篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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VS.銀の福音 Part2

「皆、無事か!」

「箒!?何で此処に!?それにその機体は……!」

 

 福音との戦場に現れた箒の姿を見た一夏は、驚かずにはいられなかった。何せ今まで専用機を持っていなかった自身の幼馴染が、突然最新のISをその身に装って駆けつけて来たのだ。

 しかし、戦場でいつまでも立ったままでは命取りとなる。彼の背後の先には、福音の射撃した光弾が目掛けて来ていた。

 

「一夏、危ない!」

「うお!?」

 

 一夏の背中に向けて放たれた光弾は、一瞬で彼の背中に回り込んだ箒の斬撃によって相殺された。正確に言うならば、剣から発せられた波状エネルギーが、迫り来る光弾を無効化させた。

 

 何よりも一夏は、箒もとい紅椿のスピードに驚かされた。無人機でのお披露目を優に超えた速度で、一瞬で距離を詰めて来たのだ。

 

「詳しい話は後だ。それより今は、福音の撃破に専念しなければならない」

「事情も既に把握済みか……ならば話は早い。この場はお姉ちゃんにも力を貸してもらおう」

「ラウラさん、本気ですの!?箒さんは新しい機体に乗ってまた30分すら経っていない筈ですわよ!?」

「今の動き、少なくとも機体性能に手を余らせている様子は見当たらなかった。鈴とシャルロットが間もなく到着するが、それまでに少しでも福音を消耗させ戦局を有利にしておく必要がある。その為にも、連携訓練を共に重ねているお姉ちゃんの力が必要だ」

「確かに、今はおじ様がいないので戦力が多い方が良いですが……」

 

 セシリアも箒の実力は模擬戦や普段の授業を通して把握している。戦績こそ自身に軍配が上がるが、一般生徒よりも鍛錬や勉学に励み、努力を積み重ねている彼女は専用機持ちの一夏よりもずっと良い動きを訓練機で行っている。他の専用機持ちの者達も、箒の実力の高さには一目置いている。

 しかし今は生死を分けた実戦であり、身に纏うISも普段の訓練機とは天と地程の性能差がある最新型。勝手の違う環境に戸惑うのではないかと心配しているのだ。無論、1人の友人としても。

 

 心配するセシリアの方へ、当人である箒から声が掛かってくる。

 

「済まない、セシリア。何の報せも無く来ては迷惑だと、理解しているつもりだ。だがそれでも、私はセシリアの、皆の力になりたいんだ」

「箒さん……」

「邪魔になるような事は決してしない。だから、共に戦わせてくれる事を許してくれないか?」

 

 箒は真っ直ぐにセシリアの目を見ながら、そう頼み込んで来る。いつも以上に真剣な雰囲気が漂った、強い瞳が其処には宿っている。

 

 そんな眼を向けられては、セシリアも許可しない訳にはいかなかった。セシリアもそういった思いには共感できるクチだからだ。

 

「ふぅ……解りましたわ。援護はわたくしが務めますので、貴女は安心して自由に動いて下さいまし」

「セシリア……あぁ、ありがとう」

「私は最初からお姉ちゃんの参戦は大歓迎だぞ、私のお姉ちゃんは頼りになるのだからな!」

 

 ふふん、と自分の事の様に誇らしく胸を張るラウラ。

 

 そんな姿を見た箒とセシリアは、互いに顔を見合わせると一緒になって小さく笑った。

 

「と、言う訳だ。一夏、準備は良いか?」

「……おうっ!やってやろうぜ、箒!」

 

 彼ならば容易に受け入れてくれるだろうと予知していた箒は、セシリアの時の様に許可を貰おうとせず、そのまま彼に臨戦態勢を促す。

 

 案の定、一夏は彼女の言葉に従って雪片弐型を再び握り直した。既に彼は、箒と共に戦うつもりでいるのだ。

 

「ああ。ラウラ、戦闘指揮を継続して頼んだぞ」

「分かった。お姉ちゃん以外の者達は先程同様の行動指針を取る様にしろ。勿論、お姉ちゃんが加わる事を視野に含めてな。お姉ちゃんは近~中距離の範囲を維持して織斑 一夏の福音接近を援護。現時点で取得した情報を紅椿に送るので、隙を見て情報整理をしてくれ。では各員、行動を開始せよ!」

