篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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あの日と同じ雨の悲劇……

 モンド・グロッソ。

 

 表向きにスポーツとして認識されているISが世界に馴染んだ折、国際IS委員会によって運営されたISを用いた世界大会。世界各国で定められている国家代表が出場し競い合う、ざっくばらんに言えばオリンピックのISバージョンだ。

 

 この大会には全部で6つの部門が用意されている。

 腕部、脚部武装による肉弾戦闘で優劣を競う『格闘』の部。ブレード系の近接武装で戦い合う『近接』の部。中~遠距離武装限定の銃撃勝負『射撃』の部。狙撃用武装で遠方ターゲットを撃ち抜く『狙撃』の部。地上からの妨害を躱しつつ、空中に用意されたポイントを通過していく『飛行』の部。武器の種類を問わず、自由なスタイルでトーナメント戦を行う『戦闘』の部。

 

 それぞれの部門優勝者には【ヴァルキリー】の称号が与えられ、総合優勝者は【ブリュンヒルデ】という最強を意味する称号を呼ばれるようになる。ヴァルキリーの時点で十分な称賛と名誉が入るのだが、ブリュンヒルデは更にその上を行く。

 

 4年前に開始された第1回モンド・グロッソの優勝者は織斑 千冬。圧倒的な戦闘力と操縦技術で他の国家代表選手を凌駕し、ブリュンヒルデの称号を彼女は手に入れた。

 第2回となる今年度のモンド・グロッソでも彼女の出場は決定済み。彼女の2連覇が掛かっている今大会は、世界中の注目する所であった。

 

 試合の様子は一部始終を全世界に生放送されており、家にいる者は勿論、働いている者達も会社備え付けのテレビから流れる大会映像を見ている。

 

 そして、今日は千冬の2連覇が目前となった決勝戦当日。

 決勝戦の舞台となっているドイツが白熱の歓声に包まれている中、日本では……。

 

 

 

――――――――――

 

≪(ふぅむ……)≫

 

 通行人が雑多する商店街の中の家電販売店、店頭に置かれているテレビからモンド・グロッソの試合を観戦しているテオ。画面には決勝戦の前座として決勝戦以外の残り試合が行われていた。

 千冬が国家代表として活躍している事を、テオは各メディアを通じて把握していた。彼女とは連絡こそ取れなかったものの、そもそもIS開発の第一人者が彼女の親友の束である以上、千冬がIS関連の仕事に携わっている可能性は濃かった。その辺りで情報を探ってみれば第1回モンド・グロッソの優勝者等の情報から見事にヒット、彼女がIS日本代表として活躍している事を知る事が出来たのである。

 

≪(千冬嬢も元気になっているみたいで何より。これで今回も優勝したら、あの子の人気っぷりもますます拍車が掛かるだろうね)≫

「ねぇねぇあれ見て、猫がジッとテレビ見てる!」

「可愛い~!猫もIS観るんだねぇ。あっ、写メ取ろ写メ、テレビに夢中な猫ちゃん」

 

 テレビの内容が分かっているかのように観戦している猫の姿を物珍しく思った通り掛かりの女子大生2人組が、テオの近くで楽しそうにしている。

 この場で喋れば商店街の人達全員の注目を集めてしまいかねないので、テオはいつもの様に喋らず沈黙を保つ。尤も、翻訳機をオフにしてしまえばその心配も無いのだが。

 

≪(そういえば、そろそろ箒ちゃんが学校から出る時間帯かな?)≫

 

 時間が気になったテオは、家電販売店の壁に掛かっている時計を覗き見て現在時刻を確認する。予測通り、針は箒の下校時間に迫ろうとしていた。

 

「ねぇ見た?今度は時計確認した!」

「テレビ見たり時計で時間が分かったり、なんだか人間みたいだよね~」

≪(あくまで猫だけどね)≫

 

 少女達の会話にツッコミを入れつつ、テオは箒を迎えに行くべくテレビの前から去ろうとする。

 

「あ、そういえば今日この後雨だってさ。しかもかなり強めの」

「うっそ、じゃあ寄り道出来ないじゃん……今日は大人しく帰る?」

「ん、帰ろ帰ろっ」

 

 去り際にそんな会話を耳にしたテオは、ふと空を見上げる。空の彼方から暗雲が此方に近づいてきていた。

 雨雲の接近を目にしたテオは、小さく溜め息を吐いた。

 

≪雨、か……雨は嫌いなんだよね≫

 

