篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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 大雪で勤め先が一日臨時休業に……という事で予定外の連日投稿です。


夜の海で、2人は

 

 ◇   ◇

 

 臨海学校3日目の夜。学園と先生たちの計らいで一日分延長された学校行事も、明日の午前には学園に帰って終了となる。旅館の料理や温泉を名残惜しむ者も多いが、どんな事にも終わりは訪れる、そういうものだ。

 

 そんな中一夏は、月明かりに照らされた浜辺への道を1人で歩いていた。本来、この時間帯に外出する事は禁じられている為、お忍びで彼は外に出ていた。

 特に大それた理由は無い。ただ1人で泳いでみたくなったから。服装も泳ぐ為の水着姿で、夏の初めにしては夜でも少々気温が高い為、上に羽織る物は着ていない。

 

「ふぅ……」

 

 学園でも外でも誰かしらが一緒にいる一夏にとって、こうして1人で思いを馳せる時間は中々に貴重であった。一夏自身、人が居て賑やかな雰囲気が好きなので誰かが傍にいるのは歓迎だが、自ら1人になる事は珍しい。

 海に向けて足を進める一夏が脳裏に思い浮かべているのは、昨日の出来事の一部始終。

 

「昨日は命懸けの戦いをしてた、か……いざ終わってみると、あっという間だったな」

 

 事の始まりを告げた、副担任の真耶から報告を受けた千冬による号令。

 銀の福音の暴走を告げられ、それに対するべく旅館の一室を作戦室として皆で作戦を考える。

 そして第一陣。作戦の要であるテオが突然正体不明の機体から妨害行動を受け、残された一夏達のみで福音と対峙。

 戦闘が激しくなる中、紅椿に搭乗した箒が加勢するという予想外の展開。

 そして一夏を守るべく身を楯にした箒が、福音の手に掛かって……。

 

「……!」

 

 その時の光景を思い出し、一夏は表情を歪ませる。

 光弾の雨に晒されて、全身がボロボロになった箒の姿は一夏にとってあまりにもショックが大きかった。自身の身を抱く箒の名前を、彼は只管に呼んでいた。駆けつけたラウラとシャルによる適切な応急処置と迅速な対応のお陰で、箒は旅館へと運ばれて治療が行われた。

 それまでの間、一夏は何も出来なかった。白式のエネルギーも空で、彼女を運ぶ事すら出来なかった彼は、鈴の手を借りて共に帰還したのだ。箒の身体を運んだのも、シャルロットだった。

 一夏にとって、あの時程自分の無力さを情けなく思い、嘆いた瞬間は過去に無いだろう。

 

 しかし、瀕死の重傷を負っていた筈の箒は2回目の福音戦でピンチに陥った一夏の前に颯爽と現れたのだ。傷だらけだった筈なのに、近くで見た時も彼女の身体には傷らしきものは全く見当たらなかった。

 戦いが終わって、旅館に帰った後にも一夏は傷が治った理由を彼女に聞こうとした。だが、一日経っても未だ聞けていなかった。

 聞こうと思うと彼女の傷だらけの光景を思い出してしまい、そしてその原因を作ったのが自分である事を思うと、一夏は彼女の前でどう接したら良いか分からなくなっていた。戦いの最中は気にしていなかったが、落ち着いてから余計にそれを考えてしまう様になったのだ。食事中の時も、まだ傷が残っていて体調を崩すんじゃないかと危惧して彼女を意識していた。ラウラが指摘していた通り、一夏は箒の事を何度も見ていたのである。

 

 現に海に行こうとしているのも、もしかすると旅館にいる箒と顔を合わせない様にする為の逃避なのかもしれない。無意識かどうかは彼のみぞ知る話だが。

 

「箒……」

 

 一夏は彼女の姿を思い浮かべながら、その名前を呟いた。

 そしてそれは偶然にも、彼らの縁を繋げる事となる。

 

「……ん?」

 

 浜辺に辿り着いた一夏は、波の音が乱れているのを聞いた。どうやら誰か先客が居たらしく、海を泳いでいる様だ。

 誰なのかを知るべく海辺まで走り寄ってその姿を確かめる一夏。泳いでいる者が海から身体を出した瞬間、一夏は驚いた。

 

「箒……!?」

 

 何故ならば、先程まで自分が思い描いていた少女がそこにいたのだから。

 

「……一夏?お前も来ていたのか」

 

 一夏が驚いているを余所に、彼の姿を視界に映した箒は何事も無く彼に話し掛け、そちらに近づいていく。

 