『了解!』

 

 ラウラの言葉と同時に4人がそれぞれの配置に飛んでいった。一夏と箒が敵に突っ込み、ラウラは距離を保ちながら周辺を旋回、セシリアは後方に下がってストライク・ガンナーのスコープに敵機を捉える。

 

『データに無いISの反応を確認。敵対反応と認識し、警戒レベルを維持し迎撃を続行』

「また来たぞ!警戒しろ!」

 

 再び一斉に発射される、銀の鐘と呼ばれる武装による光弾雨。

 

 一発一発が強力な事は把握済みな4人は、当たらないようにそれぞれ大きく旋回行動を取って回避に努める。躱した後も続いて連射された弾が迫って来るので、無事に避けても安心しきれないのが厄介な所だ。

 

 しかし、誰も防衛に回りきりになるつもりは毛頭なかった。そして最初のチャンスが生まれようとしている。

 先ずは最後方に控えているセシリアが、光弾の隙間を縫うようにレーザーライフルによる狙撃を行う。セシリアの攻撃に対して回避行動を取り、光弾の発射を一瞬止めた福音を、続けてラウラがレールカノンによる砲撃で突く。

 セシリアの攻撃は最低限の動作で躱していた福音だが、ラウラの大口径砲弾は事前の回避と相まって、避け切るにはその場から大きく動かざるを得なかった。また、その場に留まれば狙撃されやすいと踏んだのか、2度目の回避に合わせてその場から離脱するように位置を変え始めた。

 

 そしてそこに躍り出たのが、箒であった。

 高速機動を続けている福音以上の速度で箒は肉薄し、敵機体に目掛けて空裂による横薙ぎを見舞った。

 

 福音は彼女の斬撃を紙一重の所で回避する。その動きは何とかギリギリ避けたのではなく、紙一重を狙って避けたのだと感じさせるほどに流麗で余力を残している風であった。

 

 だが、箒の攻撃がそこで途切れる事は無かった。寧ろここからが、彼女の本領発揮の時であった。

 

「いざ、参る!」

 

 続けて雨月による鋭利な刺突攻撃をしつつ、箒は更に間合いを詰めていく。突きは躱されるものの、箒は間合いを詰めながら身体を捻らせ、そのまま回転するような形で空裂による斬撃を放った。

 

 福音はアーム部の近接用ブレードを展開し、箒の剣を防ぐ。ブレード同士の激しい衝突で、両者の間に火花が飛び散る。

 

 そこで箒はすかさず、雨月による突きに加えて雨月の武装エネルギーの開放を行う。それにより、刀の突きと同時に鋭利な形状のエネルギー波が発生するようになり、実体剣とエネルギー波による同時攻撃が福音目掛けて放たれたのだ。

 

『……!』

 

 瞬間、福音は身体を硬直させ、一歩遅れる形で箒の突きをもう片方のアームブレードで防御。しかしエネルギー波の方は防ぎ切る事が出来ないと判断し、直撃を免れるために彼女との鍔迫り合いを止めて射線上から離れるように急遽退避。結果、避け切る事は出来ず、攻撃が僅かに命中してシールドバリアーの発生とシールドエネルギーの減少を齎した。

 

「セシリア、行くぞ!」

「ええ!」

 

 追い打ちに、セシリアとラウラによる射撃が行われる。福音よりも更に上の高度に位置取りをしていた両者は、海面に近い位置で飛行する福音にそれぞれ遠距離武器による攻撃を仕掛けたのだ。

 

 福音はそれらをすかさず避けると、高度を取るべく空に向けて浮上を始める。しかしその行動及び軌道こそ、2人の狙い通りであった。

 

 態勢を整えるべく備えを施そうとする福音に対し、上空から飛来する一体の影。

 それは太陽を背に、白光する刃を携えた一夏が福音目掛けて勢いよく斬りかかっていく姿だった。【瞬時加速(イグニッション・ブースト)】による超スピードと、白式のワンオフ・アビリティー【零落白夜】による一撃必殺の技で、福音を確実に仕留めようとここで仕掛けたのだ。

