篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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VS.銀の福音 EX

 テオと福音の決戦が行われていた頃。

 

 彼の指示で旅館に向けて帰還を行っていた一夏たちは、テオがシャルに手渡した【ビット=コネコ】による中継で、福音と対峙する彼の姿を見ていた。そしてその中で、第二形態へと変貌した姿も。

 その光景は見ていた者達を例外無く驚かせた。何せISの形態はそのまま移行後の姿で留まるのだから、これまで銀雲は第一形態だった為に形態移行はしていないのだと思っていたからだ。ISが移行前の形態に戻るなど、代表候補生の者達も初耳となる情報だ。

 

「箒たちも、この事は知らなかったのか?」

「あ、あぁ」

「だって、形態移行したらそれからはその姿なのが普通なんだよ?それがまた第一形態の姿になるなんて……こんなの普通じゃ考えられない」

「いや、そもそもパパは人間ですらないのにISを動かす事が出来ている。パパを普通という名の定規で差し測るなど、最初から不可能だったのだろうな」

 

 ラウラのその発言で、一同は改めて認識した。

 男性で唯一ISを動かせる一夏も大概だが、テオは彼以上に予想外な事をしていたな、と。普段の日常がその感覚を大きく麻痺させていたようだ。もっとも、彼らにとっては些末な事であるが。

 

「形態移行とは言いますが、やはりおじ様のISも大きく機能向上しているのでしょうか……」

「スピードがあれ以上になるとか?もしそうなら絶対目で追えないレベルになると思うわよ」

「確かにそうかも……あれ?」

「どうかしたのか?」

「いや、いつの間にかこのコネコの大きさが変わってて……というか成長してる!?」

 

 シャルの手に収まっていたコネコの機体は、もはや子猫ではなく成熟した猫のような成長を遂げていた。大きさもそうだが、顔つきなども明らかに以前までの様な幼さが抜け切っている、一人前と呼ぶに相応しい凛々しさとなっていた。

 

「もしかすると、テオの形態移行に影響して武装も変化したのかもしれないな」

「テオ……あいつなら、絶対に無事に勝ってくれるよな」

 

 一夏の言葉に、全員が自信を持って頷く。

 色々と予想外の事が起きて頭の中がこんがらがりそうになる一同だが、少なくとも1つ分かっている事がある。

 

 テオは必ず、勝利してみせると。

 

 

 

 ◇   ◇

 

 さて、戦闘開始といこうか。

 

『aaaaaa!!』

 

 福音お嬢ちゃんが通常のISでは出せないスピードで私に目掛けて突っ込んでくる。高速機動状態の彼女は常に瞬時加速以上のスピードを出す事が出来るが、それを更に超えた速度が展開されている。と言うよりは、暴走で無理矢理速度の限界を超えていると言うべきか。

 だが、どんなに尋常じゃないスピードを出したとしても、私が身に纏っている銀雲改め第二形態の天臨の速度は、そう易々と追い越されるレベルじゃない。

 私は猛然と襲い掛かる福音お嬢ちゃんの攻撃を一瞬で回避し、目にも留まらぬ速さで彼女の背後に回り込んだ。

 

≪展開、【双鞭―猫戯―(そうべん びょうぎ)】≫

 

 ISが形態進化したことにより、武装もそれに合わせてバージョンアップされている。これまで主力武器として使用していた鞭型の近接武装【ウィップ=ネコジャラシ】が強化された武装、それがこの【双鞭―猫戯―】だ。鞭の役割を担う尻尾の部分が2本に増えており、威力は純粋に一本の時の2倍。更に特殊な柔軟素材を配合させたことによって伸縮機能が追加、振るう際に外見以上のリーチが発揮されるのだ。

 

 私は身体を捻ってそれを振るい、福音お嬢ちゃんの背中に鞭を叩き付ける。字面がちょっと危ない感じだけど、これはISでの戦闘だからね、疚しい要素は一切無いから。

 更に私は、追加で武装を召喚。今度は腕部の武器だ。

 

≪お次はこれだよ。【裂爪―千切―(れっそう ちぎり)】≫

 

 こちらは爪型腕部武装【クロー=ヒッカキ】が進化した姿。光学物質を切り裂く性能は健在で、爪の長さも伸びている。更に爪には細かい鋭利な棘が付加されており、攻撃時に摩擦現象による電撃を発生させ、相手に追加ダメージを与える事が出来る。

