篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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千冬が弟を連れてきて……

 白騎士事件の後の世界の動きは、酷く慌ただしかった。

 

 束の発表を聞いていた科学者達の発言により、白騎士事件の時に姿を現したのがISである事が判明。搭乗者までは明かされなかったが、ISの存在は世界中に報道された。

 ISの詳細に関しては、開発者である束が直々に説明。目映いフラッシュとカメラの群れを前に、彼女は余す事無くその性能を解説していった。

 ISコア、カスタムウイング、ハイパーセンサー、絶対防御、PIC等……ISの基本性能1つ1つが明らかとなる度に、会見の場にどよめきが広がった。現存兵器を超越する科学力が、高校生にすらなっていない1人の少女の手によって造られたというのだから、その衝撃は尚更だった。

 

 案の定、世界各国の代表達がテレビ電話越しに要求してきたのは、ISの開発方法。

 現存する兵器を圧倒するISの力は、どの国家にとっても喉から手が出る程に欲しい代物であり、彼女の国籍である日本がISを独占するというのはパワーバランス的に考えても不味かった。

 

 日本もISコアを他国に手渡すのを渋った。だがこの場で抗おうものなら、例えISを持っていたとしても稼働できるのは1機のみ。全世界という数の暴力に抗うには無謀な選択だ。故に日本は仕方なく、非常に仕方なく束にその辺りの情報開示を命令し、他国にISの開発方法を分配した。

 ISコアに関しては束しか製造方法を知らず、『過剰製造をして国家戦力バランスが崩壊する恐れがある』として、ISコアは束個人が管理し、武装が完了次第複数国家の監視の下、渡される仕組みとなった。結果、世界はISを開発する為の手段を手に入れたのであった。

 

 ISが各国で開発されていく中、国連は今後のIS数と動向を監視する為に【国際IS委員会】を設置。それに基づいてISの運用方法を規則として定める【IS運用協定】、通称アラスカ条約を定め、日本に対して先述の通りIS関係の技術、開発に関する情報開示とその共有を要求した。

 

 そして、ISの産みの親である束はというと……。

 

「という訳でテオたん、そんな私を慰めて~!」

≪おお、よしよし良い子だ≫

「何が、というわけなんだろうか……」

 

 現在、テオを抱き締めて日々の疲れを癒している模様。

 

 あれから月日は経ち、束は中学3年生、箒は小学1年生、テオは約2歳となった。

 

 日曜日の今日は研究所への駆り出しやマスコミ応対等が無く、束も家で自由に寛ぐ事が出来ている。最近の束は学生生活の一部を削って研究関連の仕事を行う機会も増え、以前よりも予算に余裕のある開発環境を恵まれるようになった。

 これらが宇宙進出の為の開発であれば、彼女も手放しに喜べていたのだが。

 

「はぁ~あ、やっぱりテオたんを抱いてると癒される~。あ゛ぁ~」

「女の人が出しちゃいけない声出してるからお姉ちゃん!……そう言えば、テオの呼び方が変わってる?」

≪まぁ、色々あってね≫

「なんなら箒ちゃんもテオたんって呼んであげたら?テオたんも喜ぶよ~」

「えっ!?いや、それは……ちょっと恥ずかしいというか……」

 

 普段呼び捨てで呼んでいる分、急に可愛げのある呼び方をするのは生真面目な箒には少し難しい話だったようだ。

 ちなみにその後、自室にてコッソリたん付けで呼んでみる練習をしたものの、照れ臭くなって断念したのは本人のみぞ知る真実である。

 

≪そう言えば、今日は千冬お嬢ちゃんが来るんじゃなかったっけ?≫

「千冬さん?千冬さんが来てくれるのか!?」

「ふふふ、そうだよ~」

 

 千冬の名を聞いた途端、嬉しそうに顔を綻ばせる箒。

 彼女にとって千冬はすっかり憧れの人という印象になっているようで、彼女の訪問を心待ちにしていたらしい。過日に千冬が見せた剣技は剣道の型とは大きく異なっていたが、その後約束通り箒の剣道を指導しに来てくれた時には見事な剣道の技を目の前で披露してみせ、尊敬の念を増々強く抱くようになったのだ。

 

 彼女達が一緒に剣道を行っている姿は、互いに性格が似ている事もあってか姉妹のようにも見えた。

 尤も、実の姉妹の長女はその事に対して嫉妬心を滾らせて……。

 