 

 これで決まった。そう確信した一夏。

 だが、現実はそう上手く事を運んでくれなかった。

 

 福音は先程箒の斬撃を避けた時よりも更に精密な、それこそ数ミリレベルの精度で一夏の刀を避けてみせたのだ。掠っただけでも致命傷がウリの零落白夜だが、カス当たりさえしなければダメージは0だ。

 

「この……ぐぁっ!?」

 

 追撃を仕掛けようと反転する一夏だが、その瞬間を見計らった福音による蹴りを腹に受け、海に向かって飛ばされる。絶対防御とシールドバリアーが搭乗者の身を守ってくれるとはいえ、その衝撃はかなりのものである。

 一夏は海面に叩き付けられる前に体勢を持ち直し、海面に沿うように飛行転換、その後に浮上を行った。

 

 復帰を果たした一夏の元に、他の3人によるオープン・チャネルが飛んでくる。

 

「大丈夫か、一夏!」

「ああ、何とかな。……悪い、折角のチャンスだったのに決められなかった」

「……悔やんだ所で、状況は変わらん。次の機会では決められる様に……気を一層引き締めておけ」

「ラウラさんの言う通りですわ、一夏さん。わたくしたちも精一杯フォローしますので、次こそは成功させましょう!」

「気合を入れろよ、一夏。ところで皆、エネルギーの残量はどうだ?」

 

 箒の言葉により、各員がステータスチェックで自身のISのシールドエネルギーの残量を確認していく。

 箒は残り48%、ラウラは残り70%、セシリアは残り72%、そして一夏は残り24%であった。高機動戦闘という事もあって、全員被弾無しでもエネルギーの消耗が激しかった。特に紅椿の機体特性である展開装甲による燃費の悪さで、箒は最後に戦闘に加わったのにも関わらずラウラたちよりも残量が少なく、一夏に至っては零落白夜と瞬時加速の併用によって最も多く消耗している。それらを使えるのも、それぞれあと1回が限界だろう。

 それぞれのシールドエネルギーを把握した4人は、苦い表情を浮かべ合う。

 

「くっ……皆予想以上に消耗しているな」

「ですが、敵機体の情報を詳しく得られました。これならば、鈴さんとシャルロットさんは万全の状態で臨む事が出来るでしょう」

「あぁ。一夏、我々は2人が来るまで無理に攻勢に出ず、回避に徹して――」

「いや、まだだ」

 

 箒の提案を、一夏は遮った。

 そして彼は胸に抱く一つの案を皆に投げ掛けた。

 

「2人が来るまでに、俺たちであいつを倒そう」

「一夏さんっ、それは――」

「かなり無茶なのは分かってる。だけど俺の白式の燃費じゃ、回避にだけ専念しても鈴たちが到着してからじゃ零落白夜も瞬時加速も使えない状態になってる筈だ。福音はあんだけ動いて消耗が少ないみたいだし、このままじゃ2人が加わってもジリ貧になっちまって、勝つ見込みがどんどん薄くなる」

「……故に、お前が切り札を使える今の内に、敵機を撃破するべきだと……?」

「ああ。さっきはかなり惜しい所まで追い詰めたんだ。今度こそいける筈だ」

 

 一夏の提案は、博打にも等しい選択であった。

 ラウラもセシリアも堅実を好む傾向にある為、その案には渋るものがあった。確かにこのまま長期戦に入っても離脱者が増えて此方の不利が続いてしまう。確率の低い形勢逆転の策を取るか、確率の低い戦闘維持の方針を取るか。

 

「それにラウラ。お前、息がかなり上がってきてるぞ。やっぱキツいんだろ、それ」

「……!」

 

 ラウラは一夏に指摘された個所、自身の左目に手を覆う様に添えた。

 彼女の瞳、ヴォーダン・オージェは疑似ハイパーセンサーの役割を担っており、以前は身体が拒否反応を起こしてその役割を発揮できなかった彼女だが、今は完全にコントロール出来ている。しかし、高速機動パッケージの代用とするにはかなり負担が大きく、ラウラの体力は脳への負荷で大幅に消耗している状況にある。シールドエネルギーはあっても、本人には余裕が無くなってきているのだ。

