篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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決意を新たに

 

 旅館の一室に用意されたベッドの中に、1人の少女が眠りについている。

 少女――箒の身体には至る所に白い包帯が巻かれている。銀の福音の攻撃がISの絶対防御を貫通し、箒の身体を直接傷つけた。地肌よりも包帯の割合が多い事が、その凄惨さを物語っていた。

 福音との戦闘から3時間が経過した現在、彼女は今もベッドで眠り続けている。彼女はISの絶対防御に守られたお陰で死んでいない。だが、今後どういった状態になるか予測がつかないと近隣の医療所の医師が語っていた。

 

「…………」

 

 そんな少女の傍らで控えている一夏は、ずっと項垂れたままだった。他の者達が休めと言っても、彼は頑なにその場を離れようとしなかった。彼の姉である千冬は何も言わず、一夏の好きにさせていた。

 

(俺の所為で、箒は……)

 

 一夏の胸中は、自責の念で溢れ返っていた。箒が重体になったのは自分の所為だと、呪う様に自身を責め続けていた。

 あの時、密漁船とはいえ見逃せなかった一夏は、船を助けた事を悔いてはいなかった。そう、助けた直前『まで』はそう思っていた。

 

(あの時、船を見捨てて福音を倒してれば……)

 

 だが、箒の今の姿を見ていると、本当にそれは正しい事だったのかという疑念が心の中で渦を巻き始めていく。船を助けず、そのまま福音に斬りかかっていればその時点で勝利は確定した、箒も怪我をする事は無かった。

 だが、あの時船を見捨てていたら、船に乗っていた人たちは間違いなく光弾の爆発で全員死んでいただろう。一夏には、その死の事実から目を背ける事が出来なかった。

 

 箒は昔からの幼なじみで、一夏にとって大切な存在だ。もし彼女が危機に陥ったとなれば、一夏は迷わず助けに向かうだろう。一夏にとって箒はそれ程大切だという事だ。一方で密漁船の人たちと一夏は全く面識が無い。顔も声も名前も何も知らない、謂わば赤の他人だ。互いの命を天秤に掛けるならば、重い方に傾くのは箒の命の筈だ。

 

 だが一夏には、異なる命を天秤に掛ける事自体が出来なかった。彼特有の強すぎる正義感が、その行為を素直に良しと出来ずにいる。命の選択という重すぎる取捨を、一夏は受け止めきれずにいたのだ。

 

「どうすりゃよかったんだよ……何が正しくて、何が間違ってるんだよ……」

 

 一夏は頭を抱えて、苦悩を続けていく。その悩みは彼の頭にこびり付いて、答えが見えるまで離れる事は無い。

 ふと、一夏は自身の腕に装着されている、待機形態の白式に目を留める。

 

 

 

―――こいつに乗らなきゃ、もうこんな事考えなくても……。

 

 

 

 彼の中で1つの答えが導き出されようとしていた。

 そんな時、部屋の扉がバンッ、と勢いよく開かれた。一夏はビクリと肩を震わせると、その扉の方を見やる。

 そこに居たのは、一夏にとって2人目の幼馴染である、鈴だった。

 

「ったく。いつまでそうやってウジウジしてんのよ、あんたは」

「鈴……」

 

 入室早々鈴が口にしたのは、一夏に対してキツく当たるような言葉だった。

 彼女はそのまま一夏の隣までやってくると、箒の方を見ながら一夏に対して言葉を続けてきた。

 

「セシリアから大体聞いたわ。あんた、密漁船を助けて折角のチャンスをふいにしたんだって?」

「…………」

 

 彼女の言葉は聞こえているのだろうが、一夏は反応しない。

 

「その辺にも色々言いたい事あるんだけど、まぁ今は置いとくわ。ねぇ、あたしが今一番イラついてる事が何か分かる?」

「…………」

「分かんない?……答えは、これよ」

 

 鈴は言葉が終わると同時に、一夏の方へ素早く向き直すと彼の胸ぐらを思いきり掴んで自身の方に寄せた。

 

 一夏は突然の事で僅かに目を見開いて驚くが、鈴は彼に構わず続ける。

 

