篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第41話 「俺たちが戦う」

◇   ◇

 

 テオがアリーナの裏側で侵入者のロゼと対峙している最中。

 

 1年生がトーナメントを行っている第3アリーナの観客席は、騒然とした状況になっていた。先程まで試合の白熱ぶりに熱気を帯びていた彼女たちであったが、今はそんな興奮も消し飛んでしまっている。突如管制室から発令した緊急避難に従って、皆が客席の出口へと駆けだしており、然程広くない出口周辺では大規模な人の波が出来上がっていた。黄色い歓声も、今は悲鳴へと変貌している。

 そのようになっている原因は言わずもがな、ラウラ・ボーデヴィッヒの身に起きたVTシステムの発動である。突然試合中のラウラが苦しみ始め、彼女のISから黒い泥のような謎の物体が湧き上がり、彼女を覆い尽くした……と、VTシステムを知らない彼女たちにはその一連の出来事への理解が追いつけず、全く以て訳が分からないとしか言いようがないだろう。

 

 恐怖しながら避難を行っているIS学園1年生の群衆がある中で、セシリア・オルコットと凰 鈴音が、出口の両サイドにポジションを取りながら凛とした声を張って避難誘導を行っている。その表情には現場の責任者としての真剣な顔つきが宿っており、本気で作業に取り組んでいることが窺えた。

 彼女たちがその場で避難誘導をしているのは、管制室にいる山田 真耶先生からの指示が理由である。彼女たちも本当はアリーナにいる想い人たちの救援に向かいたかったのだが、いつもはフワフワした山田先生が重い雰囲気を纏っているのを通信越しに察し、更には教員組が事態の収拾に駆けつけるとのことだったので、彼女たちは私情を抑えて指示に従う道を選んだ。

 

 彼女たちの背負う『代表候補生』という肩書きは、単なる飾りなどではない。

 意味合いは国家代表の候補として取り上げられている人物であるが、状況に応じて臨機応変な対応を迫られることもある。全てのIS搭乗者は、万が一ISがその場で『兵器』として取り上げていられたのであれば、彼女たちはその兵器に対抗する為の『兵士』とならければならない場合もある。

 鈴もセシリアも、この緊急事態にてIS学園の生徒たちよりも一足早く『兵士』として行動を徹さなければならなかった。確かに専用機持ちは量産機や訓練機と違って即戦力として加われるが、セシリアたちがその場を離れれば個人のISを持たない一般生徒の子たちは、アリーナにいる異形から自らの身を守る拠り所を失い、危険度を大いに高めてしまうのだ。

 皆がそれぞれの役割に従っている。そう、代表候補生として……否、ISに乗る覚悟を抱いた者として、己の私情に囚われて任を放るなど在ってはならないのだ。

 

 想い人と友人たちの安否を気がかりにしながらも、セシリアと鈴は懸命に避難誘導を行うのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 だが、戦いに加われなかった少女たちの思いとは裏腹に、アリーナの状況は悪い方向へ傾いている。

 

 現在、黒いISがアリーナの中央に佇んでいる。そしてその傍らには……武装しているISが大部分している状態で倒れている、教員部隊数名の姿があった。

 管制室にいる織斑 千冬の指示を受け、IS学園の教職員たちが量産機の打鉄を装備してアリーナに現れた。ブレードやアサルトライフルを既に手に携えながらゲートからやってきた彼女たちは、即座に黒いISを包囲してみせた。各員が配置について即、彼女たちは黒いISに攻撃を仕掛けた。

 数に勝りし包囲戦、誰もが彼女たちの方が優勢に見えた。

 

 しかし、黒いISの実力は圧倒的であった。

 過去のモンド・グロッソにおけるヴァルキリーのデータがインプットされているだけあり、その動作は並大抵の操縦者を超える程の精密性と熟練性があった。これまで行われてきた試合の生徒たちの今の実力では決して届かない領域で発揮される戦闘能力は、迫り来る教員部隊を次々と撃墜してしまったのだ。武装は手に握っているたった一振りの刀だけ、しかしそれがどうしたとばかりの高速機動による肉薄で教員たちとの距離をそれぞれ詰め、一刀の下に斬り捨てていったのだ。

 

 彼女たちの名誉の為に言っておくが、IS学園で教師を務めている面々はIS関係の知識や実技で上位の評価を得た者が殆どであり、その実力は決して低くない。今回のようなトラブルの鎮圧の任を担っていることからも、それ相応の実力が備わっているのだ。

 ただ、黒いISが教員たちの実力を凌駕していた。それだけの話であり、そして今広がっているこの光景が彼らの差の証明となっているのだ。

 

