篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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1人の少女が自分の夢を語りますが……

 

 篠ノ之 束は、天賦の才を持っている。

 

 束がまだ幼かった頃の話だ。

 彼女が幼稚園に通っていた頃、他の園児達が遊んでいるのを余所に彼女は木の棒で地面に数式を書き込んでいた。他の子供達の楽しそうな笑い声、転んで怪我をして泣く声、それらを全く気に留めず、黙々と手を動かし続ける束。

 

 1人の幼稚園の教諭が誰とも遊ぼうとしない束を心配して、皆と一緒に遊ぼうと彼女に催促した事があった。しかしその時、彼女の書いている数式が只の真似書きではなく正しい計算である事に気付いた教員は、そんな彼女を気味悪がり、誘いを止めて園長に報告して保護者への連絡進言するに留まった。

 

 束の保護者である柳韻と八重は、束の幼稚園入園以前から彼女の才能を垣間見ていた為、驚くような事は無かった。園長と教員が困惑している中でも、彼女達は至って平常に振る舞って束の行動に対する感想を述べた。

 

『束がやりたいと願っている事を、私達が阻むような事をしてはならない』

 

 数年後、小学校に通い始めた束はそこでもその才能を発揮していた。学年毎に配られる課題用ドリルを6年生分まで貰ったかと思うと、入学から僅か7日で全ての課題を終了させた。その後の束は大人が読むような難解な本を持参してそれらを読み耽り、教室に居ても授業を聞くそぶりは全く無かった。彼女の授業態度に難色を示した教師が彼女に問題を与えた時も、彼女は難なく答えてみせた。

 交友を全く結ばず、黙々と自分のやりたい事をやっている束に近付く者は誰もいなかった。入学間もない頃に声を掛けた同級生がいたのだが、存在すら無視されてしまった事が学園に広まり、以降彼女に声を掛ける者は現れなかった。

 

 たった1人の例外を除いては。

 

 その例外の人物は、とある教師が授業を全く聞かない束に説教をしていた時に、尚も無視し続ける彼女の頭を引っ叩いたのだ。その行動に教室内の全員が驚愕した。篠ノ之 束に不用意に関わってはならない、学園の生徒内での暗黙の了解となっていたのだが彼女はそれを知った上でかその様な行動に出たのだ。

 

『おいお前。先生の言う事はちゃんと聞け。それから授業中に関係ない本は読むな』

『はぁ?この私に命令?っていうか誰だよお前』

『私は千冬、織斑 千冬。私がクラス委員長である以上、口うるさく言わせてもらうから覚悟しておけよ』

 

 挑戦的に笑う千冬と、殺意すら出しかねない程に彼女を睨みつける束。

 龍虎の相対を思わせる2人の醸す威圧感に、教師含めた他のクラスメイトは只震えるしか無かった。

 

 2人の因果はそこから始まった。

 千冬から注意されたにも関わらず、尚も難しい本を読もうとする束。そんな彼女に対して、千冬は『2度も同じ事を言わせるな』と言いつつ彼女の頭に一発。

 自分より学年が下の子がハンカチを届けてくれたにも関わらずお礼を言おうとしない束。そんな彼女に対して、千冬は『お礼ぐらいちゃんと言え』と言いつつ再び彼女の頭に一発。

 体育の授業で仮病を使ってズル休みしようとする束。そんな彼女に千冬は『強制参加だ』と言ってドッジボールを剛速球で投げ付けて彼女を焚き付ける。その後砲撃の様にボールが飛び交った。

 給食で嫌いな食べ物を残そうとした束。そんな彼女に対して、千冬は『残さず食べろ』と言って彼女の口に食べ物を突っ込ませようとした。束はメチャクチャ抵抗したが、最後には負けた。

 

 そしてやがて、堪忍袋の緒が切れた束。

 彼女は千冬を屋上に呼び出すと、己の思いの丈をぶちまけながら拳を振るった。

 

『お前ウザいんだよ!!もう私に関わるなっ!!』

 

 そんな彼女に対して、千冬は迫り来る拳をガッシリと受け止めながら言った。

 

