篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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銀色の相棒を持つ者同士

 臨海学校4日目。一日延長の影響で、今日こそが最終日となる。

 朝一で前日にテストしたIS装備の最終撤収確認を済ませた後、4日間お世話になった旅館への奉仕活動を行う。各班で使用した部屋以外にも玄関、通路、フリースペースなど使用頻度の多かった箇所の掃除や、砂浜や旅館周りのゴミ拾いを生徒全員で行っていく。これは毎年林間学校での習慣となっており、感謝の気持ちを形にする為の旅館と学園での決まり事となっている。

 その間に先生たちは先行して訓練用ISを学園へと搬送、生徒たちは奉仕活動終了後にバスで学園に帰る流れとなっている。

 

 そして現在、私は一夏少年と一緒に浜辺でゴミ拾いを行っている。

 

「皆と遊んだ浜辺はそうでも無かったけど、別の浜辺はゴミが多いな……ちゃんとゴミは持ち帰ってくれよ」

≪同感だね。あぁ少年、そこに手持ち花火の使い捨てが一本あるよ≫

「ホントだ……ったく、マナー悪い人が多くて困るな」

 

 そう独りごちる一夏少年の手にあるゴミ袋の中身は、程々に量が溜まりつつある。少年がウンザリするのも納得な捨てっぷりだね。

 

「今度は空き缶……この辺に海の家とか無いのかよ」

≪無いみたいだね。大分離れた所にあるみたいだから、この辺で遊んだ人は持って行くの面倒臭がったんじゃない?≫

「じゃあ何で持って来たんだよ……というかテオ、俺の肩に乗っかってるだけで仕事してないよな?」

≪いやいや、ちゃんとゴミレーダーとして働いてるじゃないか。君とは同じ部屋割りだったんだし、他の子達の手伝いは猫の身体じゃ無理があるからね≫

「まぁ確かにそうだけどさ。俺も実際、黙々とゴミ拾いするよりは誰かと喋りながらの方が気が紛れて良いし」

 

 第一、埃が飛び交う中にいるのは私もキツイからね。水回りの仕事も出来る事無いし。

 

「というか、あっちぃ……やっぱりもう夏なんだなぁ」

≪初日と3日目の自由時間で十分泳いだじゃないか。夏気分は味わえてただろう?≫

「いや、日差しの下で肉体労働してると、改めてそう思えるなーと思って。IS弄ってても季節とか感じ辛いし」

≪分かるよ。私も夏は縁側の下で日差しから逃れたり、扇風機の前でグデ~ってしたりして、夏を感じていたよ≫

「……猫って働かなくて良いから羨ましいよ」

≪見世物になってない動物以外は大体そうだよ≫

 

 昔、近場の動物園でボス猿をしていたとある彼は辟易としていたのを思い出した。猫は猫でカフェとかで働いてる子もいるけどね。

 

≪まぁ少年の期待に応えるために、私もレーダー役を全うしようじゃないか。という訳で、あそこに黒い本が落ちてるよ≫

「落ちてるというか、突き刺さってる状態なんだけど……何だこの本?というかノートか?」

≪見るからに不気味なノートだね。直訳すると死のノートだってさ、余計に不気味だよ≫

「何か色々名前が書いてある……人の名前しか書いてないなんて、変なの」

≪後で交番に届けておくかい?≫

「捨てても良いと思うけど……持ち主が失くしてたら困るだろうしな。そうするか」

 

 というか、海にノート?

 

「お、また何か発見……何これ?」

≪オレンジ色の水晶かな、珍しい。中に赤い星が入ってるみたいだね≫

「おぉ、どの角度から見ても星型に見える……錯視ってやつ?」

≪明らかに貴重品みたいだし、これも交番行きだね≫

「んー……でもこの球、どっかで見た事あるような……」

 

 不思議な物を見つけたりしながらも、私と一夏少年は時間一杯までゴミ拾いに励むのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 午前中の内に奉仕活動も終了し、残すは帰るだけとなった私達。

 それぞれクラス別にバスへと乗り込んでいく中、私は箒ちゃん達と共に既に座席についている。私の座席は箒ちゃんの膝の上だ。

 

