篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

26 / 98
第26話 Chaildish Battle

 

◇   ◇

 

「あっ」

「あら」

 

 中国の代表候補生、凰 鈴音。

 イギリスの代表候補生、セシリア・オルコット。

 呆気にとられたような2人の声が、ここ第3アリーナで揃いを示してみせた。

 

 2人が此処に足を運んでいる理由もまたお揃いだ。月末に開催される学年別個人トーナメント、そこで優勝する為に今日も放課後の時間を利用して訓練に励もうという魂胆である。

 何せ今回のトーナメントで優勝すれば、自分の好いているあの男と付き合うことが出来る……そう噂で耳にしたのだ。本当にあの唐変朴がそんなことを言ったのかが唯一引っ掛かる点だったが、今の2人にとっては些事たる疑問に過ぎなかった。

 噂を聞いた2人の訓練への意気込みはいつになく高まっている。馬の眼前にニンジンをぶら下げて走らせる、そんなイメージさえ浮かんでくる程に。

 

「……まぁ、そうなるわよね」

「えぇ仰らないで。わたくしも重々承知していますから」

 

 2人は相手の姿を見た途端に、互いの目論見を理解した。『嗚呼、あっちも私と同じなんだなぁ……』といった具合に。

 

「まぁでも、訓練相手がいた方が身に付くのは確かだし、丁度良かったかもね」

「奇遇ですわね。わたくしも動かない的よりも動く標的と対した方が良い訓練になると思っていますの」

 

 そう言って2人は互いに得意とする武器を瞬時に手に収める。

 鈴音は大型の片刃刀【双天牙月】を両の手にそれぞれ1本ずつ、セシリアは大型のレーザーライフル【スターライトmkⅢ】を型に見合った携え方で手にする。

 

 2人は既に戦闘形態をとり、いつでも戦いを始められるように構えを取る。数メートル離れた両者の間には、見る人によっては火花のようなものが見えてくるに違いない。2人の戦意は、それ程までに高まっているのだ。

 

「意気込んでるとこ悪いけど、優勝するための踏み台になってもらうわよ」

「それはこちらの台詞ですわ。前哨戦としてここで白色黒色をハッキリつけるのも面白そうではありませんこと?」

「ふっ、言ってくれるじゃないの。なら…………っ!?」

「っ!?」

 

 2人の戦いが始まろうとした直前だった。

 両者のハイパーセンサーが、こちらに向かってくる音速の実弾銃の存在を即座にキャッチしたのだ。その照準は、鈴音に向けられていた。

 

 鈴音は直ぐにその場から飛び退いて、距離を取る。その直後、鈴音のいた場所に実弾銃が着弾して小爆発を引き起こす。

 

 跳躍の後にバク転でこちら側に避難してきた鈴音の無事を確認したセシリアは、不意打ち射撃の弾道を探りその場所を突き止める。そしてその方へと、視線を向けた。

 

 その場所には、右肩に備えた大型レールカノンの銃口から煙を吹かせているIS装備の少女――ラウラ・ボーデヴィッヒがいた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……随分なご挨拶を習慣としていますのね。ドイツ国がここまで野蛮で過激な国だとは思いませんでしたわ」

 

 入学当時と比べてすっかり角が丸くなったセシリアであるが、ラウラの姿を見た途端に嫌そうに目を細める。

 転入の挨拶早々に自分が好意を抱く男性を引っぱたこうとした行為、それ以降も彼に対して敵意を剥き出しにした態度をとる……セシリアがラウラを疎ましく思う理由としては十分な内容であった。

 

 セシリアの隣に避難してきた鈴音も、彼女に負けないくらいの嫌悪の感情を剥き出してラウラを睨みつける。

 

 だがラウラは、彼女たちの視線を意に介さないまま2人の機体をISの機能で分析し、詳細を閲覧する。

 そして彼女は口元を綻ばせると……鼻で笑った。

 

「ふっ、【甲龍】に【ブルー・ティアーズ】……実物が噂に劣ることは珍しくもない話だが、よもやここまでとはな」

「はっ?」

「……今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきましたわね」

「事実だろう。織斑 一夏に色目を使っているような雌犬風情が搭乗者では、いかに高性能なISも玩具と呼ぶに相応しい姿となる。2人掛かりで女教師の乗る量産機に惨敗し、無様な姿を晒していた貴様らがいい例だ」

 

 視界の先で嘲笑を浮かべている少女に向けている怒気が増し、眉間に出来た皺がますます深く刻まれていく鈴音とセシリアの両名。

 

