篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

63 / 98
VS.銀の福音 Part3

 

 海上200m。

 激しい戦闘を終え、離脱した銀の福音はそこで胎児の様に身体を丸めて先の戦闘で発生したダメージの回復に努めていた。シールドエネルギーも殆ど満タンに戻っている。100%回復し終えたら、再び福音は移動を開始するだろう。

 

『……』

 

 不意に福音が顔を上げる。

 その瞬間、超音速で飛来した砲弾がボディに直撃し大爆発を起こさせた。

 

 砲弾がやって来た方角の数キロ先では、砲口から硝煙を吹かせている80口径レールカノン【ブリッツ】の武装者、ラウラの姿があった。

 巨大な2門の砲以外にも、彼女の左右と正面には敵の遠距離攻撃に備える為の物理シールド4枚が装備されている。その姿、はまさに固定砲台、これがシュヴァルツェア・レーゲンの砲戦パッケージ【パンツァー・カノニーア】だ。

 

「初撃命中、次弾照準完了……発射!」

 

 福音の反撃の用意を待たず、ラウラは次の砲撃を開始。先の戦闘で良いように弄ばれた分、此方からも仕掛けないと彼女の気が済まないのだ。

 しかし福音は初撃の爆発で発生した黒煙からその姿を現すと、ラウラに目掛けて超音速で突っ込んで来た。ラウラも近づいて来る福音に砲撃を続けるが、福音はそれらを銀の鐘によるエネルギー弾で撃ち落としながら、彼女との距離を確実に詰めていく。

 

「ちぃっ!やはり速いな!」

 

 既に両者の距離は1㎞を切っている。前回の戦闘でも披露してみせたそのスピードは、やはり脅威と言う他無い。

 福音は腕部のアームブレードを展開し、ラウラに斬りかかろうと態勢を直す。更に翼の砲口も備えを始めており、仕留める気を一層高めている。

 

「だが、その速度で来るからこそ、タイミングも合致する!」

 

 攻撃態勢に入った銀の福音が迫り来る中でも、ラウラは冷静さを保ち続けていた。それは前回の戦闘で直接目の当たりにし、手に入れた敵の情報があるから。そして、嘗ての様に自分一人で戦っているわけでは無いからだ。

 

 両者の距離が50mを切った瞬間、福音の翼に上空から垂直方向に衝撃が走る。それはまるで、何かが翼にぶつかったかのような衝突感覚だ。

 

「これで2度目の邂逅ですわね……銀の福音!」

 

 衝撃の正体は、ブルー・ティアーズをステルスモードにした状態で体当たりを繰り出したセシリアであった。前回の戦闘と同様、強襲用高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】の装備をしている。

 体当たりをしたセシリアは、そのまま即座に反転してレーザーライフルの照準を福音に合わせ、射撃。その一連の動きは実に流麗で、前回の戦闘で得た経験が影響してか機動面に増々磨きが掛かっている。

 

『新たな敵機を1機確認。排除行動に移行』

「その敵機って、僕が入ってないんじゃない?」

 

 レーザーライフルの一撃をブレードで受けた福音の背後から掛かる声と、その背中に浴びせられる銃弾。突然の衝撃に福音はバランスを崩し、即座にその場から離れた。

 福音が先程まで居た場所には、ショットガンをそれぞれの手に持ったシャルロットの姿があった。彼女は先程セシリアが福音に体当たりをした際、同様にステルスモードになって彼女の背中に乗っていたのだ。そして衝突の瞬間にセシリアの背から離れ、福音の背後へと回ったのだ。

 

 福音はすぐさま体勢を立て直し、最も近くにいるシャルロットに対して砲撃による反撃を行った。

 

「っと、君の戦闘力は聞いてるから、対策は用意させてもらってるよ」

 

 福音の高い攻撃力に対抗すべく、シャルロットがリヴァイヴに施した防御パッケージ【ガーデン・カーテン】。その内容は、実体シールドとエネルギーシールドをそれぞれ2枚前方に展開する事によって強固な盾としてその力を発揮するといったものだ。名の通りカーテンの様に広がる複数のシールドは、福音の繰り出す光弾を防いでみせた。

 更にシャルロットは、自身の十八番であるラピッド・スイッチでアサルトカノン【ガルム】を召喚し、砲撃の合間を縫って攻撃を挟んでいく。

 彼女に続き、セシリアも高速機動を行いながらの射撃、ラウラは適正距離に調整しつつ砲撃を再開。三者三様による銃撃が、確実に福音を追い詰めていた。

 

