篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第32話 のほほんと

 

 私のペアがのほほんちゃんであると判明した後、私は一夏少年たちと別れて彼女の元へと向かった。少年たちは早速試合の準備を行うため邪魔をするわけにもいかなかったし、私ものほほんちゃんと合流して今後の打ち合わせをしておく必要があったからだ。

 

 それにしても、のほほんちゃんか。

 現在も実技授業の際には専用機持ちの子たちがグループリーダーとなって指導を行っているが、あの子が私のグループになったことは無い。本人はその事を不満がっていたらしいけれど、そもそも出席番号順で固定されているからメンバーが変わることが無いんだよね。全部出席番号が悪いんや……。

 だから私は、彼女の実力がどれほどのものなのかを把握していない。リーダーの子から指導を受けるのほほんちゃんをピンポイントで見るような気は無かったし、あんまり他のグループの子によそ見していると千冬嬢が怒ってしまうからね。真面目に授業を受けるって大事。

 

 取り敢えず、考え事をしている内に目的地までたどり着くことが出来た。更衣室の中から1組の聞き慣れた子たちの声が聞こえてくる。この中にのほほんちゃんがいてくれれば御の字だけれど、はてさて。

 私は翻訳機の声量を調整すると、扉の向こうにいる子たちに向けて声を発した。

 

≪みんな、着替えは終わっているかな?≫

「あれ、この声って……テオくん?」

「うそ、影が差しちゃったっぽい!?」

「ほらほら本音ちゃん、王子様がお出迎えに来たよ!」

「えへへ~、わたしがお姫様役だね」

 

 私が声を掛けた途端、中の子たちのテンションが2段階くらい上がった。先程まで聞こえなかった黄色い歓声がその証拠である。

 そして声量が増した話し声の中で、私が探していた相手とその声を聞き取る事が出来た。どうやらちゃんとここにいてくれたみたいだ。

 

 間もなく、更衣室の扉が勢いよく開かれた。

 その扉を開けたのは、のほほんちゃんであった。いつもの袖長な制服ではなく、ぴっちりしたISスーツを身に纏っている彼女の姿はなんとなく新鮮に感じた。尤も、その格好も実技授業で何度か目にしてるけれど……まぁ、ゆったりした服を着た方がこの子には似合っているという私なりの感想である。

 

「わぁい!テオにゃんがわたしのペアなんだよね~!」

≪あぁそうだよ。これから一緒に頑張ろうね≫

「うんうん、がんばろ~!」

 

 そう言うとのほほんちゃんは私をスッと持ち上げて自身の胸元へと抱き寄せてきた。束ちゃんもよくやってくるので、慣れた私は突然持ち上げられたことに対して驚くようなことはしない。

 そして、背中から伝わるこの感触……うん、束ちゃんや箒ちゃんほどではないけれど、やっぱり大きいね。最初にこの子からこうされた時は、そのギャップに少し驚かされたものだ。この子、しょっちゅう胸元にあのだぼだぼの制服の袖を寄せているからこれほど豊満だとは思わないんだよね。

 

「えへへ~、抱っこ~!」

 

 何この可愛い生き物。まるで小動物を見ているかのようだ……。

 

「あー!本音ちゃんずるい!私もテオくん抱っこするー!」

「いいんだも~ん、だってわたし、テオにゃんのペアだから」

「いや、いつも誰かしら抱っこさせてもらってたから関係無いよね?ペア組む以前からの共有財産だよね?」

「腕が素肌だから、いつもよりモフモフに感じるよ~」

「くふぅん↑!もう辛抱ならん、私にもモフモフさせ――あふん!?」

「落ち着け」

 

 一際興奮していた女の子が、奥から現れた箒ちゃんの手刀によって沈黙した。そして流石の箒ちゃん、見事なお手前である。

 

「まったく、テオと共に入学してから幾月か経っている筈なのだからもう少し落ち着いても良いのではないか?」

「暮らした年数が圧倒的に多い箒ちゃんには分からんとです。私の両親は猫アレルギーでねぇ、猫飼いたいって言ってもカブト虫しか飼うのを許してくれなかったんだよ!?百歩譲って犬を飼いたいって言っても、吠えるとうるさいから嫌だって!お陰で私の中学のあだ名はaikoだよ!ファンだったから嬉しかったけど!」

「どこからツッコめばいいのだ……ひとまずアレだ、カブト虫も悪くないだろう」

「モフれないペットに未来はにぃ。私のペット生活は早くも終了でしたね」

「潔く諦めろ」

「ふっ」

 

 そう言ってaiko(渾名)ちゃんは身を翻して奥に引っ込んでしまった。

 

「……それで、テオは本音に会うために来たということで良いんだな?」

≪そうだね。ペアになったからには早い内に合流しておきたかったし≫

「ね~」

≪ね~≫

 

 私とのほほんちゃんは、互いに微笑みながら顔を見合わせる。あぁ、なんだか癒される。

 

 

「ねぇねぇ、おりむーとデュッチーは一緒じゃないの?」

 

 デュッチーとは、シャル・ガールのことである。のほほんちゃんは男の子に対しては名字で、女の子に対しては名前であだ名を作り、呼ぶ法則性があるらしい。故にデュッチー。

 

