篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第38話 激突する4つの想い

 

◇   ◇

 

 

 タッグトーナメントAブロック準決勝。

 

 男子生徒2名出場の影響で観客席の歓声が鳴り止まない現在、アリーナには4人の選手が立っている。

 

 【白式】を装着した織斑 一夏。

 【打鉄】を装着した篠ノ之 箒。

 【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】を装着したシャルル・デュノア。

 【シュヴァルツェア・レーゲン】を装着したラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 4人の間から発せられる雰囲気は、これまでのどの試合よりもずっと重々しく感じるほどである。周囲の熱気とは一線を画した空間が、アリーナの舞台内を占めていた。

 

 織斑 一夏は、この戦いに決意を抱いている。隣にいるシャルルと共にラウラを、そして箒との勝負に打ち勝ってみせると。

 自分の幼馴染みが、ラウラのことを気に掛けている理由はまだ聞かされていない。だが少なくとも、自分の目の前にいる箒の表情に憂いは感じられなかった。その瞳は心身を反映したかのように真っ直ぐで、この試合に対して、そして一夏たちに対しても真摯に向き合おうとしている。

 そう。どんな理由を抱えていようとも……。

 

「(お前がそう在るなら、俺も半端な気持ちじゃダメだよな)」

 

 一夏は穏やかな笑みを浮かべながら、意気込みを改めて臨み出す。手に握る雪片弐型を、今一度強く力を込めて。

 

 篠ノ之 箒は、試合前にラウラから言われたことを思い返していた。

 

 

 

―――織斑 一夏との戦いのことだが、以前に手出しをするなと言っていたあの発言は取り消しておく。戦闘中は必要に迫られた場合のみ、好きに動くことを私が許可する。

 

 

 

 上から目線気味なのは払拭しきれていなかったが、それでも箒は彼女の言葉を聞いた瞬間、その内容をもう一度確認したくなる程に耳を疑った。

 あれだけ一夏打倒に固執し、箒自身とも馴れ合うそぶりを見せなかった彼女が、それほどまでに譲歩するとは思ってもいなかった。それも、ラウラの方から言ってきたのだから余計にそう感じる。

 

 原因はどうあれ、箒は彼女からの話に手放しで喜んだ。

 彼女の心が良い方向に変わる兆候が芽生えそうな今こそが絶好の機会。今回の試合の相手はラウラから憎く思われている一夏と、最近の学園生活でラウラと多少の因縁が出来たシャルルであるが、今のラウラと戦うのに最も適した人物たちでもある。自分ではない『誰か』のために力を振るうことが出来る、彼らならば。

 

 箒は刀を構えながら、剣道の試合の時と同様の精神を作り出す。

 試合を行う相手には全身全霊誠心誠意で相対する。箒が自身の剣の師である父、柳韻から教わった剣道の心得だ。

 

「(一夏、シャルル……私はお前たちと全力で戦い、向き合おう。だからお前たちも私と……ラウラと、真っ直ぐ全力で向き合ってくれ)」

 

 シャルル・デュノアは、アリーナの来賓席にほんの僅かな視線を向ける。

 視線の先では30~40代前後の人物たちが、期待を込めた目でアリーナにいる自分たちを見てきているのがハイパーセンサー越しで視認出来た。IS業界の重鎮というのはその役職柄、女性が重役を担うことが多数であり、今回の大会に訪れてきた者たちも8割以上が女性で占められていた。

 

 山田先生が入学翌日の授業で話していたが、ISは操縦時間に比例して搭乗者との同調率を高め、相互理解を強めて更なる性能を引き出すという特性がある。その特性上、ISは単なる道具ではなく、自身のパートナーの一種として捉えるというのがIS操縦者間における認識として置かれている。

 

 IS企業というのは、ISを乗りこなせるテストパイロットが全体の開発品を試運転してくれなければ信用を得ることが出来ない。誰も試したことが無い物を薦めて信憑性がついて回るなど、そんな虫のいい話は滅多に無い。そのため企業を経営する身である者は、女性の感性になるべく合わせた装備やシステムを開発部の者と談議し、当然女性となるテストパイロットの心身ケアを衛生管理部の者と話し合う等、全体の方針を把握していくことが有利に運営を行っていくことが出来る。