 それを福音お嬢ちゃんに目掛けて振るい、爪撃と電撃のダブルアタックをお見舞いする。シールドエネルギーは回復している為バリアーが保護しているが、火力もアップした天臨なら絶対防御発動ラインまで到達出来ている。

 

 電撃の影響で怯む福音お嬢ちゃんだが、直ぐに復帰すると肉薄している私に対して腕を伸ばしてきた。暴走で頭が回っていない所為だろう、背中のエネルギー翼も腕部のブレードも使うべき時に使えてない、飾り同然な状態になっている。行動が獣のそれと大差ない。

 分かってはいたけど、やはり碌でも無い開発だね。【コア・バイラス】は。

 

≪【柔拳―肉球―(じゅうけん にくきゅう)】≫

 

 福音お嬢ちゃんの出した腕は、バイン、と勢い良く彼女の元へと弾かれる。私のもう片方の腕部武装【柔拳―肉球―】によって。【ナックル=ニクキウ】のパワーアップ版がこの武装で、掌のクッションは更に性能上昇、メリケンサックのような突起物が拳の部分に追加されて打撃力もアップしている。これはおまけだが、装甲に毛皮の装飾が施されてやや生物的な仕上がりになっている。メカニックなボディにこれは中々シュールだけど。

 さて、これで私がまだ披露していない装甲は【ビット=コネコ】の進化装備【忠臣―若猫―(ちゅうしん わかねこ)】だけなんだけど……箒ちゃん達の戦闘観戦に使用しているから、今回はお披露目無しだ。

 

≪それにしても、シールドエネルギーまで回復しているのは謎だね……≫

 

 どうやってエネルギー0の状態から復活出来るのかは、当事者の1人も教えてくれなかったし……今度会った時はもっと詳しく聞いておかないとね。

 

『aaa……aaaaaa!!』

「おっと」

 

 急に吠えたかと思うと、翼のエネルギー翼の全展開に加えて腕部の砲口からそれぞれエネルギー光弾を一斉掃射。彼女の周りを埋め尽くす様に光弾が放たれた。ザッと見、光弾数は108発か。板野サーカスが出来てしまう弾幕じゃないか。

 では、挑戦させてもらうとしようか。

 

 私は迫り来る光弾の嵐に向かい、突っ込んでいく。それら一つ一つに爆発性があるとなると、下手に1つでも破壊すれば誘爆の恐れがある。連鎖爆風程度なら逃げ切れる自信があるけど、どうせなら全て躱してみせようじゃないか。

 初弾着が予想される光弾を最初に躱し、そこから回避先に迫る光弾も難なく回避。ジグザグに機動して次々と光弾を避け続けていく。天臨の機動力は通常状態でも光弾の速度を上回る数値の為、それらを躱す事は造作も無いのだ。

 半数以上の光弾を躱した私は、薄まった弾幕の中から特に穴の大きい個所を特定。そこに向けて一気に加速を行った。弾幕の中にいた私は一瞬でその中から脱し、福音お嬢ちゃんの近くまで駆けつけた。先程の弾幕を出力全開で放った影響か、背中の翼は可愛らしく縮小していた。

 私は彼女に肉球のクッション部を押し付け、その身体を大きく後方へと押し出した。結局、サーカス染みた動きはしてなかったけどね。

 

 さて、あまり悠長にしてられないので一気に決めさせてもらおう。大技の反動が効いている今は特に好機と言えるだろう。

 

≪見せてあげよう、天臨の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を≫

 

 その宣言と共に、天臨のボディがワンオフ・アビリティー使用の為にそのフォルムを変形させる。それぞれの脚装甲にブレードが展開され、頭部の装甲も鋭角化。元々鋭いシルエットだった機体が、更に刺々しい姿に変わっていく。

 

『気流制御機能、設定変更。熱防護機能内コンテンツ、熱エネルギー放出システム機能解除。機体冷却ファン、出力変更。重力負荷耐久値、最大レベル上昇……』

 

 そして、変わるのは外見だけではない。天臨の内部もこれから行う行動に備えて万全のコンディションに整えられようとしている。これから私と天臨が行おうとしているのは、最速のISの名に恥じない一撃必殺の神速奥義。