「な、なんだあの異形は……あれが、ラウラだというのか……?」

「IS学園の先生たちを、あんなにアッサリ倒しちゃうなんて……」

 

 その光景に言葉を失う、箒とシャルル。突如現れた脅威の力を目の当たりにして、茫然とするしかなかった。

 

 だが、彼女たちの傍にいた1人の男は彼女たちとは異なる反応を示していた。

 

「……」

 

 明らかな憤怒。

 異形を睨みつけるその眼はかつてない程に獰猛で鋭く尖っている。口元から見せる歯には力が込められており、纏う雰囲気はいつ襲い掛かってもおかしくない位に敵意が籠っている。雪片弐型を握るその手には、太い血管が浮かび上がっていた。

 そして、間もなく少年の袋の緒がプツリと途切れる。

 

「千冬姉の、千冬姉の剣で……何ふざけたことしてんだぁぁっ!!てめえぇぇっ!!」

 

 火の山の噴火の如き怒りが、一夏の魂を荒び湧き上がらせる。

 一夏はその場を一気に蹴りつけ、弾丸のような勢いで黒いISへと駆ける。冷静さを欠いて瞬時加速を使用する余裕は無かったが、それに匹敵する程の速度で相手との距離を一気に詰め、黒いISの脳天目掛けて全力で刀を振るった。

 

 だが、黒いISはそれを涼しい様子で手持ちの刀で受け止めた。ギィンっ!と激しい衝突音が発生し、赤い火花が双方の武器から散る。

 

 難なく自身の攻撃を受け止められてしまった一夏だが、その熱は未だに滾ったままであった。

 

「それがぁ……どうしたぁぁぁっ!!」

 

 なんと一夏は、黒いISが次の行動を起こす前にその腹部に蹴りを叩き込んでみせた。かつて鈴とセシリア対ラウラによる乱闘戦に介入した際に味わったラウラの戦い方を、この場で本能的に参考にしたのだ。

 蹴りを喰らって数歩後ろに下がる黒いISに追撃を仕掛けるべく、一夏は大きく一歩踏み込んで更に斬りかかろうとする。

 

 しかし、黒いISの実力がこの程度の訳がなく。

 一夏の繰り出す斬撃を紙一重の間隔で避けながら、彼に向けて剣を振るってきた。黒いISの持つ攻撃力の高さは、先程まで目の当たりにした一夏も理解出来ている。万全の状態で出動してきたIS学園の教員部隊を一撃で斬り伏せてみせたその威力は、今まさに振るっている雪片もどきとその所有者である織斑 千冬を彷彿とさせる値を示していた。

 箒たちとの試合でエネルギー残量が半分となっている今の白式では、その斬撃に耐えられる保証はどこにもない。そしてその先では一夏が教員たちと同じ末路を辿る未来が待っているだろう。

 

 絶体絶命の瞬間が到来している中、一夏と黒いISの間に割り込む影。

 影は斬撃の射線上に身を投じ、一夏を庇うような形を取った。

 

「くぅっ!」

「シャルル!?」

 

 影の正体―――シャルルが、黒いISの斬撃を大盾で防御する。その身を確りと踏ん張ったので衝撃で吹き飛ばされるようなことにはならなかったものの、攻撃の重みが盾越しに濃く伝わり、腕に奔る。重厚な一撃が腕に伝わり、彼女の顔が顰められる。

 

「シャルル、一夏を連れて下がれ!」

 

 シャルルに続いて参入してきた箒が、一夏の横から刀による突きを黒いIS目掛けて放つ。攻撃こそ防がれるものの、シャルルが一夏を離脱させる時間を稼ぐ為の陽動としては十分に意味を持つ一撃であった。

 

 シャルルは箒の援護に感謝しながら、一夏の手を取って後方に下がろうとする。

 だが肝心の一夏がそんなシャルルの誘引を強引に振り払うと、再度黒いISに向けて斬りかかろうとし始めた。

 

「一夏っ!?」

「てめぇ……絶対に許さねぇっ!!」

「くっ……!」

 

 蛮勇にも等しい一夏の行為を危うく感じた箒は、打鉄に武装されていたグレネードを即座に2つ手元に呼び出した。取り出したグレネードの1つのピンを外して黒いISに向けて投擲し、もう片方はピンを外さずに敵の足元に向けて放り転がした。2つのグレネードが手元から離れたところで、彼女は次にアサルトライフルを召喚する。

 黒いISが眼前に迫るグレネードを剣の峰で弾いている間に、箒は地面に転がしておいたグレネードに照準を定め、ライフルを撃つ。数発のミスがありはしたものの、ライフル弾の何発かが命中する。