 例え今の家族と出会ったきっかけだとしても、好きになる事は出来なかった。

 

 

 

――――――――――

 

「まったく……雨が降るなら家で待ってていても良かっただろうに」

≪いやぁ、ジッと待ってるのも落ち着かなくてさ。それに1匹で待ってるのも寂しいし≫

 

 下校した箒と合流したテオは、いつもの様に帰路についている。

 既に雨は振り出しており、箒の肩に乗っているテオは天気予報で雨が降る事を知っていた箒の用意した傘の下に入って雨に濡れない様になっている。

 

≪さ、帰って千冬嬢の活躍を見ないとね。その為に今日の剣道の練習は休みにしたんだから≫

「案の定、他の部員も同じ理由で休んでいたな……やはり皆、家で録画していたらしいぞ」

 

 時間の都合で決勝戦の試合を生で見る事は叶わなかったが、録画という手段で観戦する事は出来る。いずれ円盤で販売されるだろうが、やはり金銭を抑えておくのは基本であった。

 

 と、ここでテオが疑問に思った事を口にする。

 

≪そう言えば、箒ちゃんはIS関連の仕事を目指したりしないの?≫

 

 今のご時世、女性がISに関して勉強するのは各学校のカリキュラムに組み込まれる程に当然の事と化している。遅くてもジュニアスクールの時期、つまり小学校の頃から勉強するしきたりになっており、実際箒の通っていた小学校、そして現在通っている中学校でもISの授業が入っている。

 近年設立された、IS搭乗者育成用の特殊国立高等学校【IS学園】がある為専門的な面まで踏み込まないものの、仕組み、性能、関連職等の一般的な知識は小中学校の時点で基本として押さえられている。

 ISに興味を示す年頃の少女達は更にISを深く学ぶべくIS学園への進学を希望しており、その競争率も今や有名校が霞むレベルだ。

 

 しかし、箒は周りの少女達と違って熱が入る事は無かった。

 

「……昔、姉さんが私に嬉しそうに話してくれていたんだ。『私はいつかきっと、あの宇宙を超えた先に辿り着く』……とな。あの時はお楽しみだと言って詳しく教えてくれなかったが、今思うとISがその為の物だったのではないかと」

≪ふむ≫

「姉さんの造った物が、姉さんの望みとは異なる形で世間に浸透している……そう考えると、今学校で教えられている事は一体何なのだろうと思ってな」

 

 その思慮は、束の家族ならではの考え方であった。

 束の夢を知らない者達にとっては、ISの在り方というのは学校で教えられているスポーツ競技の一種としてか、或いは政府のお偉方が企む軍事兵器としてかの2種類に分かれる。宇宙を超える為の発明品という価値観を抱いている者は、人類70億以上の内で100人にすら満たない。

 

 束の嬉しそうな顔を思い出す度に、箒は世界の認識に違和感を覚えて何とも言えない気分になるのだ。

 姉の夢を利用するのは許せない、と真っ直ぐに怒れるなら良かったのだが、別の考えもあった為に箒はそれが出来なかった。

 

「しかし、私の中で考えてしまう自分がいるんだ……姉さんがISを生んでしまったから、私達家族はバラバラにされてしまったのではないかと。もしISが無ければ、今まで通り平和に暮らせていたのではないか、と」

≪…………≫

 

 それは、普段の生活で感じていた不満を体現する言葉でもあった。

 名を偽り、交友を憚られ、政府の手の者から束の情報を聴取される機会も時折ある。そんな生活が続く故に、どうしても考えてしまうのだ。ISが存在しない、IFの世界を。

 

 しかし、箒も過去の騒動を忘れた訳では無い。突然のミサイル攻撃から日本を守り切った、1人の騎士の活躍を。

 

「……駄目だな。白騎士事件を解決してくれたのがそのISだというのに、そのような考えをしては」

≪箒ちゃん……≫

「済まなかった、雨の時に気が沈む話をするものではないな」

 

 そう言って苦笑をテオに向けてくる箒の顔は、どこか無理矢理作ったような感じが否めなかった。

 

 もともと、話題を吹っかけたのは自分なのだから謝らなくても良い。

 テオがそう箒を慰めようとした時だった。

 

「ん、あれは……?」

 

 テオが言葉を掛けようとした直前、視線を前に向けた箒は何かを見つける。

 彼女が見つけたのは、現在歩いている住宅街の道の真ん中で傘を差さずに地面に膝を着いている若い男性だった。

 