 

 ここで箒が、そんなラウラに対して声を掛けてきた。

 

「ラウラ。一夏の作戦に乗ってみないか?」

「お姉ちゃん……」

「私が一夏の傍に回り、援護をする。必ずあいつにチャンスを作ってみせる。私とあいつを信じてくれ。……お前にこれ以上、無茶はさせられないからな」

「…………」

 

 この場の指揮官であるラウラは箒の言葉も耳に入れ、そして決断を下した。

 

「……了解した。セシリア、思う所もあるとは思うが……」

「いいえ、構いませんわ。貴女が身を削ってでも尽くしている様に、わたくしもこの瞬間に全てを注ぎます」

「よし……各員、行くぞっ!」

 

 

 

―――La……♪

 

 

 

 そしてついに、その時が訪れた。

 福音が銀の鐘に備えた36の砲口を全て開き、これまでとは比べ物にならない量の光弾を周囲に向けてばら撒いた。傍から見たそれは、まるで空に浮かぶ花火の様であった。

 

 全員を纏めて始末しに掛かってきているその攻勢を、箒は果敢に攻め込んだ。光の驟雨に自ら突っ込み、紙一重で躱し続けて福音との距離を詰めていったのだ。先程、彼女の斬撃を巧みに躱した事に対する意趣返しの様な形へと意図せずになっていた。

 そして箒は、再び福音の懐へと潜り込んだ。

 

「決めさせてもらうぞ、銀の福音っ!」

 

 両者の刃がぶつかり合う。更にお互いに高機動を行いながら剣劇を繰り広げていく。獲物同士の衝突音が絶え間無く発生した。

 再び福音が光弾を一斉掃射。だが箒が瞬時に光弾の死角へ位置を取った事によって、すかさず斬撃が放たれる。確実なダメージと共に、斬撃で仰け反る福音。

 

 待ち望んでいた、絶好の機会。

 一夏は怯む福音の近くに位置しており、瞬時加速で距離を詰めれば、間違いなく雪片弐型の刃が届く。

 

「っ!」

 

 一夏は最大出力で一気に加速し、刀を構えながら福音との距離を瞬時に詰めた。

 そして、彼は―――。

 

 

 

 

 

 福音の真横を、通り過ぎた。

 

 その瞬間を目の当たりにした3人は、驚愕の表情を浮かべる。

 

「うおおおっ!!」

 

 福音を通り越した一夏は、一発の光弾に追いついてそれに斬りかかった。零落白夜のエネルギー無効化により、光弾が掻き消される。

 掻き消した光弾の射線上には、一隻の船が航行していた。

 

「何故だ、織斑 一夏!!何故折角の機会を捨てたんだっ!!」

「船があるんだ!先生たちが海上を封鎖した筈なのに、なんで……くそっ!」

「密漁船か……!こんな時に……!」

 

 全員の視線が、船の方に集中する。この場に居てはならない存在が最大のチャンスを失わせたこともあり、その瞳に籠る感情は快くない。

 過日、この場にはいないがテオが一夏の性分を以下の様に分析していた。『良くも悪くも、彼は守る対象が非常に多い』と。例え犯罪者であっても、見殺しにする事を一夏は許す事が出来なかった。

 そして今、その心は間違いなく悪い方へと状況を傾けていた。

 

「っ!エネルギー切れ……!」

 

 白式のシールドエネルギーが、今ので殆ど無くなってしまった。絶対防御分のエネルギーは確保されているだろうが、残りはISの展開と浮上、最低限の動作しか出来ない程度の絞り粕レベルしか無い。

 

 そして福音は、無情にも無防備の一夏に照準を定め、追い打ちとばかりに大量の砲口から光弾を発射した。シールドバリアーを展開できないISに残された防御手段は、絶対防御システムとボディアーマーのみ。

 

(最後の最後でやっちまったな……皆、ごめん)

 

