篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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普通、猫は人間の言葉を話せませんが……

 テオが篠ノ之家に迎えられてから、早くも3ヶ月が経過した。

 

 あれからテオはすくすくと育っており、手の平サイズだった身体も今では体長40㎝手前。体重も約1kgとそれぞれ平均ラインを辿っており、成長阻害も見当たらず何事も無く育ってきている。

 2ヶ月前には乳歯が生え始めて離乳食へと移り、1か月前では市販のフードも食べる様になった。また、全身の体つきが成長した事によって自力で歩く分にも余裕が出来ており、活動範囲がグッと広くなった。一般的な成長を遂げている事に、篠ノ之家は安心気であった。

 余談だが、歩行を覚えたての頃はよちよちと覚束なかったが、自分の力で懸命に歩く姿は、応援したくなる衝動に駆られたり可愛げで癒しの光景になったりで篠ノ之家にとって印象的な光景になっている。危なげ無く歩ける様になった時には、一家全員がその育ちぶりにほっこりしていた。

 

 そんなある日の事、束が思いついた様に1つの話題を取り上げた。

 

「そーいえばさ、テオくんが喋れた方が色々と都合が良くない?」

 

 夕食に手を付けていた一向は、ピタリと各々の箸を止めて発言者である束に注目する。

 『また何やらぶっ飛んだ事を……』と両親は慣れた様子で彼女の次の言葉を待つ。柳韻は若干の呆れ、八重は興味のある話題が来そうなので割と期待している。箒は束の言葉の真意が読めず、キョトンとしている。

 

「おねえちゃん、どういう事?」

「よくぞ聞いてくれたぜ箒ちゃん!いやね、テオくんも今や歩ける様になってフィールド範囲が広まったんだから、もしフラッと何処かに出掛けちゃったら、箒ちゃんも色々と心配ジャン?」

「うん」

 

 箒は束の言に肯定し、一家の食卓の傍で自身の分の食事を食べているテオに視線を送る。視線に気づいた当人は、食事から目を離して箒の方をジッと見つめ始める。

 

「だから、テオくんが人間の言葉を喋れるようになったら何処へ行くのか事前にしてるから、安心でしょ?ちゃんとそういう躾もすれば大丈夫だし」

「そうなると、一体どうやってテオちゃんを喋らせるのかしら?」

「私に良い考えがある」

「その発言は失敗に終わるぞ……」

 

 結局、サプライズという事で詳しい事は話さぬままその日の夕食は終了した。

 

 

 

――――――――――

 

 2日後。

 

「出来たよー」

「はやい!」

「もう出来たのか!」

 

 皆が集まった居間にて、完成させた物を手に持って皆に見せる束。

 そこにあったのは、装飾が少ない銀色の首輪。鎖が着けられていないので、人間のアクセサリーであるチョーカーの様にも見える。だが、見た所普通の首輪と何ら変わりなく、とても手が加わってあるとは思えない代物だ。

 

「これが、例の翻訳機か?」

「そ。テオくんの首回りに装着させて、肉体との接触によって感情や思考を読み取ってデータとして算出、更にこの子の発する鳴き声の振動と組み合わせてほぼ相違ない翻訳を行う事が出来るんDA」

「こんな小さな首輪で……凄いわね」

「内部にはかなり精密でハイグレードなパーツが組み込んであるから、容量もバッチリ抑えてあるんDA。更に人間の声もキャッチして、その情報を装着者に送る事によって人間の言葉を理解させる事が出来るんDA。君達の中にも、ほんやくコンニャクを知っている者がいるだろう?大体そんな感じ、ギャグマンガ日和ぃ!」

「……誰に対して言っているのだ?」

 

 その視線は明後日の方を向いていた。

 

「まぁそんな事はどうでもいいんだ、重要な事じゃない。さぁ早く【翻訳混濁】をつけてあげてくれぃ」

「うん、分かった。テオ、ちょっとジッとしててね」

「何でよりによってそんな名前を……」

 

 箒の手によって、テオの首に首輪型の翻訳機が巻かれる。元々大人しい性分のテオはこれを抵抗する事無く受け入れ、無事に装着完了となった。

 一家全員の視線がテオの方に向かれる。束の開発が確かならば、これでテオは喋れるようになる。猫が喋る光景など架空の話でしかなかったが故に、その期待は大きく高まっていた。

 

「ねぇテオ、何かしゃべってみて?」

 

 早速、箒がきっかけの言葉を掛ける。ただ待つよりも、話し掛けた方が喋りやすいと思ったからである。

 

 そしてテオは、その口を開いて……。

 

≪いや、急に喋れって言われてもさ……≫

 

 人間の言葉を喋った。機械音声だが、本人がまだ生後3か月で人間で言う変声期を迎えていない為か、その声は女性並に高く設定されている。

 

「キェァァァェェェェァァァァァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

「何でお前が一番驚いてるんだ……」

「いやぁ、使命感に駆られて」

≪というか何これ?何で人間の言葉喋れてるの?というかいきなり人間の言ってる事が完全に理解出来てるんだけど、何これ?≫

 

 テオが人間の言葉を喋っている事に篠ノ之家も充分驚いているが、何より本人が一番驚いている模様。

 

