篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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第7話 キャット・ダンス・ワルツ

 

 一夏少年との試合が終わった私は次のセシリア姫との試合の準備に取り掛かる。

 セシリア姫の専用機【ブルー・ティアーズ】のステータスが私のISの元に送り届けられる。ブルー・ティアーズはイギリスが開発を進めた第3世代型の機体で、機体に装備されている重火器と、特殊兵装である【Bluetears innovation trial】、通称BT兵器による遠距離攻撃を得意としたISである。

 

 それらの情報を受け取りつつ、私はセシリア姫の登場をアリーナにて待ち受ける。

 ちなみに私は一夏少年のように控え室に戻るようなことはせず、そのまま待機しているような形でいる。

 

『あの、テオちゃん?ホントにそのまま続けてしまって大丈夫なんですか?テオちゃんの実力は今の試合で十分にわかりましたけど、オルコットさんは代表候補生でもありますし、念のために万全の状態で挑んでからでも……』

≪心配には及ばないよ、真耶ちゃん。今の試合で大して消耗もしていないから、このまま戦うにも十分なほどエネルギーは残っているのでね≫

『わかりました、そこまで言うのであれば私ももう何も言いません。今回の試合は織斑君の時とは趣旨が違うので制限時間が先ほどより短いですが、それでも調子が悪くなったら直ぐに申し出て下さいね?……ところで、どうして私はテオちゃんの先生なのにちゃん付けなんですか?』

≪いやぁ、私って保護欲が湧いてしまうような子にはちゃん付けで呼んでしまうみたいでね。真耶ちゃんって傍から見ていて結構抜けている所があるものだから、ついつい見守ってあげたくなるのさ≫

『……織斑先生、私って先生でしたよね?実は生徒だったってオチじゃありませんよね?』

『そこで疑問を抱くんじゃない。テオも不必要に山田君をからかうのはやめろ』

≪かしこまり≫

 

 千冬ちゃんのストップが掛かってしまったため、真耶ちゃんの反応を見て面白がるのはここで終了。残念、けどシカタナイネ。

 

「あら、わたくしとの試合の前だというのに随分とのんびりしていますのね。歳を重ねて余裕を感じているのは結構ですけれど、わたくしを嘗めていると今に酷い事になりますわよ?」

 

 私が管制室の二人と戯れていると、準備を済ませたセシリア姫がブルー・ティアーズをその身に纏ってアリーナへと舞い込んできた。飛ぶ姿は素人の一夏少年とは違って優雅で余裕があり、やはり代表候補生は格が違ったと感じさせられる。

 

≪いやいや、これでも色々と緊張しているとも。なにせ代表候補生と戦う機会なんて今回が初めてだからね≫

「そう……ならばその眼にしかと焼き付けておくといいですわ。イギリス国家代表候補生にしてエリートである、このわたくしの実力を」

 

 そう言うとセシリア姫は両腕に携える程の長いライフル銃を粒子召喚し、銃口を私に向けた。

 

「わたくしの愛銃、【スターライトmkⅢ】の一撃を食らいなさい!」

 

 セシリア姫は構えた銃から青色のレーザーを撃ち放った。

 

 レーザーというだけあってその速度は実弾銃よりも速いが、ISを身につけていれば対策不可能というわけではない。

 親切に撃つ前に宣言してくれたのもあり、私は迫り来る光線を回避した。

 

 私の回避に構わず、セシリア姫は次々とスターライトmkⅢによるレーザーの攻撃を行い始める。

 

「さぁ、踊りなさい!わたくしセシリア・オルコットと、ブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

≪ダンスは……苦手だな≫

 

 知り合いに踊れる2足歩行の猫がいるが、私は立てないので必然的にダンスは出来ない。

 戯言はさておき、セシリア姫は回避を繰り返す私に対して次々とレーザーを撃ち放ってくる。流石は第3世代に装備されている近代武器と言うだけあって、速度は申し分ない速さを見せてくれている。威力を測るには私の身体では割に合わないので、そこは遠慮しておくけれども。

 

「くっ、こうも素早くては捉えきれませんわ……!」

 

 彼女が照準に合わせているのは、アリーナ中を走り回っている私の肉体ではなくそのさらに先、つまり先読みして私の移動ルートに合わせて射撃を行っている。

 予測撃ちはISの戦いにおいてセオリーとなるが、彼女は先程の私と一夏少年の試合を観戦している。故に私の機体速度を計算した上で撃っているのだ。

 

 しかし、私に攻撃を当てるのであればそれだけでは足りない。

 予測されて撃たれた弾丸など、その予測を上回るスピードで着弾点から通り過ぎてしまえばそれでいいのだから。

 

「ならば!」

 