 詰まる話、女性同士で話を進めた方が円滑になりやすいので、IS関係の仕事は女性の割合が多いというわけである。

 一方、男性がIS関係の仕事に携わるケースもあるにはあるのだが、大抵の職場が女性多数の為か利便の差があったり、開発部への就職の場合はIS委員会から貸出される、取扱いが非常に重要視される資料を猛勉強して資格を獲得する必要がある等、かなりの困難が想定されるため積極的に就こうとする者は多くはない。高い給料が魅力的で将来への備えを考えるならば、一考するのも悪くはないかもしれないが。

 

 話が長くなってしまったので、IS界の一般知識はこの辺りで区切る。

 

 シャルルはサッと来賓席を見渡してみたが、その面子を確認して安堵の息を吐く。

 それは、彼女が姿を確かめようと思っていた女性――マリーヌ・デュノア、自身の義母が居なかったことによる安心感故に発せられたものだった。

 

 つい先程、シャルルは自身の義母がこの会場に来ていることを知った。

 それまで一夏やテオ、クラスの皆と試合の観戦を行っていたのだが、テオと一夏がトイレに行くと言って席を離れたことによって周囲はターゲットをシャルル1人に限定。好きな食べ物は何か、好きな女性のタイプは何か、お風呂の際はどこから先に洗うか等、試合観戦そっちのけで質問攻めのタイムが開始され、シャルルは根気が続くまでその質問を上手い具合に捌き続けた。一部の女子が暴走して『女性の下着ってどんなのが好きですかね』『胸の大きさってやっぱ気にする?私の触る?むしろ触っテ!』と発言して他生徒から粛清を受けている最中に、シャルルはこっそりその場を離脱した。ある意味ノリの良いクラスで助かったと、心の隅で思いながら。

 

 脱出したとはいえ、特に行く当ても無かったシャルルはその足で一夏たちを迎えに行くことにした。男性用トイレから観客席までのルートは多数あるが、それはあくまで他クラスが現在使っている観客席に通じる通路も含めての話であり、1年1組の観客席に通じる通路であれば1つに限定することが出来るため、行き違いになる可能性はまず無い。次の試合までに余裕があるとはいえ、そうホイホイと寄り道をするような2人でもない筈なので、シャルルは2人を信じて素直に道を進んでいった。

 

 そして、その道中。

 自身の義母、マリーヌ・デュノアが通路を歩いている姿を目撃してしまったのだ。幸いにもそこが一本通路ではなくT字であったため、向こうがシャルルの姿を見たような様子はなかった。特に足を止めるそぶりも無く、ツカツカとヒールの音を立てながら行ってしまったのをシャルルは見納めた。

 シャルルはマリーヌを見た瞬間、身を反射的に縮こまらせた。出会って早々殴られたことが影響してか、顔を見るたびにそのことを思い出してしまい、心に多少の恐怖が駆け巡ってしまうのだ。

 

 ここにいたのは、十中八九デュノア社関連であろう。

 それならばデュノア社のトップであるシャルルの父が来てもなんらおかしくない、寧ろそちらの方が自然な気もするが、その姿もマリーヌ同様見当たらなかった。マリーヌがここに来ているということは、恐らくデュノア社長はこの会場に来ていない可能性が非常に高くなる。マリーヌとデュノア社長はシャルルの存在が影響してギクシャクし始めたため、ここ数年は一緒にいるという話をシャルルは聞かなかった。

 

「(父さ……社長じゃなくて、どうしてあの人が此処に来たのかは分からないけど……)」

 

 来賓席に向けていた視線を、今度は隣にいる一夏に向ける。

 いつもの生活ではあまり見せない、真剣な表情が彼の顔には現れていた。シャルルがこ一夏のそんな顔を見るのは、あの夜……自分の正体をバラして、自分のことのようにシャルルの境遇を怒ってみせた時以来であった。

 誰にも言えない秘密を隠し、孤独を感じていたシャルルにとって、彼の親身な態度は心が温かくなるものがあった。

 

 だからこそ、今は一夏のために頑張ろう。今度は自分が彼の助けになる。

 そんな決心を胸に秘めさせるシャルルの心は、既に晴やかなものとなっていた。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは、箒に対して言った言葉を思い出し思案する。

 

「(手出しを認める、か……私も随分と甘く出たものだな)」

 