「もう一度聞くわよ。あんた、いつまでそこで腐ってるわけ?」

「お、俺は……」

「ラウラも、シャルロットも、セシリアも、皆戦う準備を進めてる。千冬さんからは待機命令を言い渡されてるけど、アタシらは友達がやられたっていうのに呑気に待ってなんていられない。あんたは、どうすんの?」

「俺は……もう、ISには――」

 

 乗らない。

 そう言おうとした一夏であったが、その身体は部屋の床へと吹き飛ばされた。鈴が、一夏の頬を殴り飛ばしたのだ。

 彼女の表情は、今までに無い程の怒りに満ちていた。

 

「あんた……自分が何を言おうとしたか、分かってんの?……ざっけんじゃないわよ!!」

 

 倒れ込む一夏の胸ぐらを再び乱暴に掴むと、強引に彼の上半身を起き上がらせる。一夏の頬は真っ赤に腫れあがっており、口の中を切ったのか、口元から僅かな血が滴っている。

 

「あんた、こいつを受け取ったんでしょ!?確かに望んで手に入れたわけじゃないかもしれない、受け取らざるを得なかったかもしれない。それでもっ!やっぱり怖いから捨てるなんて、そんなガキみたいなワガママが許されると思ってんじゃないわよっ!」

 

 鈴の言う通り、一夏は自ら望んで専用機を得た訳では無い。国と学園で勝手に決められて勝手に話が進められた結果、専用機を手に入れる事となった。

 だが、セシリアとの試合を通して一夏は白式を自分の力とする覚悟を見出した。自分の大切な人たちを、この力で守ってみせると決心した。

 

 その時の事を思い出した一夏は、鈴の言葉も相まって自身の心がグチャグチャに掻き乱されていく感覚に襲われ、一気に感情を昂ぶらせた。

 

「じゃあ……じゃあ俺はどうしたら良いんだよっ!!」

 

 とうとう叫ばずにはいられなくなる程に、秘めていた感情が溢れだす。

 自身の胸ぐらを掴んでいる鈴に真っ向から対するように、一夏も彼女との距離を詰めて思いのたけをぶちまける。

 

「分かってんだよっ!俺の所為で箒が大怪我しちまったのも、俺がやった事は周りから見たら只の馬鹿な事なんだっていうのも!!けど、それでも……だからってあっさり見殺しにする真似なんて、俺には……っ!!」

「ええそうね、あんたはそういう奴よ。けどね、どんな時でも両方の命を無事に救えるとは限らない。いつか残酷な答えを選ばなきゃいけない時が来るかもしれない」

「鈴は……お前は、それを正しく選べるのかよ」

「正しい正しくないなんて、選択肢には存在しないわよ。強いて言うなら、自分が納得出来る方が正しいってとこかしらね。あんたとその密漁船の犯罪者たちの命を選べってなるなら、あたしは躊躇わずにあんたを選ぶわよ」

 

 クイズは予め定められた答えがあるからこそ正解不正解がある。だが命の選択にそれは無い、何故なら選択の果てに得た命と失った命への関心が見る人によって異なるからだ。大事な人が救われれば正しい選択だと思えるし、逆に大事な人を失ったとなれば正しくない選択として選んだ者を恨み続ける。そして、悲しみを抱えていく。

 

 一夏にとって、自身の悩みに囚われずにアッサリ答えてみせる目の前の幼馴染の考え方が分からなかった。『命は皆平等である』と考えている、一夏にとっては。

 

「何で……何でお前はそんな簡単に決められるんだよ」

「そんなもん、説明するようなものでもないでしょ。こういうのは自分で決めなきゃいけないんだから。それでも分からなかったらその時は誰かに聞いてみなさい。っと、時間も無いし、この話は次に聞くまでの宿題にしとくわよ」

 

 そう言って、一夏の胸ぐらから手を離した鈴はこの話題を打ち切った。元々この話を広げる為に来たわけでは無く、時間も限られているのでサッサと本題に移りたかったのが鈴のホンネである。

 鈴が此処に着た理由は、一夏がこれからどうするのかを訊く為だ。

 

