篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

4 / 98
第4話 作戦名:一夏少年を鍛えよう大作戦

 昼休み。

 この時間になると学園の皆は食事を取り始めるようになり、各々の手段で昼食にありついている。とある子は持参した弁当やパンを教室で、とある子は食堂で、とある子は購買で、といった具合である。

 

 ちなみに私は現在、食堂へと向かっている。

 どうやら私の食事は学園の方で猫向けの餌を各種用意してくれるらしいので、それらが備えられているという食堂に足を運ぶことにしたのだ。

 一夏少年と箒ちゃんも私と同様に食堂で食事をとるらしく、共に同じ場所に訪れていた。

 

「ねぇ、あれが噂の男子のIS操縦者?」

「ホントにこの学園に入学してたんだ……声掛けてみようかな」

「あれ?あの猫は?」

「あんたまだ聞いてないの?なんかあの猫もIS操縦者らしいわよ」

「嘘だっ!!」

「いや嘘じゃないって、気持ちは分かるけど。あれ、なんでこんな時期にひぐらしが……」

 

 周囲の女子生徒達がヒソヒソと話をしているのが聞こえてくる。視線は合わせまいとしているようだが、チラチラと見てきているのが分かりやすいことこの上ない。

 

 それにしても、やはり一夏少年と私は注目を集めてしまっているね。これでは一夏少年もお忍びで食事を取るなど叶いそうにないだろう。私が言えた義理ではないけどね。

 一夏少年は周囲の視線と話し声が気になってしまっているようだが、まぁその辺りは慣れだよ。慣れ。早く周囲に溶け込むに越したことは無いさ。

 

 そして私は売り子を行っている割烹着の女性がいるカウンターまでたどり着くと、ひょいと飛び乗って女性に声を掛けた。

 

≪ご婦人、ここで私の食事が管理されていると聞いているのだが≫

「おやおや、ホントに喋るネコちゃんみたいだねぇ。先生さんから聞いた時は耳を疑ったけど、目の前で喋られちゃあ信じるしかないだろうさね」

≪ここには長くお世話になるだろうから、今後ともよろしくお願いするよ≫

「あぁ、よろしくねネコちゃん」

 

 割烹着の女性は人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら、私の頭を撫でてきた。

 婦人は生徒たちとは二回りくらいは歳が離れているようだが、その笑顔は明るかった。やはり女性の笑顔というのはいつまでたっても衰えないものだ。古事記にもそう書いてある。

 

 というわけで、私は見せられた猫用のメニューの中からドライタイプのキャットフードを注文した。今日はそういう気分だったので。

 

 割烹着の女性は後ろで調理を行っていた作業員に声で指示を与えると、その内の一人が後方の倉庫らしき場所からキャットフードの袋を持ってきた。そしてそれを定番の猫用の皿に盛りつけると、お盆に乗せた状態で私の前に置いた。

 よく見ると、キャットフード以外にもお盆に皿が乗せてあり、中身は蒸かしたサツマイモを切り崩したものであった。

 

 私がそこに視線を向けていると、割烹着の女性がニカッと笑いながら答えてくれた。

 

「あぁ、それはあたしたちからのささやかな入学祝いだよ。これからも遠慮なくこの食堂を使っておくれよ?」

≪おやおや、これは何とも嬉しいサプライズだね。ありがとうご婦人、他の人たちにもよろしく伝えておいていただけるかな≫

「お安い御用さね。ところでどこに座るんだい?必要なら誰かに運ばせてあげるけど」

≪いや、心配はいらないよ。これくらいなら私でも持てるからね……ほい≫

 

 そう言うと私はお盆を頭の上に乗せて、バランスを見極めて安定させる。

 

 その瞬間『おぉー』という感嘆の声が周囲から現れ、中には『可愛いー!』と評価してくれる声も聞こえた。

 篠ノ之家でお世話になっていた頃からこういった一芸を身につけてきており、今回はその一端を披露してみせた。しかしこうして大勢の前で披露するのは初めてだったから、こういう反応をされると少々照れてしまう。

 

 一夏少年と箒ちゃんに先に席を確保しておくと断っておき、私は比較的空いている席を見つけるとそこにジャンプする。そして身体を上手く動かして、頭の上の御お盆をテーブルの上に乗せた。中身を零すことなく、正確に。

 そうすると、再び先ほどのような歓声が食堂内に拡がる。ふふふ。

 

 盆を置いてから少し待っていると一夏少年と箒ちゃんもそれぞれ食事を持ってきて、私の傍の席に座ってくれた。

 

≪さて、食事を取りながら今後の方針を定めて行くとしようじゃないか≫

「方針?何のだ?」

「一夏……まさかお前は何の対策もせずセシリア・オルコットに挑むわけではないだろうな」

「…………そ、そんなことないぜ?」

 

 語尾がうわずっているよ、少年。

 

 そう。私の言う今後の方針とは、一週間後に控えているセシリア姫との勝負に備えて一夏少年を鍛え上げることである。

 

