篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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過去編では定番になりつつある連続投稿です。(30分の空きがあるけど)
いや、定番になると2作投稿しなければならないというプレッシャーががが。


少女は夢を叶える為に頑張りますが……

 発表会を終え、自分の住む町に帰ってきた束。既に日は傾きかけており、茜の空が暗い色に染まり掛けている。

 

 結局、あの場で束の開発したISが注目される事は無かった。やはり彼女の年齢では子供の妄想と打ち切られてしまうのがオチだったようだ。彼女の発表を聞いていた大人の研究者たちは、誰もが彼女の事を馬鹿にしているかのような視線を送っていた。

 

 しかし、束もそうなる可能性は想定していた。自分が嘗められる事も、ISが認められない事も。だがそれでも、発表会は毎年行われるようなイベントではない。次にこの機を逃したら、次は数年以上先の話になるのだ。数パーセントにも満たない可能性だとしても、束は折角の機会を賭けてみたかったのだ。

 

「……まっ、ご覧の有様だったけどね」

 

 分かっていたとはいえ、やはり理解されない事は悔しいものだ。おどけて独り言を呟いてみせたものの、やはり心は晴れなかった。

 一思いに泣けたらスッキリするかもしれないが、生憎この場は住宅街。今は人こそ近くに歩いていないものの、家に居る者達に泣き声を披露する趣味は束には無い。

 そんな事を考えていると……。

 

≪おっ、帰ってきた帰ってきた≫

 

 前から現れたのは、黒い一匹の猫――テオであった。篠ノ之家に迎えられてからもうすぐ1年が経とうとしており、その身体は殆ど成熟しきっている。

 

 まさかこのような所で会うとは思わず、束は少々呆けた顔でテオを見つめていた。

 

「テオくん……どうしてこんな所に?」

≪いやね、束ちゃんがどこぞの発表会に行くって言ったものの帰りが少し遅かったから、様子を見に来たのさ。入れ違いにならなくて良かったわ、ホント≫

「そうなんだー……ありがとね」

≪どういたしまして、ってね≫

 

 テオはそう言うと束の身体をよじ登り、彼女の肩に身体を預けた。肩、もしくは頭が束の身体に乗っかる時の指定席である。

 

≪で、結果はどうだった?≫

「……」

≪ふむ、あまり良い感じでは無かったみたいだね≫

 

 束の表情を除き込み、大体の予測を付けたテオ。彼はまだ人間社会に関しての知識は浅いが、束の暗い顔からその程度の推察を行う事が出来た。

 

≪ところで束ちゃん、何の発明をしてたんだい?≫

「あり?テオくんに教えた事無かったっけ?」

≪君、有名になった時のお楽しみって言ってずっと秘密にしてたじゃん。何か人間が着込むような物だっていうのは前に横目で見た時に分かったけど≫

「にゃはは、そういえばそんな事言ってたっけ?じゃあはい、これが宇宙で活躍する為のパワードスーツ、ISだよ」

 

 そう言って束は作った書類の一部をテオに見える様に晒す。字ばかりの項目だと解り辛い為、彼に見せたのは外装プロットと各部の簡易解説が描かれたページだった。

 

 翻訳機の機能のお陰で読む力も身に付けたテオは、それらをザッと流し読みしていく。

 

≪宇宙、か。想像した事も無かったけど、どんな世界なの?≫

「ん~、教えてあげたいのは山々なんだけど、束さんもまだまだ分かんない事が一杯なんだよねぇ。その為にも、このISで宇宙を隈なく駆け巡るんだ!」

≪ほほう。それは随分と面白そうだね≫

「でしょでしょ!やっぱりテオくんもそこらの有象無象なんかとは違うね!束さんの夢を分かってくれるんだもの!」

 

 テオの答えが嬉しかった束は、子供の様にはしゃぎながら彼に笑みを向けてくる。

 

 そんな束の笑顔を向けられたテオは、フッと軽く微笑した。

 

≪漸くいつもの束ちゃんらしくなったじゃん≫

「ふぇ?」

≪さっきまで表情に陰りがあったんだけど、宇宙の話をした所から心の底で笑えてた感じがしてさ。やっぱり束ちゃんは暗い顔してるよりも、いつもみたいに笑ってた方が似合ってるし、何より可愛いよ≫

「…………」

 

 テオの言葉を聞いて、初めの内はポカンとした表情になる束。しかし数秒後には林檎の様に顔を真っ赤に赤らめながら、ワタワタと慌てふためき出した。

 

