篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第25話 噂・尊(そん・そん)

 シャル・ガールを守ると約束した土曜日の夜から2日後となる、月曜日の今日。

 

「あっ、箒ちゃんにテオくん。おはよう」

「あぁ。おはよう静寐」

≪やぁおはよう、静寐お嬢ちゃん≫

 

 扉の近くで他の女の子達と談笑をしていた、いつもヘアピンを付けている女の子――鷹月 静寐お嬢ちゃんが私達の入室に気付いて、笑顔で挨拶をしてくれた。

 静寐お嬢ちゃんはクラス委員長的な雰囲気を醸すその見た目に相まって真面目な子で、クラス代表の勝手が解らない一夏少年に時々サポートをしてくれる優しい子だ。クラスの誰とでも等しく接するその態度からは親しみやすさが感じられる。

 

 箒ちゃんも彼女とは色々仲良くしていると聞いている。一夏少年やセシリア姫は既に箒ちゃんのことを名前で呼んでいるけれど、彼女も比較的早い段階で姓呼びから離れていたから、箒ちゃんと仲の良いクラスメイトをとり上げるとすれば少年達に次いで静寐お嬢ちゃんの名が挙がるだろう。

 ちなみに昨日の日曜日では、2人で近くのデパートに買い物に行ったらしい。お土産のクッションを私にプレゼントしながら嬉々と語ってくれた箒ちゃんは、見ていてとても微笑ましかった。

 

「篠ノ之さんおはよ~」

「テオくんもおはよう!」

「あれ、篠ノ之さんの今日のリボンってもしかして新しいの?」

「う、うむ。昨日静寐に勧められて買ったのを使ってみたのだが……変だったか?」

「ううん、似合ってるし可愛いよ!」

「そ、そんなに褒められるとむず痒いな。……けど、ありがとう」

 

 私と箒ちゃんが静寐お嬢ちゃんに挨拶を返すと、他の子たちも気軽に挨拶をし始める。

 こうして箒ちゃんがクラスの子達と馴染んでいるのを見ていると、とても安心してしまうね。中学生の頃は色々と大変だったから心配してたんだけど……どうやら私の杞憂で終わったみたいだ。良きかな。

 

「そうそう箒ちゃん、昨日私達が学校から離れている間に凄いビッグニュースが入ってきたらしいよ」

「ビッグニュース?」

 

 気になる単語に小首を傾げる箒ちゃん。

 

 昨日ということは、日曜日にそのビッグニュースとやらが広まったんだろう。昨日は私も近所の子達と遊ぶ約束をしていたから、夕方まで学校にはいなかったっけ。その後はまたシャル・ガールの部屋に行って、噂話は特に耳にしていなかったかな。

 となると私も知らない話となるのだね。一体どんな話が出て来たのか、気になるところだ。

 

「今月末の学年別トーナメントなんだけどね、なんとそこで優勝したら……織斑くんと交際できるんだって!」

 

 ……えっ、何それ。

 何がどうしてそんな話が出て来たの?わけがわからないよ。人間は魂の在り処に(ry

 

「一夏と交際……?それは本人がそう言ったのか?偽物の発言ではないのか?」

「偽物がうろついてるの!?」

「それ程までに信じがたい出来事なのだ。それで、結局どうなのだ?」

「うーん……噂が流れたような感じだからそこんところは解んないかな。訊いた話によると、一昨日の夕食で織斑くんとデュノアくんを誘おうとした子が部屋を訪ねようとした時に、外から偶然聞こえたんだって」

「聞こえた?」

「織斑くんが真剣な声で『学年別トーナメントで優勝したら付き合う』……みたいなことを言ってたらしいよ。扉越しで聞き取り辛かったけど、その辺りの言葉がなんとか聞き取れたんだって」

「あの一夏がそんなことを……明日は天変地異か」

「彼、ボロクソに言われてるんだけど!?」

 

 ……あれ?

 

 一昨日の晩ってことはひょっとして……。

 もしかしなくてもアレのことだよね?一夏少年に映画主人公の台詞を自己流で真似させた、アレだよね?

 

『マリアン……月末の学年別トーナメントで優勝したら、俺と付き合ってくれ』

『お~、似てるね一夏!』

『うんうん、声優目指してもいいんじゃないかな』

『そ、そんなに褒められると照れるな……』

 

 うん、どう考えてもこのやり取りだよね。まさか知らない間に誰かに聞かれていたとは……私もリラックスし過ぎて気付けなかったのかな?それとも忍者の仕業?アイエェ……ニンジャコワイ!そもそもアレって、あくまでもノリで言っただけの事で本当に交際をするという意味で言ったわけじゃないのだけれど……。

 ひょっとして、変な形で広まっちゃってる?というか、ひょっとしなくても確定的に広まっちゃってる。

 

