学年別タッグトーナメント1年生の部、第1試合の勝利を手にしたのは一夏少年とシャル・ガールのペアとなった。
試合開始早々、一夏少年は相手の子に突撃を仕掛けて雪片弐型による斬撃を執行。白式のワンオフ・アビリティーである零落白夜の異常とも言える攻撃力は目を見張るものがあるが、雪片弐型そのものの攻撃力も他の近接戦闘装備より充分に高い。専用機持ちと比べて圧倒的に経験が不足している一般生徒にとっては十分に脅威と言えるだろう。
一夏少年の勢いに気圧されつつも、相手の女の子は懸命に対抗しようと努めた。彼の初撃を辛くも避けてみせ、やや覚束ない足取りながらも反撃の隙を窺い、果敢に挑む姿を見せてくれた。
しかし、シャル・ガールがそこに加わってしまったら慈悲は無い。彼女のIS稼働時間は一般生徒よりもずっと長く、武装の変換を高速で行う動作【
そんな背景を通して、男子同士ということで今大会最も注目されているペアが第1試合勝利という華を彩ってみせたのであった。
試合を済ませた2人は、1年1組の子たちがまとまっている観客席の1スペースにやってきていた。
「織斑くん、デュノアくん、初戦突破おめでとう!」
「2人とも息ピッタリで凄かったよ!」
「おう、ありがとな。って言っても、実際はシャルが上手く合わせてくれたからなんだけどな」
「そんなこと無いよ。一夏だって僕の攻撃もちゃんと考えてくれながら動いてくれたから、お互い様だよ」
試合を終えた2人に向かってクラスメイトの子達が駆け寄り、労いの言葉を掛け合いながらワイワイと賑わいを起こし始める。
そんな光景を見ていると、隣にいた箒ちゃんが私に声を掛けてきた。
「テオ、私はそろそろ準備に行ってくる」
≪うん。無理の無いように気を付けてね≫
「ふっ……心配無用だとも」
箒ちゃんはそう微笑みながら立ち上がると、出口の方へ歩いて行った。かっこいい。
「おっ、テオ。箒見なかったか?」
≪箒ちゃんなら、ついさっき試合の準備で出て行ったよ≫
「そっか……折角だから応援の言葉でも掛けておきたかったんだけどな」
≪ま、帰ってきた時に労ってあげるといい。というか界隈では君より箒ちゃんの方が主人公してるって話題になってるんだからね、君ももっと頑張らないとダメだよ≫
「え……なんの話?」
≪こっちの話≫
――――――――――
その後何組か試合が行われていき、箒ちゃんとラウラちゃんの試合が回ってきた。
既にアリーナには試合を行う4人の姿がある。
箒ちゃんとラウラちゃんは微妙な距離を開けながら試合相手と対峙をしており、ラウラちゃんは箒ちゃんの方を見ようとしていないため、傍目から見ても気まずい印象を感じてしまう。
一方、対戦相手の子たちは逆に親密そうに互いの顔を見合わせており、その表情も朗らかである。モニターの情報を見る限り相手は3組と4組のクラス違いペアであるようだが、もしかすると抽選ではなく気心の知れた者同士であらかじめ組んだのかもしれない。今大会に於いて信頼関係は大切な要素となるから、抽選頼みよりずっと良い傾向である。
兎にも角にも、チームワークの優劣が試合開始前に分かってしまうというのはなんとも珍しい話だ。
そんな光景を見ていたシャル・ガールが、苦笑を浮かべながら一言。
「これは……対称的な組み合わせだね」
片や仲良しコンビ、片や隣相手にも警戒を怠らない(ただしラウラちゃんに限る)緊張感アリアリのコンビ。対戦相手が即席ペアでない分、余計に箒ちゃんとラウラちゃんペアの違和感が目立ってしまっている。とは言っても、相手も即席ペアだったらきっとあそこの空気が一段と冷えてしまいそうだからなんとも言えないけれど。
「なぁテオ、どうして箒がラウラと組むことに反対しなかったんだ?凄い今更な質問だけど」
≪別に絶対駄目だと反対する理由も無いしね。そういう少年こそ、最初の辺りでちょっと問い詰めただけで、随分とあっさり引いていたじゃないか≫
「俺は……」
そう言って少年は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
箒ちゃんがラウラちゃんと組むと言った直後、その言葉に最も強く反応したのは一夏少年だった。一夏少年は訳がわからないといった様子で箒に詰め寄り、止めておけと進言もしていた。
少年の気持ちも分からなくはない。箒ちゃんが宣言した数十分前にはラウラちゃんと激しい戦闘を繰り広げている真っ最中だったのだから、その際に仲間を傷つけられた一夏少年の激情は収まり切っていなかった。だからこそ、仲間である箒ちゃんが自分の倒すべき相手と手を組むことを良しとせず、そんな形であの子と戦うことに納得がいかなかったのだ。
「……あいつのあんな顔を見たら、あれ以上何も言えないって」
しかし少年は、昂ぶった感情を僅かな間に示した程度で引き下がった。
