篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

40 / 98
第40話 薔薇棘の罠

 

◇   ◇

 

 マリーヌ・デュノアが今回のトーナメントで何かアクションを起こすだろうということを、私は知っていた。一夏少年と共にトイレから戻ろうとした時の道中、彼女が電話の相手と怪しげなやり取りを行っていた時にその会話内容を傍聴させてもらった際にその確信を得ていた。

 私は試合に出なければならない一夏少年と別れた後、管制室でアリーナの様子を監督している千冬嬢にこのことを連絡した。

 

 千冬嬢は私の話を聞くと、学園内に警戒網を敷くと共に主犯者の可能性があるマリーヌ・デュノアの監視を行うようにと、学園の教師陣に伝達を行った。

 マリーヌ・デュノアが怪しい動きを見せたら、直ぐに身柄を拘束して子細を明らかにするという行動方針を立てて、教師たちは行動を開始していった。

 

 非常に残念だが、マリーヌ・デュノアたちが具体的にどのような方法を取るかまでは詳細を掴めなかった。故に証拠を押収する手段が無かった私たちは即座に取り押さえることも出来ず、彼女が犯行に及ぶ決定打となる物もしくはことを晒してくれるまで機を窺うしかなかった。万が一強引に逮捕しようとしても、彼女が巧妙に隠し事をして決め手となる証拠を得られなかったら、立場を悪くしてしまうのはこちら側になってしまうからだ。私としては自分の風評などどうでもいいが、人間社会の一部であるIS学園はそう簡単にはいかず、どうしても慎重に事を運ばなければならないのである。

 

 しかし、そうして後手に回ってしまった結果、私たちはタイミングを誤ってしまった。

 

 マリーヌ・デュノアは私たちが想定していたよりも早く行動を起こしたようで、教師陣たちの警戒網が為される前に犯行を行った。彼女が私たちの警戒に気付いていたのか、はたまた単なる偶然なのかは分からないが、彼女の思惑が成就してしまったのは紛れもない事実。

 つい先程伝手で聞いたところによると、どうやらマリーヌ・デュノアはラウラちゃんのISに潜ませていたVTシステムを何かしらの方法によって起動させたらしい。

 私もここ数年は束ちゃんの元で暮らしていたため、VTシステムの知識は頭に入っており、どういうものであるかも理解していた。VTシステムはISの絶対防御の作用で死亡に至るケースこそ無いものの、元となるデータが世界レベルの搭乗者であるため、彼女たちの身体の造りに追いつけていない子が使用すれば肉体への負荷が尋常ではないという可能性も。ラウラちゃんはドイツの軍人として肉体を鍛えているだろうが、それでも危険な代物であることになんら変わりは無い。

 

 私たち大人が子供1人守ることが出来ないとは、我ながらなんとも情けない話だ。

 ……いや、嘆いたところで話が好転するわけでもない。事態が悪いのであれば、それを良くするには自ら動くしかない。ならば私は、今やるべきことをやらなければならない。

 

 そして私は目の前に立っている少女に向けて再び声を掛ける。

 

≪もう一度聞かせてもらうけど……こんな所で何をしているのかな?≫

 

 今、私の目の前には1人の女の子がいる。

 桃色の派手な髪色をしたスーツ姿の彼女は、抑揚のない平坦な表情で私をジッと見ている。人間の女性は笑った顔が特に魅力的だと言われているが、先程からずっと顔の筋肉を動かさない彼女の顔はまた別の魅力を漂わせている。さながらそれは、フランス人形のような気品と優美さを私に印象付けさせる。

 歳はパッと見、箒ちゃんと束ちゃんの中間といったところだろうか。箒ちゃんと同年代にしては大人びているし、束ちゃんと同年と言うには多少の違和感があるという個人的な見解。

 

「何をしていると言われましても……お手洗いをしに来賓の席を離れていたのですが、アリーナの内部が広いため恥ずかしながら少々迷子になっていましてね。偶然にも出口を見つけたため、一旦外に出て道を確認しようかと思いまして」

≪それは大変だったね……おっと失礼、貴女はお客人なのだからこのような話し方は礼儀が悪かったですね≫

「いいえ、先程のような話し方で構いませんよ。お猫殿は私よりも精神的な年齢が上のようですし、失礼ながら敬語を使われたところで違和感を覚えます」

≪あ、そう≫

 

 お嬢さんからそう言われたため、私は素直にいつも通りの話し方で彼女と接していくことにする。……千冬嬢にも気味が悪いって言われたし、会ったばっかりの子にもこう言われるとなると、やっぱり私には敬語が似合わないのかなぁ……気楽と言えばそうなんだけど、割とショックである。

 

≪まぁそれはそれとして……嘘をついてもロクなことが無いのが定番だし、お嬢さんもそろそろ本当のことを話してくれないかな?≫

「と、言われましてもね。貴方が一体何を言っているのか分かりませんね」

≪あくまでシラを切るか……仕方がない、あまり喧嘩っ早い手段は好きじゃないんだけどね≫

 

