篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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連続投稿です!


喋れる猫の周りでは……

 友人を紹介する。

 昨日その様な事をテオに言った束は、学校が終わったらその友人を連れてくると告げて学校に向かっていった。話によると、その友人は束が小学校に通っていた時からの付き合いで、高校生の今も交流が続いているとの事。家族以外の他人に無関心な束にとっては稀有な存在だ。

 

 そんな友人を紹介されるまでの間、テオは特にやるべき事も無いので八重に断りを入れてからテレビのニュース番組を観る事にした。テレビではニュースキャスターの青年男性がその内容を語っていた。

 

『次のニュースです。昨夜の午後10時頃、○×市の路上で29歳の男性が窃盗被害に遭う事件が起こりました。警邏中の警察官が現場を目撃し、犯行に及んだ3人の加害者を逮捕しました、また犯人の犯行理由はそれぞれ……』

≪また事件だって。怖いねぇ≫

 

 テオは犯行現場の映像が流れているテレビ画面を見ながら、やや皮肉気にそう独りごちた。犯人は同市の大学生の集まりで、窃盗を行った理由も『遊ぶ金が欲しかった、親に言っても貰えないから、適当に通りかかった奴から奪おうとした』との事だ。

 人間社会は規則と資産に縛られた、非常に生き辛い世界だ。あらゆる決まり事で行動に制限が掛かり、資産、お金が無ければ自分の望む事や物が手に取れなくなる。猫であるテオからしてみれば、人間じゃなくて良かったと思いたくなる世界だ。

 

 ソファに座るテオの隣に、家事を一段落させた八重が腰を下ろした。

 

「最近多いわよねぇ、こういう怖い事件。この近くはあんまりそういう話を聞かないけど、あまり他人事じゃないわよね」

≪戸締りは確りしとかないとね、それと箒ちゃんや束ちゃんも帰りが遅くならない様に言っとかないと。八重殿も買い物の時は最低限注意しときなよ?≫

「えぇ、そうね」

 

 ニュースの報道を見ながら、2人はその様な会話を続ける。

 ちなみにテオの呼び方は当初の頃と変わっており、箒の事は『箒ちゃん』、束の事は『束ちゃん』、八重の事は『八重殿』、柳韻の事は『柳韻殿』とそれぞれ呼んでいる。これはテオの精神的成長によって、育ての親である彼女たちを呼び捨てから敬称を加える事へと変化したのだ。それ以外の言葉遣いがややフランクなのは変わりないが。

 

「そうだっ、それなら私がお買い物に行く時はテオちゃんにボディガードをしてもらいましょうか」

≪猫の私じゃせいぜいカラス位しか追い払えないよ。そういうのは柳韻殿に頼みなよ≫

「だってあの人は剣道教室の事があるから、いつでもついて来てくれる訳じゃ無いもの」

≪剣道教室と言ってもねぇ……門下生が箒ちゃん1人なら暇同然でしょうに≫

「あの人ったら、ネットで門下生を集めるのは軽々しくて気に食わないからって張り紙で募集してるから……それに辞めちゃう子も多かったし」

 

 ちなみに、その張り紙の内容も擬音まみれで中身が全く伝わらないが為に募集の効果を失している。『グィンっ、ときてカシャンっ、と感じてピーヒャラピーヒャラ、パッパパラパ!我が剣道教室にてジュンッジュワァとする心意気を共に高め合おう!』、これが内容の一部である。尚、この擬音説明が娘にもバッチリ受け継がれている事を父は知らない。

 張り紙を張る許可は貰えている辺り信用はあるものの、勿体無い所で棒に振っているのが悔やまれる男である。

 

「まぁ他にも友人の伝手で色々仕事に回る機会も多いから、やっぱりテオちゃんにもついてきてほしいのよ。話し相手がいると私も楽しいし♪」

≪やれやれ……分かってると思うけど、人目に付く所では止めておきなよ?≫

「はーい」

 

 その理由は無論、猫が喋れるという事で周りに騒がれない様にする為だ。もしバレてしまえば商売に利用とする経営者が引き取りに現れたり、翻訳機を要求する研究家が現れる可能性が極めて高いからだ。どちらにとっても束の琴線に触れる行為なので、そういった事態は避けなければならない。

 

≪さて、私は少し散歩にでも行ってくるかな≫

「あ、それなら箒の事迎えに行ってあげてくれる?そろそろ幼稚園から出る時間だし」

≪ああ、良いよ≫

 

 二つ返事で八重のお願い事を了承すると、テオはソファから降りて篠ノ之家を後にするのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 テオが箒の通っている幼稚園に着いた頃、程無くして目的の人物が入り口から姿を現した。