「あれ、そうすると私とちーちゃんは義姉妹…………うん、良いカモ」

 

 は、いなかったようだ。寧ろ歓迎ムードだ。

 

「それで、千冬さんはいつ来るの?姉さん」

「あ、もう約束の時間だからそろそろ来ると思うよ~。ちーちゃんだけじゃなくて、いっくんも」

「いっくん?」

≪誰それ≫

 

 聞き馴染みの無い名称に、箒とテオは揃って首を傾げる。

 

「あっ、そう言えばまだちゃんと会った事も無かったし、話してすらいなかったっけ!束さんってばうっかりさん☆では、話をしよう。あれは今から36万……いや、1万4千年前だったか」

≪何の話?≫

 

 おふざけの入った冒頭だったが、その後は普通に説明が入った。

 

 いっくんとは千冬の弟である織斑 一夏という少年の事で、通っている幼稚園は違うが箒と同い年である事。

 両親は共働きで忙しく、幼稚園の通園や迎えは姉である千冬が請け負っている事。

 千冬は一夏の事を大切に想っており、一夏の事になると冷静さを欠くブラコンの類いである事。

 ブラコン呼ばわりが千冬に知られると束がぶっ殺されてしまうので、黙っていてほしい事。

 

 以上が、束からの説明であった。

 

「てな感じかなー。折角の同い年なんだし、箒ちゃんもいっくんと仲良くしたげてね!あわよくば将来ヴァージンロードを一緒に歩くような関係に……むふふ」

「あの、お姉ちゃん……」

「おん?何だい箒ちゃん、束さんの背中に何かついてる?背後霊?」

≪背後霊だったらどんなに平和だった事か……≫

「え、何それ何それ。まさか……スタンド!?ついに束さんにもスタンドが目覚めた!?」

 

 そして束が後ろを振り返った瞬間……。

 

「よう」

「あっ……」

「私をブラコン呼ばわりとはいい度胸じゃないか……なぁ?束」

 

 スタンドと思いきや、怒りのオーラをスタンドの様に噴出している親友の姿がそこにあった。

 

 そんな怒れる千冬に対して、束が選んだ言葉は……。

 

「……スタープラチナかな?」

 

 この後、ボコボコにされた。

 

 

 

――――――――――

 

「さて、来て早々騒がしくしてしまって済まないな」

「いえ、大丈夫ですけど……お姉ちゃん大丈夫ですか?」

「心配要らん。加減はしたし、あいつならすぐに復活する」

 

 居間の隅でヤムチャの様に転がされている束を放置し、話は進められていく事に。

 

≪それで、隣の少年が君の弟なのかい?≫

「うおっ!猫がしゃべった!なぁなぁ千冬姉、今この猫しゃべったよな!?」

「騒ぐな馬鹿者」

 

 ゴツン、と拳骨を受ける千冬の弟―― 一夏。手加減こそされたものの、十分に痛かったようで殴られた個所を擦っている。

 

「うおぉいてぇ……いきなりぶつ事ないだろ千冬姉!」

「お前の行儀が悪いからだ。ほら、さっさと自分で自己紹介しろ」

「分かってるよ、ったく……えっと、おれは一夏だ。よろしくな」

 

 未だ頭に手を添えつつ、ぶっきらぼうに挨拶を交わす一夏。

 

 そんな一夏の頭を強めにワシワシと撫でつつ、千冬は申し訳なさそうに口を開く。

 

「済まないな2人とも。まだガキな分、礼儀が身についてないんだ。気を悪くさせてしまったかもしれないが、悪い奴じゃないんだ」

「いえ、私は大丈夫です。千冬さんが気に病む事はありません」

「そう言ってもらえると助かる……お前の礼儀さは束だけでなくこいつにも見習わせるべきだな」

「そんな、買い被りすぎですよ」

 

 歳は一回り離れているが、隔たりを感じない風に雑談を交わす箒と千冬。

 

 そんな2人の事を、一夏は面白くなさそうに千冬の隣で見ていた。

 

≪妬いてる?≫

「やい……何だよそれ」

≪千冬お嬢ちゃんと楽しそうに話してる箒ちゃんが羨ましいかって事≫

「ばっ……ちげーし!そんなんじゃねーし!」

≪はっはっは、照れない照れない≫

「このお喋り猫……!」

 