≪あんな所で蹲って、何かあったのかね?≫

「分からない……だが、あのまま放っておく訳にはいかないな」

 

 そう言うと箒は駆け足で男性に近づき、彼の手前で腰を落とす。

 

 男は箒の接近に合わせて顔を上げる。外見年齢は箒よりも一回り上の20代辺りで、身なりに関しては装飾過多でやや柄が悪く、髪も明るい茶色に染めている等チャラチャラした印象を漂わせる風貌だった。

 

「失礼、こんな所でどうしたのですか?」

「あぁいやぁ、急に雨が降ったからさぁ、急いで帰ろうとちーっと走ってたら急に胸が苦しくなってさ……いつつ」

「大丈夫ですか?まだ痛むようでしたら、救急車を手配しますが……」

「あーいいからいいから!そんな大袈裟なモンじゃないかもだし、どっかでちょっくら休めば治ると思うし?」

 

 男はひらひらと手を揺らしながらも、片方の手は胸元を確りと押さえつけている。本当に大した症状ではないのか、それとも強がりなのかパッと見で判別し難かったが、何にせよちゃんとした場所で休ませるべきだと箒に判断させた。

 

「一先ず落ち着いた場所に移動しましょう、このままでは身体を冷やしてしまいます。肩を貸しますので」

「マジかよ、最近の女ってキツイのが多いけど君ってば超良い子じゃん!へへへ」

 

 箒の健気な対応に感心した男は、軽薄な笑みを浮かべながら箒の事を褒める。

 

 そんな2人の会話を箒の方から黙って聞いていたテオは、その男を訝しげに観察する。

 

≪(この男……本当に胸を痛めたのか?痛みが大方収まったと解釈出来るけど、それにしてはどうにも……)≫

 

 箒は男の不調を信じているようだが、テオはどうにも男の事を信じきれなかった。頭ごなしに否定する訳では無いのだが、如何せん場の違和感を拭い切れないでいるのだ。

 そしてその怪訝は、テオに真実へ導く為の洞察力となった。

 

≪(ん……?さっきから横目で何を見て…………っ!!)≫

 

 箒の肩を借りようとする男が、箒とは別の方向に目だけを向けている事に気付いたテオは、箒の肩に乗ったままその先を見やると、そこにいたものに驚愕する。

 

 路地に身体を隠しながらこちらに拳銃の銃口を向けて構えている、黒いコートを纏った男性。その照準は、箒に向けられていた。

 

 すかさず箒の前にいる男に振り向き直すテオ。男の口元には、下卑た笑みが浮かんでいた。

 

≪箒ちゃんっ!!≫

 

 その瞬間、住宅街に銃声が響いた。

 

 

 

――――――――――

 

 箒は最初、何が起きたのか分からなかった。

 

 雨の中、傘も差さずに跪いている男性を見つけて声を掛けると、急に胸が痛み出して動けなかったと言っていた。

 その男を休める場所に送るべく、肩を貸そうとした。

 テオが焦った声で箒の名前を呼んだかと思うと、彼女の身体に強い衝撃が掛かった。

 後ろに向かって突き飛ばされる中、衝撃の走った胸部に体当たりをしたと思われるテオがいた。

 

 そしてテオが……銃弾に貫かれた。

 

 弾丸が貫通した穴から鮮血を散らすテオの姿が、箒の眼に映った。

 

「え……?」

 

 一瞬、目の前の光景が何なのか理解が追いつかなかった箒。地面に尻餅を着き、持っていた傘は手から離れて、彼女の身体に雨が降り注いでくる。

 バチャン、と水の音が彼女の耳に届く。前方から発した音の方へ、箒は恐る恐る視線を落とす。

 

 先程まで一緒にいたテオが、雨の混ざった血溜りの上で倒れている光景。

 

「テ、オ……?」

 

 箒の頭の中が徐々に整理を始めていく。

 

 テオが撃たれて?

 自分を庇って?