 

 実弾の衝撃を受けたグレネードは、黒いISの傍で派手な爆発を起こした。

 

「一夏!」

「うおっ!?」

 

 黒いISに集中していて突然の爆発に気を取られた一夏が身体を硬直させたのを狙い、箒は彼の腹部に手を回して加速。一気に黒いISとの距離を離した。

 一夏の抵抗が起こる前にある程度敵から離れた場所まで下がり、一先ずの身の安全を確保する。ちなみにシャルルは一夏を連れて退いた際に追従してきたため、既に箒たちの元に来ている。

 

「いきなり何するんだよ箒っ!」

「それはこちらの台詞だ!激情のままに突っ込むなど、今のお前の行動は無謀としか言い様がなかったぞ!」

「無謀だろうが関係ないっ!あいつのふざけた力は俺が絶対にぶっ倒してやるっ!邪魔をするなら――」

「……馬鹿者がぁっ!!」

 

 一夏の言葉を遮り、箒は怒号を放ちながら彼の胸ぐらを掴む。一夏のISである白式には胸部アーマーがついているため、そこから上部で剥き出しになっているISスーツを破かない様に掴んでいるのである。そこから彼の身体を自分の方に寄せ、互いの顔を至近に近づける。

 先ほどまで怒りを露わにしていた一夏も、傍で彼女たちの様子を恐る恐る様子見ていたシャルルも、箒の行動に驚かされて目を見開いている。

 箒はそんな彼らの様子に構わず、その口を開く。

 

「倒すだと?碌に周りが見えていない今のお前に、学園の教師たちに圧勝した奴を倒せるとでも言うのか?……出来ないだろう、シャルルが先程お前を庇っていなければ、お前は倒されていた筈だ!」

「うっ……」

 

 箒の言い分に、一夏は反論出来なかった。

 彼女の言うように、あの時の一夏には黒いISの攻撃を防ぐ手段が無かった。攻撃に気を回しすぎて、敵の反撃を捌くための考慮が働いていなかったのだ。事実、もしあの時シャルルが攻撃を防いでくれていなければ、黒いISに斬られて戦闘不能にされる未来があった。

 

 だが。

 一夏がそこでやられてしまうことよりも、何よりも……箒はその事が気がかりであった。

 

「そして怒り狂っていたお前のことだ……例えISが解除されてしまっても、あいつを倒そうと生身で挑むつもりだったのではないのか?」

「…………」

 

 一夏の返答は無い。

 しかし、『目は口ほどに物を言う』。今の彼の目は、彼女の言葉の是非を誤魔化すように逸らし、箒の真っ直ぐな目から逃れようとしている。間違いなく、一夏はIS無しでも黒いISに立ち向かおうとする覚悟を抱いていたのだ。

 

 幼馴染みとしてそんな一夏の行動を容易に出来たからこそ、箒は先程怒鳴ったのだ。

 生身の人間がISに立ち向かうなど、歩兵が戦車に立ち向かう以上に無謀だ。今のISには現存兵器を上回る機動力、武装、防御力、破壊力などが備わっており、様々なタイプが開発されているそれらの物の全てが、勝るという事実に該当している。今でこそ世間的にはスポーツの一種として取り上げられているISだが、いざ戦いに投入されるとなれば、そのカテゴリーはもはやこれまでの兵器とは比べ物にならない程となっている。

 そんな存在に、もし一夏が生身で立ち向かおうとすればどうなるか?その答えは単純にして明快。

 

 死、である。

 手に持っている刀で真っ二つに斬り裂かれるか、はたまたその剛腕で殴り潰されるか。

 いずれにしろ、一夏が辿り着く未来は生命の喪失しかなかっただろう。

 

 だから箒は先程一夏を怒鳴った。

 彼を喪う事を怖れたがために、彼の死を心の底から望んでいないがために。

 

「お前が憤っている理由は私にも分かる。雪片を模した武器を使っているあいつが、千冬さんの力を使っているようにしか見えなかったんだろう。私とて、あいつが力で教師たちを捻じ伏せた姿を改めて見ると、忌むべき出来事を思い起こさせられる気分にもなった。……それでもっ!」

「っ!?」

 

 箒は一夏の胸ぐらから手を離すと、両の手を彼の両肩に掛ける。真正面で向き合うような形となり、箒は彼の顔を真っ直ぐに捉える。

 

 対する一夏もその行動に目を逸らすことが出来なくなり、正面の箒の目を見た。

 彼女の目には、涙による潤いが生じていた。

 