「色々とあったが、過ぎてみればあっという間の4日間だったな」

「そうだね。旅館の料理に温泉に海……皆と一緒に部屋で遊んだり、良い思い出も沢山作れたよ」

「私の部隊への良い土産話になりそうだ、学園に帰還したら連絡でも入れておこう」

 

 箒ちゃん、シャル、ラウラちゃんの3義姉妹が席を挟んで楽しそうに談話している。福音戦という穏やかじゃないハプニングもあったけど、それ以外の思い出はこの子達にとって良い物となっただろう。

 

「そういえば、夏休みも近くなってきたな……2人はやはり本国に戻るのか?」

「そうだね。僕もデュノア社を吸収併合した新しい所属先……エトワール技術開発局の人達とちゃんと顔合わせしないといけないし。まだ社長のピオニーさんと社長秘書のジェイドさんくらいしかモニター電話で話せてないから」

 

 そう言えば、シャルの父親が経営していたデュノア社は、通称エトワール技局が丸ごと取り込んだんだったね。あの後からシャルも何事も無く会社の話をしているから、今度は恵まれた企業に就けているようで、安心だ。

 

「我が部隊の奴らにも帰国の約束をしているのでな。シュヴァルツェア・レーゲンの本格整備や部隊長としての職務もせねばならぬし、私も夏季休校時が始まったら間もなく本国帰還をする予定だ」

 

 確か、シュヴァルツェ・ハーゼという特殊部隊だったね。

 帰国してもやらなければならない事が多いとは、やはり現役軍人に加えて代表候補生なのは大変そうだ。

 

 そんな話をしていると、突然シャルが何か閃いたようで顔を綻ばせた。

 

「そうだ!箒とお父さんも僕とフランスに来ない?お母さんや会社の人達にも2人を紹介しておきたいし!」

「む、抜け駆けは看過出来んぞシャルロット。そういう事なら我がドイツに来てもらわなければ。歓迎しよう、盛大にな!」

「おいおいお前達……私達の身体は1つずつなのだから、同時に誘われても分身等出来んぞ」

「何!?日本のサムライ、ニンジャ、カブキは分身が出来るのではないのか!?」

「出来る訳無いだろう」

 

 ラウラちゃんが物凄く驚いている。ドイツで日本はどんな国だと思われているのだろうか。

 

「そもそも、分身自体が架空技術に過ぎないとも言われているのだ。生身の現代人では間違いなく不可能だぞ」

「そうなのか……どうして分身を作らないんだと時折思っていたのだが、そういう事だったのか」

「というか箒は、自分がサムライと言われても否定しないんだね……」

 

 いつぞやは自分を武士だと言い切った事もあるからね、箒ちゃんは。

 

≪まぁ、その辺りの予定は帰ってからゆっくり決めようじゃないか。私はともかく、箒ちゃんも夏休みは用事があると――≫

「ねえ、織斑 一夏くんって子達がいるクラスはこのバスで合ってる?」

 

 その時、バスに現れた大人の女性に皆の視線が集まる。

 鮮やかな金髪に、服装はブルーのカジュアルスーツ。胸元はボタン二個分開かれており同じスーツ姿の千冬嬢とは異なりゆったりとした雰囲気を纏っている。僅かに柑橘系のコロンを使っているようで、嗅覚の鋭い私にはそれが良く伝わる。

 ナターシャ・ファイルス。銀の福音お嬢ちゃんの搭乗者だ。

 

 彼女の事を知っている子達、専用機持ちのメンバーは彼女の事を知っており、その姿を見て驚いている。

 

「……えっと」

 

 ただし、一夏少年は除く。戦闘後に彼女の姿を見ている筈なんだけど、忘れてるのだろうね。

 

≪少年、この人は銀の福音の搭乗者だよ≫

「えっ……あっ」

「あらら、周りには美少女がよりどりみどりで居るから、私の事は印象に残らなかったかな?」

「い、いえっ!そんな事は決して……!」

「ふふ、冗談だからそんなに慌てなくても良いわ。今日は貴方と、そこの子達に言っておきたい事があったから」

 

 年上らしく余裕を持って一夏少年をからかった後、ナターシャお嬢さんはセシリア姫や箒ちゃん達の方にも視線を送る。

 

「あの子が一般の人を手に掛ける前に、止めてくれて本当にありがとう。……そしてアメリカとイスラエルのゴタゴタに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