「なんだっていい、織斑くんと交際できるチャンスだ!……って学校中が躍起になっちゃってるみたいだよ。箒ちゃんもこれに乗りかからないと、織斑くんを取られちゃうよ?」

「いや、そもそもこういうのは本人の確認をとってから……む?テオ、先程から黙っているがどうかしたのか?」

≪いや、なんでもないよ≫

「そうか?」

 

 持ち前のポーカーフェイスで、箒ちゃんにこの動揺を悟られることはなくなった。

 だけど年甲斐も無く慌ててしまっては大人としての貫録に響いてしまうからね、よしっ、ここで一先ずクールにならなければ。KOOLではなく、COOLの方でね。

 ……うん、取り敢えずなるようになれ、ということにしようか。学校中に広まった噂を回収するのは骨が折れるし、一生懸命になろうとしている子達の意気を無粋に削ぐのもなんだしね、ここは素直に諦めておこうか!

 

 ……あれ、落ち着いたら達観した感じになった気がする。これでいいのか?私。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 休憩時間を利用して気晴らしの散歩の最中。と言っても、廊下をフラフラと気まぐれに歩いてるだけだけど。

 

 一夏少年とトーナメント優勝の件はさて置き、シャル・ガールの件を詰めていかなければね。……え、少年への扱いがドライじゃないかって?元々こんなもんだよ私は。前回は感動させてもらったけどソレはソレ、コレはコレ。

 

 で、シャル・ガールの件だけど。

 一応今日の放課後にでも、轡木殿に掛け合ってシャル・ガールの身の保証を交渉しておこうかと思っている。まだシャル・ガールの監視を引き受けるとして告げていなかった筈なので、なるべく早い内に私の要望を聞いておいてほしいからね。

 轡木殿も中々食えない性格をお持ちのようだけど、こういうのは案外裏を見せずストレートに挑んだ方が印象が良いだろうしね。それでも何かしらの条件みたいなのは付けられると思うけど。

 

 既に連絡先は彼から受け取っているし、銀雲のデータに登録済みだからいつでもどこでもお電話可能。人間のISにはそういう機能は備わっていないので、特権というやつだ。私はこんな身体だから携帯電話の類が使えないので、束ちゃんが追加機能として付けてくれたのだ。束ちゃん万歳。

 取り敢えず、アポを取っておいた方が良いだろうし休憩時間の今のうちに……。

 

「何故なのですか教官!」

 

 ん?

 

 あまり聞き慣れない声が先にある曲がり角の奥から聞こえてきたので、私はヒョコッと頭を出してその場所を覗き込む。

 そこに居たのはラウラちゃんと千冬嬢だった。千冬嬢がこちらに背を向けている立ち位置だったので、ラウラちゃんの表情がいつもの仏頂面ではないことが確りと見えた。千冬嬢の前だとあれくらい感情的な表情をするのか、クラスメイトの前では1度も見せたことなかったけど。

 先程の声はどうやらラウラちゃんのものだったらしい。あの子、あんまり喋ってくれないし。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある、それだけだ」

「このような場所での役目など……!」

 

 ふむ。盗み聞きは良い趣味とは言えないけど、興味が無いと言ったら嘘になるからね。念のために耳に入れておくとしようか。

 私はそう決めると、気配を殺して壁際に寄り添う。向こうに私がいることがバレない様に身体は隠し、顔出しも最小限に留めて。

 

「私如きの立場から、過分な物言いを承知でお願い申し上げます。どうか今一度ドイツにお戻りいただき、再びご指導の程を!」

「ほう、私にこの学園の教師を辞めろと?」

「このような微温湯(ぬるまゆ)じみた環境では、貴女の類い稀なる能力は半分も活かされません!」

 

 そう言い切ってみせるラウラちゃんの表情は、いつにもなく必死な様子である。あれ程まで言わせてみせるとは、千冬嬢のことをそれ程までに信頼しているみたいだ。

 尤も、神格化にも等しいくらいの慕いっぷり……もとい崇めっぷりに見えるのは気のせいではないだろう。

 

「そもそもこの学園の女達は、教官の教鞭を受けるような資格は片ほどもありません」

「何故だ」

「程度が低く、危機感も無ければISをファッションの類いか何かと勘違いしています。教官があれら如きに時間を割くなど以ての外、正直に申し上げさせていただきますと、あんな連中はISに乗る資格すら――」

「そろそろ黙れよ、小娘」

 

 ラウラちゃんの滑らかな言葉を問答無用で遮ったのは、千冬嬢によるたった一言の言葉。ただしその温度は氷点下並に低く、鋭く突き刺さるような威圧感が込められていた。

 千冬嬢が今どのような表情をしているのかは見えないけれど、ラウラちゃんのあの怖がった顔を見る限り、相当キツイ目を向けているだろう。

 

