篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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ボーイズトーク&ガールズトーク

 

 老舗の旅館というのは、料理も美味しければお風呂も絶品のようだ。

 私と一夏少年は女子組を部屋に残して2人、もとい1人と1匹で露天風呂に入りに来たのだが、これまた学園の大浴場を上回りかねない程の湯心地。天然の温泉を引いているだけあってその違いが肌で直接感じられる程であり、温度も上手く調整されている。

 

 一夏少年はそのまま湯船に、私はいつも通り桶にお湯を溜めてその中に身体を浸けている。学園での大浴場と同じスタイルだね。

 

「あ~……やっぱり温泉は最高だぁ……」

≪それには同感だけど、ちょっと発言が爺臭いんじゃない?歳的に私が言う台詞だよソレ≫

「いやいや、風呂好きなら誰でも絶対こう言うって……俺はこういう時日本人に生まれてきて良かったと心から思えるね、ほんと」

 

 そう言って一夏少年は更に湯船に身体を沈める。その表情は蕩けるという言葉が良く似合うほどに緩んでしまっている。最近は代表候補生の子たちとの差を縮める為に勉強も訓練も一生懸命頑張っている彼にとって、この温泉は大変良い薬となってくれるだろう。疲れた体にはお風呂は効果的だからね。

 

≪それで少年、最近の頑張りの成果はどんな感じだい?自分自身から見て≫

「成果……ああ、勉強とかの事だろ?皆の助けのお陰で何とか、って感じだよ。勉強で分からない事があったら教えてくれるし、訓練にも皆付き合ってくれるしで助けられっぱなしさ」

 

 勉学はセシリア姫を中心に行い、難しい個所はシャルが分かりやすくレクチャー。予習も勿論欠かさず行う。

 訓練は近接戦メインとなる箒ちゃんと鈴子ちゃんが相手として代わりばんこに試合を行い、とにかく実戦を重ねていく方針。

 ラウラちゃんが総監督として成長具合を把握し、一夏少年のレベルに見合った訓練メニューを構成……というのがここ最近で出来た一夏少年強化計画の基本的な流れだ。

 

 かなり内容が詰まった訓練内容だが、これも一夏少年が望んで進んだ道だ。

 VTシステムの一件以降、一夏少年は今まで以上に学業や鍛錬に取り組む様になった。学年別トーナメントでシャルと組んでいた時はシャルが自身に合わせて連携を取っていてくれていた事を彼は自覚していた。次、一緒に戦う時はちゃんとお互いの背中を預けられるような立ち位置でありたいと以前私に語っていた。

 そしてそれ以上に、千冬嬢の姿を模ったあの存在の事がある。あのような物が造られている事を知り、次に現れても必ず倒せるように強くなりたいという顕れなのだろう。

 強さに固執するケースは大抵間違った方向に進みがちだけど……今の所は大丈夫そうだから、私から釘を刺す必要はなさそうだ。

 

≪ははは、若いというのは良いものだねえ。目指すべき場所に向かって頑張って進む姿は年寄りには眩しい光景だよ≫

「出た、テオの年寄り発言」

≪実際年寄りだもの。私も若い頃はブイブイ言わせてたんだけどねえ≫

 

 あー、と一夏少年は昔の出来事を思い出し始める。

 

「そう言えば、テオってよく他の猫を付れて歩いてたっけか。学校の帰り道とか剣道場の帰り道とかで見たな」

≪あれ、全部メスだったよ≫

「マジで!?」

 

 一夏少年の驚きに合わせて、ザバァと湯船の中のお湯が波打つ。

 

≪こう見えて若い頃はモテていてね……よく他のメス猫たちから人間社会でいう交際を求められていたんだよ。箒ちゃんや君の世話があったから、丁重にお断りしたけど。近くの動物団体では『兄貴と慕いたいオス№1』『将来大物になりそうなオス№1』等を連冠した事もあるからね≫

「マジで!?っていうか動物団体って何!?しかもそんなグランプリみたいな事やってんの!?」

≪まぁ町内会みたいなものだよ。猫に犬に狸に狐、馬に猪に熊にとバラエティ豊富な顔ぶれだよ≫

「ちょっと待って、後半のラインナップがおかしい」

 

 え?どこかおかしかった?