「か、かわっ!?可愛いって……私がっ!?」

≪いや、猫の私から見ても束ちゃんは可愛いと思うよ。これは将来も美人になるだろうね、きっと≫

「び、美人っ!?あ、うぅ……も、もうっ!テオくんってばいきなりタラシみたいな事言い出すんだから、束さんドキッとしちゃったじゃん!」

≪ははは、ゴメンゴメン。ついね≫

「んもぅ……」

 

 そう言いながらテオから顔を逸らす束。彼の顔を見る事への恥じらいがあるが故の行動だが、その赤い頬は未だに熱っぽかった。

 

≪けどまぁ、束ちゃんの頑張りを見届ける為にも、私も出来る限り長生きしないといけないな≫

「……えっ?」

≪猫の寿命は、人間と比べてずっと短い。何事も無ければ後10数年は大丈夫だろうけど、それ以降は私も生きていられるかどうか……≫

「あっ……」

 

 束はそこで気付かされた。

 室内飼いされている猫の平均寿命は年々上がっており、現在は約16歳と言われている。ちなみに野生の猫は2~3年とグッと短い。どちらにせよ、人間の寿命平均は80歳代であり比較しても大きく差がある。

 束のISが世間に認められるのも、開発の進行具合も、本格的に宇宙進出を果たせるのも未だ時期が不明だ。10数年で理想に辿り着くには、相応の世間注目度と投資が必要となってくる。

 ハッキリ言って、テオが存命している間にそれらを叶わせるのは非常に見込みの薄い話だ。

 

 束は改めて、テオの方を見る。

 その瞬間、彼女は幻視した。テオの身体が徐々に霞の様に消えていく姿を。

 

「っ!!やだっ!!」

≪うおっ?≫

 

 悲痛な声を上げながら肩にいたテオを突然手に取ると、束は自分の胸に抱き寄せた。離れていくものを失わせない、しがみつく様に必死にテオの身体を抱き締める。

 

 抱き締められているテオはいきなりの出来事に戸惑いつつも、束を落ち着かせようと何か言葉を掛けようとする。そんな時に、彼女の身体が震えている事に気付いた。雰囲気も相まって、今の彼女はさながら怖いものに怯えている幼な子の様であった。

 掛ける言葉に注意しつつ、テオは抱かれるがままに彼女に言葉を投げ掛ける。

 

≪大丈夫だよ束ちゃん、私はちゃんと此処にいる≫

「だってぇ……テオくんがいなくなるって考えたらぁ……!」

≪大丈夫、大丈夫≫

 

 未だ戸惑っている束に優しく語りかけるテオ。

 

 近しい存在の死に対する意識。それが束が怯えている理由だ。

 これまで束が特に親しみを持っていた者は親友の千冬と妹の箒の2名、どちらも人間だ。同い年の千冬ですらまだ14歳で人間女性の平均寿命の1/5すら満たせていない段階なのに寿命の心配をする必要はまず無い。

 だが、猫であるテオの残りの寿命はそうはいかない。10年こそまだ先の話のようにも聞こえるが、束の夢の事を考えればあっという間の時間だ。先の事が見えたからこそ、彼女は失う恐怖を感じてしまったのである。

 

≪なら束ちゃん、私と1つ約束をしないかい?≫

「ぐすっ……約束……?」

≪あぁ。私が生きている間に君が開発した、ISだったっけ?それを世間に認めさせて宇宙に行って、宇宙の事を私に教えてくれる。どうだい?≫

「でも、でもっ……ホントに間に合うかどうかも」

≪それくらいの気持ちで挑もうって事。それに、束ちゃんは『天才』なんだから、きっと成し遂げてくれるって信じてるし≫

 

 普通ならばその言葉すらも重圧に感じてしまう者もいるだろう。

 しかし束は全く重みに感じる事は無かった。天才ならば成し遂げなければならないという気持ちもゼロでは無いが、何よりそこまでして信じてくれるというのであれば……。

 

「ぐす……簡単に言ってくれちゃって……けど」

 

 期待に応えてあげたい。その気持ちの方が遥かに強く浮かんで来たのだ。

 だから束は、テオの約束を受け入れる覚悟を決める事が出来た。

 