「たかだか15の小娘が、選ばれし存在を気取るか?暫く見ない間に随分と図太くなったものだな」

「きょ、教官……」

 

 あのラウラちゃんがあそこまで恐れるとは、どれだけ規格外なのだろうか千冬嬢。今更か

 ぶっちゃけ今の千冬嬢と真正面から向かい合いたくはない。私も流石に怖いわー。

 

 ……おや、威圧が消えた。

 

「そろそろ授業が始まる時間か。さっさと教室に戻れよ、ラウラ」

「……はい」

 

 威圧が消えた次の千冬嬢は、今まで通りの声色に戻っていた。

 

 さすがにラウラちゃんもこれ以上口出しをする余裕は無いらしい。

 口を固く紡ぎつつ、悔しそうに目を俯かせると足早にその場を立ち去って行った。

 

「……さて、そこの男子は盗聴か?異常性癖は看過すべき内容ではないのだがな」

「ちょ、なんでそうなるんだよ千冬ね……じゃなくて織斑先生」

「8割以上アウトだが……まぁ今回は見逃してやろう」

 

 あっ、やっぱり一夏少年も隠れて見ていたんだ。

 気配とかでなんとなくいるかなとは思っていたけど、どうやら別の所で先程の光景を見ていたらしいね。

 

「お前もさっさと教室に戻れ。今月末のトーナメントで無様な姿を晒さないように、勤勉に務めろよ」

「わ、分かってるよ」

「ならいい。ほら、良いから戻れ。廊下は走ってはいけないが……まぁバレないようにな」

「っ……おう!」

 

 元気よく返事をした一夏少年も、教室に向けてダッシュで走っていった。なるべく音を立てないことを忘れないように。

 

 なんだかんだで弟には甘い千冬嬢、いいと思います。

 

「……お前もだぞ、テオ」

≪おや、バレてた≫

「半分はカマかけだ。途中で気配が完全に消えたようだが、大人しく立ち去ったとも思えなかったからな」

 

 相変わらずぶっ飛んだ性能だこと……。まぁ言うことはちゃんと聞いておくものだし、私も教室に戻らせてもらおうかな。

 

 それにしても、ラウラちゃんねぇ……。

 

≪シャル・ガールの件もこなさなきゃいけないところだけど……今のを見て放っておくのもバツが悪いよね≫

 

 取り敢えず、この件も轡木殿にちょいとお尋ねしてみようかな。千冬嬢からでもいいけど、案外彼も事情を知っているかもしれないし。

 

 

 

――続く――

 




○おまけ○

 ~土曜日の夜~

 テオ達が映画の鑑賞会を行っていた頃……。

女子B「ねぇねぇ、ホントに今日の夕食に織斑くんとデュノアくんを誘っちゃうの?」
女子A「だってデュノアくんがここに転入してからもうすぐ1週間なんだよ?初日から誘ってた子も沢山いたけど、今ぐらいの時期がベストなんだって!」
女子C「どういう計算……?まぁ代案があるわけでもないし従うけど」
女子A「同じ部屋の篠ノ之さんから聞いたけど、今日はデュノアくんの部屋に遊びに行ってるんだってさ。そこで一気に2人を誘うよ!」
女子B「なんという策士……やはり天才か」
女子C「成績は中の下だけどね」
女子A「やめろよーぅ」

 そして……。

女子B「ここがデュノアくんの部屋だよね。それじゃあ早速――」
女子A「待ったっ」
女子B・C「?」
女子A「2人とも、織斑くん達が普段どんな会話してるのか気にならない?」
女子B「会話?」
女子A「そうそう、私たちクラスも違うから中々話す機会が見つけられてないじゃん?ここはこの後の夕食での会話のバリエーションを広げるためにも、2人がどういう会話をしているのか聞いておく必要があるんじゃない?」
女子B「どうせあんたの興味本位でしょ?……まぁ、私もちょっと気になるかも」
女子C「猥談してたら反応に困るんだけど」
女子B「私は今まさにその台詞への反応に困ってる」
女子A「決まりね。それじゃあ聞き耳をして拝聴をば――」

一夏「マリアン――年別トーナメン――優勝―――俺と付き合って―――」

女子A「ファッ!?」
女子B「ちょ、なにそのリアクション?」
女子C「何が聞こえたの?マジで猥談?」
女子A「その猥談への執着心は何!?……2人とも、今日の作戦は後日に先延ばしよ」
女子B・C「えっ?」
女子A「あの耳応えは絶対に聞き間違いじゃなかった。私の耳はリハクの目にも匹敵する高性能なイヤーだからね」
女子B「それポンコツだからね?節穴だからね?」
女子A「兎にも角にも、とんでもないビッグニュースが舞い降りて来たわよ。さっそく皆に報せないとっ」

 そしてその翌日、学園では例の噂がバッチリと広まっていたのであった。



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