『警戒レベルの上昇を認可。【銀の鐘】、最大火力を解放』

 

 翼を大きく広げた福音は、備え付けられた全ての砲口から光を発する。その直後、全ての砲口から光弾が周囲を埋め尽くす様に放たれる。斉射、連射による弾幕が福音にとっての敵を全て狙うように襲い掛かっていく。

 

「各員、敵と距離を取りつつ防御に努めろ!弾幕が薄まるまで距離を離せ!」

 

 最も遠くに位置をとっていたラウラが、自身に迫る弾に警戒しながら前線の2名に対してそのように指示を出した。指示を受けた2人はその言葉に従い、光弾の嵐を何とか凌いでいく。

 

 そして福音は、3人が防御に回った隙を見計らってその場から離脱。不利な位置から脱する為の判断だろう。

 福音が動いてから間もなく、進行上の海面が激しい水しぶきを吹き上げた。

 

「狙い通りね!行くわよ一夏っ!」

「おうっ!」

 

 白式を纏った一夏と、甲龍を装着した鈴がその水しぶきの中から姿を現す。戦闘が開始されてから、ずっと水中で機を窺っていたのだ。両者はイグニッション・ブーストによる爆発的な加速で一気に福音へと向かっていく。

 まず先に福音に斬りかかったのは一夏。零落白夜は発動させず、通常の状態での斬撃を行う。零落白夜はシールドエネルギーを大量に消耗するので、確実に狙える時のみは発動せずにエネルギー温存に努めているのだ。

 

 福音はこの場では回避は行わず、アームブレードによる防御で一夏の斬撃を防ぐ。

 しかし、一夏の狙いはこの一撃ではない。本命は別に用意してある。

 

「一夏っ!」

「ああ!」

 

 鈴の掛け声に応じた一夏は、敵のブレードとの競り合いを継続させながらその脇をすり抜け、去り際に斬撃を背後から一太刀。それもブレードによってギリギリ防御されるが、一夏の役割は十分に果たされた。

 福音をその場に留まらせる事。それにより福音は、それまで控えていた鈴の砲撃の的となる。

 

「疾っ!」

 

 両肩のユニットから放たれる、鈴お得意の衝撃砲。しかしその内容はこれまでのとは一風違っていた。今までの龍砲は砲口が2門だが、現在展開されているのはその倍の数である4門。更に放たれる弾丸は、不可視ではなく赤い炎が纏っている。

 赤い炎を纏った弾丸は福音の傍で爆発、更に拡散を繰り返して周囲に赤い炎と衝撃を広げた。

 これが甲龍の機能増幅パッケージ【崩山】、放たれる弾丸は熱核拡散の性質を持ち、通常の衝撃砲よりも威力の高い性能が発揮される。

 

「やったか!?」

「フラグ立てんな!……ほら、まだよ!」

 

 拡散衝撃砲による炎が消えた場所に立つ福音は、まだ機能停止に至るまでのダメージを負っていなかった。

 

『警戒レベルを更に上昇。多勢迎撃パターンを更新し、敵機殲滅を開始』

 

 福音は頭部から生えた翼を再び大きく広げる。そして、なんと福音は驚くべき行動に移る。

 今まで腕に展開していたアームブレードを収納させると、次にそこにあったのは鳥の翼の様に広がったベルスリーブ型のカスタムアーム。羽の様に一つずつ並んでいるのは、銀の鐘同様に砲口だった。目視で確認する限り、それぞれ10基ずつ備え付けられている。

 翼の36基、左右の腕に20基。合計56の砲口が、この場にいる全員に対して牙を向いた。

 

 嘗てない砲弾の雨霰が、戦場に広がっていった。

 

「くそっ、こんなのアリかよ!?」

「一夏っ、僕の後ろに!」

 

 シャルロットが一夏の前に立ち、迫り来る砲弾をシールドで受け止めていく。白式の燃費は零落白夜の要素を除いても悪く、前回の様に高速機動による回避を続けていては攻撃しなくてもエネルギーを多量に消耗してしまう。その為、回避が強く要求される場面が訪れたら、防御パッケージを備えたシャルロットが一夏の防御に回るようにすると予め決めてある。

 しかし、敵の苛烈な攻撃は防御特化のパッケージを使用していても強力であった。

 