「あ……お、おう。ちょっと泳ごうかと思ってな」

「この時間は外出を禁止されているのにか?ふふ、お前も中々に不良だな」

 

 浜に上がった箒は、意地悪な笑みを浮かべながら一夏の顔を覗き込む様に彼に近づいていく。

 彼女の格好は、海を泳いでいたので当然水着だ。2日前にテオが浜辺で見つけた時と同様の、ビキニタイプの白い水着。肌の露出が多いそれは、彼女の持つ大きな胸も目立たせる。一夏が視線を下ろせば、そこには彼女の顔と、大きな胸とそれによって出来る深い谷間が……。

 それに気づいた一夏は、気恥ずかしさから顔を赤らめると箒から勢い良く顔を逸らした。

 

「ほ、箒だって俺より先に抜け出して泳ぎに来てるだろ!?人の事言えないだろっ」

「おっと、気付かれてしまったか。残念だ」

 

 その事を指摘されても尚、箒は余裕の笑みを浮かべながら一夏をからかう。どうやらこの場では彼女の方が何枚も上手のようだ。

 

「それで、一夏も泳ぎに来たのか?」

「あー……うん、まぁな。箒はいつから来てたんだ?」

「夕食が終わって間もなくだな。テオ達にはこっそり伝えておいて見逃してもらっているが、一夏はどうだ?」

「……完全にお忍びです」

 

 尤も、伝えた所でその場でついて来ると言い出すだろうが。特にセシリアと鈴辺りは。

 

「私は少し休ませてもらうよ。一夏は私に構わず泳いでくるといい、この気温の海は冷たくて気持ちが良いぞ」

 

 そう一夏に言うと、箒は砂浜に座り込む。

 

 だが当の一夏は、海へ行かなかった。ほんの少し時間を置いた後、そのまま箒の隣に腰を下ろしたのだ。

 箒も彼のその行動を見て、キョトンとしている。

 

「あーいや、その、な……もし箒が嫌じゃなかったら、少し話でもしないかな、って」

「……ふっ、お前と話す事が嫌な筈ないだろう。そういう事なら、話をしようじゃないか」

 

 居心地悪そうにしながらぎこちなく語る一夏を可笑しそうに見やりつつ、箒は快く彼を受け入れた。

 

 夜の浜辺で、海を前にして座っている2人の男女。しかし片や平然と、片や落ち着かない様子で互いに沈黙を続けていた。話をする、と言いつつもその場には波の音しか漂っていない。

 言わずもがな、平然としているのは箒で、落ち着かない様子なのは一夏の方だ。

 

「で、話をするんじゃないのか?」

 

 表情を特に変えずに、箒は隣の一夏に視線を向ける。彼女自身はこの沈黙を気にしていないのだが、話をしようといった手前に黙ったままの一夏の事は流石に気になっていた。

 

 当の一夏も、話の場をかこつけたは良いものの、何から喋ったら良いのか迷っていたのだが。

 観念した彼は、とにかく自分の疑問を虱潰しに解消すべく、思い浮かんだ事から口にしていくことにした。

 

「あーっと……じゃあ、ホントに怪我は全部治ってるのか?どこか痛む所が残ってたりしてないか?」

「…………」

 

 その言葉を聞いた箒は、呆然とした様子で彼の顔を見つめていた。

 そして僅かな間隔が空いた後、箒は堪えきれずに笑いを噴き出した。

 

「ぷ……く、ふはははっ」

「え、え?」

「ま、まさかお前……くくっ、それで昨日からずっと様子がおかしかったのか?ははは……」

「わ、笑い事じゃねえよ!あんな酷い怪我したってのに!」

 

 自分の抱いていた心配まで笑われたような気になって、一夏はまだ笑っている箒に対して怒りを示す。散々心配していたというのに、アッサリとされすぎてて彼の気に障ったのだろう。

 

「あぁいや、済まなかったな。散々大丈夫だと言っているのにまだ疑われていたので、ついな……ほら、どこにも傷は無いだろう?」

 

 そう言って箒は、自分の身体を一夏に良く見える様に見せつける。

 福音戦の時に箒の身体を食い入る様に見ていた一夏だったが、ISスーツよりも布面積の少ない水着の為、その時以上に肌が露出している。やはり傷らしきものは一切見当たらない。

 先ほど胸の谷間で箒の女性部分を意識してしまった為、一夏は確認を済ませるとすぐに視線を彼女の身体から背けた。

 