≪2人はこの後すぐ試合だから、その準備に行ってるんじゃないかな≫

「そう言えば、あいつは一回戦からだったな……あいつのことだから、待ち時間に色々考えなくて済むな、とでも思っているのではないか?」

≪ははは、あの少年の性格なら有り得そうな考え方だね≫

「出たとこ勝負、勢いが肝心、と言ったところだろうな」

「わ~、ほうちゃんがおりむーの幼馴染みみた~い」

「いや、紛う事無く幼馴染みなんだが……」

「あ、そっかぁ」

≪箒ちゃんが少年と幼馴染みだってこと、随分前に言ったきりだもんね≫

「ね~」

≪ね~≫

 

 再度、私とのほほんちゃんは笑んだ顔を互いに見合わせる。

 

 ともあれ、これで私の用は済んだ。あとは自分たちの出番になるまでのんびり観戦していくとしよう。のほほんちゃんは細かい計画を立てるのは好きじゃなさそうだし、作戦会議も無しにして簡単な打ち合わせ程度で準備も終わらせてしまうか。

 

≪さぁ、それじゃあ出番がまだな子は皆で試合観戦に行くとしようじゃないか。試合に出てる子たちを応援してあげないとね≫

『はーい!』

「あ、でも優勝景品が掛かってるからなぁ……」

≪それはそれ、これはこれ、だよ≫

「ちぇー」

 

 ドッと笑いを引き起こしつつ、私たちは一夏少年たちの応援に向かうべく観客席へと向かうのであった。

 ちなみに私はのほほんちゃんに抱っこされたままの移動なので、楽ちんだった。

 

 

 

――――――――――

 

「織斑くんとデュノアくん、いいコンビネーションだね」

 

 クラスの子の1人が、誰ともなくそう言葉を発した。

 

 現在私たちは、一夏少年とシャル・ガールペア対4組の生徒ペアによる試合を観戦している。野球観戦などとは違って軽食やおやつを持ちこんで飲食することは原則として禁止されているので、更衣室にスマホの類も置いてきている子たちは必然的に試合を集中して観るようになっている。

 

 4組の子たちと戦いを繰り広げている一夏少年たちだが、その戦況は優勢であった。

 先程の子の発言は確かだ。一夏少年とシャル・ガールの動きは事前に入念な打ち合わせが行われていることが窺え、練習もしっかり重ねているのだと感じさせてくれる。4組の子たちよりも圧倒的に動けており、おそらく諸事情で即席ペアが多くなった1年生の中でもトップクラスのコンビネーションを発揮してくれるだろう。

 尤も、セシリア姫との決闘から専用機を手に入れた一夏少年やそれ以前からデュノア社のテストパイロットとして活動してきたシャル・ガールとでは、稼働時間に差が生じてしまうので動きの優劣がどうしてもハッキリしてしまうのだが。

 

「やっぱり、男の子同士だと相性が良いのかな」

「相性が良い……うほっ」

「見た感じ、織斑くんの動きにデュノア君が合わせてる感じだよね」

「やっぱね、受けは攻めの動きに身を委ねるのが正義だと思うのよ」

「無茶してツッコむ織斑くんを、的確にフォローしてあげるデュノアくん……うんうん、まさしく友情だね」

「浮かぶ、浮かぶぞ2人のシーンが……『ガンガン突くぞ、シャルル!』『あんっ、そんなにしたら僕の身体が――』」

「「「言わせねーよっ!」」」

「なっ、なにをする、きさまらー!」

 

 凄まじい腐のエネルギーを持った子が、数人の子に取り押さえられて外へと連れ出されて行った。

 のほほんちゃんは不思議そうに首を傾げながらその光景を眺めていたが、興味を失くすとすぐに一夏少年たちの試合へと視線を戻し、明るく声援を掛け始めた。そう、君はそれでいいんだよ。

 

「ふむ……この調子なら一夏たちも余程のトラブルが無い限りは進んでいけそうだな」

≪そうだねぇ。まぁ体調も万端だったみたいだし、大丈夫だとは思うよ≫

「ねぇねぇテオにゃん、わたしたちもあれくらい頑張ろうよ~」

≪ははは、それじゃあのほほんちゃんのために私も頑張っちゃおうかな≫

「ね~」

≪ね~≫

「……それは2人の間で流行ってるのか?」

「なんとなく?」≪なんとなく?≫

「……そうか」

 

 箒ちゃんもそれ以上は何も言わなかった。

 

 なんだかのほほんちゃんとお話してると、つい、こう……のんびりした雰囲気になる。この子の伸びやかな感じが私にも伝播する感じで。そう思うと、この子の他への影響力というのは侮れないと評価できるのではないだろうか。こういう子は中々居ないから、一種の魅力と言っても良いくらいだ。

 

≪のほほんちゃんは凄いね~≫

「えへへ~、テオにゃんに褒められちゃった~」

「(……何を褒めたんだ?)」

 

 訝しげな視線を横から送ってくる箒ちゃんと、それに構わずのほほんと観戦を続ける私たちであった。

 それと近いうちに箒ちゃんの試合もあるから、そっちも応援してあげないとね。

 

 

 

―――続く―――

 

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