『断る。確かに今まではクラス委員長として、問題児のお前を正すつもりでいた……だが、ずっと独りで寂しそうにしているお前を見て見ぬフリするつもりはもう無い。これは【クラス委員長】としてではなく……【織斑 千冬】としての意志だっ!!』

 

 その後、2人は学校の屋上で激しい殴り合いを繰り広げた。

 まだ胸の発育すら始まっていない青い女児とは思えない程にキレのある技の応酬。互いに一歩も引かない本気の喧嘩は、夕暮れの学校に鈍い打撃音を延々と響かせ続けた。

 

 喧嘩が終わった時、その場には大の字で寝っ転がっている2人の少女の姿があった。彼女達の身体には幾つもの痣が出来上がっていた。

 しかし、2人の表情は痛々しい傷があるにも関わらず晴やかであった。

 

『……強いじゃん、お前』

『ふっ、お前もな』

『……ねぇ。そっちには何か夢とかある?』

『何を唐突に……まぁ、あるにはあるが』

『へぇ、何?それは』

『まぁ、なんだ……そう言うお前の夢は何だ?言いだしっぺから先に言え』

『私から?まぁ別に良いけど。私の夢はね……あそこ』

 

 スッ、と束の指が暗くなりかかった空を指し示す。

 

『何だ、飛行機のパイロットにでもなるのか?』

『違う違う、そんな小っちゃいもんじゃないって。私が目指すのは……【宇宙】さ』

『宇宙?』

『地球で手に入る知識なんて、それも本を読んだりインターネットを通せば大体解る事。ぶっちゃけ、この天才束ちゃんの頭脳を喜ばせるには刺激が足りないんだよね』

『ふっ、もう地球の全てを知った気でいるのか?ガキの癖に』

『そっちもガキじゃん。言ったでしょ?この地球(ほし)の事は調べれば大体解る、謂わば答え合わせが付属している様なモンだよ。それなら宇宙は?その宇宙の先は?そのまたさらに先は?きっと人類がまだ理解出来ていない事があると思うんだ!』

 

 千冬が横目で束の顔を見た時、彼女は屈託のない笑顔で自分の夢を語っていた。年相応に笑っている彼女の姿を見たのは。千冬も初めてであった。

 

『だから私は、宇宙を目指す!私の知らない事を知る為に!』

『……そうか。良い夢だな』

『へへへ……さ、私はもう喋ったんだから、今度は君の夢を話しなよ』

『お前の様な大層な夢では無いさ……両親から聞いたんだが、もうすぐ私に弟が出来るんだ』

『へぇー、私にも妹が出来るよ、偶然だね!』

『そうだな。私の家族を、友を、これから生まれてくる弟を……この手が届く範囲で守りたい。そしてその為に、強く在りたいんだ』

『……そっか』

 

 束が横目で千冬の顔を見た時、彼女は真剣な面持ちで自身の掌を見つめていた。今しがたの言葉が真である事を感じさせる雰囲気が彼女に漂っているのを、束は感じ取った。

 

『……よぅっし!決めた!』

『何を決めたんだ?』

『私、ちーちゃん(・・・・)と友達になる!』

『……はっ?』

 

 

 

――――――――――

 

「ふぁっ?」

 

 長いようで短かった夢から、束は目覚める。辺りを見回してみると、そこは眠る前に乗っていた新幹線の一座席であった。

 新幹線が向かっている場所は、【日本技研定期発表会】が行われている研究所がある某都市。そこでは日本中の優秀な研究者達が一堂に会し、各々の研究の成果を発表しており、今回束は特別枠としてそこでISの発表をする手筈となっている。

 

「……懐かしい夢見ちゃったなぁ」

 

 頬に手を当てながら感慨に耽る束。そこは昔千冬に殴られて痛い思いをした箇所であるが、数年経った今では既に跡も残っていない。

 

 あの時千冬と友達になろうとしたのは、束本人がそう望み、その望みを叶える為に素直に行動したが故だ。呆気に取られていた千冬であったが、『お前の友達になれる奴など、私しかいないだろう』と言いながら彼女の願いを汲み取ったのだ。そしてその交友は今でも続いている。

 もし千冬と知り合っていなかったら、今の自分はどうなっていただろう?

