篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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猫の過去
昔々、ある所に一匹の猫が……


 時は遡る事、約11年前。

 

 その日は強い雨が降る一日だった。空は鉛色の雲によって殆ど埋まっており、悪天候と呼ぶに相応な空模様。加えて気を抜けば傘が壊れてしまいかねない程の強風が吹いていた。

 

 そんな荒れ空の下のとある公園の中に、簡易な小屋を模った段ボールがポツンと置かれていた。雨風に晒されているそれは耐水の無さが影響して徐々に整っていた形を崩し始めていった。完全に崩れ落ちるまで時間の問題といったところだった。

 

 そして、そんな段ボール小屋に1つの生命が置かれていた。

 生まれて数日しか経っていないと思われる外見の、小さな黒猫が1匹。その段ボールの中に入っていたのだ。

 なぜこんな所に子猫がいるのか。その理由は只一つ。

 

 その子猫は、捨てられたのだ。

 捨てられた理由は不明。段ボール造りの小屋という事は、恐らく元々は人間の飼い主がいたのだろう。しかし、子猫の周りには自身を産んでくれたであろう母親もいなければ、父親もいない。兄弟もいない、飼い主らしき人物もいない。あるのは

 完全に独りぼっちだった。

 

 そうこうしている内に、ここまで子猫の身を守ってくれていた段ボール箱が限界を迎えた。雨でふやけた外装は脆くも崩れ落ち、雨風を凌ぐ為の物が潰えた事によって、子猫の身体が無防備に外に晒されることになる。

 先ほどよりも身体に当たる雨の量が増えた事に驚いた子猫は、必死にそこから逃げようと抵抗した。しかし生後数日で筋肉も発達していない身体では、その場でもがく事しか出来ない。無情にも収まる気配の無い雨が、どんどんその小さな身体に襲い掛かってきた。

 冷たい雨が子猫の命を蝕んでいく。動かそうとしていた身体も完全に動かせなくなり、最早そのまま死を迎える絶体絶命の状況となってしまった。

 

 子猫は意識を保つ事すら耐えられなくなり、徐々にその意識を手放し始めていく。死の概念を理解する前であるせいか、意識を手放すことに何の抵抗も無い様にも見える。このまま目を閉じれば楽になると感じ取っていたかのように。

 

「―――さん、あれ―――」

「――は――こら、待ち―――――うき!」

 

 そんな子猫の元に駆け寄る、2つの人姿。

 子猫の意識は、その2つの存在が来る頃には闇の中へ落ちていた。

 

 

 

――――――――――

 

 次に黒猫が目を覚ました時、そこは先程までの場所とは全く異なっていた。

 鉛色の空は無機質な白い天井へ。雨や風も無い、空調機によって整えられた苦の無い環境。

 

「おや、どうやら気が付いたみたいだね」

 

 人の声を聞いた黒猫がそちらに視線を向けてみると、穏やかな笑みを浮かべた白衣の男性がそこにいた。他に人の姿は無いので、先程の声の人物はその男性で間違いないだろう。

 その男性は、町で小さな動物病院を経営している獣医であった。都方面の大きな病院と違って小規模な施設だが、人柄の良さが幸いして近辺でも頼りにされている人物だ。

 

「いやぁ、最初に見たときは本当に危なかったけど、何とか助けられて良かったよ。少しでも処置が遅れていたと思うと、ゾッとするね」

 

 まだ人の言語が分からない子猫には、その男性が何を言っているのか理解できなかった。また、取り敢えず身体を動かしてみようとしたのだが思う様に身体を動かすことが出来ていなかった。

 

「おっとと、起きたばかりなのに早速動こうとするとは中々にわんぱくだね。君は命の境目を彷徨ってたんだから、まだ休んでいないと」

 

 直ぐに動こうとした子猫を、獣医はやんわりと注意する。人と猫では言葉は通じない筈だが、子猫はその言葉を受けるとまるで理解したかの様に大人しくなった。

 良い子だ、と獣医は安堵すると子猫から視線を離して机の資料と受話器の方に手を掛ける。

 

「さて、それじゃあ連絡を入れておかないとね。えっと、確か篠ノ之さんって人の……」

 

 そのまま作業を始める獣医を見やる子猫は、そのまま自身を包んでいる毛布に体を預けて眠る事にした。窓から差し込む光が眩しい筈だが、子猫はお構い無しと言わんばかりに眠る態勢に入る。

 日の光の暖かさに、心地を良さそうにしながら。

 

 

 

――――――――――

 