「お願いだから、命を投げ捨てるような真似をしないでくれっ……お前まで死んでしまうようなことがあれば、私は……私はっ……!」

「箒……」

 

 ここで一夏は、先程とった己の行動の愚かさに気付いて深く悔いた。

 あの時の彼は、例え死ぬようなことになっても黒いISを倒そうとしていた。大切な姉だけが持つべき力を我が物顔で教師陣相手に振るうその姿が、一夏はとにかく気に入らなかった。絶対にそのふざけた姿をぶっ飛ばしてやる、彼はそのように決めていた。

 だが、目の前で一筋の涙を流す幼馴染みの姿を見て、心の中で煮え滾っていた憤激が冷めていく感覚を一夏は覚える。

 自分の死を嘆いてくれる者が傍にいたというのに、自分はそれを考えることなく、ただ敵を倒すことだけに囚われてしまっていたのだ。死んでもやらなければならないことがある、ということが漫画の演出でよく見かけるが、それは単なる一方通行な自己満足でしかない。

 

 目の前で自分の命を本気で案じてくれる少女を見て、一夏は思いを改める。この先、命を粗末にするような行動は起こさないと。

 

「……ごめん箒。もう無茶な真似はしないって、約束する」

「……分かれば、いい。約束したのだから、ちゃんと守ってもらうぞ?」

 

 そう言って箒は、目元の涙を拭いながら笑みを浮かべる。泣いたばかりで少々拙い形ではあったが、心の底から安堵したことによって生まれた偽りの無い笑みでもあった。

 目の前にいる男は恋愛に関してはまるでダメな男の子、つまりマダオだが、人と交わした約束は確かに守る信念がある。彼が約束を反故にしようとする可能性はまず考えられないため、箒も彼の返事で安心出来たのだ。余談だが、今回のタッグトーナメントの優勝景品である『優勝者は織斑 一夏と付き合うことが出来る』という話も、彼は律儀に守ってくれるだろう。男女交際の意味で付き合うか、買い物同伴の意味で付き合うかどうかは、言わずとも分かる結末ではあるが。

 

 ちなみに、箒が安堵している際、一夏は彼女が小首を傾げながら笑みを浮かべる姿を見てほんの少しドキリとしていた。最近の箒は凛々しい雰囲気が漂っていたので、こういった表情はギャップがあって可愛いと感じた故の高鳴りだが、それでもまだ恋慕に届かないのはご愛嬌。

 

 ……ちなみにちなみに、この場にはもう1人いるということを忘れてはならない。

 

「あーごほんごほん……2人とも、今は気持ちを切り替えた方が良いと思うんだけど」

「「あっ」」

 

 シャルルがわざとらしい咳をしながら、2人の注意を引き戻す。彼女もここで声を掛けるのは勇気がいるだろうと感じてはいたが、非常事態の最中にいつまでも2人だけの世界を作られていても困るので『仕方なく』声を掛けることにした。

 そも、実際困る話なのでシャルルには何の非もない。身の危険性的にも、恋敵の危険性的にも。私的な理由が混ざっていることは言ってあげないお約束である。

 

 シャルルの言葉で我に返る2人。

 箒は一夏の両肩から手を離すと一緒に近づけていた身体も離し、一夏も箒が離れた後に気まずそうに頬を掻いて雰囲気を濁し出す。

 

「う、うむ。そうであったな。今は緊急事態であった」

「そ、そうそう!何とかしないといけないよな!」

「むー……」

 

 ジト目で2人を睨みつけるシャルル。しかし、いつまでも和んだ雰囲気でいられるわけにもいかないため、この場での言葉の追及は控えることにした。

 

 そして、3人の纏う空気が真剣なものへと戻る。

 

「で、実際問題どうしようか?流石にグレネード一発で倒せているとはとても思えないし、現に煙の中のIS反応はまだ残ってるよ」

「そんなの決まってるだろ?俺たちであの黒いのをぶっ飛ばして……」

「中にいるラウラを助ける。それだけだ」

 

 ハッキリとそう言ってみせる、一夏と箒。その様子には一切の迷いも感じられない。

 

 それを何となく予想出来ていたシャルルは、彼らの返答を聞いて小さく溜め息をつく。

 

「一夏はそう言うと思ったよ。箒まで乗り気になってるのはちょっと意外だったけど」

「ラウラは私のペア相手だからな、助けるのは当然だ。……いや、例えペアであろうとなかろうとも、私はあいつを助けたい」

「そっか……けど僕らがあのISと戦うなんて、山田先生とかが黙っては……うわ」

 

 突然シャルルが妙な声を上げたため、一夏たちは不思議そうな顔をしながらシャルルの方に顔を向ける。

 