「上等よあんた……そのすまし顔をタンコブだらけに出来ると思うと、今から笑いが込み上げてきそうだわ」

「あらあら鈴さん、いくら極まった不躾さとはいえあれも女性の端くれ、わたくし達の寛大な心で顔面以外をタコ殴りにして差し上げるのも一手でしてよ?」

「それもアリね。全身タンコブだらけなんてブドウみたいだし、ドイツから来たアイツにはピッタリなんじゃない?」

「でしたら新種のブドウとしてワインの材料にでも……いえ、飲んだら口の悪さが移ってしまいそうなので遠慮願いたいですわね、ほほほ」

 

 挑発じみた台詞に拍車が掛かり、怒りを誘う言葉が次々と流れていく。息の合った罵声攻撃自体は素直に感心出来るものではないが、連携が出来ているという件に関しては褒めておくべきだろうか。

 

 もっとも、相手は相当な強敵だったようだ。

 セシリアたちによる挑発を長いこと浴びせられても、眉一つ動かしていなかったのだ。

 

「ふん、くだらん。ボロ雑巾の真似事をすることになるのは貴様らの方だと理解出来ていないようだな。あの愚図にだらしなく尻尾を振る雌風情の頭では無理もないが」

「オーケー、今すぐその五月蠅い口を塞いでやる」

「とことんまで叩き潰させていただきますわ…………だけどその前に」

 

 双天牙月の切っ先が、スターライトmkⅢの砲口が。

 離れた地に居るラウラに向けられる。

 

 そして2人は、ラウラの口から放たれた聞き捨てならない一言によって激昂した心を、思うままに口から吐き出す。

 

「この場に居ないあの方を、一夏さんの事を……」

「馬鹿にしてんじゃないわよっ!!」

 

 アリーナが、激震に揺れようとしている。

 

 

 

――――――――――

 

 第3アリーナから距離のある廊下で、一夏とシャルルと箒の3人は並んで歩いていた。

 彼らが向かう場所は、現在3人の代表候補生が戦っている第3アリーナ。今日は皆で特訓をする約束をしていたので、3人もそこに向かおうとしていたのである。

 

 いつもならば足元を一緒に歩いているテオは、今はこの場にいない。

 彼は抱えている別件を進めるべく、千冬嬢による引率の元、学園長室へ向かったのだ。

 

「テオは千冬さんに呼ばれてどこかに行ってしまったみたいだが……あのテオが何か問題を起こしたのか?」

「さ、さぁ?別に千冬姉に連れ出されたからって問題を起こしたことになるわけじゃないだろ?」

「まぁ、それはそうなのだが……2人とも真剣な顔をしていたから只事ではないと思ってしまってな」

「そ、そうなんだ」

 

 一夏とシャルルは、ぎこちなさげに箒の言葉に返事を行う。言葉の頭が躓いている時点でアウトな気がするのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 彼女の様子を見て察しが付くと思うが、シャルルが実は女性だという件は彼女に通していない。

 いや、箒だけではない。セシリアや鈴音……つまりあの夜に一夏がシャルルの正体を知って以降、未だに彼女の正体に気付いた者は生徒教師共に存在しないのだ。テオや一夏が、誰にもこの話を喋っていないからである。

 

 実を言うと一夏は、あの夜の際に協力者を募るべきではないかと考えて、箒の名をいの一番に挙げたのだ。

 箒は一夏の同居人であり、彼が向けている信頼も他の生徒たちに比べて人一倍以上に高い。加えて彼女もシャルルの正体を怪しんでいた様子だったので、ここはいっそ味方に引き込んでしまった方が良いのではと考えたのだろう。

 

 しかしテオは、これに頷くことはしなかった。

 

≪私たちのやろうとしていることは、周りから見たら犯罪の隠蔽みたいなものだからね。必ずシャル・ガールのことを助けるつもりではあるけど、万が一も考慮しておきたいから箒ちゃんは今回の件に巻き込みたくないんだよね≫

 

 それにガールの正体はどっかの誰かさんみたいに確信を得られる行動さえ起こさなければ大丈夫でしょ、と口添えをしながら彼はそのように言ったのだ。

 

 一夏は自分の考えていたことが図らずとも共犯者の生産だということに恥じ、テオの意見に同意した。

 シャルルも文句を言うことなくこれに承諾。只でさえ2人に厚意で助けてもらっているというのに、万が一の事態を想像するとテオの憂いは尤もであると納得したからだ。

 