「くっ……!」

「シャル、大丈夫か!?」

「うん、何とかね……けど何度も受け切れるような攻撃じゃないね、これは」

 

 シャルロットは苦い顔をしながら一夏に対して物理シールドの一枚を見せる。それは先程の防御で完全に破壊されてしまっていた。シャルロットは壊れたシールドを放ると、残りのシールドを構え直して続けてやって来た光弾を防ぐ。

 彼女が防御をする直前、福音の左右に向かっていく2人の姿を目に映した。

 

「ラウラ、セシリア、お願い!」

「ああ!」

「お任せくださいませ!」

 

 砲戦仕様を一時的に解除して通常のシュヴァルツェア・レーゲンに戻したラウラと、セシリアが左右から切り込みに掛かる。セシリアが先手に射撃で福音の足を止め、ラウラがワイヤーブレードを展開しながら肉薄し、プラズマ手刀で応戦。

 

 片腕のみをアームブレードに戻した福音は、ラウラと剣戟を繰り広げながらセシリアの援護射撃にも対応をしていく。暴走状態にある福音は、搭乗者の意思ではなく福音自身の意思によって行動されている。搭乗者のセンスが影響したのか、それとも福音の元々の戦闘技術なのかは不明だが、どちらにせよかなり高いレベルである事は確かだ。

 

「もらったぁ!!」

 

 直下、双天牙月を携えた鈴がラウラと拮抗する福音へと躍り出る。衝撃砲の発射準備をしながら斬撃を放ち、ラウラと距離を取った瞬間、再び熱核拡散を披露した。

 それを防ぎ、炎の中から脱する福音目掛けて鈴が全力で斬りかかる。その狙いは、スラスターの機能を果たす箇所、翼だ。

 

『!!』

 

 福音が過敏に反応するが、時既に遅し。刃がそのまま翼へと食い込み、片翼を奪われた。突如スタスターの一角が喪失した事により、バランスを大きく崩す福音。

 だがそれを利用し、ぐらついた身体を預けて脚部のスラスターを同時に噴出。一気に加速した脚による強靭な蹴りが、鈴の装甲を破壊する。

 

「くぅっ!?」

「鈴っ!!……よくも、鈴をっ!」

 

 吹き飛び海へと落とされた鈴、彼女の姿を目の当たりにした一夏は仲間がやられた怒りを瞳に込め、福音に向かって突っ込んでいく。彼は体勢を立て直している最中の福音に迫ると、斬撃を放った。雪片弐型は立て直しが完了していない福音の肩を捉える。

 

 だが福音は、刃が機体に触れているにも関わらず、その刀身を手で握り締めてきた。そして密着状態にある一夏の腹部に腕部の砲を突きつけ、更に片翼の砲口を一夏に向ける。全ての砲身が一夏に向けられて、それぞれが発射目前の状態となっている。

 

 絶体絶命の状況だが、一夏はここで起死回生の一手を打つ。

 なんと一夏は、両手に構えていた雪片弐型を手放したのだ。雪片弐型しか武器を所持していない白式、つまり今の一夏は完全に武装フリーとなっている。普通に考えれば非常に危険だ。

 そして武器を一切持っていない状態となった一夏は……。

 

「おらぁっ!」

 

 福音を、殴った。鋭いストレートパンチが福音のボディに目掛けて放たれ、シールドエネルギーと衝撃を相手に与えた。パンチの衝撃で再び体勢が崩れた福音の手から刀が零れ落ちる。

 一夏は雪片弐型を取り戻すと、射撃のタイミングが遅れた福音が撃って来る前に、刀で翼に斬りかかる。

 

「これで……終わりだぁっ!」

 

 斬撃は福音の残された翼を捉え、切断した。

 

 スラスターの役割を担っていた翼を全て失った福音は、崩れるように海面へと落下。海の中へと沈んでいった。

 

「一夏!」

「一夏さん、大丈夫ですか!?」

 

 シャルロットとセシリアが、慌てた様子で一夏に声を掛けてくる。非常にギリギリの事態だったため、2人も気が気でなかっただろう。

 一夏も切迫した瞬間を味わったため、大きく肩で息をしている。大きな賭けに出た行動だったが、その見返りは十分にあったようだ。

 

「ふぅ……あぁ、何とか無事だぜ。それよりも、鈴と福音の操縦者を――」

 

 助けに行こう。

 そう提案しようとした一夏だったが、彼の言葉を遮る様に大きな変化が海で生じた。福音の落下した地点から、数十メートルにも及ぶ水柱が吹き上がったのだ。

 

