◇ ◇
学年別タッグトーナメント。各アリーナで最初の試合が開始されてから約2時間が経過した、午前10時過ぎの現在。
ここ第3アリーナで試合を行っているのは篠ノ之 箒とラウラ・ボーデヴィッヒのペア、1組生徒――鷹月 静寐と2組生徒――ティナ・ハミルトンのペアである。
「ふんっ!」
ラウラのプラズマ刃が打鉄を装着している鷹月の身に降りかかる。その容赦の無い振りは、第1試合で示した時となんら変わりの無いものであった。
対する鷹月は襲い掛かってくる光刃に危機感から身の気を立たせながらも、果敢にそれを近接ブレードで受け止めた。グンっとその身に注がれる衝撃は、ラウラが向けてくる軍人らしい厳格な表情と相まって余計に重圧が掛かっていた。
対峙している少女の体躯は自身よりも幼いにも関わらず、握っている刀から伝わる力強さ。戦闘力の違いを既に見せつけられたような印象を抱いた鷹月の表情は、言わずもがな。
しかし、ラウラが追い打ちを掛ける前にその状況に変化が訪れる。
「っ!」
一発の銃声と共に、銃弾がラウラの頭部に目掛けて突き進んでいく。
銃弾の接近に気付いたラウラは僅かに目を見開きながらも、鷹月に向けていたプラズマ刃の矛先を変え、実弾である銃弾を真っ二つに切り裂いてみせた。
その隙を見出した鷹月が選んだ選択は、攻撃ではなく撤退。ラウラが自身から目を離している間に、打鉄のスラスターを起動させて後方へ退避する。ある程度まで距離を取ったところで、先程の銃弾が来た方角へと移動を行った。
鷹月の移動した場所にいたのは、試合開始の場所から外れた場所でアサルトライフルをラウラに向けて構えている、リヴァイヴ装備のティナ・ハミルトンであった。
「まったく……また開始早々に突っこむとはな」
打鉄を装着した箒が、呆れた様子でラウラの隣に身を移す。開始のブザーが鳴って間もなく攻勢を仕掛けたラウラについていけなかった箒は、事の光景を後方から見納めさせてもらい、機を見てラウラと合流を行ったのだ。
隣に来た箒の姿を一瞥することも無く、ラウラは口元を僅かに歪めながら相対する2人の姿を視界に捉える。
「ほぅ……先程の試合の奴は口ほどにも無かったが、今回の相手はほんの僅かだが刃向う程度の実力がありそうだな」
「言ってくれるじゃないの……絶対にその鼻っ柱折ってみせるから、精々調子に乗ってなさい」
「悪いけど、あなたの実力はこの間のアリーナでの騒ぎで十分知ってるわ。卑怯だとは思うけど、貴女に対しては2人同時で攻めさせてもらうから。……もっとも、箒がそれを許すとは思わないけど」
箒は内心で鷹月の発言に肯定し、一歩前に進み出るとラウラの顔を見ながら彼女に声を掛けた。
「聞いただろう、ラウラ。向こうは完全にお前のことを警戒している。ここは万全に挑むために私たちも協力を――」
「そんなものは必要ない。この程度の連中、貴様の手を借りずとも容易に倒せる」
「ラウラ!?……あぁ、まったくもう」
箒の制止を一切聞かず、ラウラは敵に目掛けて一直線に突っこんでいった。
今の彼女の心中は、絶対的な自信で満ちている。彼女はIS学年へ転校してきてから、以前から憎く思っている織斑 一夏への睥睨を控えてまで他生徒の観察を行い続けてきた。自身の敬愛する教官が務めているこの施設で育成された戦士は、どれ程の実力を有しているのかという興味もあったからだ。
しかし、3日も経たない内にその期待は淡くも打ち砕かれた。1年生生徒の大多数がISをファッション感覚で捉えている様子で、会話の中でもISの兵器としての有用性を見ていない、酷く軽んじていることが窺えたからだ。ラウラの変わらない表情の裏側で激情が燃えるのには、非常に効果的な材料だった。
その時点でラウラは確信を得た。ドイツで厳しく鍛えれらた自身がその程度の連中に劣るなど有り得ない、有ってはならないのだと。織斑 千冬教官の期待に応えられるのは自分しかいない、とも思ったのだ。
そしてラウラは、この大会に一つの希望を掛けている。