 なので一夏もシャルルも、問題が解決するまではシャルルの正体がばれないように徹することを決めたのだ。

 2人の決意は、とても固く定まっていると言い切れる。

 

「……2人とも、何か隠していないか?」

「いいやっ!?」

「何も隠してにゃいよっ!?」

 

 ただし、どちらも強い決意が裏返って不自然に見えてしまうという致命的な失態をし続けている。

 隠し事を意識すると違和感を醸し出してしまう典型が今ここに。やる必要は全くないのだが。

 

「…………」

「あ、あはは……」

「ははは……」

 

 2人の妙な言動に怪訝な目を向けざるを得ない箒であったが、少しの時間でそれを止めた。寧ろ、止めてあげたと言うべきか。

 

「……まぁいい。それじゃあ話を変えるが、今日はアリーナの使用人数が少ないと聞いている。そのままスペースが確保できれば模擬戦も行えると思うぞ」

「お、おおっ。それは助かるな、シャルル」

「うんっ、そうだね」

「既にセシリアと鈴が向かっている筈だから、合流次第段取りを決めるぞ。いつもはテオが決めてくれているが、今日は私たちでやらねばならない…………む?」

 

 と、ここで箒があることに気が付いた。

 3人は現在セシリアたちのいる第3アリーナに向かっているのだが、アリーナの方角から音が聞こえてくるのだ。アリーナと今いる場所ではかなりの距離があるというのに、既に僅かながらも音が聞こえてくる、というのが問題なのだ。

 普段やっている訓練の内容ではここまで音が届くような激しい内容は無い筈なのに、衝撃音や銃声等の種類が箒の耳に入り込んでくる。音だけで判断するならば、まるで実戦を行っているかのようなペースで音が聞こえてくるのだ。

 

「箒?」

「どうかしたの……これは?」

 

 ここで一夏とシャルルも、アリーナから聞こえてくる音の存在を認識する。

 

「もしかして、セシリアたちが先に模擬戦始めたのか?」

「……ううん、それにしては音の種類がおかしいよ。セシリアも鈴も火薬式の銃火器は持ってないはずなのに、その音が聞こえてきた」

「となると、別の誰かと戦ってる……?」

 

 しかし、いくら推測を重ねたところで真実は見えてこない。

 アリーナから聞こえてくる音は、未だ絶え間なく発生し続けている。

 

「……2人とも、行ってみよう。なんだか嫌な予感がする」

「ああ」

「うん」

 

 一夏の言葉に賛同した2人は、先に突き進む一夏の後ろを追従して走りだすのであった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 それから間もなくアリーナの観客席に辿り着いた一夏達3人。

 

 彼ら以外にも複数人の女子生徒がおり、皆が固唾を飲んでアリーナ内の光景に目を奪われている。

 その光景とは……。

 

「あれは……ラウラ・ボーデヴィッヒっ!?」

「見て!セシリアと鈴が戦ってる!」

 

 砂塵が立ち込めているアリーナの中には、それぞれの専用機を装着している鈴とセシリア、そしてラウラの姿があった。それぞれの立ち位置からして、ラウラに対してセシリア達がタッグを組み1対2で戦っている……と見て取れる構図であった。

 しかし戦況は、数で劣るという厳しい条件がついているにも関わらずラウラの方に傾いている。

 

 鈴音とセシリアはISのボディに視認が容易なほどの損傷が出来ており、そこまで酷くは無いが確実にダメージが通っている状態となっている。

 だが一方のラウラは2人よりも遥かに軽微な損傷で済んでおり、まだまだ余裕といった表情も浮かべているほどである。不利な立場である筈なのに、だ。

 

 何がどうしてこうなったのか思案する一夏を置き、アリーナ内ではまだ戦闘が続こうとしている。

 

「セシリア、援護は頼んだわよ!」

「任されましたわ!」

 

 鈴音は一気に大地を踏み込んで、ブースターの出力を踏まえたダッシュでラウラへと肉薄を仕掛ける。距離が30メートル程度まで縮まったところで、鈴音は一瞬で停止して横転行動をとった。

 

 その直後、先程まで鈴音がいた場所の射線上から青い光線が突き進んでいった。

 セシリアの装備、スターライトmkⅢのレーザー弾だ。鈴音の横転のタイミングと合わせて、後方に控えていたセシリアが射出を行ったのだ。

 

「ふん、小細工か」

 

 しかしその手を読んでいたラウラはつまらなさそうに一瞥すると、間合いを見切り無駄の無い動作でそれを躱してみせた。

 