 血が、沢山出てる。

 血が広がってる

 テオが動かない。

 うたれて、血が、ちが、たくさん、テオが、うごかない。

 

 テオが、死んでしまう。

 

「いや……いやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 視界がグラつく程のショックを受けながらも、箒は駆け起きてテオの下へと寄り、その小さな身体を抱き抱える。

 

「テオっ!!返事をしてくれテオっ!!」

 

 必死にテオに呼びかけるが、彼から反応は無い。

 箒の手にテオの流した血が付着し、その感触で彼女はそれを止めなければならない事に気が付く。

 

「血、血を止める……止血、しないとっ」

 

 混乱状態にある箒は、懸命に頭を動かしてテオを助ける処置を施そうとする。

 制服のポケットに入れていたハンカチを取出し、包帯状になるよう破こうと試みるが、冷静さを失って思うように手が動かなかった。

 

 そんな切羽詰まった状況の箒を余所に、事態を引き起こした男2人は箒の前で合流していた。

 

「おい、何失敗してんだよ下手くそ!」

「るっせぇ!そこの変な猫が邪魔したからだろうが!」

「あぁもう、とにかくさっさとコイツ殺ろうぜ。じゃねえと報酬の大金貰えねーじゃん」

 

 柄の悪い方の男はそう言うと、懐からナイフを取り出して刃を閃かせる。

 

 箒はテオの治療に夢中で、男達の言動が全く視界に入っていない。

 

「にしても、楽な仕事だよなぁ。ガキ1人殺すだけで1千万円とかぼろ儲けじゃん」

「しかも殺しの後始末と責任は向こうが全部請け負ってくれるんだろ?駆除感覚で大金ゲットとか、ちょー良い仕事だよな!」

「俺、この仕事が終わったらこのびしょ濡れの服捨てて新しいの買うんだ……なんちて!」

「雨なのに茶番なんかしてっからだろ?カハハハハ――ハガッ!?」

「何だ急に変な悲鳴上げ――ぐぇっ!?」

 

 心の汚い話で盛り上がっている男2人だったが、突然短いを悲鳴を上げた後に、地面に倒れ伏した。彼らが次に目覚めた時、その腕には立派な手錠が付けられている事だろう。

 

 地面に倒れた男達の横を通り過ぎる、1つの人影。

 青いエプロンドレスをはためかせながら、その人物はテオを抱えている箒の下へと近づいていく。

 

 そしてその人物は、箒に声を掛けた。

 

「久しぶりだね、箒ちゃん」

 

 その声で我に返った箒。それは、数年以上聞いていない家族の声であった。

 箒は顔を上げて、目の前に佇む人物の顔を見る。

 

 箒の姉である、篠ノ之 束がそこにいた。

 

「姉……さん?」

 

 胸元が大きく開いた青いエプロンドレス、頭頂部に機械のウサミミという奇抜な恰好や目の下の深い隈等、最後に会った時よりも色々と変わっている所があるが、その面影はまさしく束であった。

 黒い傘を箒の頭上に差しつつ、彼女は箒たちの前で腰を落とす。

 

「ごめんね、テオたん……私がもっと早く気付いていれば間に合ったはずなのに」

 

 そう言いながら束は傷ついたテオの頬を撫でる。その表情は苦々しそうに歪んでいた。

 しかしその悲観した表情もすぐに拭い払うと、真剣な表情に切り替えて箒の方へ顔を上げる。

 

「箒ちゃん、テオたんの事は私に任せてくれないかな?」

「姉さん……一体、どういう……?」

「説明する時間が惜しいから、簡潔に言うね。テオたんの命を救う方法が、1つだけある」

「っ!!」

 

 その言葉で、箒の目から失った光が蘇る。

 今からテオを最寄りの動物病院に連れて行っても、出血が多くて処置が間に合わない事は目に見えて明らかであり、束の言葉も暗にその事を指していた。

 だが束は迷いなく言い切った、テオを助ける方法はまだあると。箒がその言葉に希望を持つのは必然と言えた。

 

 箒はテオを抱えながら、束に詰め寄った。

 

「本当ですか!?本当にテオは、助かるんですか!?」

「……100%とは言い切れない。理論こそ立てたけど、私もその方法を実践するのは初めてになる。けど……私がテオくんを救うにはこの方法しか無いの」

 

 そう言ってポケットから何かを取り出した束の手に収められている物に、箒の視線が移る。

 

「それは……」

 

 水晶の様に光り輝く、菱型の結晶体がそこにあった。

 

 

 

――――――――――

 

≪ぐ……私は、一体……?≫

 

 銃に撃たれた後、間もなく意識を闇へと落としたテオ。

 彼が意識を取り戻した時、彼を取り巻く景色は一変していた。先程まで居た場所は住宅路の真ん中だった筈だが、いつの間にか室内となっていた。それも一般的な部屋では無く、研究所の物と思われる機器の数々と無機質な壁床が備え付けられていた。

 