 子猫が目を開けてみると、先ほどよりも人の数が増えていた。獣医以外に新たに2人の人間がそこにいた。

 1人は白衣の男性と同程度な年代の男性で、服装は時代を幾らか超えて来た様な和装。口髭と顎鬚を整えた厳格そうな顔立ちは、幼い子を威圧しかねない程だ。つい最近、遠出した時に通りすがりの児童に顔が怖いと泣かれた事を気にしている。

 そしてもう1人は、年端も行かない4~5歳位の小さな女の子。厳つい男性の隣で座席に高い椅子にチョコンと座っている。怖い顔のおじさんが隣にいるが、怖がっている様子は無い。

 

 すると、女の子が子猫の目覚めに気付いたようで、『あっ』と声を漏らす。元々彼女は子猫の事を気にしており、チラチラとその様子を確認していた為、目覚めた子猫にいち早く気付いたのだ。

 途端に女の子は明るい笑顔を浮かべて椅子から降りると、子猫が眠っている場所へ駆け寄った。

 

「ねこさん、目がさめた!」

「これ箒……すみません、娘が慌ただしい真似を」

「いえいえ、この年で他の生き物を思い遣れるのはとても良い事ですよ」

 

 少女の事を娘と呼ぶ厳つい男性は、申し訳無さそうに獣医に謝罪する。獣医も男性の謝罪を真摯に受け止め、少女に褒め言葉を送っている。

 実際、この子猫は元の飼い主に捨てられている。通り掛かっただけの子がこうも心配しているというのは、獣医にとっても嬉しい光景なのだろう。

 

「ねこさん、大丈夫?どこかいたい所はない?」

「これ箒、あまり詰め寄ってはその子も戸惑ってしまうだろう。もう少し安静にしておいてあげなさい」

「……はぁい」

 

 不服そうにしつつも箒と呼ばれた女の子は子猫から身体を離した。その目は尚も子猫の方へ向けられているが。

 

「それで、この子猫の容態は?」

「お2人が手遅れになる前に見つけて下さったお陰で、命に別状はありません。安心してください」

「そうですか……良かったな箒、もうその子は大丈夫みたいだぞ」

「ほんとう!?お医者さん、ありがとうございます!ねこさんも、良かったね!」

 

 箒という少女は振り向いて白衣の男性に深々と頭を下げた後、再び向き直って先程の様な笑みを子猫に向け始めた。

 

「先生、この子猫の今後の行方は……」

「篠ノ之さんの話を聞く限り、この子はどうやら人の飼い主に捨てられたと見て良いでしょう。雨避けの段ボールで小屋を作るなど、野良猫には到底出来ませんし」

「元の飼い主なりの温情かもしれないが、こんな小さな命を置いて行く時点で無責任な事には変わり無いだろうに」

「同感ですね。取り敢えず、今は動物愛護センターに連絡を入れて各愛護団体に問い合わせてもらっている最中です。受け入れてくれる団体がいればいいのですが、縁が無ければ……」

「……殺処分、ですか」

 

 子猫を見つけた時の対応は、ある程度決まっている。

 最終的に引き取り先が見つらなかった場合は殺処分、つまり殺してしまうしかない。動物1匹買うのにも費用や手間は掛かる為、必ずしも引き取り先が現れるとは限らない為、殺されない等という希望的観測は行えない。

 人間の身勝手で殺されなければならないと思うと、2人の大人の空気は重々しくなっていた。

 

 箒も、後ろの雰囲気に気付いて子猫と大人達を不安そうに見比べている。難しい言葉が多く使われていたので話の全容を理解できたかは怪しいが、悪い話であるという事は2人の表情から察する事が出来ていた。

 幾度か見比べた後、少女は決心を固めた様に顔を引き締まらせて和服の男性に詰め寄った。

 

「お父さん、わたし、この子をかいたい!」

「箒……これはそんな簡単に言えるような話では無いんだ」

 

 少女に父と呼ばれた男性は、少女の前に屈んで彼女と同じ高さの目線に合わせる。その目は少女を貫かんばかりに鋭く威厳に満ちており、思わず箒もビクッと身体を縮こまらせた。

 

「猫の為の食事もキチンと準備しなければいけないし、衛生面……いつも綺麗にしてあげる必要だってある。トイレや爪とぎのしつけもちゃんと飼い主となる者がしなければならない。そして何より……この子も私達と同じ、命がある」

「同じ……命……」

「この子を飼うとなるなら、その命を預かる必要がある。箒……お前はこの子の命を預かる覚悟があるか?」

 

 4~5歳程度の少女にとって、それは非常に重い話だ。1つとはいえ自分以外の命を預かる選択、それにはそれ相応の覚悟が伴われる。

 しかし箒は、そんな重みに呑み込まれず、グッと踏み止まって目の前の父親に己の心情を訴えた。

 

「やる!この子の命は、わたしがあずかる!ぶしに、二言はない!」

「…………」

 