 あらゆる角度から迫り来る砲撃に観念した一夏は、目を瞑る。満足な動作も行えない現状では何も出来ないと判断し、抵抗を諦めたのだ。

 作戦をふいにしてしまった事を詫び、彼はこれから起こる衝撃に備えた。

 

 だが、彼女は諦めていなかった。彼の幼馴染である篠ノ之 箒が最後に動きを見せた。

 

「一夏ぁぁぁぁぁ!!」

 

 紅椿を高速機動させ、箒は光弾の群れを追い越し、一夏の元へと辿り着いた。空裂によるエネルギー波で光弾を一層させる術を実行するためのエネルギーも残されていなかった彼女は、最後のエネルギーを振り絞って彼の元に来たのだ。

 

「お前は絶対に、死なせないっ!!」

 

 箒は一夏と光弾の間に割って入ると、守る様に彼の身体を抱き締める。

 

 その瞬間、箒の背中に一発目の光弾が着弾した。激しい爆発と衝撃が箒に襲い掛かる。ポニーテールをしている彼女のリボンが焼け千切れ、彼女の長い黒髪がバサリと靡いた。

 

「が……あ……!」

「箒―――」

 

 一夏が彼女の名を呼ぶと同時に、残りの光弾が箒の身体に直撃し、続けて連鎖爆発。

 ISの機能で相殺しきれない衝撃が何十発と続き、箒の身体に被害を与えていく。肉は悲鳴を上げ、骨は軋み、髪は焼け、肌が熱波に晒される。アーマーは既に破壊されており、精神を破壊される程の激痛が箒の身体に奔り渡る。たった数秒の出来事が、箒には無間地獄のように長大に感じた。

 光弾の衝撃が止んだ直後、箒は力を失い一夏を抱いたまま海へと墜落し始める。意識が殆ど無いにも関わらず、彼女は海面との衝突から一夏を守るかの様に、その腕に力を込めていた。

 

「箒っ!箒っ!!」

 

 箒の腕の中に納まったまま、一夏が懸命に彼女の名を叫ぶ。突然の事態で頭の中が混乱している彼は涙声になりかけていた。

 

 箒は虚ろな目になりながらも、自身の名を呼ぶ一夏の姿を認識する。今にも泣きそうな表情になっている彼の顔を見た彼女は、辛うじて頬を緩ませながら、ポツリポツリと口を動かした。

 

 

 

―――良かった。

 

 

 

 声も出ていなかったが、彼女の唇はその様に動いていた。

 その言葉を告げた瞬間、箒は精一杯の笑顔を一夏に向け、そして意識を失った。

 

「箒ぃっ!!!」

 

 2人はそのまま海面に叩き付けられ、激しい水しぶきをその場に噴き上げた。

 

 一方、福音の攻撃の回避で動作が遅れてしまったセシリアとラウラ。

 ラウラは箒が海に落ちる姿をその瞳に捉えると、血相を変えて彼女たちの元へと飛んでいった。

 

「お姉ちゃんっ!」

「お待ちくださいラウラさん!福音の動きに注意しなければ……えっ?」

 

 セシリアが見たものは、福音がこの場から離れていく後姿であった。まだラウラとセシリアが継続戦闘可能な状態であるにも関わらず、まるで敵は倒したといった印象をセシリアはその姿から感じ取った。

 もしそうだとするのならば……。

 

最大の敵(箒さん)を倒して制圧完了気分になった……であれば、屈辱的ですわね」

 

 クッ、とセシリアは苦々しく唇を噛み締める。

 箒が今作戦でかなりの健闘をしていたのは事実だが、だからと言って自分を眼中に入れないとは腹立たしい。片想いの相手と友人を手に掛けた事も踏まえて、彼女には福音の後姿が余計に憎たらしく思えた。

 

「セシリア!」

「福音は、他の皆はどうしたの!?」

 

 と、ここで後発組の鈴とシャルロットがセシリアの元に駆けつける。2人とも周囲を見渡すが、戦闘も何も起きていないこの状況に驚いている様子。高速機動中はキャパシティオーバー防止の為に通信範囲規制が発生してしまうのがネックで、鈴とシャルロットも旅館から此方に向かう間、高速機動状態にある前線のメンバーと通信が出来ず、近くに来るまで現場の状況を聞く事が出来なかった。