「ねえお姉ちゃん、どういう事?」

「あぁうん、これまでテオくんは人間の言葉の内容を本能的でしか理解出来てなかったけど、翻訳機の補助機能のお陰で人間のそれと遜色無いレベルに脳の理解力が引き上げられているんだよ。急に人間の言葉を流暢に理解出来るようになったから、驚いてるんだろうね☆」

≪何で他人事なのさ……≫

 

 当人からすればかなり困惑する話だ。実際、テオもジト目で束の事を見つめている。見つめられている側はペコちゃんよろしくなテヘペロをしているが。

 

「あ、それじゃあ今まで人間の言葉が分からなかったテオちゃんは、私達の名前も知らないのかしら?」

≪いや、皆の呼び方でならある程度把握してるよ。ただ、父親だけは本名らしき名前が出てこなかったけど……≫

「あぁ、確かにな。私は柳韻という名だ。覚えておいてくれ」

≪りゅういん……柳韻、ね。分かったよ≫

 

 これで、テオは全員の名前を把握出来た事になる。

 改めてテオは、自分の前にいる篠ノ之家の者達の顔を一瞥する。そして再認識する、この者達が自分を育ててくれていた事に。だがそれは同時に、自分の本当の親の存在を意識させる事に繋がった。

 

≪一応聞きたいんだけど……私の産みの親はいる?≫

 

 テオがそう言った瞬間、場の空気が重くなる。特に箒と柳韻は拾った当事者である為、その時の光景が2人に過る。

 素直に捨てられたと言えば、悲しむかもしれない。ならば今は別の場所にいると誤魔化して、ショックを与えない方が良いだろう。

 

 そう誰かが判断した時、テオの方から先に次の言葉を放った。

 

≪ま、いないならいないで別に構わないけど≫

「……えっ?」

 

 あまりにもアッサリし過ぎた反応に、束を除いた篠ノ之家は驚いた様子で彼を見やる。束だけは、興味深そうに彼の発言を聞こうとしていた。

 

「えっと、テオちゃんはそれでいいの?あまりにも軽いと思うんだけど……」

≪だっていない親に関してどうこう言ってもね。結局、私をここまで育ててくれたのは皆だろう?なら産みの親より育ての親が大切でしょ≫

「た、確かにそういう考え方もあるが……そう割り切るにはまだ若すぎるんじゃないか?」

 

 ちなみに生後3ヶ月の猫は、人間年齢で5歳辺りに相当する。箒と同い年の精神でここまで達観出来るのは、中々に異常な光景に思えるだろう。何よりもまだ人生を3ヶ月しか過ごしていないのにである。

 

 そんなテオのリアクションに驚く両親を余所に、2人の娘はそれぞれ異なる反応を示す。

 

「そっか……ふふふ、私達の方が大事かぁ……」

 

 次女の箒はテオの先程の言葉を噛み締める様に、その表情を綻ばせている。内心では表面以上に喜んでいるに違いない。

 

 そして、長女の束は……。

 

「ふーむふむふむ……成程ねぇ」

 

 箒と同様に顔を綻ばせながら、顎に指を添えてウンウンと頷いている。その表情はどこか満足げで、箒とはまた違った喜び具合を示している。

 

 娘たちがそんな肯定的であり、尚且つ話題の本人が気にしないと言っているのだから、結局彼女たちの意思を汲むしかない。結果、この場に居る全員がそれで納得する事となった。

 

≪という訳で、今後とも宜しく頼むよ≫

 

 こうして、人語を扱えるようになったテオの新しい生活が始まった。

 従来の猫ならば好奇心で頻繁に奔り回って忙しい年頃になるのだが、彼は通例に比べて明らかに大人しい。基本的には歩きで、走る事も少なからずあるが『運動しておいた方が健康に良い』という中年男性染みた思考の下での行動であり、アクティブ精神から来るものではない。

 更に、人間世界の知識への探求心が強かった。翻訳機の力で人語を理解する力が強まった事により、人間の書物を読むようになった。最初は絵本から始めて徐々に難しい本を読んでいく等、基礎を踏まえた上で取り掛かっている辺り本格的だ。ゆくゆくは新聞まで手を付け始め、テレビのニュースも家族と一緒に見る様になった。束や箒が学校や幼稚園に行っている間、家事休憩中の八重と一緒にテレビを見る光景は日常の一角となっていた。

 テオはこの短期間の内に、随分と理知的な成長を遂げる事となった。

 

 そして更に3ヶ月後。つまりテオが拾われて半年が経過した頃、束がテオを持ち上げながら、以下の言葉を口にする。

 

「ちょっと遅くなったけど、テオくんに紹介してあげるね!束さんの大親友……ちーちゃんを!」

 

 それは、テオにとっては家族以外の人間との初めての出会いでもあった。

 

 

 

―――続く―――

 




 4000文字以下を短いと感じる辺り、長文に毒されてますね……。
 産みの親に対してドライな反応なのは仕様です。実際、物心ついた時から一緒にいる育ての親の方に愛着が湧くだろうと思いまして。(その辺のシナリオ書くのが面倒だったなんて言えない……)

 そして次回はちーちゃんこと千冬との邂逅!そして更に、箒に変化が……?
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