 違うという割には一夏の動揺が激しい辺り、どうやら図星の様だ。

 

 勿論、そんな2人の話の内容は近くにいる女性陣にも聞こえており……。

 

「ほう……」

「な、何笑ってるんだよ千冬姉」

「いや、何でも?まぁ世間話もいいが、そろそろ本題の方に移るとしよう」

 

 一しきり一夏の反応を見終えて満足した千冬が、話を切り替えだした。

 

「実は一夏をこの道場に入門させてほしくてな」

「入門、ですか?」

「ああ。こいつも小学校に通い出して習い事も出来そうな歳になったのでな。私も教えてやれる分、剣道をやらせてみようと思ってな」

「別におれ、剣道やりたいわけじゃねーんだけど……」

「と、彼は言っていますが……」

 

 剣道に対してあまり乗り気では無い一夏。

 

 しかし千冬はそんな彼を焚き付ける為に、わざと挑発的な言葉を選ぶ。

 

「そうか、ひよっこなお前に少しでも心身を鍛える場を勧めてやったのだが、必要ないか」

「……ひよっこ?」

「あぁ。ひよっこもひよっこ、いや殻すら破れていない卵の方が正しいか?お前よりも目の前にいる箒の方がずっと大人だし、強いぞ」

「千冬姉……俺が女よりも弱いって言うのか?」

「違うのか?」

「……いいぜ、そこまで言うならおれの方が強いって事教えてやる!おいお前!俺と勝負しろ!」

 

 姉弟の間で話はトントン拍子に進んでいき、結果的に妙なベクトルでやる気を見せている一夏はそこにあった。

 そんな事になってしまっては試合をするしかなく、一夏はいつの間にか復活していた束の案内で道具庫へ試合用の竹刀と防具を取りに行った。

 

 一夏が居なくなり、テオと箒と千冬だけになった剣道場。

 

 テオも箒も一連の流れに違和感を覚えており、ここぞとばかりに千冬に問うた。

 

≪で、どういう事なんだい千冬お嬢ちゃん≫

「何がだ?」

「貴方の弟をあそこまで露骨に嗾けた事です。何故わざわざ彼を挑発するような真似を?」

 

 剣道をする事に関して、一夏は明らかに意欲が欠けていた。今回もあくまで千冬に付き合わされたような形のように見えた。

 そこからあのワザとらしい挑発。言ってしまえば、一夏に剣道をやらせる必要性はない筈だ。あのやり取りには少々強引な印象も傍目から感じられた。

 

「……いずれ話すさ。今言える事は1つ、迷惑を掛けてしまうが、これから一夏がお前達の世話になる機会が増えるかもしれない」

 

 それから千冬は新たな真実を口にする事はなかった。

 

 テオも箒も、それ以上彼女を追及する事が出来なかった。

 

 

 

――――――――――

 

 一夏も準備を整えて剣道場に戻ってきた。箒も彼が千冬から竹刀の振り方等の基本動作を学んでいる内に防具を着け終え、両者の備えは万端となる。

 

 3人のギャラリーを横に、一夏と箒の試合が始まる。

 

「言っとくけど、女だからって手加減しねーぞ!」

「やれやれ……その自信はどこから湧いてくるのだ」

 

 血気盛んな一夏とは対照的に、そんな彼に呆れた感情を向ける箒。

 

 そんな彼女の反応が気に入らなかったのか、一夏は竹刀を握る拳に更なる力を込める。

 

 開始の礼を済ませ、千冬による開始の合図によって試合が始まった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 先手必勝の理に順じ、箒に向かって突撃を仕掛ける一夏。

 しかし、上段に構えた彼の竹刀が振り下ろされる事は無かった。

 

「一本!」

 

 パシィン!と小気味良い竹の音が剣道場全体に響く。

 

 頭に感じた衝撃と、振り返った先にいた箒が竹刀を振り下ろしている姿を見た一夏だが頭の理解が追いついていなかった。

 困惑する一夏に対し、声が掛かる。

 

「何を呆けている。お前の負けだぞ一夏」

「い、一体何が……?」

「分からなかったのか?箒が一気にお前との距離を詰めて、擦り抜き際に面打ち。お前は竹刀を振る前に負けたんだ」

「……も、もう一回だ!もう一回勝負しろお前!今度は負けねえ!」

 