「で、もう一度聞くけどあんたはこれからどうすんの?まだここでジッとしてるつもり?居た所で看病も出来ないんじゃ置物並に邪魔なだけよ」

「っ!俺は、俺の所為で箒がこんなに怪我しちまったんだから――」

「だから傍に居てあげたいって?女々しいし何の役にも立たないわね」

「なんだとっ!」

 

 一夏も鈴が胸ぐらを離した時点で手を離していたが、彼女の言葉に激昂して再び掴み掛からんばかりの勢いで彼女に詰め寄る。

 しかし鈴は居たって平然とした様子で、一夏と対峙する。

 

「ホントにこの子の為に何かしたいって言うなら、敵討ちくらいの気持ちは持ちなさいよ。何の為にそいつが、専用機があると思ってんの?」

「っ……けど俺は、作戦を台無しにして――」

「だから逃げるのっ?この子を守れなかったからって、それでISを捨てるってのっ?敵討ちする意気込みも無いの!?それがあんたの今の意志なのっ!?そんな腑抜けた心で、あんたは満足なのかって聞いてんのよっ!!!」

 

 焚き付けるかの様な鈴の言葉に、一夏の表情に少しずつ力と意思が取り戻されていく。彼女の掛ける言葉一つ一つが、火の燃料の様に一夏を刺激しているのだ。

 

「そんなわけ、あるかよ……!」

「だったらその口でハッキリ言いなさい!あんたが何をしたいのか、何をするのかをっ!」

「俺は……俺はっ!」

 

 一夏はついに自らの意志で立ち上がる。その瞳には先程までの暗さは無く、完全な闘志がそこに燃え上がっていた。

 

「福音を倒したい!いや、倒してみせる!!箒が命懸けで守ってくれた事を無駄にしない為にも、今度こそ福音と決着を着けるっ!!」

 

 一夏は、鈴がこの場に来るまで己が諦めの道を選ぼうとしていた事を恥じる。

 確かに戦わない道を選んで逃げてしまえば、今回の様な選択を強いられる事も無く平和的に過ごせるかもしれない。自分の所為で誰かが目の前で傷つく姿を見なくて済む、それは魅惑的な響きの逃げ道だ。

 だが、鈴の言葉によって彼の心はそれが許せないと気付いた。甘えが許されないのではなく、甘える道を選ぶことが許せないのだ。

 命の選択に関しては、まだ答えを見いだせていない。彼なりの答えに辿り着けるのは、まだまだ先の話だろう。それでも彼は今の自分に出来る事、自分が為したい意志を再認識する事が出来た。

 

 漸く戦う意思を示してくれた一夏を目の当たりにした鈴は、ふぅ、と肩を動かす位に深く息を吐いた。

 

「やぁっとその気になったわね。これ以上ぐずってたら本気で置いてくとこだったわよ」

「……悪い、鈴。手間掛けさせちまって」

「ホントよ。この埋め合わせはちゃーんとしてもらうから、覚えておきなさいよ」

「お、おう。覚悟しとく」

 

 ビシッと指を突きつけられ、一夏はたじろぎながらもその様に返事をする。

 それがきっかけで、2人は一緒になって小さく吹き出す。先程までの雰囲気が一気に払拭され、柔らかな空気が生まれて来た。

 

「けど戦うにしても、福音の場所が分かんないんじゃどうしようもないだろ」

「あぁ、それなら大丈夫よ。今ラウラが――」

 

 その直後、部屋の扉が開かれて噂の人物であるラウラが部屋に入って来た。その手にはブック端末が収められている。

 彼女は部屋を歩いて2人の元に訪れながら、呆れた顔で溜め息を吐く。

 

「お前たち、廊下にまで声が漏れていたぞ。病人の部屋で騒ぐのは少々常識的に問題があるのではないか」

「うっ……し、仕方ないじゃない。一夏ってばさっきまでフニャフニャに腑抜けきってたんだから、喝を入れなきゃって」

「べ、別にフニャフニャって程酷くなかっただろ……多分」

「そういうのは後にしろ。それで福音の居場所だが、衛星の情報を辿って確認が取れた。此処から40km離れた沖合上空でステルスモードの状態で待機しているようだ。恐らく、お姉ちゃんが決めたあの一撃のダメージを回復する為だろう」