 レーザーライフルでは私に攻撃が届かないと判断したセシリア姫は、背中のカスタム・ウイングに相当する箇所から4つの部品を機体から外して空中に展開する。

 彼女から離れた4つのパーツは、一斉に私の方に向かってきた。

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

 ここで出番の特殊兵装。彼女の声と共に、4つのパーツからそれぞれ細いレーザーが撃ち出された。

 レーザーライフルの時よりも弾幕が濃くなり、私の回避を忙しくさせる。

 

≪ふっ、激しいテンポで踊るワルツというのも悪くはないね≫

「お気に召したようで何よりですわ。アプローチを受けて下さっても構いませんことよ?」

≪面白いお誘いだが、丁重にお断りさせてもらうよ≫

 

 セシリア姫と軽口を交えながら、私はレーザーによる包囲攻撃を避ける中で新たな武器を展開。

 展開する場所は前足の部分。瞬時に呼び出された武器は、従来の手よりも大きめのサイズとなった機械の手であり、その先端には数個の鋭利な刃物が取り付けられている。パッと見た限りでは生物の爪のようである。

 

 手部装着型近接攻撃用武装【クロー・ヒッカキ】

 私が披露する、2つ目の武器である。

 

 私は自分に迫ってきているレーザーを感知すると、それに向かってクロー・ヒッカキが装着された前足を振るう。

 

≪そいっ≫

「なっ……!?ティアーズのレーザーを切った!?」

 

 私を射抜こうとしていたレーザーは真っ二つに切り裂かれると勢いを完全に失し、空中で自然に消えていった。

 その光景を目の当たりにし、目を見開いて驚くセシリア姫。

 

 これがヒッカキの持つ能力で、これの爪部は通常通り相手に物理的ダメージを与えるだけでなく、レーザーなどの物質に干渉を行い先ほどのように切断する事が出来るのだ。

 物凄く専門的な説明をすると、基底状態の原子と励起状態の原子がどうとかレーザー媒質がどうとか非常にややこしい解説をしなければならないで省略させてもらうけれど、『レーザーが切れる能力を持っている』と覚えてくれればそれで大丈夫。うん、そのまんまだ。

 

 という解説をしつつ、私は迫り来るレーザーを余すことなくヒッカキで断ち斬り、攻撃を無に帰す。

 

 セシリア姫も何とか私に攻撃を入れようと、4基のビットをフルに使って私にレーザー射撃を繰り返すが、どのレーザーも同じ末路を辿るだけであった。ビットそのものが破壊されていないため攻撃の勢いが衰えることは無いが、未だ私に攻撃を当てるという実績を残せずにいる。

 ビットを壊しても良いのだけれど、下手に壊すと次の一夏少年との戦いに支障をきたしかねないから今回は控えさせてもらうとしよう。

 

≪では、私もそろそろ一撃くらい入れさせてもらおうかな≫

 

 一部のスラスターからエネルギーを射出させ、私は一気に加速を行い上空にいるセシリア姫に向かって宙を駆けた。

 先程まで斬り伏せていたレーザーは全て歯牙に掛けることなく抜き去って、不規則に飛び回りながら彼女の元へと向かっていく。

 

 そしてかなりの距離をとっていた筈のセシリア姫の眼前に迫るまで、2秒と掛からなかった。

 

 しかし、セシリア姫は驚く表情を浮かべるのも束の間。

 その顔に不敵な笑みを浮かべていた。

 

「かかりましたわねっ!」

 

 その瞬間、彼女の後部下側の辺りの機体一部が作動し、私に先端を向けた。そしてその先からミサイルらしきものの頭角が姿を見せたのだ。

 なるほど。ブルー・ティアーズはレーザーを発射する4機とミサイルを発射する2機の合計6機で形成されているのか。私の接近までそれを使ってこなかったのは、まさかこのタイミングを狙って……。

 今まで4基しかつかってこなかったものだから、私としたことが不意を突かれてしまった。

 

「さぁ、沈みなさい!」

 

 そして2つのミサイルが彼女によって撃ち出された。

 

 私は急速後退を行ってミサイルと距離を離し、その射線上から外れるべく機体を上昇させたが、ミサイルもその軌道を変え、上方に逃げた私に向かって再びその切っ先を向けて来たのだ。

 誘導式ミサイルとは、中々面白い趣向じゃないか。

 

≪ふむ、ミサイルと鬼ごっことは中々面白い≫

 

 そこから、私とミサイルによる逃走劇が始まった……が、その勝敗は呆気なかった。

 各部ブースターの稼働率を上げた私は、通常のISスピードならば追いつける弾速を持つミサイル以上の速度でそれとの勝負に挑んだ。結果、普通のISよりも遥かに速い銀雲のスピードにミサイルが追いつける筈もなく、私とミサイルの距離は着々と離れていく。

 憐みの入った瞳を追撃中のミサイルに向けながら、私はセシリア姫に気付かれないように彼女の背後へ一瞬で回り込んだ。

 