 その技の名は……【零閃(ぜろせん)】。

 

『オールクリア。【零閃】発動可能になりました』

 

 その言葉が耳に届いた瞬間、私は行動を開始した。

 

≪零閃―Level. 1―≫

 

 福音お嬢ちゃんに向けて、一直線に飛ぶ。

 彼女の真横を、一気に駆け抜ける。

 そして、そこから離れた場所で止まる。

 

 これで、零閃は決まった。駆け始めてから止まるまでの時間は、まさに刹那の瞬間。もしこの光景を見ているならば、瞬きをしている間にこれらの動作は完了している。

 福音が此方に向き直ろうとした瞬間、その周辺に変化が起こった。

 

『!!』

 

 天臨の描いた軌道の中で起こる、突然の空間歪曲。一定の物量を持つ機体が極超音速(ハイパーソニック)レベルのスピードで刹那を駆け、意図的に空間を歪ませる現象。

 更に、音速活動により空気が急速に圧縮し、周辺空気と天臨の機体を一瞬で加熱。発生した機体熱はその空間周辺に即放出させる。

 空間歪曲と超高温の熱波。空間が歪みを正そうとした瞬間、凄まじい衝撃が周辺に拡がる。近辺の空気中の塵が一連の影響によって福音お嬢ちゃんを巻き込んでの大爆発。それに合わせて爆風と熱波が波紋の様に空を駆け廻り、周囲を覆い尽くしていく。

 

 ・・・…うん。相変わらずエグいね、この威力。

 

≪しかもこれでLevel. 1だからね……≫

 

 最大までLevel. 3まであるんだけど、それだけはシミュレーション上でしか私は威力を知らない。束ちゃん曰く『これ、ISがあっても付けてる人間は無事じゃ済まないと思う、ガクブル』だとか。天臨ェ……。

 

 すると、爆煙の中から福音の待機状態と思われる物が現れた。

 私はハイパーセンサーでそれを確認すると、あっという間に回収。待機状態が無事という事は、コアはちゃんと無事だという事なので私の任務はこれで完了だ。勿論、ちゃんと加減は細心の注意を払ったつもりだから。束ちゃんにも事前に確認してあったし。

 

≪何はともあれ……良く頑張ったね、福音嬢ちゃん。暫く空を飛べないのは辛いと思うけど……とにかく、今はゆっくり休みなさい≫

 

 私は、千切の爪に引っ掛けた待機形態の福音お嬢ちゃんに向けて、そう言い放った。

 

 さぁ、帰るとしようか。皆の所へ。

 

 

 

――――――――――

 

「戻ったか、テオ」

 

 出発地点である旅館付近の浜辺まで帰ってきた私を迎えてくれたのは、先頭で仁王立ちしている千冬嬢。その表情はいつも通りのキリッとした面持ちだ。その後ろに控えているのが真耶ちゃんで、更にその後ろでは先に戻った一夏少年達が整列していた。殆どの子が随分と緊張した表情になっている、まぁ千冬嬢に怒られると予想しているのだから無理も無いかな。

 

「お前もあいつらと共に並べ。少し話をする」

≪了解≫

 

 私は千冬嬢の言葉に従い、少年たちに挨拶がてら軽く目配せをしつつ彼らの横に並ぶ。ラウラちゃんが端だったため、彼女の横に移動する。

 私が並び終えたところで、千冬嬢が一歩前に出て私たちに言葉を掛け始める。

 

「さて……諸君らには色々と言わなければならない事があるが、それぞれ分けて話すとしよう」

 

 ふぅ、と息を吐く千冬嬢。

 

「まず初めに、任務完了ご苦労だった。諸君らが尽力してくれたお陰で、銀の福音は周辺国に被害を及ぼす前に鎮圧し、死傷者を出す結果には至らなかった。本当に、ご苦労だった」

 

 最後の言葉は、作戦総指揮官としての立場では無く千冬嬢本人としての言葉の様に私は感じた。その言葉には、特に感情が籠っている印象を受けたからだ。

 

「そして2つ目……今更だが、学生の身である諸君に危険な任を与えた事を謝罪させてほしい。……本当に、済まなかった」

 

