篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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大切な人の為に……

 

≪……という事があって、私は今こうして生き長らえているんだ≫

 

 箒と別れてからの経緯を語り、今の自分の状況を彼女に伝え終えたテオ。

 

 身体の中にあるISコアによって今も生きていられるようになり、寧ろ本来より幾段長く生きられるようになった身体。

 彼の体内のコアの人格であり、今後の彼の生涯を共にする相棒、銀雲。

 

「そうか……色々あったみたいだが、取り敢えず落ち着く所に落ちたのだな」

≪驚いただろう?再会した時には、私の身体には世界中が喉から手を出す程に欲しがっているISコアが内蔵されていると聞いて≫

「確かに、姉さんがそのような方法でテオを助ける事には驚かされたさ……けれどこうしてテオが生きてくれているだけで私は充分だ。そこに不満を持つ気は無い。……生きていてくれて、本当に良かった」

 

 そう言って箒は、優しくテオの身体を持ち上げ、胸に抱き止める。1年近く触れられなかった温かみを手で感じ、思いのままに抱きしめたくなる衝動に駆られそうになるが、制して壊れ物を丁寧に扱う様に彼を優しく包容する。

 

「本当に……良かった」

≪君には沢山心配をかけてしまったね……だけど、もう大丈夫だよ≫

 

 箒の優しさに応えるように、テオも穏やかな声色で彼女に安らぎを与えてくる。その優しい声は箒にとってこの1年間で何よりも欲しかったものであった。

 

 箒の傷ついた心は、彼の声を聴き彼の温もりを感じる度に解けるように癒されてゆく。無機質な生活をし続けた分、このまま浸っていたいと思える程の甘美がそこにはあった。

 その甘美に触れた彼女は、1つの我が儘を彼にお願いしたくなった。

 自分の力で為さなければならない事だとは分かっている。しかしそれでも、道を示してくれるだけでも良い。先程犯した自らの罪と向き合う為に、自分がこれから何をしたらいいのか。

 

「テオ……実は、聞いてほしいことがあるんだ」

 

 近くのベンチに腰を落ち着かせた箒は、テオに自身の1年間の出来事を簡潔に説明した。

 

 テオがいなくなった後、政府の監視が厳しくなった事。

 聴取がしつこくなり、ウンザリしていた事。

 帰ってもテオがいなくて寂しかった事。

 学校に行っても、剣道しか無くてつまらなかった事。

 

 そして、自身の剣道が只の暴力と化し、それで罪の無い人達を傷つけてしまった事。

 

 正直、話すだけでも箒は辛かった。自分のしでかした事がどれ程大きかったかを再認識させられてしまうが為に。

 だがそれでも、テオにはちゃんと知っていて貰いたかった。己の道を示してもらう為に。

 

 彼女から話せる事は、全てテオに伝わった。

 

≪そうか……色々と辛い思いをさせてごめんよ、箒ちゃん≫

「テオは悪くないっ!テオだって被害者だったのだぞ!」

≪そうだとしても、箒ちゃんを独りにさせてしまったのは確かな事実だからね……例え筋違いでも謝っておきたいのさ≫

「……普段は他人に甘いのに、自分には何かしら筋を通しているのは相変わらずなのだな」

 

 1年前に一緒にいた以前から変わらない姿勢に箒は呆れつつも、その変わらない所に安心感を覚える。

 

≪まぁその話は置いといて、今は箒ちゃんの事だね≫

「あぁ……テオ、私は一体どうすれば良いと思う?」

≪そうだねぇ、私から提示出来る事と言えば……≫

 

 少し間を置いた後、テオは彼女に対して助言を与えた。

 

≪二度と同じ過ちを繰り返さない。かな?≫

 

 もう絶対にしない。

 非常に簡潔でシンプルな内容が、テオの口から放たれた。

 

 それを聞かされた箒は、少々呆気にとられてしまった。

 確かに同じ罪を繰り返さない様にする事はとても大切だ。その姿勢が無ければ現在抱いている後悔は役に立たず、また誰かを傷つけてしまう事になる。

 しかし、たったそれだけを提示されてしまうとそれだけで良いのかと思ってしまう。もっと何か、自身に対して厳しい枷を設けたり、被害者と同じ苦しみを感じる必要があるのではないかと箒なりに考えていた。

 

 だが、テオからしてみれば箒の厳しい考え方は過度な自己満足という認識でしかなかった。

 