『っ!?』

 

 全員の視線が、その水柱に集まる。

 彼女たちがその目にしたのは、先程墜落した筈の福音が、青い雷を纏いながら水を割って現れた姿だった。徐々にその機体が激しい光を灯し出す。

 

「なんだ!?何が起こってるんだよ!?」

 

 予想外の事態に戸惑う一夏。言葉を発さずとも、セシリアとシャルロットにも彼と同じく強い動揺が起こっている。

 唯一、ラウラだけは眼前の現象に心当たりがあった。彼女の表情は、これまでの戦いで最も焦った様子となっていた。

 

「【二次移行(セカンド・シフト)】……だと……!!」

 

 ISは特定の条件を満たす事によって、段階的に形態が変化する仕様となっており、各形態に変化する瞬間を【移行(シフト)】と呼んでいる。製作して間もない状態である【初期形態(スタートフォーム)】、初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)を経て、搭乗者のコンディションに合わせた【第一形態(ファーストフォーム)】。

 そして第一形態から二次移行をする事により【第二形態(セカンドフォーム)】となる。現在福音は、ラウラたちよりも一段上のステージに上がってみせたのだ。

 

 

 

―――aaaaaa!!

 

 

 

 これまでの機械的な音声とは打って変わって、まるで獣の雄叫びのような声を発する福音。手足のスラスターだけで、ラウラへと飛び掛かっていった。

 しかしその速度は、今までの比ではなかった。一瞬でラウラの懐にまで接近すると、その腕を掴んだ。

 

「しまっ……!」

 

 掴まれた腕を振り払う最中、ラウラは目の当たりにした。

 鈴と一夏によって斬り落とされた筈の翼部から、エネルギー体の翼が生える様に展開していく光景を。間もなく翼は以前よりも大きく雄大に広げられ、見る者を委縮させてしまう程の錯覚を与えてくる。

 

「ラウ――」

 

 シャルロットが助けに向かおうとするが、一足遅かった。

 福音の翼がラウラを包んだ瞬間、大爆発。まさしくそれまで放っていた光弾の爆発と同質のものであった。

 爆発によって生じる黒煙の中からISアーマー、肉体共にボロボロの状態のラウラが飛び出してきた。既に意識を失っており、彼女はそのまま海へと落ちていった。

 

 その光景を見たシャルロットの中で、何かが外れる様な感覚があった。それは、短い間ではあるが義姉妹として仲良くしてきたラウラとの間に芽生えた、友としての絆でもあり、家族としての絆が齎した一線。

 彼女が久しく感じる事のなかった『家族が傷つけられる事』への怒りが、彼女の理性を緩めたのだ。

 

「よくも……よくもぉっ!!」

 

 怒りの形相を浮かべたシャルロットの、激しい攻勢が始まる。

 今まで以上の展開速度で二丁拳銃とショットガンを片腕ずつに召還。装填済みのそれらを福音に向けて射撃した。それらは福音が先程生み出したエネルギー翼によって全て阻まれるが、彼女はすかさず残りの実体シールドを投げつけた。

 

 福音はブレードで迫り来る盾を弾き、横に受け流す。だが、盾が無くなった先に、シャルロットの姿は無かった。

 そしてその直後、福音の背中を強烈な衝撃が襲った。

 

「これは、ラウラが受けた痛み……!」

 

 69口径のパイルバンカー【灰色の鱗殻(グレー・スケール)】が、既に突き出た状態で彼女の腕に納められていた。本来はシールド裏に装備されているのだが、カスタムによって盾と分離した状態となっている。先程の衝撃は、第2世代最高威力と言われているこの武器によるものだったのだ。

 シャルロットは盾を囮にして敵の視界を遮り、パイルバンカーを召喚しながら背後に回り込んで福音の隙を突いてきたのだ。この一瞬でこういった芸当が出来るのも、多数の武装を換装させるラピッド・スイッチのスキルがあってこそだ。

 

「もういち――」

 

 追撃を仕掛けようと動き出すシャルロット。

 そんな彼女の目の前に、ひらりと舞い込む光り輝く羽根。その煌めきは幻想的で、存在感を放つそれはシャルロットの視界に飛び込んできた。

 そして同時にシャルロットは、その羽に嫌な予感を抱いた。何故ならば、羽根の先いる福音のエネルギー翼は6枚にまで展開されており、そのエネルギー翼と羽根の輝きが酷似しているのだ。