 まず言っておくと、少年がこのまま何もせずにセシリア姫と戦うような真似をすれば、十中八九負けてしまう。

 一夏少年は受験会場を間違えた際にISに触れて以降、ISを起動させたことは一度も無いという。謂わば素人、ぺーぺーというやつである。実力未知数と言えば聞こえはいいが、駆け出しでは期待するべきじゃない。

 それに対して、これから彼が戦うセシリア姫はイギリスの代表候補生と言う肩書きを背負っている。当然ISの稼働時間は一夏少年より上どころか、並の生徒ですら上回っているに違いない。そして稼働時間に比例して実力も有すると踏まえれば……あとは言わずもがなというやつだ。

 

 だからこそ、一夏少年にはこれから懸命に頑張ってもらう必要がある。

 付け焼刃と言われようとも、可能な限り技術と知識を叩き込んで少しでもセシリア姫の実力に近づかなければならないのだ。

 

≪先に言っておくと、この一週間はISの訓練機を使った練習は期待出来ないと思ってくれたまえ≫

「……はぁっ!?それってつまり、ホントにぶっつけ本番でISを動かす事になるってことかよ!っていうかなんで!?」

≪どうやら入学前に訓練機の練習を予約していた子がごまんといたらしくてね。流石に前もって予約した子を跳ね除けて練習するのはその子達に可哀想だろう?決闘が終わった後も暫くは使えないかもしれないね≫

 

 まぁ、一夏少年を売れば快く譲ってくれる子がいると思うが……この場では言わないでおくとしよう。

 

「マジかよ……ちなみに箒は入学する前に予約はしたのか?」

「あぁ、正月に会った際にテオがあらかじめ忠告してくれてな。私もなるべく早くISに慣れておきたかったから、予約しておいたんだ」

 

 それを聞いた瞬間、一夏は狙いを定めたハンターのように目を煌めかせながら箒に詰め寄り出した。

 

「じゃ、じゃあ!もし良かったら、決闘の日まで俺にも訓練機を使わせてもらえないかな~って……」

「……残念だが、私に回ってくるのは来週末、つまりお前達の試合が終わってからになる」

「oh……」

「仕方がないだろう、ISに乗れるというのはここに通っている女子生徒達の憧れであり、目標でもある。正月に頼んだ私の番が来週末で済んだのも、正直運が良かったのだ」

 

 箒ちゃんも言ったようにISに乗れるというのは女性にとっては憧れだ。女の子は大体小学校の時にISの学習を始めるらしいけど、ISを専攻してなおかつ学校で使えるのもここだけだし。

 随分と早く予約をしてまでISに乗りたかった子もいるとなると、なかなか熱心で微笑ましく思える。

 

 箒ちゃんに可能性を求めていた一夏少年はその希望を打ち砕かれるや否や、ガクッと肩を落としてしまった。リアクションが忙しないのは子供の頃から変わらない、と。

 

「はぁ、ISに乗って練習出来ないとなるとどうすればいいんだか」

≪そうだねぇ……まぁISには乗れないけど、練習の一環となる方法は一つ知っているよ≫

「え?そんな方法あるのか?」

≪あるさ。ただしそれには箒ちゃんの協力が必要なんだが、どうする?≫

 

 そう、何もISに乗るだけが操縦者の鍛錬になるとは限らないのだよ。

 

 そもそもISというのは飛行機や自動車などのようなものではなく、あくまで装着者の身を助ける為の強化スーツと考えた方が割かし当て嵌まっている。授業でISの調整に疑念を抱いた生徒に対して、真耶ちゃんも『ISは乗り物ではなく、あくまで自分のパートナーとして見ると良いかもしれません』と答えてあげていた辺り、熟練者はその辺りを確りと出来ているのである。

 確かにISは現代最強の兵器と謳われている通り、強力なスペックを誇っている。しかしそれを生かすも殺すも、結局のところは使用者の腕次第となる。

 ISが自身を強化する為のアーマー。それはつまり、自分の肉体を鍛えていけばIS自体の能力とはまた別に強くなれるという理論も生まれるのだ。武士の世界に置いて業物の切れ味を最大限に引き出せるのは達人の域に達する者という例を考えてみると、ISも使用者のスペックによって左右されることが考えられるだろう?