 

 流石は私のお姉ちゃんだ、と心なしか胸を張るラウラ。

 

 しかし一夏はそんな彼女に、どうしても一言言わなければならない事があった。

 一夏は真剣な面持ちでラウラの方に身体を向き直すと、彼女に向かって身体を90度折り曲げて謝罪の姿勢を取った。

 

「ラウラ……本当にごめん」

「それは、何に関しての謝罪だ?」

「俺の所為で作戦を台無しにした事と……姉と慕ってる箒に怪我させちまった事に」

 

 鈴はあの場におらず、セシリアから話を聞いただけなのでその2点に関しては大きく話題になる事は無かった。

 しかし、ラウラは違う。彼女はあの場の指揮官として最初から戦闘に参加していたし、箒の事を姉と慕っており鈴とは違った形で箒と絆を結んでいる。作戦をふいにした事も勿論だが、家族が傷ついたとなれば彼女とて何も思わない事は無い筈だ。

 10発は顔面にキツいのが来るだろうと一夏は覚悟しながら、彼女の次の反応を待った。だが、彼の予想に反して何も起こらなかった。

 

「謝罪、受け取っておこう」

 

 ラウラは特に起こる様子も無く、只それだけ告げた。

 

「えっと……怒らないのか?」

「怒るとは、お前に対してか?」

「あ、ああ」

「確かにあの時お前が密漁船を庇護した事によって、福音を討つ機会を失してしまった。だが船の存在に気付けなかった私にも非は十分にある上、お前に最後の一撃を託すと決めたのは指揮官である私だ。作戦上の責任は全て私にある。本来は作戦に無断参加しているお姉ちゃんを戦わせ、重傷を負わせた件についてもな」

「そんな、ラウラは何も悪くは――」

「私は軍人だ。こういった責任も、それによる処罰にもある程度慣れている」

 

 一夏が物申そうとしていたが、ラウラは無理矢理彼の言葉を遮って黙らせる。彼はこういう事にも色々と思う所が出てしまうので、いざという時はゴリ押しで通しておけ……という姉の助言から得た行動である。

 

「ちなみに、これから我々が行う討伐は教官非公認の独断専行だ。前回の責任は私が追うが……この後の無断出撃は連帯責任だから、強烈なのを覚悟しておけよ?」

 

 ニヤリ、とラウラは不敵に一夏に笑みを掛ける。何が強烈なのかは、言わずもがな。学園で最も出席簿と触れ合っている一夏にはとてもよく分かる話だ。

 

 その言葉と同時に、2人の人物が新しく入室してきた。

 

「もう、決戦前に戦意を削ぐような事言わないでくださいまし……帰った後の事を考えると怖くなりますわ」

「軍用ISよりも織斑先生の方を怖がってる僕らも、大概だよね」

 

 憂鬱そうに頭を抱えるセシリアと、そんな彼女の肩に手を添えつつ苦笑を浮かべるシャルロット。

 これにより、旅館内での現在戦える専用機持ちメンバーが集結した。

 

「ほら。赤信号、皆で渡れば怖くないっていうだろ?」

「渡った先に怒った織斑先生がいると考えると……」

「それもう車が怖いんじゃなくて千冬さんが怖いだけでしょうが」

「寧ろ青信号になった時が恐ろしいですわ」

「教官の罰は脅威の一言に尽きるぞ。私もドイツで経験した事があるが、強烈なのは心が砕けそうになる」

 

 ラウラが遠い目をし始め、他の4人はこの先の恐ろしいイベントを考えて葬式状態な雰囲気になる。これから決戦だというのにモチベーションダダ下がりである。

 そんな空気を何とかしようと、一夏は何でもいいから話題を変える事にした。

 

「そ、そういえばテオから何か連絡来てないか?確か旅館に戻って来てないんだろ?」

「……うん。作戦室にも通信が来てないみたい。敵のISの反応が消えた後にお父さんの反応もキャッチ出来なくなったらしいから、やられたわけではなさそうだけど……」

「今度こそパパも共に戦ってくれるのならば心強かったのだが……一体何処に行ってしまったのか……」

「そ、そうなのか……」

 