 その人物――箒はテオの姿を認識するや否や、嬉しそうに笑みを浮かべながら彼の元へと駆け寄っていった。

 

「テオ、迎えに来てくれたのだな!」

≪八重殿に頼まれてね。さっ、家に帰るとしようか≫

「うむ!」

 

 心地良く頷いた箒は、テオの足並みに合わせて帰路に付き始めた。

 その片道、周りに人が居ない事を確認しつつ2人は話をしていく。

 

≪今日も帰ったら剣道場に行くの?≫

「ああ。お父さんが家に帰るのは少し後になるそうだが、私だけでも少し練習したくてな」

≪ふっ、中々に頑張るじゃないか≫

「まぁ、そうだな」

 

 テオに褒められた事が嬉しかったのか、箒は照れ臭そうに指で頬を軽く掻く仕草をする。

 

 テオが喋れるようになってからというもの、箒の言葉遣いは大きく変化した。生まれが由緒ある影響か、今迄は年相応よりも1~2年程度発達した口調の箒だったが、ここ最近で10年分位の歳月を経たのかと思う程の変わり様を示してみせた。女の子らしいというよりは、凛々しい女性らしい言葉遣いは未だに幼い彼女とミスマッチしている様にも見える。

 だが、その言葉遣いに相応しい精神も彼女の中で形成されつつあった。一転しての変化ではなく、徐々に難解な言葉を使用して馴染ませていく傾向。彼女の精神年齢は同年代の子達よりも飛び抜けて成長していった。

 

「前から剣道は気になっていたけど……やはり大変だな」

≪けど、箒ちゃんは頑張って柳韻殿の指導についていってるじゃん。十分凄いって八重殿も言ってたけど≫

「そうだろうか……でも、やっぱりまだ心構えとかちゃんと身に付けれてないと思う。もっと勉強しないとな」

 

 実際、箒がこの数か月の間剣道に費やした時間は多い。身体つきがまだ未熟な為、剣道における心構えや諸々の座学を中心とし、時折子供用の竹刀で素振りするといった練習内容。年齢に合わせたメニューという訳だ。身体では無く、頭から先に学んでいる事も箒の精神成長に繋がっているのだろう。

 

「そういえば、今日はお姉ちゃんが友達を連れてくるのだろう?」

≪らしいね。どんな子かすらも言わずに学校に行っちゃったし≫

「まぁ、お姉ちゃんはしょっちゅう忙しないからな……」

≪まぁ、帰ってくるまで箒ちゃんの練習の見学でもしてようかな。私も剣道の勉強してればいい事あるかもしれないし≫

「テオも剣を扱ってみたいのか?」

≪扱えると思う?≫

「……出来ないと思う」

≪私もそう思う≫

 

 じゃあ何で言ったし、とツッコむ第3者はこの場におらず、2人の会話は人の気が増えるまで続くのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 あれから家に帰宅した2人は帰り道での話通り、それぞれ剣道の練習とその見学を行った。

 箒は剣道場周りの走り込みと筋力トレーニングをノルマ分こなした後に、柳韻の所持している剣道関連の書物を休憩がてらに読み込む。一定時間の間読んだら、自身用の竹刀で素振りをこれまたノルマ分行う。

 その間、テオは一緒に出来る事は一緒に行う形で彼女の練習に付き合った。具体的には走り込みと座学の部分である。素振りの間は箒が読んでいた書物とは別の本を手元に置きつつ、箒の姿を見守っている。

 

 そんな風に時間を費やしていると、剣道場に2人の人物が姿を現した。

 

「ハロハロー!箒ちゃんとテオくん、束さんが帰ってきましたぞー!愛してるー、愛されてるー!」

「お前、自宅ではそういうノリなのか……」

 

 嬉々とした表情で剣道場に飛び込んでくる束と、彼女とは違って落ち着いた様子で入ってくる同年代の少女。

 束の後ろをついてきている彼女こそが、束の言っていた友人である。

 

「さぁさぁちーちゃん!我が愛しの家族に挨拶をば!」

「落ち着け馬鹿者……私が織斑 千冬だ。よろしく頼む」

 

 束にちーちゃんと呼ばれた少女――千冬は、箒とテオの前で屈んで目線を揃えつつ挨拶を送る。

 しかし彼女の刃物の様に鋭い目を見た箒が、ビクリと身体を震わせてしまった。大の大人すら萎縮させる程の剣幕がある目は、5歳の少女にとっては中々恐ろしいに違いない。

 

「ちょっとちーちゃーん、箒ちゃんが怖がってるからもうちょっとその目を優しくしたげてぇ!」

「う……す、済まない。ついいつもの目つきで……その、怖がらせてしまって本当に済まなかった。な?」

 