 ISに乗る事が出来ないなら、その分勉強をして知識を深める。それも大いに結構だ。しかし少しでも強くなれる道筋があるのであれば、それを辿ってみるのも成長期の若者の特権だと私は思っている。

 

「箒、迷惑にならなかったら頼む」

「ふむ……心得た。幼馴染みのよしみとして、ここは協力してやろう。……決闘までの経緯は少々不純というか浅慮というか、まぁ今は棚に上げておこう」

「あぁ、ありがとな箒!」

 

 少年の笑顔に応えるように、フッと柔らかな笑みを浮かべる箒ちゃん。

 そんな彼女の返しに頼もしさを覚えたのか、ますます笑顔を強める一夏少年。

 

 青春してるねぇ。

 

 ちなみにその後、3年生のお嬢さんが一夏少年にISの指導を自分が務めようかという提案をしてきたが、二人にあっさり断られてしまって気の毒に感じてしまった。すまない。

 

 

 

――――――――――

 

 放課後、私と一夏少年と箒ちゃんは昼休みに私が提案したISの特訓を行うべく、剣道場に訪れた。

 剣道場の使用は学園教師と剣道部員の許可が同時に必要になるのだが、箒ちゃんが入学の際に剣道部に入部したことが幸いし、スムーズな流れで剣道場を使用することが出来るようになった。

 

 私はそこで箒ちゃん達に剣道の試合を行うように指示を出した。

 単なる余興とかではなく、これこそがISの特訓に繋がる行為なのだ。

 

 この学園で用意されているIS訓練機は2種類存在し、1つは量産機の世界シェアが第2位で日本製のIS【打鉄】。もう一つは打鉄に次いで世界3位のシェアを誇るフランス製の【ラファール・リヴァイブ】である。

 この内の打鉄には装備の一つに近接戦闘用ブレード【葵】が搭載されており、この装備の訓練は剣道の要領で行われることが多いと千冬嬢から事前に聞いている。つまり、あらかじめ剣道に通じている箒ちゃんなどは、他の人よりも遥かにこの装備を使いこなすことが出来ると言えるのだ。

 まぁ、私は白式の仕様を知っているからむしろ理由はこちらの方にあるんだけど。白式に遠距離武装は無いし、刀1本だからね。

 

 で、二人に試合を行ってもらったのは良いんだけれど。

 

「……これは、想像以上に酷いな」

 

 箒ちゃんの呆れたような眼差しが、床に尻餅を付けている一夏少年に向けて降り注がれている。

 

 先程まで行われた試合の様子はというと、開始から突撃を仕掛けたのは一夏少年。スピード感のある身のこなしから一気に箒ちゃんとの距離を詰め、竹刀を大きく振るった。

 が、彼の竹刀が箒ちゃんに届くことは無かった。何故ならば間合いの取り方も竹刀を振るキレも、昔最後に見た時と比べて悪くなっていて、大会2連覇を果たした箒ちゃんからすればいなすのは容易いからであった。

 

 箒ちゃんは一夏少年の攻撃を防ぐと、その隙をついて迅速に反撃を行い、少年に面打ちを決めてみせた。

 言ってしまえば、箒ちゃんの圧勝であったのだ。ニャンということだ。

 

「一応聞いておくが、中学の頃は部活はどうしていた?」

「いやぁ、俺中学の頃は帰宅部だったからさ」

「帰宅部、か」

「おう、3年間皆勤だったぜ!」

 

 そう言って爽やかな顔でVサインを見せつける一夏少年。

 

「……そうだな。お前の家庭事情を考えれば、その方が良かったんだろうな」

 

 その反面、箒ちゃんの表情には陰りが生まれる。

 

 一夏少年には両親がいない。彼に物心がつく前から両親は行方を眩ませており、以降は姉の千冬嬢と2人で暮らしてきた。よく篠ノ之家が彼等を招いて一緒に食事をする機会もあったが、千冬嬢が真面目なのでそれに甘え切りにならず、篠ノ之家の一家離散が起こるまではある程度の線引きを続けていた。

 一夏少年はよく『千冬姉の助けになりたい』と語っていた。だから中学生になった少年は家庭の事情故にアルバイトの許可が下りて、家計を支える為に3年間労働に励み続けたのだろう。この少年は考えていることは割と顔に出ているので、バイトをしてたというのは彼の性分も踏まえてなんとなく察しが付く。

 

 そして、箒ちゃんも一夏少年の事情を察したからこそ怒れなかったのだろう。

 例え自分と彼の繫がりである剣道が片路の想いで切れていたとしても、しょうがないことだと。

 

「……とにかく、お前が3年間でどれだけ剣の腕を鈍らせたのか理解できた。これからは殺すつもりで容赦なくビシバシ鍛えていくぞ」

「いや、その、優しく無理のないように教えてくれると嬉しいかな~って」

≪諦めも肝心だよ、少年≫

「救いは、救いは無いんですか!?」

 

 無いね。

 

 まぁ箒ちゃんも物騒なことをいっていたけれど冗談の類いだから、取り敢えず殺される心配だけはしなくても大丈夫だろう。厳しい指導は不可避だが。

 

「受けてみよ一夏、中学時代の先輩から教わった、その先輩の居候が会得しているという飛天御剣流の技を!」

「そこは篠ノ之流の技を使うんじゃないの!?しかもどこかで聞いたことのある流派なんだけど!?」

「問答無用!奥義、龍槌閃!」

「ちょお、ホントに死ぬぅ!?」

 

 死ななければ安い。しなやすしなやす。

 

 

 

―――続く―――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。