この大会で全ての敵を打ち倒し、自身の実力を証明する。各国で代表候補生と持て囃されている者も、唯一の男性操縦者も、それ以外の者も全て倒してみせる。
そうすればきっと教官は私の力を認めてくださり、このような温湯などよりも厳粛なるドイツにて再び教鞭をとってくれる意志を―――。
『そろそろ黙れよ、小娘』
「……っ!?」
先日の千冬の言葉が、ラウラの頭の中で鮮明な形で蘇る。
一瞬の内に身体を強張らせる程の衝撃に、ラウラの動きが鈍くなった。プラズマ刃を振るうその斬撃も、従来の鋭みが幾分か衰えてしまっていた。
『たかだか15の小娘が、選ばれし存在を気取るか?』
「っ!!」
続けざまに千冬の言葉が脳内で再生されていく。
声だけではない、あの時向けてきた射殺さんばかりの鋭い視線が、表情が、姿がラウラの頭の中でクッキリと想起されていく。あの時感じた威圧を思い出した途端、身体中に奔っていた緊張の糸が更に強く張られていくのをラウラは感じる。
しかしラウラは、頭を左右に激しく振って念を掻き消そうと努める。自身の敬愛する教官の教えは常に正しいものであると解っている。しかし、今だけはあの時の言葉を思い返すわけにはいかない。
思い返して納得してしまえば、折角固めた思いが緩んでしまうと理解しているがゆえに。
そう、今だけは―――。
「今よ、静寐っ!」
ラウラは、耳に届いてきたその言葉によって意識を現実に呼び起こす事となる。彼女が気付いた時には、両手のプラズマ刃はティナ・ハミルトンの携えている近接用ナイフによって完全に防ぎきられていた。しかもそれだけではなく、自身の両腕がティナの拘束を受けてしまっており、自由に動かすことが出来なくなっていたのだ。
彼女は己の失態を心中で強く恥じた。考え事に耽ったあまり、ここまで相手の行動を許していたとは軍人として完全に失格だ。これがISを使用しない本物の戦場であったならば、自分は腕を拘束される前に殺されていたに違いないだろう、と。
顔を上げてみれば、そこには『してやったり』という言わんばかりの表情を浮かべたティナの顔が在った。
「あんまり素人嘗めるんじゃないわよ、ドイツの代表候補生さん?」
「貴様……!」
ラウラは腕に力を込めて、拘束を振り払う行動に移行する。
しかし思っていたよりも厄介な組み方をされてしまっていたらしく、無理矢理強引に解こうとすれば腕もしくはISの腕部を損傷させかねない結果となる可能性が高かった。
相手が何故その手の知識を知っているのかを考えている余裕は、近接ブレードを此方に向けて斬りつけようとして来る静寐の姿を見る限り皆無であった。
「くっ……!」
脚で蹴り飛ばそうとも考えたが、脚の方も動き辛くなるよう制限を駆けられている。
AICは危機となった今では発動に至るまで集中出来ず、大型カノンもワイヤーブレードも、召喚と射出が間に合わない。
こうなったら素人特有の無駄な動きを見切り、可能な限りの動作で最低限のダメージに済ませるよう努めつつ、反撃のタイミングを待つしかない。
ラウラはそのように心に決めて、迫り来る斬撃に覚悟を決める―――。
「そうはさせんっ!」
覚悟を決めたその身に、衝撃が振りかかることは無かった。勇ましき少女の声が、ラウラの耳に届くと共に。
――――――――――
その後、試合は箒とラウラのペアの勝利という形で終了した。
途中で起きたラウラの危機的状況を救ってみせたのは、彼女のペアである箒であった。彼女はラウラに斬りかかろうとしていた静寐の前に立ち塞がり、彼女の斬撃を同じブレードで防御したのだ。ラウラを庇うような立ち位置を取ったため、彼女の思惑通りラウラにダメージが通ることは無くなったのである。
ラウラを守った後は、静寐がティナと合流するのを極力防ぐために1対1に持ち込みながら戦闘を継続。剣の扱いに圧倒的に手慣れた箒が、打鉄対打鉄の戦いの勝利を手にする結果に収まった。