 そう言って私は【銀雲】を展開し、身体に纏わせる。それから手に腕部武装【クロー=ヒッカキ】を1秒にも満たない速度で召喚すると、身を屈め、一気に踏み込んだ。

 

≪……その荷物の中身、ばら撒いてもらうとするよ≫

 

 狙うは、彼女が手に持っているビジネスバッグ。それに目掛けて私は爪撃を掛ける。

 

 本来であれば、一般人に対してISを使用するというのは重大な犯罪に類する行為である。もし彼女が本当に一般人であるならば私の人生、もとい猫生は薄暗い牢屋で終わりを迎えることとなってしまうだろう。

 しかし、生憎私は1人寂しく牢屋で過ごすつもりは無い。箒ちゃんや束ちゃんの子供を拝むその日まで。

 

 そら……彼女はついに尻尾を見せてくれたよ。

 

「やれやれ……流石に仕事の道具をバラバラにされるわけにはいきませんからね」

 

 私の爪からビジネスバッグを庇うように現れた、赤色の機械。

 全体に細長い形をしたそれは全体的に刺々しいデザインとなっており、先端で5本に分かれている先も鋭く尖っている。その5本はまるで……いや、人間の指を表している。指が分かれる前の部分は掌と甲、更にその先には関節や肘を示したような形。

 そう、この機械は腕だ。それも只の機械ではなく、ISの腕。

 

 つまり、私の目の前にいるこの子もIS操縦者なのだ。私は今まで、彼女がISを所持しているのを確認出来なかった。実際に対峙して見たものの、彼女の方からIS反応が感知されなかったのだ。

 そしてこの事実が、彼女の素性を明らかなものとする貴重な材料となるのだ。

 

≪さて、君は現にこうしてISを出している。私はここまで君がISを持っていると感知出来なかったけれど……私が何を言いたいのか、もう分かるんじゃないかい?≫

「……全てのISは【コア・ネットワーク】という特殊な情報網によって繫がり、管理されています。宇宙空間での活動を想定して互いの位置の特定が出来るような特徴がISにはあります。昨今ではIS操縦者の行動管理や、失踪・誘拐の対策として捉えられていますが」

≪詳細な位置を知るには互いの許可登録が必要になるけど、そもそもそれが無くても大体の位置は分かるように機能されている。潜伏(ステルス)モードもあるにはあるけれど、あれも正確な場所をぼかすだけで、完全に位置を探られないようにする仕様にはなっていない≫

「完全に位置情報を消す方法はたった一つ……自分のISをコア・ネットワークから強制的に切断すること。コア・ネットワークで全てのISが繋がっているから位置が知られてしまうのであれば、その枠から外れてしまえばいい」

≪そう。しかしこれはIS協定に於いてS級レベルの犯罪行為に該当する程の大事。そんなことを平然とやってのけるのは、既に犯罪者として活動している者たちくらいだ。……そうだろう?≫

 

 

 

―――【亡国機業】のお嬢さん。

 

 

 

 私がそう言い切ってみせると彼女は、ふむ、と喉を鳴らして私の方を改めて見据えてきた。

 

「成程……先程の先制攻撃はこれを明らかにする為のものでしたか。てっきり荷物の中から私の素性の証拠となるものを探すのかと思っていましたが」

≪そもそも、今回のトーナメントのために100人近く来賓の人たちが来たけれど君みたいな子は絶対に記憶に無かったからね。態々変装までして来たようだし、この場で会った時点で大体の確信は得ていたよ≫

「……やれやれ、スコールさんが手を焼く相手とは聞きましたが、どうやら話に違わないお猫殿のようですね」

 

 ほぅ。

 まさかここでスコールという名前を聞くことになるとはね。

 

≪ミス・スコールとは知り合いなのかな?≫

「知り合いも何も、彼女は私の直属の上司ですから。彼女に限らず、我々亡国機業の邪魔をしてくる貴方は我々の間でかなりの有名人ですよ?」

≪人気者は辛いね。最近は学業に忙しくて君たちの悪巧みを阻めないのが悩みだけども≫

「よく言いますね。自分が出られない代わりに別の者を差し向けて来たというのに」

≪……はて、なんのことかな?≫

 

 別にしらばっくれたところで意味は無いけど、意趣返しとばかりに返答を曖昧にしてみた。

 ちなみに私は亡国企業の幹部の1人であるスコール・ミューゼルと知り合いであり、会った回数こそ2回しかないが互いに自己紹介を済ませて顔を見知っている間柄となっている。最初に出会った時は問答無用で戦闘をした後に私が退散し、2度目の邂逅の時に初めて名乗り合い、互いを正確に認識し始めたのだ。