「目が覚めたんだね、テオたん」

≪……束、ちゃん?≫

 

 久々の再開に、内心で表面以上に驚くテオ。

 久しぶりに彼女の顔を見た事もビックリしているが、同時に疑問も湧き上がる。何故自分も彼女も此処にいるのか。あれから箒はどうなったのか。

 

 色々尋ねようとしたテオだったが、束はテオの口火が切れる前に彼の言葉を制して先に口を開いた。

 

「テオたん、自分に何が起こったか覚えてる?銃で撃たれた事は?」

≪……さっきから、お腹が焼ける様に、痛むね≫

「医療用のナノマシンで応急処置はしたけど、それだけじゃ衰弱の方が早く進んでテオたんは助からない。……テオたん、1つだけ聞かなきゃいけない事があるの」

≪なん、だい?≫

「『この子』と運命を共にしてでも生きる覚悟、あるかな?」

 

 箒の時と同じように、菱型の水晶体がテオの視界に移る。

 

 ISコア。

 白騎士事件の立ち会い者として束からISの情報をある程度教えられていたテオは、その結晶の正体を察した。

 

 彼女の言葉の意味を捉えるならば、現に死に体な身体を復活させる為にはISコアを身体に……。

 前代未聞となる行いが待っている事をテオの頭が理解する。だが、彼にとっては些末事に過ぎなかった。

 

≪ああ……あるとも≫

 

 束の射抜くような瞳を前にして、テオは怯む事無く二つ返事で答えてみせた。

 

≪まだ私は……約束を、守れてないからね≫

 

 腹部の銃傷による痛みに堪えながら、テオは大胆不敵に笑んでみせた。

 

 『束が宇宙の更に先の世界を話してくれるまで、絶対に死なない』

 

 束と交わした約束を守る為ならば、テオに躊躇う道理は無かった。

 例え異なる方法で命を長らえる道を選ぼうとも、命の在り方に反しようとも、美談に順じて死を受け入れるつもりは毛頭ない。

 本来ならば既に死んでいる身を賭ける、その覚悟は既に彼の胸に宿っていた。

 

「……っ」

 

 自身との約束を守ろうとしているテオの真っ直ぐな目と目が合った束は、堪え切れずに思わず眼を潤ませた。

 

 ここまで束は、事態を円滑に進めるべく平常を装って箒やテオに接してきた。一刻を争う事態の今、自身が慌てていたら2人に余計な不安を伝染してしまい、話が進まなくなってしまうかもしれなかったからだ。

 しかし、そんな彼女の心の内は罪悪感に押し潰されていた。箒が暗殺の対象となってしまったのも、彼女を庇ったテオが瀕死の重傷を負ったのも、自分の所為だと己を責めた。箒の前に現れた時、お前のせいだと責め立てられるかもしれないと恐怖を抱いたが、テオを救うという使命感を支えに必死に平常を取り繕った。

 

 だが箒は束を信じてテオを託し、テオも彼女に信頼を込めた目を向けて来ている。

 束はそんな彼の覚悟を聞き、泣きそうになる顔を必死に押し殺した。気を緩めれば嗚咽が零れそうな口を、唇を噛み締める事で懸命に抑え込む。

 

「ごめんね……ごめんね、テオくん(・・・・)……!」

≪ふ……私の命は預けたよ、束ちゃん≫

「うんっ、絶対に助けるからね……!!」

 

 意を決した束は、すぐに作業へと取り掛かった。

 

 生物の心臓とISコアの同体接続手術。

 世界の誰もが未だに手を出していない、前人未到の領域に1人の天才が足を踏みこんだ瞬間であった。

 

 そして同時期、IS界に衝撃の一報が発信される。

 

 第2回モンド・グロッソ決勝戦同日、番組企画『篠ノ之 束の世界同時中継生放送インタビュー』出演予定だった篠ノ之 束。

 467個目のISコアを研究所に残し、世界から姿を眩ました……と。

 

 

 

―――続く―――

 




 この間のラブコメといい、束さんがテオのヒロインとなってきている今日この頃。
 主人公サイド【テオ&箒】とヒロインサイド【束&一夏】……うん、何の違和感も無いですね(感覚麻痺)

 そして次回、テオすら傍から居なくなってしまった箒は……?

あ、今回は早めに出来た+諸事情で試験感覚で投稿したので連続投稿ではありません。過去編は2話ずつ出すスタンスを最後の最後で崩す投稿者の恥晒し。
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