 束はそう考えるものの、数秒でその思考は止めた。既に千冬と友である以上、考えるだけ無駄だと切り捨てたのだ。

 

「兎にも角にも……漸くここまで来れたんだね」

 

 束は脇に置いていたビジネスバッグの中から、ホッチキスで纏めた冊子の表面を眺める。

 それには束がここまで研究と開発を続けてきた集大成、その題名が書かれていた。

 

【宇宙、更にその先の世界における活動を目的としたパワードスーツ、Infinite Stratos―インフィニット・ストラトス―】

 

 

 

――――――――――

 

「宇宙、ねぇ。やはり大した話では無かったな」

 

 しかし、若干14歳が語った理想は、大人達からしてみれば興味の無い話だった。

 参加者の内の誰かがつまらなさ気にそう吐き捨てた途端、周りの者達もそれに同調するかのようにざわめき始める。

 

 発表を終えた束は、そんな周りの反応に噛み付こうとするも寸での所で踏み止まって発言者の壮年男性を睨みつける。

 

「……どういう意味、ですか」

「言葉通りの意味だよ篠ノ之ちゃん。只でさえ機体の開発に莫大な費用が掛かるというのに、宇宙に行く目的が『未知への探求』だ等と……ハッキリ言って旨味が無さすぎるんだよ」

「それの何が悪いんだ……ですか!今後宇宙の構造をより鮮明に解き明かせれば、各学会的に有益な情報が――」

「あるとは限らない、だろう?それに真の有益とは情報ではない、コレだよ」

 

 そう発言した研究者は、指で輪っかを作っていやらしい笑みを浮かべる。つまり、金になる事、である。

 確かに金銭の重要性は束も理解しているつもりだった。ISを造る為の金額もポンと出せる程安くは無いし、金銭が無ければ造る段階にさえ至れない。だが、こうも臆面も無く金銭への欲を晒されるのは、良い気分ではなかった。

 

「第一、宇宙進出なんてスペースシャトルが既に完成形として確立されているんだ。今更パワードスーツなど作った所で意味無いだろう。何の為の宇宙服だと思ってるんだ?」

「だから宇宙服なんかとは違って、ISには宇宙空間で快適に活動出来るためのPICや――」

「もういい、時間は有限なんだ。君の発表にばかり時間を割いていちゃ会の意味が無くなってしまう。次の発表者が控えているのだから、君は下がっていなさい」

「くっ……!」

 

 どんなに言ったところで手応えが無し、のれんに腕押しとはまさに今の状況であった。

 確かに束の発表には至らない点が幾つかある。性能面を追求した事によりコスト面の配慮が疎かになっている事と、先程も研究者から言われたように開発に見合った利益が少なすぎる事。

 特に後者に関しては非常に手痛い問題だ。宇宙資源の獲得という大義名分も、スペースシャトルという存在がある以上大した魅力として聞こえない。シャトルの射出自体も莫大な費用が掛かるのだが、それを差し押さえて尚開発したい程かと言われたら……。

 

 費用、利益の少なさ、そして用途の幅狭さ。

 そして何より、中学生という身での発表で完全に嘗められてしまっているのが下人として大きかった。

 

 完全に勢いを挫かれた束は、悔しげに唸るものの、この場は大人しく引き下がるしか無かった。

 

「ゴホン……では次は繰井 幻道さん、発表をお願いします」

「分かりました」

 

 20歳後半程度の外見に片側の前髪を長くしている、繰井と呼ばれた白衣の男性は席を立ち、発表席の方へと歩いていく。

 途中、自分の席に戻る途中の束の傍で誰にも聞こえない音量で鼻笑いをした後、彼は壇上へと立った。

 

「皆さんどうもお疲れ様です。若輩の身ではありますが、この度発表の機会を頂けた事、大変嬉しく感じております」

 