「だったら、こいつで!」

 

 横に跳んでいた鈴音が、肩部装備の龍砲から衝撃砲を発射した。

 見えない砲丸が一直線にラウラに向かっていく。

 

「無駄だ」

 

 自身に迫り来る衝撃砲による攻撃に対し、ラウラは回避をしようともせずにただ右手を前に突きだした。

 その瞬間、ラウラの身体まであと数メートルの距離でレーザーがピタリと動きを止め、そのまま敢え無く消失してしまった。

 

 衝撃砲が止められた理由を知らない人から見たら摩訶不思議な光景に見えるだろうが、その正体を知っている鈴音は忌々しそうにラウラを睨みつけながら舌打ちをうつ。

 

「【AIC】……めんどくさいもの使ってくるわね……!」

 

 【AIC】。通称、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。

 慣性停止能力として機能するその詳細は、文字通り対象の慣性を止める力。生物の動きや銃弾の動き等、慣性が働いているものであればこの能力でなんでも動きを止めてしまうことが出来る。衝撃波の類いである衝撃砲も、この能力に止められる対象に含まれてしまっているのだ。

 ちなみにこの能力はISの基本システムであるPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の応用で生み出されたのであるが、此処で語るには長くなるので割愛。

 AICの存在は、各国でも既に認知されていた。しかしどの国も開発が進んでいるという情報が無く、現にラウラが今見せつけているそれは非常に高い完成度を誇っている。

 

 だから鈴音もセシリアも、自分達が相対している能力に驚かざるを得なかった。話にしか聞かなかった存在の実物を目の当たりにし、その脅威を思い知らされた。

 特に鈴音は、甲龍の主力の一角である衝撃砲が無効化されてしまっているのだから余計に不味く感じていた。正攻法で相手を潰す戦闘スタイルがウリの彼女にとっては、衝撃砲による攻撃が封じられたことがかなり致命的な条件となってしまっているのである。

 

「鈴さん、離れて下さいまし!」

 

 セシリアも、鈴音がラウラとの相性が悪いことには気付いていた。双天牙月を主力とせざるを得ない彼女の取るべき道は限られ、それによる接近戦。相手の近くで戦うとなれば、AICの網に掛かる確率は格段に跳ね上がり、動きを止められてしまえば非常に危険である

 だからセシリアは、自身がメインで戦う道を考慮した。

 自身の扱うレーザー兵器であれば、AICの拘束には引っ掛かることはない。そうなると武装はブルー・ティアーズのミサイルビット2基以外が彼女に通用するということになるのだ。

 

 セシリアはレーザービット4基を稼働させ、レーザーライフルのスコープ越しにラウラの姿を捉えて射撃体勢に移ったのだ。不規則に乱れ飛ぶビットたちが、敵と認証しているラウラに四方八方より銃撃の嵐を見舞わせる。

 

 だがその激しい攻撃すらも、ラウラは涼しい顔で避け続けてみせたのだ。

 

「BT兵器か……生憎だがその程度、私の脅威とも成り得はしない」

 

 間合いを捉え、紙一重の距離でビットのレーザーを躱していくラウラ。死角からの攻撃に加えてフェイント目的の射撃も入り混じっているのだが、ラウラはそれすらも的確に見切ってしまう。

 

 こういった事態に手慣れている、というのが回避を為しているラウラに向けたセシリアの抱く感想であった。ハイパーセンサーによる加護も大きいだろうが、それ以前に搭乗者であるラウラ本人のスペックが非常に高いのだ。

 その理由も、セシリアは何となく見当がついていた。ラウラ・ボーデヴィッヒという名前を聞いた転入の挨拶の時、セシリアは己の記憶を探り出し、その詳細を見つけ出していたからだ。

 

 ドイツの代表候補生にして、ドイツ軍の構成の一角を示しているIS配備特殊部隊【シュヴァルツェ・ハーゼ】の現隊長。ドイツ国が所有しているISの約3割が管理されている、世界屈指の部隊のトップ。現在戦っている彼女が、その人物なのだ。

 軍の人間ともなれば、戦闘の基礎知識や技術はプロ級の代物を身に付けている者が多数である。彼女もまた例外ではない筈だ。あの身のこなしも、恐らく戦時中に一対多の戦闘を想定された時の動きを参考にしているだろう。

 

「児戯だな。飽き飽きする」

 