「しょーがないっ!この天才束さんが、その約束事を守ってあげようじゃないか!」

≪おっ、そこまで言い切ってくれるとは頼もしいじゃないか≫

「へへ~ん、バッチリ期待してくれてて良いんだからね、テオたん(・・・・)!」

≪あぁ、楽しみにさせてもらうとする……テオたん?≫

 

 危うくスルーしてしまう所を、テオが気付いて疑問を投げかける。

 

 束はニコニコと笑いながらテオを胸から肩へと戻すと、再び歩き始めた。

 

「テオたんはテオたんだよ~、テオたんに対する束さんの好感度はどんどんアップしているのだ!だから、愛を込めてたん付けにしたの!」

≪ほほう、束ちゃんの愛とは私も幸せ者という事か≫

「ふふ~ん、そうでしょそうでしょ~♪……ちょ、ちょっと大胆な事言っちゃったかなぁ……?」

≪ん?何か言った?≫

「な、何でもないよっ!?」

≪そう?≫

 

 それからは2人は、楽しげに会話をしながら我が家を目指すのであった。

 余談だが、帰り道は人の通りがなるべく少ない道をさりげなく選んでいたのは、束だけの秘密であった。

 

 

 

――――――――――

 

 それからあっという間に1ヶ月が過ぎた。

 

 あれから束はISの研究の地盤固めに努めるべく、細部のチェックや機体コストの削減等に目を向けるようになった。注目は集められなかったとはいえ発表こそしたものの、まだまだ粗は探せば沢山見つかるものだ。次の発表は数年後なので、それまでに更に出来の良い物が発表出来るようにする為に、開発にも気合が入っていた。

 ISを完璧にさせる為、世界に認めさせてそれらを宇宙に羽ばたかせる為、宇宙と宇宙の先にある次元を知る為。

 そして束にとって新しく出来た大切な存在に、宇宙の事を教えてあげる為に。

 

 そしてとある夜。

 束の研究内容を知る3名が、柳韻の敷地内に造られた秘密のIS用研究所にてその顔を揃えていた。束、千冬、テオの3名だ。

 

「さてさて束さんのラブコールに応えて下さった皆さん、今日はお集まり頂いて誠に――」

「茶番をする暇があるなら帰るぞ」

「わー待ってまってマッテ、マッテローヨ!ちゃんと本題に入るから慈悲の無い帰宅は勘弁してちょ~!」

 

 さっさと帰ろうとする千冬を、束は泣きながらしがみ付いて必死に止めてみせた。

 

「まったく、用件があるならさっさと言え」

≪まぁまぁ千冬お嬢ちゃん。それで束ちゃん、今日のこの夜に呼び出してどうしたの?≫

「ウォッホン、実は見せたい物が2つありましてね……」

「見せたい物?」

 

 千冬の確かめるような問いかけに、束は笑顔で頷く。

 

「そう!先ずは一つ目なんだけど……実はテオたん専用のISが出来上がりましたぁ!」

≪私専用のIS?≫

「イエス!アーマーの組み立ての時に出来た端材なんだけど、それを組み合わせてテオたんだけに身に付けられるISを造ってみせたのだぁ!あ、コアも専用に分離させてまっす!」

≪私専用か……心が躍るね≫

 

 テオは実に楽しそうにそう言ってみせた。テオからしてみれば、自身専用のISを造ってくれたなど、予想外のサプライズに他ならないからだ。

 そんなテオの反応は、束にとっても満足のものであった。

 

「ふふーん、早速装着させてあげたいんだけど、その前にもう1つの方も紹介しておかないとね。といっても、端材でテオたんのISが出来てる時点で予想は出来ると思うけど」

「……!まさか束、ISの実物が……」

「ふふふーん」

 

 察しのついた千冬のその言葉に、笑顔で返答する束。

 

 そう、これまでは図面上でしか形を成していなかったISが、とうとう現物として出来上がったというのだ。以前よりアーマーの組み立て自体は進められており、発表の時点で半分程度仕上がっていた物を彼女は完成にまで持ち込んでみせたのだ。

 ISの完成を聞かされた千冬は、その知らせに舌を巻いた。開発に携わっていないものの、完成は当分先だと踏んでいたからだ。

 千冬とテオの視界の端には大きな布を被せられた『何か』があった。十中八九、それが完成したISなのだろう。

 

「さぁ!記念すべきIS第1号、その名も――」

 

 名前が告げられようとした瞬間、事態は急変した。

 

 ビーッ!ビーッ!とけたたましく鳴り響き出した警告音。発生源は奥のデスクに置いてあるデスクパソコンからで、画面にはCaution!の文字が埋め尽くされている。

 