 そしてお嬢さんが言っている『別の者』というのは、クロエ・クロニクルもといクーちゃんのことである。クーちゃんは私がIS学園に通っている代わりに亡国企業の暗躍を邪魔すると事前に言い出して、束ちゃんの面倒を見る片手間に自身のISを用いて活躍をしているのだ。言い出した当時は私も危険だと言って諦めさせようとしたが、お嬢ちゃんは私の言葉を頑なに断り、最終的に強引ながらも話を通してみせたのだ。最初の頃は心配だったけど、ちゃんと無事に帰って来てくれているのは判明しているので、私も無茶だけはしないようにと釘を刺して、後はあの子の好きにさせている。

 

 何はともあれ、目の前にいる子が亡国企業の手の者だと確定出来た。あちらさんが相手ということであれば、私も遠慮をする必要は無くなるわけで。

 私はお嬢さんが解放しているISの右腕部分から武器を離して後方に跳んで、彼女と距離を取る。

 

「それにしても、IS学園というのは人手不足なのですかね?幾ら貴方が相手とはいえ、1人で対応させるというのは些か考え物ですね」

≪だって私の独断行動だし。マリーヌ・デュノアはクロだと分かってたけど、協力者の可能性は否めなかったんだから敵にも味方にも気取られないように動くのがベストだと思ってね。案の定、来賓の案内から外れてこっそり逃げようとしていた君がいてくれたわけで≫

「やれやれ、やはり貴方はどこか食えませんね。……尤も、今回はその判断は誤りですが」

 

 桃髪のお嬢さんはそう言うと、スーツ下の白シャツの胸元辺りのボタンを1つ外す。はだけた胸元に手を突っ込んだと思ったら、すぐに手を元に戻した。こらこら、年頃の子がそんな簡単に肌を晒すものじゃないよ、胸元から黒い下着がチラリと見えちゃってるし。

 と、胸元から戻した彼女の手には鶏卵程度の大きさの球型の機械が収められており、彼女はそれを私の頭上に目掛けて放り投げた。

 

 機械がちょうど私の真上に辿り着いた瞬間、それは突如白く発光をし始め、眩い光を放出する。その直後、球型の機械は空中でプロペラのように展開して滞空し、中に入っていた光球が露わとなり、私を覆うように光を壁を展開させた。

 

 その結果、私は光のドームの中に閉じ込められるような形となってしまった。

 私を円形の光の壁で覆い尽くすその光景は、さながらRPGでよくあるドーム状のバリアのようであった。本来であればバリアの中にいる私は守られている側だというのに、全く守ってくれている気がしないこの感じ。

 

≪これは……?≫

隔離結界(イゾレーション・エリア)という物で、まぁ簡潔に言うと対象を一時的に閉じ込めたい時等に使用する道具です。完成品ではないため外部干渉に脆い上に効果時間が10分と短いですが、内部からの衝撃では一切破壊出来ないように設計された物だそうです。無駄だと思いますが、試してみても構いませんよ」

≪ならば、お言葉に甘えて≫

 

 私は妙な結界の壁際まで瞬時に迫ると、常時開放型武装である鞭型武器【ウィップ=ネコジャラシ】を叩き込む。ネコジャラシは狙い通りの場所に命中し、バキィッ!と激しい音を立てる。

 ……が、光の壁は大きな波紋を起こすだけで壊れる様子を一切見せない。攻撃を行った私自身も、壊れる手応えが全く感じられなかった。

 

「無駄でしたでしょう?何せ内部からの衝撃の耐久度は第2回モンド・グロッソでのブリュンヒルデの試合データを盗んで、そこに表記されていた攻撃力に耐えられるように精度を上げているそうですからね。この学園にはブリュンヒルデにロシアの国家代表、更には貴方がいるのですからこの程度の対策は用意していますとも。費用がメチャクチャ掛かるので量産出来ないのが難点ですが」

≪……これはしてやられたね≫

「まぁ、私は自分で碌な対策も立てずに捕まったフランスのどこぞの無能バカとは違いますので」

 

 あ、この子毒舌家だわ。普段は丁寧口調なだけにそのギャップが目立つ目立つ。

 

 ……しかし、これはマズイね。

 先程のバリアへの攻撃だが、手ごたえが全くと言っていいほど感じられなかった。どうやら火力の低い私のISでは、私を覆うこの光のドームを突破出来ないらしい。流石に千冬嬢のパワーと比べたら私のスピード特化のISが出せるパワーなんてたかが知れてるので、千冬嬢並のパワーで漸く突破出来る程のバリアを破るなど到底無理な話だ。

 いや、一応1個だけ手段があるにはある。あるんだけど……これを使えば私は脱出して1分も経たない内にISが解除される程に力を浪費してしまうことになる。そうなってしまったら彼女を捕まえられないどころか、ISのエネルギー切れを起こした私をタコ殴りしてくるかもしれないので本末転倒だ。

 まぁ、私が此処から出ようが出まいが……。

 

「では改めて……さようなら、お猫殿」

 

 目の前にいるお嬢さんの圧倒的優位な状況は揺るがない、ということか。

 

 そして彼女は、閉じ込められた私を―――。

 

 

 

―――続く―――

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。