 

 私達に向かって深く頭を下げて謝罪するナターシャお嬢さん。頭を下げる直前、その表情は申し訳無さそうに顔を曇らせていたのが見えた。あの子、とは福音お嬢さんの事を指しているだろう。

 彼女の謝罪は何らおかしな事は無い。そもそも私達はアメリカ・イスラエル両国のトラブルとは無関係だったにも関わらず、福音の軌道線上付近にいるという理由で駆り出された、所謂とばっちりと言うやつだ。ナターシャお嬢さんもある意味巻き込まれた側だけど、母国の対応に思う所があり、こうして謝りに来たのだろうね。

 

「それと、篠ノ之 箒さんは居るかしら?その子には特に迷惑を掛けてしまったと聞いているから……」

「私です」

「そう、貴女が……」

 

 お嬢さんは悲痛な面持ちで箒ちゃんの傍に近づくと、その場に膝を着いて箒ちゃんと目線の高さを同じにした。

 そんなお嬢さんの様子を、箒ちゃんは真剣な表情で見つめる。周りの子達も漂う雰囲気に緊張した様子となっている。

 

「ごめんなさい……普通の女の子である貴女に戦いの道を進ませ、辛く痛い目に遭わせてしまって……本当に、ごめんなさい」

「……頭を上げてください、ファイルスさん」

 

 罪悪感に堪えきれずに俯くナターシャお嬢さんの肩に、ポンと軽く手を置く箒ちゃん。

 

「確かに、今回の件を切っ掛けに私はこいつを……紅椿を受け取りました。ですが私の身体に傷は残っていませんし、そうなる事も覚悟の上で私は紅椿の手を掴んだんです」

「だとしてもっ、傷が消えているにしても!貴女を苦しめた事に変わりは――」

「貴女が私に負い目を感じているのであれば、私から言える事は只一つです」

 

 お嬢さんの肩に手を乗せたまま、箒ちゃんは相手と真っ直ぐ目を合わせる。

 

「自分の罪を心に刻み、進む事です」

「心に……刻む」

「私も同じです。嘗て大きな過ちを犯し、悲しませた人達がいました……だから私は、もう二度とあの時の様な悲劇を生み出さない様に、過去の罪を背負い続けます」

「……強いのね、貴女は」

 

 本当に、箒ちゃんは強くなった。剣の腕前もそうだけど、何よりも精神が逞しくなっている。

 家族として、非情に嬉しい成長っぷりだ。

 

「……これは私の名刺よ。もし何か困った事があれば、気軽に連絡して頂戴。出来る限り力になるわ」

 

 そう言ってナターシャお嬢さんは、スーツの胸ポケットから一枚の名刺を箒ちゃんに差し出した。名刺には彼女の名前、電話番号、勤続先等の基本情報が記載されてある。

 軍用ISのテストパイロットをしていたという事は、彼女もアメリカ軍でIS搭乗者用の特別な立ち位置にいるのだろう。そんな彼女と繫がりが出来たのは、箒ちゃんにとって色々と良い話だろう。IS搭乗者の先輩としては勿論、いざという時に対しても。

 

「……それと、猫ちゃん。貴方にも話があるのだけれど、良いかしら?」

≪おや、私にかい?それは構わないけど≫

「……思ってたよりも年期が入ってたわね。此処では少し都合が悪いから、ちょっと外まで付き合ってくれない?」

 

 と言う事なので、私はナターシャお嬢さんの後をついて行ってバスの外へと出た。バスの前で話をしていた千冬嬢と真耶ちゃんにも一言告げつつ、私達は程良い所で話を始める。

 

「それでえっと、猫ちゃん……じゃなくて、猫くん?猫さん?」

≪どちらでも構わないよ。学園の子達にはどちらでも呼ばれているし、おじ様と呼んでる子もいるからね。それと、私の名前はテオだからそっちで呼んでくれて良いよ≫

「そうね……それじゃあ、テオくんで良いかしら?」

≪お気に召すままに≫

 

 実際、一組内ではその呼ばれ方が一番多いんだよね。交流が多くない他の組はさん付けだし。

 

「で、本題に入るけど……ブリュンヒルデから聞いたのだけれど、あの子は……」

≪束ちゃんの元にいるよ。君の母国に返した所で、凍結処理を下されるのがオチだろうしね。それ以前に、今のあの子には休息の時間が必要だ≫

 