 だが、束に指摘されてから千冬の尖った雰囲気は一気になりを潜めた。先程とは打って変わって、まるで割れ物を扱うかの様に箒を気遣うその姿は、抜身の刀を思わせる先の少女とは思えなかった。

 そんな千冬の変わり様に毒気を抜かれた箒の中には、先程までの恐怖が無くなっていた。見た目は怖いけど、優しい人なのだと幼いながらに理解出来たのだ。見た目は怖いけど。

 

「えっと、大丈夫ですから、そんなに謝らないでください。あ、私は篠ノ之 箒って言います。よ、よろしくお願いします!」

「……束、お前はもっとこの子の礼儀正しさを見習った方が良いぞ」

「酷い!?」

 

 ガビーン!という擬音が出そうな程のショックを受けている束。実際、彼女と箒の現時点での社交性は似ても似つかないレベルだ。将来的に似るかどうかはまだ誰にも予測できないが。

 

「ゴホン……それで、お前が紹介すると言っていたテオという者は」

≪私だよ。あー、漸く喋れた≫

「……まさか本当に人の言葉を話せるとはな」

 

 テオが喋れる事は予め聞かされていたのか、千冬の反応は普通と比べて非常に控えめだった。僅かに目が見開いたので、やはり彼女にとって衝撃的な光景である事に変わりは無かった模様。

 

≪珍しいね、君の性格上、ここまで黙ってたと思っていたのだけど≫

「いやぁ、実を言うとこの瞬間までサプライズで内緒にしようかと思ってたんだけど我慢出来ずに言っちゃったんだよねぇ~、ちーちゃんのびっくらこいた!な顔見たかったんだけど」

「そうかそうか。もし言っていなかったら顔が潰れていただろうから、運が良かったな」

「やん、怖い」

 

 おどけて怖がってみせる束だが、目の前にいる親友はやるといったらやってみせるので本当に潰されるだろうと、内心ヒヤリとしたとは後日の談。

 

≪束ちゃんの友人にしては随分クールだね。もっと似たテンションなのかと思ってた≫

「こいつと同じテンションなど、相乗効果でご近所に迷惑が掛かるだろう」

≪言えてる。そもそも君は騒ぐのが好きじゃなさそうなタイプに見えるし≫

「ほう、よく分かっているじゃないか。そういうお前もどちらかと言えば物静かなクチだろ?」

≪お、分かっちゃう?≫

 

 互いに理知的なのが理由か、至って自然に会話をしている両名。波長は割とあっている様である。

 ふと千冬の方が、剣道場をグルリと一瞥し始める。その瞳はまさに懐かしい物を見る目であった。

 

「それにしても……ここに来るのも久々だな」

「えっ……もしかして剣道をやっていたんですか?」

「あぁ。今はちょっと忙しくて来れてないんだが……私も以前は柳韻先生、君のお父さんに剣道を教わっていたんだ」

「そうだったんだ……じゃあ私の姉弟子、という事になりますか?」

「姉弟子、か……確かにそういう事になるな」

「へいへいちーちゃん受け取れぃ!新しい顔よ!」

 

 先程から姿を見せていなかった束が再び現れたかと思うと、千冬に向かって何かを投げつけて来た。台詞では顔と言っているが、明らかに竹刀である。

 

 千冬は自分に向かってくる竹刀を涼しげにキャッチすると、右と左の手で交互に持ち替えてはフィット感を確かめている。

 

「ふむ……」

「どーだいちーちゃん、久々にウチの竹刀を握ってみた感想は……やべ、今の台詞ちょっとエロくなかった?」

「さて束。お前少し試し切りの相手になれ。というか斬る」

「あるぇ~?何故か分からないけどちーちゃんに怒りのオーラが見えるぞ~細木数子乙」

「安心しろ、今なら峰打ちで勘弁してやる……疾!」

「うおわぁ!?」

 

 束に向かって躊躇い無く斬りかかる千冬だが、襲われた側である束の方はいつの間にか手に持っていた同型の竹刀でその斬撃を防いでみせた。

 

 偶然にもギリギリ防御が間に合ったと素人なら一見するだろうが、箒はどうしてもその様には見えなかった。千冬の踏み込みからの斬撃は明らかに高い腕前が窺える身のこなし方で、そんな速度ある斬撃を後手に回りつつも防ぎ切った束の実力もまた、箒が思っていた以上に高い。

 今日初めて会った女性と、自身の家族である姉の剣の腕前。どちらも知らなかった箒だが、それが今目の前で明らかとなっていた。

 

「にゃあぁぁ!?ちょっとちーちゃんストップスタップステップ、いきなりドゥンドゥン飛ばし過ぎだよー!束さんついていくのがやっとだから!ちーちゃんの剣、速すぎるから!」