 千冬嬢が深く頭を下げる姿に、一同は唖然としていた。

 これまで起こった2つの大きな事件。どちらも一夏少年たちが解決に導いたが、それはその場ですぐに対処出来るのが彼らだったからだ。

 最初の事件では千冬嬢は指令室でハッキング解除とアリーナ設備の被害拡散防止に努め、金剛お嬢ちゃんを援軍に送りつつ、心配しながらも一夏少年達に戦いを託す形となった。2回目の事件も、現場に駆け付けた教員部隊がVTシステムに全滅させられて、覚悟を決めた箒ちゃん達が決着を着ける形となった。どちらの事件も、千冬嬢は自分から『戦え』と指示してはいなかった。

 だが、今回は違う。今回は千冬嬢本人の口から一夏少年達を戦場に向かうように発言した。途中で私が自分だけで福音を倒すと発言した時、彼女は非常に複雑そうな表情を浮かべていた。きっと、千冬嬢には何か事情があったのだろう……一夏少年たちを戦いに向かわせなければいけなくなった、何かが。少なくとも、私はそう考えている。

 

「ち、千冬姉!?どうして急に謝るんだよ!?」

「教官が謝罪する必要など在りません!我々は自らの意思で任務に参加すると決めた以上、貴女を責める道理も在りません!」

「理由はどうあれ、諸君らを戦場に駆り出した切っ掛けは私だ。謝罪1つでどうにかなる問題だと分かってはいるが……それと、どちらも私の事は織斑先生と呼べ、と言っているだろうに」

 

 頻繁に言っている言葉もいつもより弱々しく、少年とラウラちゃんはそんな様子の千冬嬢に困惑したままだ。

 しかしその言葉が次への切り替えに繋がったのか、千冬嬢は軽く咳をついて次に進むジェスチャーとした。

 

「んんっ……さて、感謝と謝罪は述べさせてもらったが、次は諸君が最も思い至っている内容だと思われる」

 

 その言葉を聞いた途端、少年たちの肩がビクッ!と跳ね上がる。どれだけ怖がってるのだろうか。

 ちなみに唯一、箒ちゃんだけは逆に顔を引き締めている模様。完全に覚悟を決めている顔だね。

 

「織斑 一夏、凰 鈴音、 セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラボーデヴィッヒ。諸君らは途中で待機命令を下していたにも関わらず、作戦本部に無断で出撃を行った。この件について、何か申し開きがある者は遠慮なく申し出ろ」

 

 名前の挙がった5人は気まずい表情で沈黙を続ける。

 が、それを破ったのはこの中で最も行動力が高い鈴子ちゃんであった。

 

「は、はいっ!」

「凰か。言ってみろ」

「ほ、箒が……仲間が重傷負わされたのにジッと待つなんて出来ませんでした!一番の言いだしっぺはあたしです!他の皆も、あたしが連れ出しました!」

「鈴!?お前、何言って――」

「あんたは黙ってて!他の皆も、ややこしくなるから何も言うんじゃないわよ……!」

 

 鈴子ちゃんの放つ剣幕は非常に険しかった。喋ったら只じゃおかない、と目で強く語りかけている程に。

 それに押されて、他の子たちは何も言い出せなくなった。

 

 その一部始終を目の前で見ていた千冬は、鈴子ちゃんが発言を終えた事を確認すると、ゆっくりと口を開く。

 

「凰、無断出撃が咎められる理由は分かるな?」

「……組織内での勝手な行動で、体制等に支障が起こるからです」

「そうだ。確かに私と山田くんは指令室で作戦立案と現場の把握を務めていた。高速機動中は通信規制が掛かる為、我々の役目は福音を撃破する為の作戦、下準備を行う事だ」

 

 故に、常に高速機動で戦う福音戦の最中は離れた旅館から直接指示を出す事が出来ない。一般のISでは高速機動と通常モードの切り替えは一手間あるので、戦闘中にそんな暇も無い。

 

「確かに私に出撃を申請しても許可が通るとは限らなかった……だがそうだとしても、一度で良いから頼みに来い。お前たちが私たちの知らぬ内に出撃して、そちらの動きを把握できていなければ、万が一の救助も遅れる可能性がある。最悪の場合は……」

「……すみませんでした、無断で出て行ってしまって」

「私が言えた立場では無いと思うが、次は気を付ける様に」

 