 ちなみに、さっきは言わなかったけど鳥、魚、虫系の子たちも一部参加している。私の翻訳機は、53万語収録です。

 

「馬はどこからやって来た?」

≪近くの乗馬クラブ場から≫

「猪はっ?」

≪近くの森から≫

「熊は!?」

≪近くの家から≫

「クマァァァァ!!」

 

 突然騒ぎ出して、一体どうしたのだろうか一夏少年は。

 

「いや最後のは絶対嘘だろ!?」

≪いやいや少年、この世にはハチミツ大好きな黄色い熊やテレビの世界に住んでるクマやイメージキャラクターとして九州で働いてる熊もいるっていう話だから、普通に民家で暮らしてる熊が居てもおかしくないと思わないかい?≫

「いや、ねーよ!?この世のどこを探してもねーよ!」

≪ちなみに今の話は団体に参加してる熊の話で、会長も務めてるよ≫

「クマァァァァ!!」

 

 とは言え、箒ちゃんと一緒に引っ越ししてからは生存報告がてらに一回しか顔見せてないからねぇ……今度の夏休みに久々に行ってみるとしようかな。

 

≪今度の夏休みには一夏少年も集会に参加させてあげるよ。昔は少年の話題も出したことあるし、男性操縦者のニュースもあったから誰かしら知ってくれてると思うよ≫

「いや、めちゃくちゃ気になる会だけど……俺が参加しても大丈夫なの?特に熊とか」

≪大丈夫だよ。…………タブンネ≫

「クマァァァァ!!」

 

 いやぁ、夏休みの楽しみがまた一つ増えたね。

 

 

 

◇    ◇

 

 場所は変わって、千冬たちの宿部屋。

 

 箒と、彼女を連れてきたシャルが戻ってきて部屋の中には合計6人。

 何故連れてこられたのか分からず困惑気味の箒。覗き見がバレてこれから絞られる事を怖れているセシリア、鈴、シャルの3人。これからなにか始まるのかと、興味深そうにしているラウラ。

 そして彼女らの前で悠然と座している、千冬。

 

「部屋で寛いでる所を悪いな、篠ノ之」

「いえ、それは構いませんが……この3人は何故顔色が青くなっているんですか?」

「もうだめだぁ……おしまいだぁ……!」

「殺される……みんな、殺される……!」

「勝てっこない……織斑先生は伝説のスーパー地球人なんだ……」

「誰がスーパー地球人だ」

「いえ、寧ろ教官にこそ相応しい称号かと!」

「そんな称号要らん。お前等、別に今日の所はしばくつもりはないから安心しろ」

 

 千冬の言葉を聞いて、取り敢えず安堵の息を吐くセシリアたち。しかし彼女の言葉に一部不穏な部分があったような気がして、3人一斉に『ん?』と首を傾げる。

 それに気づく前に、千冬が次の言葉を掛けて場の流れを切ってみせる。

 

「取り敢えず、折角部屋に来たのにもてなしが無いのは無粋だな。鈴音、何か希望はあるか?」

「え?えっと……」

「ま、適当に持って来よう」

 

 そう言って千冬は席を立つと、備え付けの冷蔵庫を開けて中を探り始める。どうやら事前に彼女の方で用意して来たらしい。

 そして千冬は、持ってきた飲み物を彼女たちの前に次々と置いていく。

 

「せんぶり茶、ドクターペッパー、生茶・スパークリング、エスプレッソソーダ、メッコール。さぁ好きなのを選べ」

『選べるかぁ!!』

 

 ラウラ以外の4人の少女のツッコミが1つに重なった瞬間である。

 

「何ですかこの悪意100%に満ちたラインナップ!?絶対嫌がらせでしょう!」

「やっぱり盗み聞きの件怒ってるんじゃないですかやだー!」

「近場の販売店で叩き売りされているのを買っただけだ。どれも10円で買えてお得だろう?」

「10円なら安いですねやったー……なんて言えませんよこの惨状!」

「唯一マシなのが好みを分けるドクぺって、これ絶対イカンやつでしょ」

 

 口々に眼前の飲料水への苦情を零していく面々の中、世間の常識に疎い為それらの飲料水の味を知らないラウラだけは、不思議そうにそれらの飲み物を手に取りつつ眺めている。

 