「た、確かに治ってるみたいだけど……一体どうやって治したんだよ?俺、ずっとそれが気になってたのに」

「あぁ、それはな……紅椿のお陰だ」

「紅椿が?」

 

 箒の手首に巻かれた、金と銀の鈴が付けられた赤い紐。紅椿の待機形態時の姿だ。

 

「もしかして、紅椿って搭乗者の身体を治す機能まであるのか?流石最新鋭機、何でもありだな……」

「違うぞ」

「えっ」

「本来、紅椿に生体再生機能は存在しない」

 

 生体再生機能。難しい表記の言葉が出て来たが、一夏にはそれが自分が言っていた搭乗者の身体を治す機能の事であるとすぐに察する。

 しかし箒の解答は、一夏が納得するものではなかった。

 

「そもそも、生体再生機能が元々備わっているISは……お前の白式1機だけだ」

「え……?」

 

 ならば尚の事理解できないと、一夏は思った。自分の白式にその機能があって箒の紅椿に無いのであれば、箒はその機能の恩恵を受けないだろうと。

 更に箒は、一夏の求めていた真実を口にしていく。

 

「私の紅椿が生体再生機能を行使したのは、全てのISに備わっているとある機能が原因なのだ。一夏、福音が暴走した日……最初の装備テストの前にシャルロットがISのコアネットワーク以外にもう1つ説明していたのを覚えているか?」

「えっ?えぇっと…………あ、あれだ!【非限定情報共有(シェアリング)】、ISのコア同士で情報を共有して自己進化の糧にしてるっていう、あれ!」

「そうだ」

 

 そこまで答えが出かかった時、一夏もとうとう感づく事が出来た。

 つまり、箒の紅椿は……。

 

「他のISの情報や経験を取り込み、進化や模倣といった形で完全に自身の力とする……紅椿は、シェアリングの究極型なんだ」

 

 箒が語ったその真実に、一夏は言葉が出てこなかった。

 

 本来、シェアリングが適用されるのは稼働データから齎される『情報』のみであり、今後の進化にどう影響するのかはあくまでIS自身に左右される。第一形態から第二形態に移行した際、搭乗者の戦闘経験や他のISの情報を統合し、武装や性能などに反映させる。内部機能など、再現不可能な事も多く存在している。

 だが、紅椿はその不可能を可能にしたISだった。情報を得た所で再現に至る事は出来ない、白式の生体再生機能を自分の物として完全に習得してみせたのだ。圧倒的な情報処理能力によりシェアリングで得た『情報の細部』まで吸収、更に自身の経験値に組み込む事によって、ありとあらゆる機能、性能、武装などを再現、若しくは進化の糧とする。加えて紅椿の性質である【無段階移行(ネームレス・シフト)】が相まって際限ない成長を繰り返していくという、とんでもない設計だ。

 シェアリングの判明は近年と言われている。しかしその発見は世間によるもの。篠ノ之 束博士が発表した物ではない。

 何故なら彼女は『とっくに昔から』その存在に気付いており、今日まで追求し続けていたのだ。そしてその集大成が、紅椿なのである。

 

 一通り説明を聞いた一夏は、確りと納得出来た。

 箒の傷が治ったのも、紅椿が白式の生体再生機能を習得し、それが彼女の身体に反映されたからなのだと。

 

「そういう事だったんだな……」

「あぁ……まったく、姉さんもとんでもない奴を私に渡したものだな」

 

 これまでの情報を頭の中で整頓している一夏の隣で、箒は手首に巻かれた紅椿を見やる。その瞳は言葉とは似合わず、明るい感情に染まっていた。

 

「だが、私は必ずこいつに相応しいパートナーとなってみせるさ。それが、彼女との約束なのだからな……」

「箒……」

 

 一夏はそんな箒がとても輝いて見えた。堂々と前を向いて進んでいくその姿勢は非常に眩しくある。

 そして同時に彼女の光に当てられた一夏の心には、影が掛かっていた。

 

「凄いよな、箒は……専用機を貰って、元々強かったのにもっと強くなって、それでも前に進もうとしてる。それに比べて、俺は……」

「……一夏?」

「大事なとこで馬鹿やらかして、箒を死に掛けさせて、何度も箒に助けられて……情けないよな、俺」

 

 一夏は自分自身の弱さを嫌悪し、顔を伏せてしまう。

 

 今の箒の在り方は、一夏にとって理想の姿だった。仲間を大切に想い、その為の力もあり、更に前に向かって突き進むその姿勢。セシリアとクラス代表の座を掛けて戦った時に誓った『大切な人達を守る』意志に適った生き方である。