 どうやら、此方は波風立たずに事が済みそうだ。良かった良かった。

 一夏少年たちも、鈴子ちゃんが特に大きく咎められない事を察して安堵の息を零している。

 

 と、ここまではまだ平穏な空気で済んだ。

 

「だが……篠ノ之 箒、テオ。お前たちには言わなければならない事が色々とある」

 

 ですよねー。

 

「篠ノ之。お前は一般生徒の身でありながら隠密に束と専用機の受け渡しを行い、2度にも渡る無断出撃を行った」

「はい」

「テオ。お前には妨害者との戦闘が終了した後に帰還命令を下したが、それを無視し妨害者の追跡を行うと言って通信を無理矢理切った。そして暫く連絡をしてこなかったと思いきや、福音との戦闘に介入。独断行動が過ぎる」

≪仰る通り≫

 

 これに関しては、私は反論出来る余地無しだ。その殆どが束ちゃんのシナリオ通りなんだけど、流石にこの場で言うつもりはない。

 

「今作戦は私にも非が多いが、お前たちのその点は流石に看過する事は出来ない。よってこの2名以外の者は反省文の提出と今回の問題行動に対する矯正指導、篠ノ之とテオは反省文を追加分と合わせて提出する事と矯正指導に加え、臨海学校終了後に懲罰室にて別途指導を行うからそのつもりでいるように」

「そんなっ!?箒たちは福音を倒すのに一番活躍してくれたのにっ!」

「活躍どうこうの話では無い、問題行動自体を起こした事が問題なのだ。では、以上を以て作戦終了とする。各自、ISを整備担当の教員に渡し、修理を依頼しておくように」

 

 そう言うと千冬嬢は、踵を並んでいる私たちを横切って旅館の方へと歩いて行く。

 

「あぁそうだ、山田先生」

「あ、はい」

「生徒たちに、先程決定した件を伝えておいてあげてください」

「わ、わかりました!」

 

 真耶ちゃんにそう言い残し、千冬嬢は再び歩き出していった。

 

 何の事か分からない私たちは、真耶ちゃんに視線を向ける。その視線を感じた真耶ちゃんは、話を始めてくれた。

 

「えっとですね。今回の臨海学校は予定では2泊3日の予定だったのですが、学園の方で手配してくれていたようで、もう1日だけ延長になったんです」

「延長?」

「はい。今日行う予定だった装備テストを明日の朝から行い、その翌日に学園に帰るというスケジュールになったんです。なので皆さん、旅館の美味しいご飯とお風呂がまた一日分味わえますよ!」

 

 真耶ちゃんはウキウキとした様子で私たちにそう告げて来た。

 なるほど、戦いで疲れている少年たちにとってその待遇は中々に嬉しい話だろう。お風呂と聞いた瞬間、一夏少年の目が輝いてたし。かく言う私も旅館の美味を味わえると思うと……ジュルリ。

 

「なので皆さん、この後はゆっくり休んで明日の装備テストに備える様にしてくださいね。今回の任務で皆さんの装備テスト予定の武装も使われたので、もし全体がスムーズに終わるようなら、終わり次第自由時間にして良いそうですよ!」

「ホントですか!じゃあ、海で遊んでも?」

「勿論です!あ、でも旅館に帰る時間はちゃんと守らないとダメですよ?守らなければランニングさせるって、織斑先生も言ってましたし」

「千冬ね……織斑先生が?」

「はい。臨海学校延長は学園からの提案でしたが、自由時間の件に関しては織斑先生が直談判してましたよ。何の償いにもならないけど、少しでも臨海学校に良い思い出を塗り直せるようにって。……あ、これは喋っちゃダメですよ?先生にバレたら私が睨まれちゃうので……」

 

 口元に指を立てて、内緒にして欲しいというジェスチャーをする真耶ちゃん。

 千冬嬢にバラしたら真耶ちゃんが大変な事になりそうなので、皆は快くそれに了承した。

 

「では、私もそろそろ戻りますね。旅館の方で水分補給用の飲み物等も用意してますから、ISを修理に出し終えたら皆さん遠慮無く受け取ってくださいね。……あ、そうだ」

 

 千冬ちゃんと同じように、旅館に向けた足を止めて此方に向き直る真耶ちゃんは、凄く良い笑顔で言葉を放った。

 

