は、即ちその発生源は……。

 

「うん、僕の父親からの直接の命令」

「命令って……親なんだろう?なんでそんな……」

「一夏……僕はね、愛人の子なんだ」

「っ……!?」

≪…………≫

 

 ……辛そうにしながらも、シャル・ガールの口が止まる様子は無かった。

 

「僕のお母さんが2年前に亡くなって、ちょうどその時期に実家の方に引き取られたんだ。で、検査をしていく内に僕に高ランクのIS適性がある事が分かって、非公式だけど会社のテストパイロットとして働くことになったんだ」

 

 ポツリポツリと、語ってくれる。あまり言いたくない内容だということは彼女の浮かない顔を見れば一目瞭然だった。

 それでも、彼女は一生懸命話そうとしてくれている。

 

 だから私も一夏少年も、口を挟まず彼女の言葉を聴くことに専念している。

 

「父親と会ったのは2回くらいで、会話したのも数えるくらいしかなかったかな。普段は別邸で暮らしてるんだけど、一度だけ本邸に呼び出された時は酷かったなぁ。本妻の人から『泥棒猫がっ!』って言われながら殴られちゃったの。ビックリして何も言えなかったくらいに突然な事だったよ、お母さんも少しくらい教えてくれても良かったのに」

≪…………≫

 

 ……シャル・ガールが其処から話してくれた内容の大半は、私が轡木殿から聞いた話とほぼ同様であった。

 

 デュノア社の経営不振の件。

 フランス国の第3次イグニッション・プラン参加が危ぶまれている件。

 第3世代機の開発の為に、一夏少年のデータを狙っている件。

 学園側の調査と関係者の証言が一致したということで、私の中でこれらの情報は間違いない事実であると裏付けを取ることが出来た。轡木殿への報告については、先の情報が確固たるものだと伝えれば大方大丈夫だろう。

 ここに亡国企業がどのように関わっているのかが気になるが、シャル・ガールの口ぶりだと血縁者にも内密に動いていると見ていいだろう。それに私の目的はあくまでガール行動の監視だから、詳細は学園の方に求めるとしよう。

 

 まぁ、それについては今はいい。

 

「あぁ、話したらなんだかスッキリしたよ。2人とも聞いてくれてありがとう。いきなりな最後になっちゃったけど、十分楽しい学園生活が送れたよ」

「最後?シャル、お前何を言って……」

「だってそうでしょ?僕は学園を、クラスのみんなを、一夏を騙してここに入学してきたんだ。こうしてバレたからには僕は犯罪者として干されて、良くて牢屋行きになるだろうからね。……どうせ最後なんだから、楽しい思い出を求めてもバチは当たらないでしょ?」

 

 ……やはり、ね。

 シャル・ガールが一夏少年のデータを狙おうとしなかった理由。今の彼女の目が、全て教えてくれている。

 何もなにもかも投げ出してしまったかのような、諦観の籠る目が。

 

 それは――『最初から目的を果たそうとも思っていなかった』から。

 この子の様子から野心のようなものを感じられなかったわけも、道理で合点がいった。最初から一夏少年のことを狙う気がなかったのだから、いくら心根を察そうとしても黒い面を見つけられなかったわけだ。

 

 お母さんが居なくなってから会社のいいように扱われて、今回に至ってはこんな命令まで下されて……会社の言いなりとして使われ続ける現在に疲れてしまったからなんだろう、このようなことに身を捧げてしまっているのは。

 この子もどこかで終わりにさせたかったんだ、今の自分の境遇に。唯一の肉親に道具のように扱われ、異母からは暴力さえ振るわれて。周りには今の状況にされても助けてくれる人がいなくて。

 この子はこれほどにまで追い詰められている、こんなにも諦めた眼をしている。

 

 ……嗚呼、本当に久しぶりだよ。

 親が子を無碍に扱う……ここまで私を腹立たせてくれる出来事は。

 

「……それでいいのかよ」

「一夏?」

「シャルルはそれでいいのかよ?」

 

 少年は隠しきれていない怒りを表情に滲ませながら、シャルルへと詰め寄った。彼女の肩を掴み、真正面に対峙しだす。

 

「確かに、俺達子どもは親がいないと生まれて来れなかった。俺達がこうして生きていられるのも、親が俺達を産んでくれたからだ。……だけどっ、だからってこんなメチャクチャに振り回すようなことしていいわけないだろっ!親ってのはそういうものじゃないだろうがっ!!」

「いっ、一夏……?」

「あっ……悪い、怒鳴ったりして。……俺も、千冬姉と一緒に両親に捨てられたから」

「っ……!」

 

 …………。

 

「だけど、俺はそんなこと全然気にしてない。千冬姉がずっと傍に居てくれたから、捨てた親に会いたいとも思ってないしな。それに……」

 

 そう言う一夏少年の視線が、私の方へと向かれた。

 

「テオだっていてくれたしな」

≪私が?≫

「ああ。最初の頃は俺や箒がテオの親を気取ってたけど、いつのまにかテオが親みたいに振る舞うようになっててな。箒が引っ越しすることになった時なんて、『ちゃんと1日3食とって規則正しい生活をするように』とか『こたつで丸くなるのは猫だけ、夜はちゃんと布団で寝るように』とか母親みたいに口を酸っぱくして言ってきただろ?」

 

 それはまた、随分と懐かしい話だ。少年も良く台詞を覚えているものだよ。

 確かにあの頃にもなると精神的に大人になっていたから、特に箒ちゃんや一夏少年に対して子供と一緒にいるような感覚があったんだよね。生きている年数なら彼らの方が上だけど、どうにも猫というのは10数年の生涯に詰め込みをしてしまっているからね。