 しかし、決着の仕方に納得がいかなかった一夏は再戦を要求する。

 

 千冬とのアイコンタクトもあって彼の再戦を受け入れた箒は、仕方ないとばかりに竹刀を構え直した。

 

 その後、何度も竹刀を交わし続ける2人。というと少々語弊が生じる。

 実際の所、一夏の竹刀が箒のとぶつかり合う頻度は殆ど無かった。負けては突っ込みガムシャラに剣を奮う一夏と、一撃必倒を信条にあくまで冷静に対処し続ける箒。2人の経験の差もあって、繰り返される試合はどれも箒のワンサイドで決着がついていった。

 

 そんな負け続きの中でも、一夏の闘志は未だ燃え続けていた。その根強さは最早称賛に値するだろう。

 

「くそ……も、もう一度だ……!」

「そろそろ諦めたらどうだ?根性があるのは嫌いじゃないが、無謀と履き違えているのはハッキリ言って嫌いだ」

「うるさい!お前こそコソコソ避けてから攻撃するなんてズルいだろ!もっとせーせーどーどーと正面から勝負しろ!」

「はぁ……どうやらお前は剣道の意味を理解出来ていないようだな。座学もしていないのでは当然とも言えるが」

 

 そこでついに、2人の竹刀が激しくぶつかり合う。いなされ続けた一夏の一撃が、漸く箒の竹刀に届いたのだ。

 尤も届いたのではなく、届かせてやった、のだが。

 

「問おう。お前は剣道を学ぶ事で自分がどうなると思う?」

「何だよ急に……そんなの、強くなるに決まってんじゃん。剣の腕前が上がるなら当然だろ」

「外れだ」

 

 キッパリとそう言うと、箒は身体のバネを駆使して一夏の竹刀を簡単に弾き飛ばした。

 

 竹刀ごと弾かれた一夏は転倒しそうになるも、踏ん張って堪える。

 

「剣道の真髄とは、竹刀に己の信念を乗せて相手と真剣に向き合い、互いの魂を洗練させる事。つまり己の心を鍛える事に繋がる」

「しんねん?とかせんれん?とか……そんな難しい事言われても訳分かんねーよ!」

「理解出来ないのであれば……お前にはまだ竹刀を持つ資格すらない!」

 

 体勢を立て直し終えた一夏に、箒は怒涛の剣撃を浴びせる。

 一撃一撃が真っ直ぐに放たれており、一夏も深読みする事なく防ぐ事が出来る刀の軌道。しかしどれも重く、彼の体勢を再び崩すに容易い勢いがあった。

 

 そして防御が崩れたところで、箒は最後の一撃を一夏の頭頂部に炸裂。面打ち一本。

 

「く、そぉ……」

 

 体力の限界に至った一夏は膝を突き、そのまま道場の床に仰向けで倒れ込んでしまった。

 ここまで気力で続けていたらしく、息切れも激しかった。

 

 一方の箒は、軽く汗を流している程度で一夏程の疲労は溜まっていなかった。

 

 そんな箒の状態を見て、ますます一夏は対抗心が燃え上がる。

 

「つ、次は絶対……負けねー……!」

「私に挑む気概があるならこころと腕を磨け、このバカ者が」

「だ、誰がバカだ……!」

 

 剣道に対する姿勢があまりにも雑すぎる一夏を快く思わない箒。

 箒の余裕ぶった態度が気に食わない一夏。

 

 少年少女の第1印象は、雲行きの怪しいスタートとなるのであった。

 

 なお、側で見ていた2人の長女はその光景を見て……。

 

「ま、その内仲良くなるだろ」

「いっそ束さんとちーちゃんの時みたいに、殴り愛をすれば即解決だよ☆」

『子供の時に何やってんさ君達』

 

 お気楽な感覚で見ていた模様。

 

 

 

―――続く―――

 




 過去編の一夏初登場です。結構生意気な感じになってますが、少年時代の一夏って結構荒っぽいし6歳の男児ならこれくらいかなーと思いつつ。
 過去編も既に折り返し地点を超えてました。あと6~7話くらいの予定です。暫く出ていないキャラも沢山いて物足りない方もいらっしゃると思いますが、もしよろしければもう少しだけ過去編にお付き合いください。(お気に入り数をチラ見しながら)

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