「外見は特に問題なさそうだが、そんなに言う程不味いのか?」

「あたしの知り合いが興味本位で飲んだヤツもあるけど、あまりの不味さにガチ泣きしたわよ。捨てられない性分だから、全部飲み切ってた」

「うわぁ……まぁネットでも酷評ばかりだもんね、どれも」

「ふむ……私は軍で用意された飲料水しか知らなかったが、世の中にはこのような飲み物が……」

「あの、ラウラさん?顔が『飲んでみよう』と物語っていますが、止めた方が賢明ですわよ」

「いかんのか?」

『いかんでしょ』

 

 結局、それらは冷蔵庫に再び収められ別の飲み物が用意されることに。今度はお茶やジュース類等なので、味の心配はしなくても良いだろう。

 

「まったく、もてなしの品を突き返すとは贅沢者共め」

「では先ほどの飲み物は千冬さんに全て譲りますので、遠慮無く飲んでください。元々先生の物ですが」

「……さて、お前たちも気にせず飲め飲め」

 

 箒の冷静な切込み発言を、千冬は聞かなかったことにしてスルー。

 彼女に勧められて5人はそれぞれが選んだ飲み物を順次口にしていく。

 

「……本当に飲んでしまったのか?」

「えっ!?」

「なに!?これも実は毒物!?」

「えっ?何?何が起こるの!?」

「成程。教官、これは毒物耐性を付与する為の訓練だったのですね!」

「アンタはブレないなおい」

 

 口々に不安などを発する中、ラウラと同様普段通りの冷静さを保っていた箒は、呆れた様子で千冬をジト目する。

 

「千冬さん……悪ノリが過ぎるのでその辺りにしてあげて下さい」

「おや篠ノ之、お前も飲んだクチだろう?慌てないのか?」

「慌てるも何も、貴女の後ろの物の為の口封じか何かじゃないですか?勿論、私たちの飲み物には何も入っていないでしょうし」

「やれやれ……テオが絡んでる所為か、からかい辛くなったなお前も。私への呼び方からして、公私の分け方も見抜いているようだしな」

 

 観念したように千冬は肩を竦めると、皆に飲み物を渡し直す際に後ろに隠していた物を手に持った。それは、500mlの缶ビールであった。

 千冬はそれのプルタブをプシュッと音を立てながら開けると、景気良くそれを飲み始める。

 

「んく……ぷはぁ。やはりコイツの味は格別だな、一夏につまみを作らせておくべきだったか」

「お、織斑先生?何だか普通にビール飲んでますけど、時間的にまだ勤務中扱いなんじゃ……?」

「固い事を言うなオルコット。それに先ほど篠ノ之……まぁ箒で良いか。箒が言ったように、口止め料はちゃんと払っておいた筈だぞ?」

「あっ」

 

 その言葉で事の真意に気付いたセシリアが、手に持っていた飲み物の方に視線を向ける。鈴やシャルロットも、同様に気付いて同じくそれぞれの飲み物を見やった。

 

「っていうか箒、アンタ気付いてたなら教えなさいよ。変に慌てたじゃないの」

「いや、誰かしら気付いていると思って一応黙ってたのだが……それについてはすまなかった」

「教官の真意に気付いていたとは、流石はお姉ちゃんだ!」

「ラウラが純粋過ぎて同じ義姉妹の僕は嬉しいよ……」

「ま、そういう訳でお前たちも気にせず飲め。ここから先は男入らずのガールズトークと行こうじゃないか」

 

 そう言いながら千冬は、一本目のビール缶を空にすると、2本目を開けて口にする。

 

「お前等、あいつのどの辺に惚れた?」

 

 あいつ、の示す人物はこの学園においてたった1人。

 それぞれの乙女たちの想い人、織斑一夏の事だ。

 

 問われた彼女たちは、各々顔を赤らめたり恥ずかしそうにしながらも

 

「あたしはまぁ、腐れ縁が続いたというか……昔の恩があったからというか」

 

 鈴は視線を泳がせながら、言葉を尻すぼみにさせてそう告白する。手に持っている飲み物のボトルを世話無く弄りつつ。

 

「わたくしはそう……あの、あれですわ。男性は強くある事が理想だと思いますし……クラス代表として、しっかりして欲しい旨もありますので!」

 

 セシリアは発言が探り探り不安定な状態から一転、それらしい言葉が見つかってズバッとハッキリ言って見せた。そっちは建前でしかないのだが。

 

「僕は……男装していた時に傍で助けてもらって、その優しさに……ですね。あの時、凄く安心できましたから」

 