 

「けど、こうしてまたテオと一緒にいると時々思うんだ。『父親と一緒にいるって、こういう感じなのかな』……ってさ。なんだかんだ親身になって気に掛けてくれるし」

≪一夏少年……≫

「だからさ。俺……テオの事は、『友達』でもあり『父さん』でもあるような存在だって思ってるんだ。どう言ったら上手く伝えられるか分かんないけど……とにかく、それがすっげー嬉しいんだ」

≪っ……≫

 

 ……ははは、全く。サラッと嬉しい事を言ってくれるじゃないか、この若者は。

 私は今まで、箒ちゃんや一夏少年達の親・保護者代わりを気取っていた。だけど所詮、それは片道の思いでしかないと思っていた。わざわざ本人に聞くなんて、とてもじゃないけど出来たことではないからね。

 だから、この子の事を自分の息子だと思っているのは私の独り善がりに過ぎないんだと……ずっとそう思っていたのだけれど。

 

 それだというのに、この子は私のことをそんな風に評してくれている。

 先程までシャル・ガールの父親の所業に苛立っていたというのに、すっかり毒気を抜かされてしまった。彼が私の分までちゃんと怒って、想ってくれたからだろう。

 

 やっぱり、なんだかんだで君はいい男に育ったよ、少年。

 ありがとう。

 

≪ふっ、親孝行の息子を持って私は幸せ者だよ≫

「だろ?見直した?」

≪……そうだね。見直したよ≫

「あれ?もっと厳しい言葉が返ってくると思ったんだけどな……」

≪言って欲しかったの?≫

「滅相もございません」

 

 なんてね。

 本音はちょっと照れくさいから、此処では言わないでおかせてもらおう。

 

≪それはそうと、シャル・ガールの件について対策を立てないといけないんじゃないのかい?……とは言っても、ある程度盤石は整っているんだけどね≫

 

 私の言葉を聞いた一夏少年とシャル・ボーイは『えっ』と素っ頓狂な声を揃えて上げた。まぁ、それらしい様子は見せなかったし仕方がないか。

 

「え、いつの間に?」

≪割と前からかな。そもそもシャル・ガールの男装の件については学園でも既に把握済みだよ≫

「ウソ!?」

≪ホント。で、学園の方ではデュノア社の近年の内部動向を今も調査しているところなんだよね。私もガールの正体は知ってたし、学園の依頼もあって近くで様子を見させてもらっていたし≫

「……え?さっき知ったんじゃないのか?」

≪初日から気付いてたよ。猫の嗅覚は人間の数万倍なのに、それから女の子の匂いを隠しきれると思う?≫

「「…………」」

 

 おやおや、呆気にとられてる。どうやら2人は猫がどんな生き物なのか勉強しておく必要があるみたいだね、ふっふっふ。

 

≪取り敢えずデュノア社の目論見とシャル・ガールの心情は聞かせてもらっているから、その辺りについては私と学園に任せてもらえないかな?シャル・ガールの処遇については私が口添えをして穏便に済ませようと思っているから≫

「え、でも……」

≪嫌だったかい?≫

「……僕は皆を騙してここに来たのに、守ってもらってもいいの?」

 

 救いとなる筈の私の言葉に躊躇いを示すシャル・ガール。

 罪悪感。自ら受け入れた罪を負っているがゆえに、私達の助けが入る事を躊躇ってしまっているのだろう。心の内の善意というのは、こういう時に枷となってしまうことがあるんだから一概に良いとは言い難いね。

 

 だけど、私は認めよう。それどころか、ますます君を助けたくなったよ。

 

≪もちろんさ。そもそも助けようとしなかったら、こうして対策を立てていないよ≫

「シャル、この学園に残ろう!俺もお前が学園に残れるように、なんだってするから!」

「一夏……」

 

 少年もすっかり乗り気みたいだね。これは中々心強い味方だ。

 

≪『シャルル君、困ったことがあったら遠慮せず私に相談してくれたまえ。出来る限り君の力になると約束するよ』≫

「えっ?」

≪初日のお昼ごはんで約束したじゃないか。君が男の子であろうと女の子であろうと、その言葉に偽りは無いよ≫

「あっ……!」

 

 シャル・ガールの目が見開かれる。

 

 さぁ、今こそ自分の意志で選択する時だ。

 自らの罪を受け入れて未来を手放すか、差し伸べられた手を取って未来を掴み取るか。

 この選択に『デュノア』は必要ない。『シャルロット』という1人の女の子の意志だけが、この道を選ぶ権利を持っているのだ。

 

 

 

 ―――君は、どっちの未来を進む?

 

 

 

「……お願い、2人とも。……僕を、助けて……!!」

 

 ……ああ。その言葉、しかと受け取ったよ。

 

≪もう少しの辛抱だ。それまで私達に任せなさい≫

「やったなシャルル!俺も精一杯協力するから、待っててくれよ!」

「うん……うん……!」

 

 涙を流して何度も頷くシャル・ガール。

 そんな彼女を優しく慰めてあげてる一夏少年。

 

 若き2人の姿を瞳に収めながら、私は改めた決意を胸に秘め直した。

 

 

 

――続く――

 




 前回でバッチリ醜態を晒した一夏が挽回しました。回収はやーい。サラマンダーよりずっとはやい!

 そしてテオが途中で苛立ったのは、彼が【子供を大切にしない親(保護者)】【子供の心を苦しめるような行為】が嫌いだからです。説明するまでも無かったと思いますが、そのまま文章にしての説明はあまりしていなかったので、一応ここに記述させていただきました。
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