享楽などで決めたことでは無いという意志の籠った、幼馴染みの真剣な表情を目の当たりにして言い返す気力を得られなかったのだ。
結果、箒ちゃんがラウラちゃんと組むことを一夏少年は止めなかった。100%納得しているかと言うとそうでもないようだが。
≪さぁさぁ少年、そんな湿った顔をしてたら折角の応援まで暗くなってしまうよ。笑顔であの子を応援してあげねば≫
「……あぁ、そうだな。よしっ」
私の言葉に頷いた一夏少年は、先程までの複雑な表情を掻き消していつも通りの面立ちに戻した。そしてその視線をアリーナに居る箒ちゃん達に集中させ始め、本格的に試合の観戦を行う。
一夏少年の視線の先にあるアリーナ内の光景。
既に試合は開始されており、場内にいる4人がそれぞれ行動を開始している。
ラウラちゃんは手近に立っていた相手の女の子をターゲットに指定し、その子に目掛けて吶喊。セシリア姫たちと戦った時と同様に、容赦の無い勢いで攻撃し、相手を圧倒していく。
相手の子は一生懸命抵抗を試みているが、今回は相手が悪すぎる。何せラウラちゃんは現在の1年生の中でもトップクラスの実力者であり、1対1で勝負を挑むのは無謀な話だと言える。
「わぁ……やっぱりというかなんと言うか、容赦無いね」
≪まぁ、ラウラちゃんは真っ直ぐな性格だからね。下手に手加減して試合を長引かせようと思わないだろうし、一気にケリを付けたいんだと思うよ≫
「この間も、箒やテオが来るまで俺たちが4人掛かりで戦っても倒せなかったからな……あの子1人じゃ勝てないだろうな」
そう言って私たちはチラリと視線をずらし、もう一方の戦いを見やる。つまり箒ちゃんの試合だ。
箒ちゃんは近接ブレード【
だが、IS性能が同じという条件であるにも関わらず試合の流れは箒ちゃんに向いている事が目に見えて明らかであった。相手の子は箒ちゃんの勢いに完全に気圧され、防戦一方といった様子を見せている。
箒ちゃんの優勢を見ていたシャル・ガールは感嘆した様子で箒ちゃんの姿を注目している。
「すごい……入学してそんなに経ってない筈なのに、動きのキレが一般の子たちよりも飛び抜けてる」
≪元々あの子は剣道で身体を鍛えてるからね。戦いにおける動き方も掴みやすいだろうし、剣道の全国大会にも出場してたからこういう場での戦いや雰囲気にも慣れている。私も力の限りあの子に指導してあげてるしね≫
「確かに……俺がセシリアたちから訓練受けてる最中に、箒がテオに教えを受けてるのは何度も見たしな」
箒ちゃんはわしが育てた。
「けどテオ、俺にはあんまり指導してくれないよな」
≪悪いなのび太、この指導枠は3人までなんだ≫
「のび太って誰!?っていうかまだ2人分枠が空いてるだろ!?」
≪冗談だよ。だって一夏少年にはセシリア姫や鈴子ちゃん、最近ではシャル・ボーイが指導役に回ってくれてるじゃないか。十分指導役に恵まれているし、むしろ私が君の指導役に回る枠が無いんだよ≫
「いや、その内の2人の説明が訳分からないんだよ……」
≪…………うん、頑張れ≫
「その間は何!?絶対フォローがめんどくさくなったから投げやりにしただろ!」
さぁ、どうだろうね。
そんなこんなで談笑をしていると、試合終了のブザーが鳴り響いた。
試合の勝者は箒ちゃんとラウラちゃんのペア。ラウラちゃんはISを解くとピット口の方へスタスタ歩いて行き、箒ちゃんは試合相手の子の元へと歩み寄っていく。
箒ちゃんは先程まで戦っていた子に手を差し伸べ、その手を取った子を起き上がらせてあげた。
「ありがとう、お陰でいい試合が出来た」
「全然手も足も出なかったぁ……あなたって強いんだね」
「いや、私1人の強さではないさ。心から信頼できる者が、私をここまで強く導いてくれたんだ」
「強く導く……そっかぁ。私も……いや、私たちも、あなたみたいに強くなれるかな?」
「あぁ。2人がそれを望み、共に切磋琢磨していけば、必ず」
「うん!なら次に戦う時は、もっと強くなってみせるから楽しみにしててね!」
「ふふ、私もそう簡単に後れを取るつもりはないぞ?」
そう言って2人は、固い握手を結んだ。互いに晴れ晴れとした笑みを浮かべて。
その光景を見ていた観客席の子たちは、盛大な拍手喝采を送って2人の勇姿を称えてくれたのであった。
「……あれ、これ決勝戦だったっけ?」
「完全にトーナメントの締め括りみたいな流れだったな……」
≪一夏少年、本気で頑張らないと原作主人公の面子が立たないよ≫
「原作って何!?だからそもそもこれってなんの話!?」
未だ鳴り止まぬ拍手の中で、一夏少年のツッコミに答えてくれる者はいない。
トーナメントはまだ、始まったばかりである。
―――続く―――
箒がどんどんイケメン主人公ポジションに。
なおこの作品の主人公であるテオは『むしろ愛娘が主人公とは嬉しい話だ』とまるで気にしていない模様、むしろ推している。
一夏「俺も舞台じゃ気にしてないじゃん……」
視聴者が気にしてるんDA。