 勿論お父さんにも助けてもらって感謝してます、と言葉を足して、シャルロットは発言を終了させる。顔は赤いが、その笑顔は素直な気持ちを告げる事が出来て満足気である。

 

 ここまでの少女たちの返答を聞いた千冬は、面白げに3人の顔を眺めやる。

 

「ふーん、ほーう、なるほどなぁ……」

「あの、織斑先生。あいつには言わないで下さいよ」

「あぁ分かってる。前向きな姿勢で善処出来るよう検討しておく」

「それ絶対にバラすやつですわよね!?本当に止めて下さい!」

「はっはっは」

「笑って誤魔化しても駄目ですよ!?」

「分かってる分かってる。流石にその辺りに首を突っ込むほど、私も野暮じゃないさ」

 

 楽しげにそう言って、千冬は残りのビールをグッと呷る。2本目がその時点で飲み干される。

 

「確かラウラは、あいつに惚れてるわけでは無かったな」

「はい。確かに救出された恩義はありますが、恋沙汰になる程の事では無かったかと。そも、私には恋沙汰自体が縁の無い話と言えましょうが」

「っかぁ……お前はホント、あぁもうホント勿体ない考え方だな。っかぁ……」

「も、勿体無い……ですか?」

「お前はまだ15だぞ?身長も乳も発展途上のガキなんだぞ?そんな奴が自分から青春を捨てるような事言ったらそう思いたくもなるだろう。もっとこう、自分から男を狙う様にしてみたらどうだ。大抵の男はお前レベルの女ならコロッといってしまうぞ?」

「男を、ですか……」

 

 ラウラは千冬の言葉を自分なりに整理する。

 男を狙う、というのは紛れも無くそのままの意味と捉えて良いだろう。自身は軍人の為、一般男性程度なら彼女の言う様に一瞬で撃破する事も可能だろうから、つまりはそういう事なのだろう……と。

 

 そこでラウラは答えを導き出した。

 青春とは、異性を次々に叩きのめす事なのだと。

 

「解りました教官。此度の林間学校の終了次第、近街の一般男性を可能な限り叩き伏せて参ります!」

「違う、そうじゃない」

 

 ラウラが恋心を覚えるのは、まだまだ先の話らしい。

 

 そして残る人物は、箒1人となった。

 

「さて、最後はお前だが箒……一応確認なんだが、お前はホントにあいつに惚れてるのか?」

「と、言いますと?」

「他の連中に比べて、随分と控えめな印象があるからな……他の連中もベタベタし過ぎない距離感を取ってはいるものの、やはりそれらと比べてもそう感じてしまうぞ」

 

 千冬の推察に同感を得たのか、箒以外の少女たちもウンウンと頷き出す。

 

「確かに、箒さんはどこか一線置いたような立ち振る舞いですわね……」

「僕たちで何かする時も、お父さんやラウラや僕と組む機会が多いよね」

「ひょっとして、強者の余裕ってやつ?この間の買い物も自分だけ一夏と2人っきりになってたし……あんた、何か秘策でも隠してるの!?」

「い、いや決してそのような物は……というか前日の買い物は特に疚しい事はないと説明しただろうに」

 

 ふぅ、と息を吐いた箒は先程の千冬の問いに答えるべく、その口を開いた。

 

「結論から言いますと、私は一夏の事はちゃんと好いています。それは小学校で一緒だった頃から変わっていません」

「ならば、もっとあいつにアピールすれば良いだろうに。何を遠慮する必要がある?」

「遠慮……確かに、その通りかもしれませんね」

 

 箒は自分の分の緑茶を一口呷り、喉を水分で潤し直す。

 

「ハッキリ言ってしまうと、今の時点で一夏に無理に強気なアピールをしても、あまり意味が無いのではと思っています」

「何故だ?」

「セシリアについては、クラス代表を決める際には敵視しその後は一転して親身に接しているのに、察しが付いていない。鈴には中学の頃には既にプロポーズされ、対抗戦以降にその意味を勘づけた筈なのに、本人の否定があったとはいえ追求無し。シャルロットに関しては、混浴をしたというのにあいつはその後も強く意識するような傾向がありません。普通ならば顔を合わせる度に気まずくなる筈だというのに、です」

 

 箒の言葉を聞いていた3人の少女、1人は過去の自分の黒歴史を思い出して遠い目になり、1人は何故自分はあの時誤魔化したのかと嘆き、1人は当時の出来事を思い出して赤くなった頬を両手で隠すように覆う。