 だが、今の自分にはそれが無いと自覚する。密漁船の件、箒を瀕死にさせてしまった件、仲間が次々と福音にやられた件。それらは自身が心身ともに力不足である事を痛感させるのに十分な内容だった。

 一夏は、自分に無い物を持っている箒が羨ましいのだ。

 

「一夏……」

 

 そんな一夏を見た箒は、彼の傍に身体を寄せると、彼の頭の両側に手を添え……。

 

「ふんっ」

 

 強引に顔を上げさせ、自分の方に向かせた。一夏と箒の顔の距離は、互いの息が掛かりそうな程に近くなる。

 突然の箒の行動に加えて、彼女の顔が近くなった事で一夏は先程の鬱が嘘のように慌てふためく。普段は幼馴染みの1人として接しているが、いざ間近で見てみると、成長した顔立ちは女性として魅力的な端正さがある事を意識させられてしまう。

 一夏の心臓の鼓動は、否応に速くなっていた。

 

「え、ちょ、箒!?何を!?」

「…………」

 

 一夏の動揺を余所に、箒は一夏の顔を真剣な顔つきでジッと見つめ続ける。

 やがて彼女は、軽く溜め息を吐いた。

 

「ふぅ……もっと剣道をやらせて心身を鍛えさせるべきだったかもしれんな」

「は?いや、一体何の……」

「向こう見ずだった昔の方が、お前らしいという事だ。小学生の頃、私達が仲良くなったきっかけを覚えているか?」

「小学校の頃の……?」

 

 そう言われて一夏は、昔の記憶を掘り起こし始める。

 

 昔の2人は仲が悪かった。千冬が篠ノ之道場に一夏を入門させた事によって2人は本格的に知り合ったのだが、実力者の箒に対して一夏は対抗心を燃やすが何度も敗北。基礎を疎かにし剣筋も荒っぽい一夏が気に入らない箒と、自分の事を歯牙にもかけずに圧勝してみせる箒が気に食わない一夏。道場で2人が会話を交わす事は全くと言っていい程無かった

 そんな2人に転機が訪れたのは、とある日の教室。他の人が掃除当番をさぼった為に1人で教室の掃除をしていた一夏を横に、箒が男子生徒3名に絡まれていた。女の子にしては男らしいお堅い口調に加え、剣道を学んでいる為に竹刀を携えている姿から、一部の男子のからかいの対象にされていたのだ。

 最初は箒を含めて邪魔に思っていた一夏も彼らに口出しをし、口論が更に激しくなり出そうとした時、事態は1人の男子生徒の一言で大きく急変した。

 

『そういえばこの男女、帰る時にいつも黒い猫が一緒にいるんだけど、俺知ってるぜ。黒猫って不幸とか持ってくるヤツなんだろ?疫病神(・・・)と一緒にいるこいつも同類なんじゃ――』

 

 そこまで言い掛けた所で、男子生徒は言葉を止めた。

 箒が胸ぐらを強引に掴んで、無理矢理彼を黙らせたのだ。その表情は一夏が今まで見た事も無い程に、激しい憎悪に満ちていた。

 

『私の家族をもう一度馬鹿にしてみろ……その時は、本気で叩き潰すぞ』

 

 家族、という言葉を聞いた一夏は納得した。同時に彼女に共感した。家族を馬鹿にされたのならば、あのように怒るのも当然だと思ったのだ。

 そこから掴まれた男子生徒が箒のリボン姿を馬鹿にした所で、一夏も本格的に参戦。結果、一夏が3人の男子生徒を殴り伏せた事によって、その場は一旦鎮静された。その後も色々と面倒事があったが、この場では割愛。

 落ち着いた数日後、2人は初めてまともに会話を交わした後に互いに自己紹介をし直し、新しく関係を結んでいくことに。

 

「そうしたら、お前はこう言ったな。『最初に試合をした時から、ずっとお前に勝ちたいって思ってた。だからいつか絶対に勝ってやる』……とな」

「……そんな事も言ってたな」

「私の方が何年も前に剣道を積み重ねてきたというのに、今思えば大した啖呵を切ったものだな」

「馬鹿だって思ってる?」

「確かに馬鹿かもしれん。だが、そんな馬鹿みたいに真っ直ぐな奴だからこそ、私はあの時お前に救われたんだ」

「……!」

 

 一夏の目が見開く。

 