 繰井は一礼の後に爽やかな笑顔を浮かべて感謝の意を述べる。彼の礼儀正しい物腰に好印象を受けた他の研究者達は満足げにその言葉を受け取っていた。

 その頃に、束は自分の席へと座る。彼女は溜め息を吐きながら自身の用意していたISの発表資料を再読し始める。繰井のプレゼンに意識を向ける気配は全くない

 

「さて、挨拶は此処までにして……私が今回発表する研究内容は、奇しくも先程の篠ノ之さんの発表と似通った内容となっております」

「ほう……」

「しかし、使用目的は別物です。私が考案する外骨格補助機動装甲、【Extended Operation Seeker】、略して【EOS(イオス)】の活動目的は災害時における救助活動や平和維持活動……」

 

 スクリーンには武骨なデザインのパワードスーツが映し出される。

 

「私はこのEOSを国際連合に向けて提案する方針を将来的に予定しています。昨今は災害被害も問題になっている為、新たな救助システムは相手方も決して無視出来ない内容といえましょう」

「ふむ……」

「そして私がこの開発品の最たる着目点としているのは……この点です」

 

 スクリーンに映し出されている画面の中から、差棒を用いて一点を示す繰井。

 彼が示した言葉に、束以外の全員が注目する。そしてその内容は会議全体に戦慄を走らせるものであった。

 

 『武装追加による武力強化としての利用』

 

 そこにはそう記されていた。

 

「EOSを秘密裏に軍事開発する為には、まず国連に提案する際に『武力目的に使用しない』という建前を用意する必要があります。あくまで『平和の為』に使うと宣伝する事によってイメージは定着し、今後各国でEOSを研究する時に表沙汰で開発出来る物は限定されるでしょう。精々救助用の非攻性ツールや機動パーツ等に絞られます」

「しかし、それは我々も同じ条件を被る事に変わりは無いだろう?我々だけ特例が認められるなど有り得ない」

「ええ。確かに走る条件は統一されますね。ですが、スタートラインの時点で引き離していたら……どうなります?」

 

 繰井の言葉を聞いた一同は、合点が入って一斉に顔を綻ばせた。

 つまり、EOSの開発こそある程度まで進めておくものの、国連に提出する内容は初期段階と理想型に絞る事によって、予め日本に有利な状況を作っておくのだ。開始位置さえずらしてしまえば、開発スピードに差があろうとも暫くアドバンテージは維持し続けられるだろう。情報提供を交渉のダシに使えば、美味しい利も得る可能性も高まる。

 

「納得してくださって何よりです。私としては他国に遅れを取らないよう、皆様のお力もお貸し頂き一丸となって事に当たらせていただきたいのですが……」

「国連とのパイプ、日本の戦力強化……成程、少々博打要素も含むが成功すれば我々の地位も確立されるな」

 

 将来のビジョンを構想する科学者達の顔色は誰もが明るい。束の提案した宇宙進出よりも、自身の地位向上の方に興味が湧いたようだ。

 

 彼らの反応に繰井は気を良くする。自身の発表が好評だったとなれば、この先の研究も良い方向に話が進んでくれるとも確信していた。

 ふと彼は、束がどのような反応をしているか気になり、そちらに目をやった。同じパワードスーツという題材でありながら、その評価は雲泥の差。きっと高評価を受けた自身の研究に嫉妬し、悔しがっているだろうと期待した。

 

 だが、そんな彼の予想は打ち砕かれた。

 

 束は自身の作品であるISの資料を見返している最中で、繰井が用意して各員に配布した資料には全く手を付けていなかった。まるで繰井の事など眼中に無いかのように、彼女は自分の事に没頭していた。

 強がりや負け惜しみ等ではない。繰井の発表に、存在に、本気で興味を示していないのだ

 

 勝負に勝った筈なのに、敗北感を叩き付けられる感覚を受けた繰井 幻道。

 そしてその瞬間、篠ノ之 束という少女に決して少なくない憎悪を向け始めていくのであった。

 

 

―――続く―――

 




 今回はテオでは無く、束さんメインの過去回でした。しかも途中から知らないオッサンが喋りまくってるし、まるで別作品のような事に……。
 あ、途中から出しゃばってる繰井って奴は今作品のオリキャラです。一体将来はなに国機業に身を置くんだ……?
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