「ふっ、そう言いながらどれも確り捌いてみせてるじゃないか。これでも家で時間が空いたら練習していたので大きなブランクは無い筈だが、なっ!」

「ま、中学の頃からえげつない腕前だったし、ねぇ!」

 

 会話を繰り広げながら竹刀を激しく打ち合う2人。

 勇猛果敢に激しい攻勢を敷きに掛かる千冬と、防御を主に置きつつ攻撃の隙を的確に突いていく束。スタイルこそ違う2人だが、一進一退を決め込んでいる互角の展開が剣道場の中心で起こっていた。

 

 そしてそんな光景を、息を呑むのも忘れる程に釘付けにされる箒。

 剣道を学んで間もない彼女にとって、目の前で行われている剣の打ち合いは引き込まれる魅力があった。型こそメチャクチャだが、どちらも自分の腕の様に竹刀を巧みに操ってみせている。未だ満足に剣を振るえていない彼女にとっては目を奪われても仕方が無かった。

 

 そして突然の試合は、激しい鍔迫り合いの後に両者が大きく後ろに引き下げられた事を

区切りとして終結となった。

 

「ふぃ~、死ぬかと思ったぜぃ。本気じゃないとは言え、ちーちゃん途中から割と気合入れてたよね?」

「ふっ、どうだかな。そういうお前こそ、最近は研究ばかりで腕が鈍っていると思ったのだがな」

「だってそこはほら、束さんだし?」

「いや、その理屈はおかしい……まぁいいか」

 

 試合が終わった2人は軽い微笑を浮かべながら互いの健闘を称え合う。本気では無かったと言うだけあって、どちらの身体にも汗の一滴すら見当たらない。

 

 そんな2人の姿を終始見ていた箒は、興奮気味になりながら2人に近づいていった。

 

「す……凄い!お姉ちゃんも千冬さんも、すごく凄かったです!」

「あっははぁ!箒ちゃんに褒められちゃった~、いやぁん束さん照れちゃう~!デュフフフ……」

「クネクネするな気色悪い……ありがとう、そう言ってもらえるとは光栄だ」

 

 身体を捩じらせている束を捨て置き、千冬は再び箒の前で屈んで彼女の頭に手を添える。箒から向けられる尊敬の眼差しはこそばゆいものがあったが、彼女は悪い気はしなかった。寧ろ、嬉しい感情の方が強く現れている。

 

「さて、済まないが私はそろそろ帰らせてもらうよ。迎えに行かなければならない奴がいるのでな。次にまた来た時には、私が君に指導してやろう」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、約束だ。さっきの様な型破りでは無く、然とした剣道をな。それまでに剣道を頑張って続けるんだぞ」

「はい!」

「ふっ、良い子だ。……束、私は一夏を迎えに行くからもう帰るぞ」

「クーネークネ~、クネクネ~!」

「……ほっとくか」

 

 未だに箒の言葉で悶絶している束を余所に、箒とテオに『じゃあな』と声を掛けた後に千冬は剣道場を後にした。

 

 テオが箒の傍に近付くが、彼女は千冬の出て行った出口をジッと見続けている。憧れの人の姿はもう見えないが、その目は未だ恍惚としていた。

 

「千冬さん、かぁ……カッコ良かったなぁ」

≪おっ、箒ちゃんあの子に憧れちゃった?≫

「勿論!私もいつかはあんな風に振る舞える女性になりたい!」

≪ははは。箒ちゃんが凛々しい女性になる、か。ならこれからも頑張らないとね、色々と≫

「ああ!」

 

 箒にとっては憧れであり、目標とも成り得る人物。テオにとってはそんな飼い主の今後の成長を促してくれる人物、ついでに気が合う。

 初対面となる千冬への評価は、どちらも水準以上という結果となったのであった。

 

 

 

 

 

「……ハッ!?此処は誰?私はどこ?」

≪あ、正気に戻った≫

 

 妹への愛は理性をも凌駕する。

 

 

 

―――続く―――

 




 篠ノ之家に馴染んでいる事を示す為の八重との交流、箒の急成長、そして千冬との邂逅という3段構成。タイトルに悩まされたのは内緒。
 箒の言葉が3ヶ月で急変したのも、作品内で明かされましたが『テオと意思疎通が出来る様になった事で、飼い主として確りしていたいという意識が強まったから』という理由ですね、それと剣道を始めてことによって精神面の勉強が早くに行われた事も。
 まだ少しあどけなさが窺える口調でしたが、今回、千冬という幼少時代の憧れが登場した事によって……。

 そして次回、束さんがメイン回!ついにISの発表に乗り出した彼女は……?
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