「密漁船を救った件も、あの時船を庇った奴だからこそ、気に食わないと思われていた昔の私に味方してくれた。白式は一撃必殺を信条にした機体なのだから、極めれば私を完封出来る程の高みに至れる筈だ。そして……」

 

 箒は一夏の頭から手を離さないまま、ニコリと柔らかな笑みを浮かべた。

 

「それ位に強ければ、必ず私を守ってくれるのだろう?どれだけ躓いても、成し遂げようと挑み続けるお前なら、それが出来ると……私は信じている」

「っ!……ははっ、そうだったな」

 

 広がった2人の実力差、過去の失態。それらによって、一夏は自分の目が曇っていた事に気付けた。そして同時に、思い出した。

 自分はやると決めたらとにかく只管突き進む、幼馴染みお墨付きの頑固者だったと。

 大切な人達を守る。そしてその中には、目の前にいる箒も入っている。

 その為に強くなる。どんなに差が広まっても、いつか必ず追い越してみせると。

 

 一夏の心は、改めて定まった。

 

「ふっ、漸くいつものお前らしくなったな」

「悪い……箒のお陰でもう大丈夫だ」

「そうか……よしっ!」

 

 満足げに頷いた箒は、一夏の頭から手を離すと、次は彼の手を取ってそのまま立ち上がった。一夏も彼女につられて慌てて立ち上がる。

 

「ならば泳ぐぞ!折角海に来たのに泳がないのは勿体ないだろう?」

「ちょ、ちょっと待った!せめて準備運動をだな――」

「時間は有限なんだ、千冬さんに気付かれる前に目一杯泳ぐぞ!」

 

 珍しくはしゃいだ様子を見せる箒は、一夏の手を離さずにそのまま彼を海へと連れていく。準備運動をしようと言うも、その勢いに押されて彼もただ引っ張られるままに海に赴く事に。

 

 ふと、一夏は箒が着けているリボンとそれで束ねたポニーテールを揺らす後姿を意識する。自分が誕生日に贈った白いリボンは、彼女の艶やかな黒髪を引き立たせるのに十分な役割を発揮していた。

 

「なぁ、箒」

「ん?どうかしたのか?」

 

 だから一夏は、伝えたい一言があった。

 子供の頃から彼女が身に着けている、女の子らしい一面。

 

「リボン、凄く似合ってるよ」

 

 その言葉の後に浮かび上がる彼女の表情は、一夏にとって忘れられない光景になった。

 子供の頃よりもずっと自然になった笑顔が、そこにあった。

 

 夜の海で、1人の少年の心が揺さぶられた瞬間でもあった。

 

 

 

―――続く―――

 





●おまけ●

 一夏と箒が海で遊んでいる頃……。

鈴「くっ……やるわねセシリア、まさかあんたがここまで卓球が上手いとは……」
セシリア「卓球の別名はピンポン、そしてテーブルテニス……テニス部のわたくしにとっては親戚同然ですわ!」
鈴「くぅっ……あんたがテニスなら、あたしはテニヌで対抗するまでよ!」
セシリア「ボールが鈴さんに引き寄せられて……あれが伝説の貧乳ゾーン……!?」
鈴「ぶっ飛ばすわよ」

ラウラ「知っているかシャルロット。日本では温泉から上がったらコーヒー牛乳を一気飲みする文化があるらしい。腰に手を当てるのが細かい作法だとか」
シャルロット「また変な知識を教わってる、もう。それはあくまでイメージに過ぎないから、ラウラはそんな事しなくても……」
クラスメイト達『んぐ……んぐ……ぶはぁ』(低音)
ラウラ「他の者はやっているぞ」
シャルロット「教育に悪いから止めてくれないかなぁ!?」

●  ●

 久しぶりの箒×一夏回。事件の終わり事に一回のペースでしたから、殆どタグ詐欺してますよね(今更)。しかし、今回を機に2人の距離はこれから少しずつ縮まっていきます!予定ではなくね。
 最後のシーンも今まで箒の『強さ』を褒めていた一夏が、箒のリボン、つまり『女の子としての面』を褒めたという描写なのですが、上手く書けているのやら……。

 そして紅椿が原作以上のチート設定に……態々装備テスト前に【非限定情報共有(シェアリング)】が説明されたのはこの為でもありました。これも今作品の独自設定です。
 要約すると、『最初から高性能なのに成長速度と成長幅がえげつない』という事です。もう箒さん覚醒してるんですがそれは……。

 次回は原作通り束と千冬の密会。その中には、我らがもう1匹の主人公の姿が……?

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