 突然の警報に何事かと驚く一行だったが、束がいち早く動揺から復帰すると、パソコンに駆け寄って高速でタイピングを行う。テオと千冬も、そんな彼女に続く様に後ろからパソコンの画面を覗き込む。

 

 やがてキーボードを打つ指を止めた束。だが、愕然とした表情のまま画面に釘付けになっている。

 

「おい束、一体何が起こってるんだ!?」

「……2人とも、落ち着いて聞いて」

 

 これまでの明るい声色とは違い、いつになく真剣な雰囲気。

 こういった時の束を千冬もテオも知っている。彼女がこのような状態の時は『本気で伝えたい事がある時』『本気で危険な事態にある時』に限る。

 

「今から約30分後……私達のいる日本にミサイルの雨が降り注ぐ」

「……はっ?」

≪どういう事だい?≫

「時間が無い、簡潔に説明するよ」

 

 再びキーボードを素早く打ち込みながら、束は2人に現状を説明した。

 

 まず先程の警告音が発生したのは、この研究所もしくは束の大切な人達に大きな危険が迫っている場合に発生する仕様だったからだ。

 その原因となっているのが、束が先程言ったようにミサイルが迫っている事。理由は不明だが、突然世界中の軍事基地のコンピュータが一斉に誤作動を起こし、2,341発以上のミサイルが射出準備を開始。3分後には一斉射撃が行われる事が判明した。

 一瞬で世界中のコンピュータにハッキングするなど、普通ならば不可能だ。そうなるとこれは『予め仕込まれていた』と考えるのが妥当だろう。

 

 約1分でそれらの情報を集めた束は、自らもハッキングを行い始める。

 

「束!ミサイルを止める事は出来んのか!?」

「今やってるっ!ハッキングで止めさえすれば……ああくそっ!めんどくさいロックだけじゃない、回線まで緩くしやがった!」

 

 荒々しい言葉を散らしながら、束はタイピングのスピードを速めていく。中学生が行えるような速度ではないレベルでキーボードを叩いていくその様は、まさに鬼気迫るという表現が相応しい。

 だが、そんな彼女の健闘を嘲笑うかのように、時間は刻一刻と迫っていく。既にミサイル発射まで1分を切っていた。

 

 そしてその瞬間、束は突然身体の動きをピタリと止めた。

 

「……束?」

「……はは、はは……もう間に合わないよ、これ」

≪束ちゃん!?≫

 

 力を失い、その場から崩れ落ちる束。その表情は絶望に満ちていた。

 テオと千冬がへたり込んだ彼女の傍に寄り添うも、彼女の顔色は青いままだ。

 

「しっかりしろ束!まだ発射までの時間はある筈だろう!?諦めるのか!!」

「……3分24秒……頭が回り過ぎるとね、あとどれ位時間が必要になるのかも大体解っちゃうんだよ、ちーちゃん。絶対に間に合わないって事が、分かっちゃうんだよ」

≪束ちゃん……≫

 

 千冬にもテオにも、束以上にコンピュータを扱える技術は無い。この場においてミサイルをハッキングで止める事が出来るのは束以外に存在しない。その束が止められないと言っている以上、ハッキングで止める事は不可能と言う事だ。

 そう、ハッキングという手段でなら。

 

 千冬はミサイル発射まで30秒を切ったところで、僅かな時間だが逡巡する。

 その鋭い瞳は、大きな布を被せられている『あの存在』を捉えていた。そこから千冬は、己の中の覚悟を固めた。

 

「……束、お前の力を貸してくれ」

「ちー……ちゃん?」

≪千冬お嬢ちゃん、まさか……≫

 

 俯いていた束は千冬の視線の向く先を見ていなかった為まだ要領を得ていないが、テオはその光景を見ていたので彼女の意図に察しが付いていた。

 

 そして千冬は、決意を込めて言葉を放った。

 彼女のその信念は、ミサイルによって焦土と化す日本の未来を変える道標となる。

 

「私が、ミサイルを全て撃ち落とす」

 

 

 

―――続く―――

 




 という訳で、原作との最大の相違点『【白騎士事件】の首謀者が束さんじゃない』という回でした。一体どこの繰井 幻道の仕業なんだ……?
 そしてシレッとテオと束さんの間でラブコメの波動が……『くん』から『たん』付けにしているのが2人の行く末の答えです。
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