 

 そして、彼女の予感は的中した。

 避けようとしたが間に合わず、羽根は彼女の機体の肩部に触れた瞬間、大爆発を起こした。その爆発の仕方は、これまでの光弾が起こした爆発や、先程のラウラが受けたものと同じであった。

 追撃叶わず、シャルロットもラウラに続いて海へと落下していった。

 

「シャルっ!」

「何ですのあの規格……これが、軍用ISの第二形態……!」

 

 別々の箇所で機動している一夏とセシリア。共に目の前で起きている出来事に戦慄している。次々と仲間が落とされていく姿、そしてそれをたった一機で為している規格外な相手の力。最初は5人もいたというのに、既に半数以上が脱落してしまっている。

 そして福音が次に狙いを付けたのは、セシリアであった。

 

「くっ……!」

 

 猛スピードで迫り来る福音を撃ち落とすべく、セシリアはレーザーライフルで照準を定め射撃。しかし福音の圧倒的機動力がそれらを全て回避していく。互いの距離がみるみるうちに縮まっていくのみである。

 

「セシリアっ!」

「っ!駄目ですわ、一夏さんっ!」

 

 セシリアを助けに向かおうと駆けつける一夏。

 しかし彼女はそんな一夏の接近を拒んだ。既に福音は攻撃の準備を整えており、このまま一夏が来たら彼も巻き添えを喰らってしまうと踏んだからだ。その為セシリアは一夏とは逆方向に動き、一夏との距離を離した。

 

 そんなセシリアの行動に、一夏は驚きを隠せなかった。まさか助けに行こうとした筈が、それを拒絶されてしまったのだ。だが、その動揺と疑惑は福音の攻撃態勢を見た瞬間に晴れる事となる。

 彼の目の前では、既に近接武器が届く間合いとなった福音とセシリアの姿があった。

 

「このっ……!」

 

 眼前の福音に対するべく、インターセプターを召喚するセシリア。以前は名前を言わなければ呼び出せなかったが、仲間たちとの訓練を経て直接呼び出す段階まで進んでいる。

 ライフルの間合いを潰され、機動部として機能させているビットが攻撃に使えない今、彼女が施せる対策はショートブレードのみ。セシリアはラウラから教わった短剣術で福音に抵抗する。

 

 しかし幾ら友人たちから教授を賜ったとはいえ、中~遠距離戦を得意とするセシリアは近接戦闘をまだまだモノに出来ていなかった。付け焼刃、と表現するには厳しいがやはり接近戦を行える者達からすれば、その技術は数歩劣ってしまう。

 そんな彼女の攻撃を捌く事は、ここまで接近戦を仕掛けてきた箒たちの技量を受け止めて来た福音にとって容易い事だった。

 抵抗虚しく、攻撃を防がれたセシリアはラウラたちと同じく光翼が起こす爆発に身を包まれ堕ちていく。

 

 そして、空に残っているのは一夏と福音のみになった。

 

「て……」

 

 一夏の心は今までに無く震え上がっていた。

 それは福音の脅威に対する、恐怖の感情によるものではない。仲間を倒された事による、憤怒の感情によるもの。仲間たちが堕ち行く姿は、数時間前に身を挺して自身を守ってくれた幼馴染みの傷だらけの姿を彷彿とさせた。

 雪片弐型を握りしめるその手が、ギュッと締める音を発する程に力が籠る。

 

「てめぇぇぇぇぇっ!!」

 

 ついに、一夏の怒りは限界に達した。

 鈴を、ラウラを、シャルロットを、セシリアを。そして、箒を。彼女たちを深く傷つけた福音に向ける敵意の目は、刃物の様に鋭く尖る。

 一夏は迷う事無く福音に目掛けて全速力で突撃する。その速度は高速機動モードの最高速でも達せないスピード、すなわち瞬時加速だ。

 

「零落、白夜ぁっ!」

 

 そして、自身の一撃必殺奥義の発動。刀身が紅椿の展開装甲と同様のギミックで展開し、光り輝くエネルギーブレードを出現させる。触れるだけで致命傷となるその刃の輝きは、威力を知る者を震え上がらせる威光が宿っている。

 瞬時加速と零落白夜、神速撃破を目的とした2つの合わせ技だ。エネルギーの消耗量が激しい事と、軌道がどうしても直線的になってしまう事で頻繁に使用できない事から、奥の手として扱われている。