「これも内緒ですよ?織斑先生、皆が無事に帰ってくると分かった途端、嬉しそうな顔してたんです。勿論、私も嬉しかったんですから。……皆さん、今回は本当にお疲れ様でした!」

 

 そして、真耶ちゃんは今度こそ歩き去っていった。その場に残ったのは、専用機持ちのメンバーである私たちのみだ。

 

「……何というか、思ってたのと違ってたな」

「熱い砂浜の上に正座させられて延々と説教喰らう覚悟はしてたんだけど……」

「どんな鬼ですの。……いや、わたくしも多少はそういった事も覚悟はしていましたが」

 

 どうやら皆、中々ハードな展開を予想していたらしい。それなら最初辺りの緊張っぷりも納得だ。

 

「とにかく、これで終わったんだね……」

「……しかし、我々が最低限の罰なのに対し、お姉ちゃんとパパは加えて懲罰室行きなど……嫌だ、2人とも私とシャルロットを残して逝かないでくれ!」

「何故死亡扱いなのだ……安心しろラウラ。千冬さんはああ言ってたが、恐らくそこまでの内容ではないと思うぞ」

『えっ?』

 

 私と箒ちゃん以外のメンバーが、その言葉に反応を示す。

 どうやら皆、私たちが地獄の様な指導を受けるのではないかと思っていたらしい。

 

≪そうだね。確かに諸注意は多少あると思うけど……恐らく紅椿を手に入れた事によって、今後の身の振り方について相談する機会だと思うよ。懲罰室を選んだのは、それらがかなりデリケートな問題だから≫

「身の振り方って?」

「紅椿は姉さんが作ったISだ。姉さんは現在も国際指名手配中で、特定の国に所属しているわけでは無い。つまり、ISの方も何処の国に所属するか全く決められていない以上、その辺りもこれから詰めていかなければならないんだ。私自身が日本所属だから、恐らくそうなるだろうが」

「成程……箒さん、やけに冷静でありませんこと?」

「事前に姉さんから話は聞かされていたからな。覚悟はもう決めていたさ」

≪それと箒ちゃん、2学期の内には代表候補生になるんじゃないかってさ≫

『代表候補生!?』

 

 今度は先程のメンバーに加えてラウラちゃんも一緒に反応する。

 

≪世界最新鋭の第4世代機に加えて、束ちゃんの妹とくれば所属先の国家はスポットを当てない訳にはいかないだろうからね。多分所属国家が決定したら、そんな打診が来ると思われると思うよ、高確率でね≫

「何かそれ、それだと箒本人を見てないっていう風でヤな感じね。あんたはそれで良いの?」

「いい気分ではないのは確かだが、姉さんの妹である時点でそういう評価は承知していたさ。だが、それを理解した上で私は私の為すべき事を為す。只それだけだ」

「箒……考え方がすごく大人だね。大人というか、真人間というか」

「私達の自慢のお姉ちゃんなのだぞ?当然だろう」

「……ぶれませんわね、ラウラさん」

 

 ともあれ、その辺りも学園に戻ってからの話となるだろう。

 今は緊急事態を収めた事を喜び、残りの臨海学校を過ごしていかなければならない。

 

「さてと……それじゃあ一夏、締めに一発ビシッと号令的なのを決めてやんなさい!」

「お、俺がか!?」

「男性が声を掛けて下さる方が、様になりますわよ?という訳で一夏さん、お願いしますわ」

「一夏、よろしくね」

「……まぁ、そういう事なら」

 

 渋々な様子で、一夏少年は皆を集めて円形に集める。

 私と他の子たちは少年がどういう締め方をするのか気になる為、敢えて何も聞かずに彼の言葉に従うようにしている。さて、どうなるか。

 

「じゃあ皆、手を出してくれ」

「こう?」

「そうそう」

 

 皆の手が、中央に向かって次々と重ねられていく。

 ちなみに私はどう足掻いても手が届かないので、箒ちゃんの肩に掴まって輪に加わっている雰囲気を出すだけにしている。

 

 少年も私以外の子たちが全員手を出した事を確認すると、よし、と意気込んでから大きく息を吸い込む。

 

「俺たちは、成し遂げたぜー!!」

『おー!!』

 

 少年の掛け声に続き、私と少女たちの重なり合った声が響く。

 何か形で表現する事により、生き物は本当の達成感というものを得られる。我々の掛け声によって、福音撃破の任務が終了した事が実感させられる。

 

 任務は、成功したのだ。

 

 

 

 

 

「……なぁ、一夏」

「この円陣と掛け声って……」

「終わりの時にやるものではありませんわね…」

「どっちかというと、これって……」

「任務開始前にやるべき事だな」

「…………」

 

 砂浜に凄く微妙な雰囲気が漂った。

 少年……ドンマイ!