 

「だからこそ、ですかね。私は……怖れているんです」

「怖れる?何にだ?」

「もし私があいつに好きだと伝えて、あいつがその気持ちに応えなかった時がです」

 

 箒の言葉に思う所があったのか、現在進行形で恋している他の3名はその言葉を聞いてピクリと肩を震わせる。

 

 千冬も先程までハイペースで飲んでいた酒を止めて、箒の話に耳を傾けている。

 

「……確かにあの馬鹿は極めつけの鈍感だが、告白すれば良い返事をしてくれると思うぞ」

「そうかもしれません。あいつは昔から優しい奴ですから、幼馴染みと言う間柄であっても受け入れてくれるかもしれません。ですが、そんな大事な事を優しさで受け入れられてしまっては、お互いに意味が無いとも最近になって思い至ったんです。私にとっても、一夏にとっても」

 

 一夏も箒たちも、まだ15年しか人生を生きていない。高校生活もまだ3分の1すら経っていないし、社会人として世間に進出するのも数年先の話である。結婚も現実的に見てもお互いに18歳以上でなければならない。

 だからこそ、箒は思った。

 自身はこの15年の間で好きな人が出来た。だがしかし、想い人で一夏はどうなのだろう、と。

 彼は恋愛に関しては鈍感という言葉でも生温いレベルの鈍さだ。その理由の1つは間違いなく、現在に至るまで異性として好きな女性に出会った事が無いからだろう。自身が恋をした事があるのなら、経験を基に周囲の恋心にも少しは察しが付くはずだから。

 ならばこの先、彼が異性として好きになる女性と出会う機会があるかもしれない。

 

 その可能性を潰してまで、一夏と恋人同士になる必要はあるのか?

 それは果たして、彼の為になるのか?

 

 いつしか箒は、そのように考え付いたのだ。

 真に誰かを好きになるという事、それは……。

 

「だから一夏本人が好きだと思える女性が現れたのであれば、私はそれを応援してやりたいと思います。そしてその相手が現れるまでは、私も過度なアピールはせずにありのままの自分であいつと関わっていくつもりです。あいつの恋路に土足で踏み入るのは、私があいつの想い人と同じ立場に立てば嫌に感じるでしょうから。……結局の所、私が本当に尊重すべきなのは一夏の幸せだと思っています」

 

 相手の意思を尊重し、相手の幸せを願う。

 それが、箒が現時点で導き出した答えなのだ。

 

「……なんて、告白を断られるのを怖がっている者が言えた台詞ではないですね。今のは忘れてくださ……皆で何をやっているんですか?」

 

 箒が気付いた時には、話す相手の対象になっていた千冬はその場におらず、箒以外の少女たちと円を組む様に部屋の隅に移動していた。今回はその輪の中にラウラも加わっている。

 

「おい、あいつの精神年齢は何歳だ?恋愛の価値観が完全に私くらいの年代になってるぞ。とても15歳の台詞とは思えん」

「わ、分かりませんわ……わたくしも以前テオおじ様から恋愛のレクチャーを受けましたが、箒さんがここまで達観しているとは……振る舞いが淑女過ぎて眩しいですわ」

「というか、あんな考え持たれたらあたしの恋が凄い子供っぽくなっちゃうじゃない!否定し辛いのが、また!」

「あ、あれはあくまで個人の考え方の1つだから、そんなに自棄にならなくても大丈夫だと思うよ?……僕も見習わなきゃとは思ったけど」

「私は知っているぞ、あれが日本で言われている大和撫子というものなのだろう?『やはり大和撫子はギャルゲーでも安定した人気キャラみたいですね』とクラリッサが話していたのを記憶している」

 

 わいのわいの、と千冬たちは忙しなく密談に夢中の様である。

 

 1人だけ不参加状態の箒は、取り敢えず緑茶を飲み干して、ポツリと独り言をつぶやいた。

 

「……どうしたものか」

 

 こうして、1日目の夜は更けていったのであった。

 

 

 

―――続く―――

 




 前中半はギャグ路線からの、後編は恋愛ガチトーク。
 もはや箒が『誰だお前は!?スパイダーマッ! テーテッテー』レベルで成長しきってますね。これも過去の積み重ねが理由なのですが……過去編までもう少し……もう少し……。
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