 

「っていうか、箒はどこ行ったの?あいつ専用機に乗ってると思ったらものすごいスピードであたしたちを追い越しちゃったのよ!」

「……箒さんは……」

 

 セシリアは気まずそうに、海上の1点に視線を向ける。他の2人も彼女の向いている方へと顔を向けた。

 彼女たちが向けた先には、身体中がボロボロの箒と彼女を抱きかかえて必死に名を呼んでいる一夏、箒に緊急処置を施しているラウラの姿があった。

 

「箒……?何で、あんな酷い姿に……?」

「福音の攻撃から、一夏さんを庇って……紅椿のエネルギーも底を着いていたらしく、シールドバリアーも発生せず……」

「箒……!!」

 

 鈴以上に動揺したシャルロットが飛び出す様にその場から離れ、彼女たちの元へと向かっていった。彼女も友人として、そして家族として彼女と絆を繋げていた為、そのショックは先に向かったラウラ並に大きかっただろう。

 

「鈴さんも、先に皆さんの所へ行ってあげてくださいまし。ラウラさんもシャルロットさんも箒さんの重傷で混乱しているでしょうから、織斑先生への連絡もお願いしますわ」

「確かに、今はあたしがしっかりしてなきゃ駄目みたいね……アンタはどうすんの?」

「私は少々別件がありますので、そちらを……」

 

 そう言ってセシリアは周囲を見渡す。

 だが、周りには彼女が探していたものは影も形も無かった。

 

「どういう事ですの……?あの時、確かに船はあった筈なのに。姿が見えなくなるまで遠くに行った?いや、この短時間でそんな速力を出せる船など……」

「ちょっとセシリア、何1人でブツブツ言ってんのよ?」

「あ、い、いえ。何でもありませんわ。やはりわたくしも一緒に向かいますわ」

「?まぁ良いけど……取り敢えず千冬さんに連絡、お願いね」

 

 謎の残る点があったが、今は怪我人の救護が先だと結論付けたセシリアは、鈴と共にシャルロットを追いかけるのであった。

 

 

 

 以上が、第一次銀の福音撃墜作戦のあらまし。

 標的は多少のダメージを与えたもののロスト。今作戦の参加者の1人が、瀕死の重傷。

 

 作戦は、失敗した。

 

 

 

―――続く―――

 




 というわけで、今作品で私が書きたかったシーンの1つ(箒が一夏を庇う場面)が書けました。読者の皆様も、今の箒ならこうなるだろうと予測していたのではないでしょうか?その通りでございました。

◇1.通信規制が掛かるなら、出撃順をずらした意味あった?
 ……現場で直ぐに情報を渡す⇒少し離れるor回避しながら渡された情報を閲覧、把握⇒ずらした意味は……あったかな?

◇2.というか、全員で一斉に一時離脱して後続組と合流してから当たれば良かったんじゃ?
 ……ふ、福音がそこで逃げたらこのメンバーではもうアプローチ出来ませんし……(震え声)

◇3.ラウラやセシリアなら後続組といち早く合流できるように福音を誘導する案くらい出したんじゃない?
 ……(俯いて何も答えず)

 以上、今作戦の穴探しでした。色んな意味でボッコボコだよ!
 シールドエネルギーの残量の確認のシーンを書いてる途中で『この作戦の出撃の仕方駄目だったんじゃね?前線消耗しすぎたし鈴とシャルが来てもこれじゃ完全にジリ貧じゃん』と思ったのですが、今まで一夏が白式の高速機動モードを使用した経験が無くてペース配分ミスしたり、敵の攻勢が激しかったりで予定以上の消耗だった+テオ不在で作戦自体が崩れたのが原因と言う事で、頭空っぽにして読んで頂ければ私も救われるかと(逃げの一手)

 福音編が終了したら、一区切りとして設定集を作った方が良いでしょうかね?原作との相違点やオリキャラも何件かありますし、章同士の繋ぎ辺りに。箒のここからの復活の仕方とかも、完全に独自設定が入りますし、

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