 少女と父親の間で、沈黙が漂う。両者は互いを真っ直ぐに見つめながら、その場から動こうとしない。

 

 やがて、父親の方から動いた。彼は箒の頭に優しく手を置くと、先程の厳格な表情から打って変わって柔らかな笑みを浮かべる。

 

「分かった。お前がそこまで言うのなら、この子を我が家で預かろう」

「本当!?」

「ああ、本当だ。ただし……必ず面倒を見るんだぞ。箒が学校に行くような時になれば母さんにも世話を頼むが、それ以外は――」

「やる!ぜったいに、この子のお世話する!」

 

 父親が言い切る前に、箒は食い入る様な勢いで彼と約束を交わした。

 そんな少女の姿を前に、父親も笑みを浮かべたままフッと小さく息を零す。

 

「先生、私達だけで決めてしまってすいませんが……」

「いえ、寧ろ喜ばしい事ですよ。こんな優しい人達ならば私も安心して託せます。つかぬ事をお聞きしますが、猫の飼育に関する知識は?」

「お恥ずかしながら……最低限知っている程度です」

「それなら私の知り合いにその手の専門家がいますので、私の方から連絡を入れておきましょう。それと残りの検査、施術も私の病院で手配させていただきます。費用の方はそちらにお願いする事になりますが」

「重ね重ねかたじけない……この恩義は、いつか必ず」

「いえいえ、もう十分頂いていますとも。私からも、この子猫をよろしくお願いします」

 

 飼うという方針が定まった事により、着々と話が進められていった。

 箒の父親と獣医は、互いを信じる形で固い握手を結ぶ。互いが小さな命を救い合う事により、そこには信頼という名の絆が形作られていた。

 

 箒も自身の家で預かる事に喜びを表す笑みを顔に出しながら、子猫に向かって語りかける。

 

「これからはいっしょだから、もう大丈夫だよ!ねこさん!」

 

 その言葉に反応する様に、子猫は初めて人前で鳴いてみせた。つい先日まで死の淵に瀕していたが、その声には既に生命の活力が滾っていた。

 

 こうして1つの命が1人の少女の意志によって救われ、同時に今後の運命を大きく変える事となる。無論、この場にいる誰もがそれを知り得る事は無い。

 

 

 

―――続く―――

 

 




●おまけ●

前回の某週刊少年漫画ネタを機に思い付いた小ネタ。

一夏「おっす、おらワンサマー!ワクワクすっぞ!」

箒「がんばれシャルロット……お前がナンバー1だ!」
一夏「えっ」

セシリア「初めてですわ……このわたくしをここまでコケにしたお猿さん達は……」
千冬「ほう……私を極東の猿とほざくか」
セシリア「ちょ、ちがっ――」

鈴「まったく、一夏ときたら他の女にデレデレして、あた……おらの身にもなってほしいだ!」
一夏「そんな事言ってもよぉ、(貧相な)チチぃ」
鈴「屋上」

シャルロット「わ、私はっ!悪は絶対に許さない、せ……正義の味方!グ、グレースケールガールだ!……うぅ、何で僕がこんな恰好を……」(ポーズを恥ずかしそうに決めながら)
テオ≪この配役、どっちも変装が容易くバレたからなんだって≫
シャルロット「ええ~……?」

一夏「そんな冷たい事言うなってラウラ、俺達仲間じゃないか」
ラウラ「ふざけるなぁ!誰が貴様等の仲間になった!?」
一夏「く、くっ殺さん!」
ラウラ「殺すぞ」

テオ≪超神水が欲しい?それじゃあ私を捕まえてごらん≫
一夏「おっしゃ!猫一匹捕まえる位楽勝で――」
テオ≪【銀雲】装着。……それじゃあ、始めようか≫
一夏「もう駄目だぁ……お終いだぁ」

 ●   ●


ついに開幕、テオの過去編です。
私の小説を書く際の癖で、主人公の過去とかを後に後にする傾向がある所為で読者の皆様を置いてけぼりにさせてしまう傾向があるんですヨネ……東方の方とかもそうですし。
リメイク版としてテオの過去からスタートさせる企画もあったのですが、地の文の構成が難しくなってしまい、断念しました(テオ視点で書こうとした所為)。分割してそれぞれの節目(各ヒロインの登場の合間等)に入れようかとも思いましたが、結局第2章として纏めて描写する事に。

あと、ロリ箒可愛い。天使か。5歳なのに漢字が多めなのは仕様です。風間トオル君も教養高いし、多少はね?
けど2年後にはあのお堅い喋り方なんですよね……この時点でそういう喋り方にしようかとも思いましたが、それっぽい理由を付けられそうなのでまだ幼げな喋り方にしてます。
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