 

 

 

―――続く―――

 




 ついに、福音戦が終わったぞぉぉぉぉぉ!!
 私の低語彙力と低想像力故に単調&穴だらけな戦闘シーンばかりで退屈させてしまった読者様もいらっしゃるかと思いますが、無事に福音戦は終了しました!臨海学校はもうちょっとだけ続くんじゃ(亀仙人風)
 そして今回、若干タイトル詐欺っぽいですが……気にしたら負けですよね!(福音との戦闘は1/3にも満たないけど)

 それでは前回から引き続き登場した、テオの専用機である【銀雲】の第二形態【天臨】の紹介です。

◆銀雲第二形態【天臨】
 銀雲の活動時間が一定時間を超えた際に発動する事が出来る、銀雲の第二形態。従来の第二形態は二次移行を経てからは常時形態が変化後のままなのだが、468機存在するISの中で銀雲のみ第一形態に戻る仕様となっている。テオ曰く『銀雲はマイペースだから少し運動させないと本気になってくれない、だから第一形態に戻っているのも準備運動を兼ねている』とのこと。形状は、機体に掛かる空気抵抗を減少させるため(正確には内部システムへの負担を減少させるため)に全体的に鋭利さが目立つビジュアルになっており、パッと見刺々しい印象となっている。
 その性能は第一形態よりも更に上昇しており、スピードに関しては常時超音速機動(マッハ1,3~5)が可能となっている。天臨に搭載されている各機能によって音速活動時に発生する周囲への影響(ソニックムーブなど)を意図的に抑え込んでいるため、周辺に比較的問題を起こす事なく高速機動を行う事が出来る。高速機動時の際に搭乗者の身体を守る為に、従来の防護システム系もISコアの自己進化の影響で性能が上昇している。

●ステータス●()は銀雲時のステータス
 『攻撃力:C(D) 防御力:E(E) 速度:S+(S) 精密動作性:S(A) 攻撃範囲:D(D) 装備数:C(C) エネルギー維持率(燃費):A(A)』

●武装●
【双鞭―猫戯―】
 【ウィップ=ネコジャラシ】が形態変化の影響で進化した装備。尾の数が2本に増加しており、その威力も単純計算で2倍となっている。また、伸縮機能が加わったことによってリーチも見た目以上に長くなっている。

【裂爪―千切―】
 【クロー=ヒッカキ】が形態変化の影響で進化した武装。爪の長さと棘の数が外見上で変化し、攻撃時に摩擦現象を利用した電撃を発生させて追加ダメージを与えるようになった。

【忠臣―若猫―】
 【ビット=コネコ】が形態変化の影響で進化した武装。子猫のような外見から一変して立派な成熟猫型へと変貌し、性能も充分にパワーアップが果たされている。

【柔拳―肉球―】
 形態変化の影響で進化した【ナックル=ニクキウ】の強化型武装。各種性能が向上し、外装も武骨さが加わりサイズアップされている。

●単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)●
【零閃】
 機体内部に搭載されている各システム・機能を大幅に設定変更させ、超音速機動時に発生するソニックブームと機体熱の外部放出を体現。その状態で相手の傍を極超音速(ハイパーソニック)レベルのスピードで駆け、その際に生じる空間歪曲現象と熱波により超大ダメージを与える。連続の使用は搭乗者の生命に危機を及ぼす為、一戦闘毎に一回しか使用できない。また、機体速度によって三段階の威力レベル(Level.1~3)が存在し、奥の手なる裏技も存在するらしい。

 以上です。
 既に第二形態に移行できる、みたいな伏線を事前に張ってみたかったのですが、私の文才では無理な話でした。(絶望)
 ちなみに態々こういう仕様にしたのは、テオが最初から全力だと色々と都合が悪い事が一点。そして戦闘時にパワーアップとかフォームチェンジとかの手口が、私大好きだからです。寧ろこっちの方が本命です!
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