箒に守られて一瞬呆けていたラウラであったが、直ぐに持ち直してティナの拘束を振り払い攻勢に転じた。やはりドイツ国代表候補生としての実力は非常に高いラウラは、圧倒的な実力差を以てティナを完封。カノンによる狙撃で彼女を戦闘不能にまで陥れてみせたのであった。
「あちゃあ……やっぱり駄目だったね、途中まではイケそうだったんだけど」
「やっぱり代表候補生は実力がぶっ飛んでるわ。けど鈴(あの子)の思いつきも案外捨てたものじゃなかったかな」
ティナの発言の旨は、ルームメイトである鈴音から試合の前日に貰ったアドバイスのことである。
鈴音曰く『いい?あのドイツのISはAICっていう技術で動きを止めてくるから、1対1で戦うのは止めときなさい。あと、組み技なんかで逆にあいつの動きを止めてみたら案外いけるかもしれないわよ……タブンネ』とのこと。
ティナもラウラの実力は又聞きで把握していたため、万が一試合で当たることになった場合を想定して準備していたのである。尚、組み技はいずれ訪れる試合に急繕いで覚えた即席物だということは、誰にも知られていない。そんな彼女が偶然綺麗に決めた試合中の組み技が、とある来賓のお眼鏡に叶ったこともまた、誰も知らない。
「何はともあれ、おめでとう箒。色々大変そうな相方みたいだけど……まぁここから先も頑張ってね。応援してるから」
「ああ」
「頑張ってねー。さぁて試合も終わったし、適当におやつでも食べながらのんびり試合観戦を……」
「アリーナ内は飲食禁止だよ?」
「……oh」
好物にありつけないと知って意気消沈するティナと、そんな彼女を宥める静寐は揃ってアリーナのピット口から退場していった。
「おい」
箒は背後からペアであるラウラの声を聞き取った。しかし、その声色はどこか機嫌が悪い。背中越しなので表情こそ見えないものの、発せられた声がいつもより低めで圧が掛かっていた。
心当たりを何となく察しながらも、振り返ってラウラの顔を窺ってみた。案の定、声と相まって機嫌を損ねているようである。
「貴様、先程のは一体なんだ」
「なんだ……と言うと?」
「とぼけるな。私が拘束を受けている際に庇ったことだ」
ラウラはそう言うと箒の方へ歩み寄り、互いの肌が密着しそうになるくらいにまで顔と身体を近づける。
そしていつもよりも鋭い目つきで、箒の眼を睨みつける。
「あの程度の攻撃、貴様が庇わずともどうというものではなかった。織斑 一夏との戦いを邪魔するなとペアを組む際に釘刺ししたが、だからといって馴れ合う戦いをするとは言っていないぞ」
「お前と私はペアであり、これはタッグ戦なんだ。馴れ合い云々は置いておくとして、相手によってはああいう助け合いも必要なのではないか?」
「そんなもの必要無い」
箒の諭す様な言葉を、ラウラは厳しく切り捨ててみせた。その態度には一切の迷いが無い。箒の行ったことを快く思っていない様子が容易に見て取れる。
「私の戦いに介入する等の余計な真似はせず、貴様はただ足を引っ張らない程度の戦闘を行っていればいい。次に不要なことをすれば、貴様を敵として認識することも頭に入れておくから覚えておくんだな」
「…………」
「ふん」
ラウラはそれだけ言うと、箒から身体を離して足早にアリーナの舞台から去っていった。
去り行く彼女の背中を見つめながら、箒はポツリと呟いた。
「難儀な奴だな」
ドが付きそうなくらいの不器用な生き方。自分が心から認めたもの以外を眼中に入れることなく、何も寄せ付けずに突き進んでいくその姿勢。
行き辛そうな彼女の生き方をまじまじと目の当たりにし、箒は肩を竦めつつ過去の己の姿を思い出し、それに馳せる。
―――かつての私も、あんな風に刺々しかったか。
そんな風に思いながら、箒はラウラを追うような形でアリーナを出て行くのであった。
――続く――
途中ラウラに箒の胸ぐらを掴ませようとしましたが、ISスーツってアレ掴めるのかな……ポロリしそう(小並感)
暫くこの2人で話を進めていくような感じになります。次話、次々話は確定ですが……
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