 だが、悔いはない。そもそも口約束程度なのだから、やろうと思えばいつでも訂言する事は出来るが、今のラウラはそれをするつもりもなかった。

 

 ラウラは未だ織斑 一夏を許すつもりはない。過程はどうあれ自身の敬愛する教官の名誉を剥奪した罪はラウラにとって許されざる所業であり、転校初日に見た軽薄そうな面構えが、犯した罪を全く意識していない事を示唆しているとしか思えず、抱いていた怒気に拍車を掛けさせられたのだ。その後の日常生活を見ても、それらしい様子を感じることが出来なかったため、一夏に対する憎悪が衰えることは無かった。

 そしてそんな彼の周りに集まる少女たちも、ラウラにとっては不愉快でしかなかった。学園唯一の男に顔を赤らめ、媚び諂い、尻尾を振る雌犬。一夏の周りで彼を持ち上げる女子たちやあからさまな好意を向けているセシリアたちを、ラウラはそのように捉えていた。

 

 そんな中で、ラウラは箒と邂逅した。

 彼女のことを本格的に認識したのは、セシリアと鈴の練習に乱入した時。その後加わって来た一夏とシャルル共々圧倒し、彼らに続いて箒が打鉄を纏って参戦して来たのだが、そこでラウラは箒の『目』を真正面から見た。

 その時に見た際は、憐みの感情しか感じ取ることが出来なかった。だからラウラは激昂し、彼女も敵として認識するようになった。

 

 その後、ラウラは箒の保護者と称しているテオから情報を聞き出すことにした。こちらに対して敵意が無いのを察し、何かしらの情報を得ようと考えたのだ。結果的には箒から向けられた感情が憐憫だけではないということが判明した為、客観的に見ると良い展開であると言える。

 そして試合の合間の休憩中、織斑 千冬が箒に頼ってみろと推してきたことが更なる一手となった。多少の問答を心の中でとった結果、直後の試合については手出し無用ということで試合を進めていき、勝利を収めた。

 そして試合の後、つまり今回の試合の前にラウラは箒に許可をした。『必要に応じて』という前提付きではあるが、一夏と自分の戦いに干渉することを。

 

 一夏を叩き潰すという野望は潰えていない。しかしそれと同等、もしくはそれ以上に確かめたいことがラウラの中で定まっていた。

 憧れである教官の強さの源が、箒と力を合わせた先に見出すことが出来るかもしれないと。そして隣にいる少女、箒が一体自分に何を求めているのかを。

 

 ラウラはそれらの答えを得るべく、その思いの表れとして拳を握りしめる。

 

「……漸く俺たちの試合だな」

「ああ。私はこの時を待ち侘びていた……貴様を叩きのめすことが出来るこの機会を」

 

 試合開始の合図となるカウントダウンが、5を表記する。

 

 その瞬間、一夏とラウラはまったく同じタイミングで歩を進める。ガシャリ、と音を立てながら彼らは一歩をとる。

 

「悪いが俺は、俺たちは負けるつもりはねえよ。この勝負、勝たせてもらう」

「ふっ……こちらもそうそう負ける気概は持ち合わせていないのでな。そうだろう?ラウラ」

「……ふん」

 

 4、3とカウントの数字が変化していく。

 

「箒、一夏は君がどうしてボーデヴィッヒさんとペアを組もうとしたのかずっと気にしてた。一体どうして――」

「いいんだ、シャルル」

「――っ、一夏……」

 

 2、1。刻々と開幕の時が迫る。

 既に四者の距離は、一度近接武器を召喚して振るえば届くほどの距離にまで近づいていた。

 

「……済まない一夏。これは私の過去へのケジメでもあり、望んで決めたことなのだ。あの時の私を、滔々と語る気には未だなれないのだ」

「気にするなよ。お前がやりたいって決めたことなら、俺は止めたりしないぜ。……だけど、いつか俺にも話してくれたら嬉しいけどな」

「……あぁ、いつか必ず。……あの頃の弱く醜い私を受け入れてほしい」

 

 0。

 試合開始のブザーが、アリーナに響き渡る。

 

 その瞬間、4人はそれぞれ既に手に持っている近接武器を構え、対面する者達に向けて振りかざした。

 刃のぶつかり合う音が、激しく生じる。

 

 いざ、尋常に――。

 

『勝負っ!!』

 

 

 

―――続く―――

 






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