 吐き捨てるようにラウラがそう言うと、彼女は両肩部装甲から2本のワイヤーブレードを射出させ、死角の中で飛ぶビット2基を串刺しにして破壊。ビットは小爆発を立てて砕かれてしまった。

 

 そして彼女はスッと身を低めると、突如爆発的な加速力を発揮。ロケットエンジンでも積んでいたのかというスピードを現してみせた彼女は、1秒も経たない内にセシリアとの距離を10m程度にまで縮めてみせたのだ。

 

 観客席で試合の様子を見ていた一夏は、その高速機動を見て真っ先に答えを見出しだ。

 何せ自分の良く知っている動きであり、自分の姉から直々に教わった技術だったのだから。

 

「あれは……瞬時加速!?」

 

 何故ラウラがあの技を使えるのか、という疑問が抱かれたが以前盗み聞きしていた日の会話を思い返す事で合点がいった。

 ラウラはドイツで織斑先生の指導を受けていた身。ならば一夏が織斑先生から学んだ技術を彼女が学び会得していても何ら可笑しな事ではない、と。

 

 そしてラウラは手首の手部アーマーの穴からプラズマ刃を展開。

 60cmほどの長さの桃色に光り輝くブレードが、セシリアの身に迫ろうとしている。

 

 だが、その間に割り込む影が1つあった。

 鈴音である。

 

「読めてたっての!」

 

 ラウラが接近戦を不得手とするセシリアに近づこうとしている事は、タッグを組んでいる鈴音でも容易に理解が出来ていた。自身も先ほどセシリアと戦おうとしていたのならば、確実に肉弾戦に持ち込もうとも考えていたのだ。

 だから鈴音は2人の間に割って入り、ラウラのプラズマ刃を両の手の青龍刀で防御した。ガキィン、と甲高い音が響く。

 

 間一髪の所で鈴音に助けられたセシリアは、レーザーライフルを構え直しながら彼女に声を掛けた。

 

「鈴さん、頭を!」

「オッケィ!」

 

 鈴音が身を屈めた瞬間に、セシリアの愛銃による青太いレーザーが彼女の頭上を越えて発射される。

 尤も、そのレーザーもラウラのプラズマ刃の接触で僅かに軌道をずらされ、惜しくもいなされてしまったが。

 

「ちっ、無様な姿を晒していた組み合わせで梃子摺らせてくれる……」

「あら、今頃になって独りぼっちが怖くなったのですか?」

「泣いて謝るんだったら、あたしらの寛大な心で許してやってもいいわよ?」

「……黙れ、その無駄な脂が乗った口は今すぐ切り刻んでやる」

 

 そうして更に苛烈な攻勢を始めだす三者。

 

 その光景を見続けていた一夏は、苦々しく表情を歪めながら口を開く。

 

「あいつら、もう模擬戦ってレベルでやってないだろ。特にラウラが俺でも分かるくらいに殺気立ってやがるっ……」

「一夏、3人を止めよう。このまま見ていてもきっといい方向には進まない気がする」

 

 シャルルの意見に一夏も同意した。

 このまま辿り着く結末は、現時点で考えられるものでも3つ。

 1つ目は、この騒ぎを聞きつけた教員が3人を止めてくれるという締まり方。場合によっては3人とも何かしらのお叱りが与えられる可能性があるが、最も平和的な解決はコレだ。

 2つ目は、鈴音とセシリアのコンビがラウラを撃退すること。2人とも戦意は高まっているものの幾分か冷静ではあるため、ラウラを過剰に痛めつけるような真似はしないと思っていいだろう。

 そして最後の3つ目。これがシャルルたちの危惧している事だが、ラウラが2人を倒してしまうという結末だ。今の彼女は2人を殺す気で挑みかかっており、このまま形勢が彼女の方に傾けば、相手の生命など関係無く攻撃を加えるとしか思えない。そんな雰囲気を漂わせているのだ。

 

 3つ目のような事態を引き起させない為にも、この戦いを一刻も早く止める必要がある。

 故に一夏とシャルは、アリーナ内で繰り広げられている戦いを止める決意を固めた。

 

「よし、それじゃあここから一番近いゲートから中に入ろう。危険だから箒はここで……あれ?」

「一夏、急いで!」

「え、あ、あぁっ」

 

 シャルの声に急かされて、一夏は駆け足でその場から走り去っていく。

 その最中、一夏はもう一度背後を振り返る。しかし、彼の探していた姿を見つけることが出来なかった。

 

 先程まで一緒にいた筈の、幼馴染みの姿を。

 

 

 

――続く――

 






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。