 話題を逸らして空気を変えるつもりが、テオを父として慕っている二人の娘の表情がますます優れない方向に向かってしまった。やっちまった、と一夏は2人の姿を見て激しく後悔した。

 

 シャルたちの雰囲気がますます暗くなった事により、鈴とセシリアが一夏の傍に寄って小声で訴えかけてくる。

 

「ちょっとあんた、何でますます空気重くしてんのよ。もう完全にお通夜状態よコレ」

「何とかしてくださいまし、このままではわたくしの胃袋が居心地の悪さで悲鳴を上げてしまいますわ。もう悲鳴を上げかけてますけど……」

「何とかしようとした結果がコレだよ!俺が撒いた種なんだよコレ!寧ろ誰かに何とかして欲しいくらいだよ!」

「あ、えっと、皆ごめんね、余計に気まずくさせちゃって」

「済まない。だが我々は大丈夫だから気に病むな」

 

 内緒話で進めていたつもりが、2人には気付かれてしまっていたようだ。2人は互いに申し訳なさそうにしながら一夏たちに謝罪の言葉を掛ける、のだが空元気に見えてしまうのでますます他3人は居た堪れない気持ちになった。

 

「あ~……もう、折角これからカッコよく戦いに出るっていうのに完全に台無しじゃない。どうすんのよ一夏」

「え、俺の所為なのコレ?というか最初に千冬姉の説教を話題にしたのって――」

「さて、時間も有限なのだからそろそろ行くぞ。福音がいつまで所定のポイントに位置しているかも分からんのだからな」

 

 一夏が喋っている最中だが、それを聞き終える前にそそくさとラウラは部屋を出て行った。あまりにもスムーズな退出だったので、一夏も喋るのを止めてポカンと出口を眺めてしまっている。シャル以外の女性陣も、少々不意を突かれた模様。

 

「それじゃあ、僕たちも武装のインストールは終わってるし、出発しようか」

「え?あ、えぇ……そうですわね」

 

 ラウラの行動が予測できていたシャルロットが真っ先に言葉を掛け、一夏同様に少々呆気取られていたセシリアが復帰。2人もラウラに続いて部屋から出た。

 

「んじゃ、あたしたちも行くわよ」

「あ、ああ。分かった」

 

 鈴もシャルロットたちの後を追って退出し、部屋に残っているのは一夏と意識の無い箒のみとなった。一夏も出撃するべく、彼女たちの後を追いかける。

 だが、最後に部屋を出ようとした一夏だけは直前に足を止め、再び箒の元に戻っていく。先程まで使っていた備え付けの椅子には座らず、ベッドの脇で腰を落とし、ポケットを探り始める。

 ポケットの中から出て来たのは、ラッピングされた袋。一夏はそれを解いて袋の中の物を取り出した。それは本日7月7日の為に用意された、特別な物だ。

 

「悪い、箒……誕生日プレゼント、ホントは目が覚めてる時に渡したかったんだけどな」

 

 真っ白いリボン。それも傷一つない新品の代物。臨海学校前にレゾナンスで購入した、箒への誕生日プレゼントだ。

 一夏はベッドの中に入っている箒の腕を一度出すと、リボンを彼女の掌に納めさせた。そして未だ眠っている彼女に向かって、優しい笑みを送りながら立ち上がる。

 

「誕生日おめでとう、箒。……帰って来たら、今度は目が覚めてる時にもう一度言わせてくれよ」

 

 再び腕をベッドの中に戻し、一夏は先に向かった鈴たちを追いかけるべく、部屋を出て行った。意識の無い箒しかいなくなった事で、部屋は最初の頃の様にシンと静まり返る。

 

 待機状態の紅椿の鈴が淡く光ったが、誰もその光景を見る事は無かった。

 

 

 

―――続く―――

 




 連続で書きたかったシーン(一夏の葛藤&鈴の喝&プレゼントを渡すシーン)が書けました。一夏の青臭さ、未熟さを表してみようとしてみたのが、いかがでしたでしょうかね……?大体のオリ主は『大切な人の為ならば他の命を切り捨てられる』選択を確り選んでくれますが、ここの一夏はまだその答えを保留。今後の彼の成長の為に控えて頂きます。
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