 何せ多くの国を巻き込む大事件になりかけたのだ、直ぐにIS開発に使われるとは到底思えない。アメリカとイスラエルの共同開発もおじゃんになるだろうし、凍結処理の管理先を決める為に両国でまた面倒な言い争いがあるだろう。そうするのは勝手だけど、この子の意志を無視して話が進められるのは当人にとっても不本意だろう。

 と、いう訳で。

 今回の事件を聞きつけた束ちゃんが旅館に現れて、回収された福音を没収するという形でISの処置を決めさせてもらった。仮に2国から抗議が来たとしても以下のように言うつもりらしい。

 

『確かに現在は条例で軍事転用の完全禁止はされてないけどさぁ、まぁそれも充分ムカつく話だけど今はいいや、流石に限度ってものがあるよね?理解してないの?出来ないの?馬鹿なの?死ぬの?しかもまともに管理出来てないとか嘗めてんの?もう没収は確定だし、これ以上グダグダ言うなら色々と【バラす】よ?』

 

 との事だ。

 もし束ちゃんがその色々を『バラす』事になれば……少なくとも、アメリカのIS界における立場はガタ落ちとなるだろう。イスラエルは下手をすればISと関わる事すら出来なくなるかもね。

 そんな2国に素敵な言葉がある。『身から出た錆』という言葉がね。

 

 そうして私は一通りの説明を終える。

 私の話を聞き終えたナターシャお嬢さんは、寂しそうな表情をしながら息を深く吸い込んだ。

 

「そう、ね。これ以上人間の事情に関わらせない方が、あの子にとって安全でしょうから」

≪君は相棒と離れ離れになってしまって大丈夫かい?≫

「勿論、寂しいわよ。けどそれ以上にあの子の幸せを願ってるの。あの子はこの空を自由に飛ぶ事が本当に大好きだったんだから」

 

 私達の上に広がっている、青い空が目に映る。

 次の言葉が紡がれるまで、私達の間に静寂な空間が少しだけ訪れる。

 

「……ねぇ、もしあの子と話が出来るなら、伝えて欲しい事があるの」

≪聞こうか≫

「『迷惑掛けちゃってごめん。そしてありがとう、あなたは私の最高の相棒よ』……これでお願い」

≪……ふっ、やはり君達は良いパートナーだね≫

 

 お嬢さんは私の言葉の意味が分からずに首を傾げている。

 何せ、私も福音お嬢ちゃんから言伝を預かってたんだからね。あの子の相棒……ナターシャお嬢さんに向けての、ね。

 

≪そんな君にも伝言があるよ。『いつか、また一緒に飛ぼうね。わたしの大好きな人』≫

「……そっか」

 

 福音お嬢ちゃんからの伝言を聞いたナターシャお嬢さんは、そう一言だけ呟くと、私の方から顔が見えない様に空を仰ぎ始める。彼女の肩は、僅かに震えていた。

 今は、1人にさせておこう。

 

≪私はそろそろ戻るよ……それじゃあ、またいつか≫

「……ええ。また、いつか」

 

 その言葉は私に向けてか、それとも此処にはいないあの子に向けてか。

 別れの言葉と共に私はその場を離れて、バスへと戻っていった。

 

 バスに着いた私は、再び箒ちゃんの膝の上へ。

 

「テオ、あの人と何の話をしていたんだ?」

≪んー……世間話とか、色々とね≫

 

 そこでバスのエンジンが掛かり、身体が僅かに揺れる。

 出発する事を確認した私は、そのまま眠る態勢に入った。

 

 そして私は夢を見る。

 昔々、ある所に捨てられていた一匹の黒い猫のお話を。

 

 

 

―――続く―――

 




 臨海学校編エピローグ回でした。
 ナターシャの謝罪シーンは、一応ちゃんと入れておきたかったので描写させていただきました。原作で「はぁい」と軽い感じで登場して去っていったのを『巻き込んだ事を謝って?』と思いながら見てました。まぁIS原作のツッコミ所はそこ以外にも沢山あるのですが……この作品にもブーメランな事ですね。(今更)

 そして次回より第2章、テオの過去編がとうとうスタートです!
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