 だが、一夏は躊躇わずにそれを使用した。全ては、大切な人たちを傷つけた存在を倒す為に。怒りの一撃は、一直線に福音に向かって振るわれる。

 

 しかし、怒りに任せた攻撃というものは2面性を含んでいる。1つは怒りがパワーに相乗され、より強大な攻撃と化す時。

 そしてもう一つのケースは……攻撃が単調となり、敵に避けるチャンスを与えてしまう事。

 現実は無情にも、一夏に後者の結果を与えた。

 

「ぁ……がぁっ!?」

 

 最大の攻撃が躱され、僅かな動揺を晒した一夏に福音によるボディブローが炸裂する。シールドエネルギーが展開され、絶対防御の効果もあるのだが、腕部スラスターを吹かせながらのブローの鋭みはそれらを貫通して一夏に苦痛を齎した。

 更に福音は悶絶する一夏の首を鷲掴みにし、彼の機動を封じた。

 

 一夏は脱却を試みるが、既に白式のエネルギーはそこを着いていて満足に動かす事が出来なかった。瞬時加速、零落白夜、そして最後のダメージ緩和。この一瞬でシールドエネルギーを大量に消費しすぎたのだ。

 

 そんな彼の抵抗に終止符を撃つかのように、福音は6枚のエネルギー翼を展開。全ての翼を広げ、今にも一夏を包み込まんと動き出す。

 

「(……あぁ、俺もここまでみたいだな)」

 

 目の前で自身を覆わんとしている光景を見て、一夏は抵抗する力を弱めた。既にシールドエネルギーが枯渇している現状、暴れる余裕すら残っていないのではどう足掻いても抜け出せないと悟ってしまったからだ。

 

 首を掴まれて息苦しさを感じながら、一夏は旅館に残してきた1人の少女の姿を思い浮かべる。

 普段は真面目でお堅い所も多く、冗談の類はあまり得意ではない性格。しかし、クラスメイトや友人たちのバカげた言動を少し離れた所から様子見ている彼女の笑みは、まるで母が子を見守るかの様に穏やかで、優しい。

 剣の腕も立ち、竹刀を一心に振る様は凛々しく壮健。一夏も思わず見入ってしまう魅力が其処にはあった。

 強くて思い遣りのある、大切な幼馴染み……箒の笑った顔が、一夏の脳裏に映し出された。

 

「(悪い、箒……約束、守れそうにないや)」

 

 必ず帰ってくる。

 約束を果たせない事を彼女に対して謝りながら、一夏は静かに待ち受ける。福音が自身に止めを差す、その時を。

 

 そして光の翼は、一夏をゆっくりと包み込み――。

 

 

 

 

 

 福音の身体が、横から飛んできたエネルギー波によって吹き飛んだ。

 

『っ!?』

「ぐ、げほっ……げほっ」

 

 福音が吹き飛ばされた衝撃により、一夏の首を掴んでいたその腕も解き放たれる。首元が自由になった一夏は、未だ痛みを感じる喉の違和感を拭うために、咳き込み出す。

 一夏は福音の方を見る。エネルギー波が直撃した福音は一夏が今いる場所からある程度離れた場所で止まり、体勢を整え始めている。

 そして次に一夏はそちらとは逆方向、つまりエネルギー波が飛んできた方に振り向き直す。明らかに自然発生では無いそれは、誰かの手によって放たれた物。それが誰なのかが、その視線の先を見れば判明できる。

 

「なっ……」

 

 一夏は思わず言葉を詰まらせた。

 目の奥が熱くなる感覚が起こった。

 そして、目頭から一筋の涙が零れ落ちた。

 

「ほ、うき……」

 

 一夏の目と、彼の先に佇む少女の視線が重なり合う。

 控えめで小さな笑みではあるが、見る者を安心させてしまう程の、包む様な柔らかさを籠めた笑み。少女は一夏に対してそれを向ける。

 その笑みは、一夏がつい先程思い描いたものと全く同じだった。

 

「待たせたな、一夏」

 

 紅椿の搭乗者、篠ノ之 箒。

 傷一つ無い綺麗な状態の肉体、両手に携えられた2振りの刀、彼女の特徴であるポニーテールを結う為の、一夏が誕生日プレゼントとして送った白いリボン。

 

 全てを万全に整えた彼女は、凛とした空気を纏いながら戦場へと姿を現した。

 この戦いに、決着を着ける為に。

 

 

 

―――続く―――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。