「ん、どうかしたか?」

「いや、その……さっきのバタバタで気付かなかったけど、山田先生からの通信が何件も入ってたみたい」

「あ、俺もだ」

「……私も」

 

 3人の通信要請履歴には、管制室という文字が2桁に届きそうなくらいにズラリと並んでいた。管制室で機器の取り扱いをしているのは山田先生のため、つまり彼女からの通信である。

 教員部隊がアリーナにやってきた直後に山田先生から現場からの避難指示を通信で受け取っていたのだが、状況が状況だったためその後の通信を受け取る暇が無く、加えて忘れてしまっていたためこのようなことになってしまっているのだ。

 

 山田先生が涙目になりながら此方の通信受け取りを待っている姿が、3人の脳裏に容易に想像できた。

 流石に事実に気付いた上で無視するわけにも行かず、代表として一夏が管制室に通信を行うことにした。

 

『織斑くぅん……せんせぇ、ずっと待ってたんでずよぉ~……』

「……えっと、すいませんでした」

 

 開始早々に一夏の耳に届いたのは、涙声になってしまっている山田先生の声だった。

 向こうが通信を受け取ってくれるまでの数秒間に嫌な生々しさを感じたのを、3人は心の内で思うのであった。

 

『ぐす……いえ、いいんです。こうして通信を返してくれただけでも有難いですから……それはともかく織斑くん、早く避難の方をお願いします。第2の制圧部隊を編成するのにまだ時間が掛かるので、織斑君たちがアリーナから脱出次第ピット・ゲートを封鎖して部隊到着まで時間を稼ぎますので』

「……いえ、俺たちがアレを倒します」

『織斑くん!?何を言って……あれ、前にもこんなやり取りがあったような』

「すいません、通信を切ります」

『え、ちょっと待って織斑く―――』

 

 山田先生の必死な声が、プツリと途切れる。

 

 それから間もなく、箒の打鉄に通信が届く。

 通信相手が誰なのか、名前を見ずに予想するのが容易いと思いながら彼女は通信を取る。

 

『し、篠ノ之さん!織斑くんを止めて下さい!』

「いえ、私も一夏と共にアレと戦うので」

『篠ノ之さん!?あなたまで何を言ってるんですか!?』

「アレがこのまま私たちを大人しく逃げさせてくれるとは思えませんし、ゲートを閉じ込めたところであの武装の破壊力では突破されるのも時間の問題です。そうなればゲートから外に出て、一般生徒たちに危険を齎す可能性があります」

『そ、それはそうかもしれませんけど……』

「すみませんが、私も通信を切ります」

『え、ちょ―――』

 

 再度、山田先生の声が途切れる。

 

 それから少しして、シャルルのリヴァイヴに通信が入る。箒の通信後に生じた数秒間がまた生々しかった。

 シャルルは通信越しの相手の表情すら容易に予想できると思いながら、通信を取る。

 

 案の定、最初に通信に入ってきたのは啜り泣きであった。

 

『えぐ、ぐす……デュノアくぅん……』

「えっと、元気出してください先生。先生は何も悪くありませんから」

『ですよね……?先生、何も悪くないですよね……?』

「取り敢えず、2人があんな感じで僕1人が逃げても状況を悪くするだけの筈なので、僕も逃げずに補佐に回ります」

『いや、あの、補佐とかじゃなくて2人に逃げるよう説得して―――』

「ごめんなさい、僕も通信を切ります」

『え―――』

 

 2度あることは3度ある。

 その後は3人とも受信機能をオフにしたため、山田先生からの通信が届くことは無い。尤も、当の本人は意気消沈してしまっているので実は大して意味が無かったりするのだが。

 

 山田先生との通信を終えた3人は改めて黒いISのいる方向へと向き直す。

 グレネードの爆発で生じた砂塵は既に晴れ、その中心では破損した様子もなく立っている敵の姿があった。彼らの予想通り、グレネードの一撃で倒れてはくれないようである。

 頭部の赤いラインアイ・センサーが真っ直ぐ此方の方を捉えている。黒いISもまた、本格的に一夏たちを標的と認識したのだろう。

 

「さて……2人とも、準備は良いか?」

「無論だ」

「大丈夫だよ」

 

 一夏の問いに、箒とシャルルは揃って頷く。

 

 全員の覚悟が整った事を把握した一夏も彼らに続くように頷くと、雪片弐型を確りと構える。隣に並び立つ2人も、それぞれの得意な得物を呼び出して臨戦態勢を万全にする。

 

「……行くぞっ!!」

 

 

 

―――続く―――

 

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