「わ、わたくしの撃ったミサイルが完全に遊ばれていますわ……って、どうしてミサイルがこっちの方に!?」

≪おや、大変だね。どうしようか≫

「どうするって、撃ち落とすしかありませんわ。お猫さんに当てられないまま撃ち落とすのは少々勿体ないですが……って、いつの間に私の後ろに!?」

 

 この状況で2連続ノリツッコミを披露してくれるとは、彼女にはツッコミの才能があるに違いない。一夏少年といい勝負をしてくれそう。

 あ、そんなことを考えている間にミサイルがライフルで撃ち落とされた。

 

「あ、危なかったですわ……」

≪そうだね。あんなのに当たったらお互いひとたまりもなさそうだよ≫

「いや、誰のせいだと――」

 

 セシリア姫のツッコミの途中、管制室からの声が入ってきた。

 それは、私とセシリア姫の試合を終わらせる言葉であった。

 

『じ、時間になりましたっ。今回も先程と同様にシールドエネルギーの残量で判定します。エネルギー消耗はオルコットさんの方が多かったので、残量の多いテオちゃんの勝利です!』

「……」

 

 ふむ、どうやら試合は終わったようだ。

 さてさて、年寄りが出張る時間はこれで終わり。後は若い者たちが華々しく戦ってくれるだろうから私はのんびり観戦させてもらおうか。どうせならミルクでも片手に……千冬嬢の眼があるから無理か。

 

 地上に降り立った私は銀雲を解除し、再度歓声で湧き上がるアリーナに背を向けてその場を立ち去ろうとした。

 が、その時であった。

 

「お待ちになって!」

 

 私と同様に地上に降り、ISを解いてISスーツのみの姿となったセシリア姫が、私を呼び止めた。

 

「納得がいきませんわっ!今の戦い方はまるで私をおちょくっているかのようだった!最後のわたくしはミサイルに気を取られて、攻撃をするにはうってつけの隙をあなたに与えていた、だけどあなたは攻撃をするそぶりすら見せなかった!それは消耗の多いわたくしが時間切れで負けることを見越していたから!貴方、わたくしを嘗めていますのっ!?」

≪……≫

 

 確かに。

 私は彼女に一切攻撃をしなかった、戦う途中で何度も攻撃を入れるチャンスはあったし、そもそも彼女の懐に潜り込んで攻撃なんていつでも出来るようなことだった。彼女のISであるブルー・ティアーズは私の銀雲とは最悪の相性で、エネルギー弾と実弾双方の速度を上回って動ける銀雲は、ブルー・ティアーズを完封できる可能性が非常に高い。

 いかに代表候補生という肩書きを持っていようとも、この相性差を覆すのは至難極まりない業とも言えるくらいだ。この試合で彼女も互いのISの相性を感じ取れただろうし、そんな中で消耗負けという結果を突きつけられてしまえば、不満の抱くのは当然だ。

 

≪そうだね。君はあのビットを操作している最中は集中が必要なようで、あれを動かしている最中は他の攻撃が出来ないようだったし、攻撃を与えるチャンスはいくらでもあったね。態々消耗負けという結果に持ち込む必要は無かった≫

「っ……それにすら気付いていたのならば、尚更ですわ!私に楽に勝てるからといってこういった結果に持ち込んだというのであれば、屈辱ですわ!あなたも男であるならば――」

≪いや、オスだよ≫

「あ、失礼しましたわ……ってそうではなくて!」

 

 ははは、相変わらずノリツッコミが上手いお姫様だ。話していて実に心地良い。主に私の愉悦的に。

 

≪まぁ冗談はさておき。私が攻撃をせずに消耗負けに持ち込んでしまったのは、確かに君にとって快く思わない結果だっただろう。その点に関しては、申し訳無かった≫

「謝罪など結構ですわ。言い訳染みたことを聞く耳は、今は持ち合わせておりませんもの」

≪言い訳させてもらうと、君には次の一夏少年との戦いに専念してもらいたかったからなんだよね≫

「たった今、言い訳は聞かないって言いましたわよね!?思いっきり無視されましたわよ!?」

 

 反応が一々面白いので、ついからかいたくなってしまう。折角のシリアスな雰囲気が台無しである。

 

≪まぁ何はともあれ、次の一夏少年との試合は期待しておくといい。もしかしたら、君の知らなかった世界が見えるかもしれないよ≫

「世界?貴方、一体何を――」

≪さて、私は疲れたから退場するとするよ。試合頑張ってー≫

「ちょ、ちょっと!」

 

 セシリア姫が呼び止めようとしているが、私は聞こえぬふりをしてその場を悠々と立ち去った。

 

 さてさて少年よ。彼女の心を打つくらいに魅せる試合が出来るかな?

 

 

 

―-―続く―-―

 







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