≪確かに、そうでもしないと罪を償った気にならない子はいるかもしれないね。被害を受けた側もそういう形を望むかもしれない。けれど私個人からすれば、真に追求すべきは『確固たる意志で己を律する』、これに尽きると考えてるね≫

「……それだけ、なのか?」

≪お金、資産、人権、法律……人間社会ではそれらのしがらみがあるからそういう話に持っていく事も少なくないしね。猫の身からすればそんな事を気にする必要は無いし、一番大切な事を見失わなければそれでいいのさ≫

「一番大切な事……」

 

 テオの言葉を己の心で深く噛み締める箒。

 彼のお陰で自分がこれからどうするべきなのか、という指針を得る事が出来た。受け売りだとしても、彼の教えから感じたものを大事にしたいと彼女は思えた。

 

≪ここからは私から箒ちゃんへの宿題……今回の一件を経て、自分はこれからどう在りたいのかは自分で考えてみなさい≫

「自分で?」

≪そう。そればかりは私が酸っぱく口出しする問題では無いからね。自分の為に、或いは誰かの為にどうしていきたいのか……そこから先は箒ちゃんの自由だ≫

「私の自由……分かった、自分なりに見つけてみせるよ」

≪ふっ、それでこそ箒ちゃんだね≫

 

 そう言ってお互いに笑い合う2人。

 

 かくして箒は一年という月日を経て、己の在り方を確立する事が出来た。

 『誰かを守る為に、誰かの役に立つ為に、その信念を貫き続ける』、そして己の力は『それを果たす為の術』である、と。己の所為で辛い思いをさせてしまった人達の分、否、それ以上に誰かの助けになりたい。

 そして彼女の信念は、やがてとある学園にて力に固執していた異国の少女の心を解放し、義姉妹として絆されるのだが……今はまだ先の話だ。

 

「よし……取り敢えず、今日の対戦相手だった者達とその関係者全員に謝罪をしてくる。乱暴な剣道で傷つけてしまったことを謝らなければ、自己満足だとしても私の気が済まない」

≪というか箒ちゃん、決勝戦終わってから飛び出して来たんだよね?今頃運営の人達が探してるんじゃない?≫

「……そ、そうだな。何にせよ、先ずは会場に戻らなければ」

 

 よし、と息巻きながら席を立つ箒。

 既に会場から飛び出してきた時の陰りは無く、今まで通りの彼女に戻っていた。

 

 そんな箒を見られて一安心したのか、テオは立ち上がった彼女を見上げながら口を開いた。

 

≪それと箒ちゃん、言っておかないといけない事があるんだけど≫

「ん?何だ?」

≪さっきも話したけど、私の身体にはISコアが搭載されている……だけど前例が無いから慎重に身体を診ておく必要がある以上、今後は経過観察の為に束ちゃんと一緒にいなければならないんだよ。それに加えてやらなければならない事も出来てね≫

「……それは、つまり……」

 

 真剣な面持ちで見つめてくる箒を真っ直ぐ見返しながら、テオはゆっくりと言葉を続けた。

 

≪また箒ちゃんと一緒に暮らせるようになるまで、また暫く待ってもらわなければならないんだ≫

 

 

 

――――――――――

 

「……本当に良かったの?年に何度か会う約束をしたとはいえ、箒ちゃんと一緒に暮らさなくて」

≪確かに箒ちゃんの傍にいてやれないのは心苦しいし、一緒に暮らしてあげたいけどね≫

 

 

 翌日の午前9時頃。

 前日は剣道大会が終わった箒と一緒にご飯を食べ、一緒のベッドで寝たテオは彼女が登校した後に束のラボへと戻ってきた。テオが出立する事は、箒も了承済みである。

 

 ラボから戻ってきたテオは束から気遣いをかけられるが、彼にも意志があるのでその言葉に従う事は出来なかった。

 

≪しかし私には、やらなければならない事がある。それに今の私の力では箒ちゃんを守る事もままならないからね≫

「……やっぱり、テオたんは私と一緒に戦う道を選ぶんだね」

 

 1年前、モンド・グロッソ決勝戦当日の日本の住宅街で起きた篠ノ之 箒暗殺未遂事件。実行者は20代の男性2人組で、束の密告によって現行犯として逮捕された。

 彼らは逮捕以降の一時期、引っ切り無しに主張し続けた事があった。

 

 『自分達は頼まれただけだ。真犯人は自分達に暗殺を依頼した奴等なんだから、そっちを逮捕しろ』と。

 

 彼らの主張を警察側はありもしない言い訳だと決定し、聞く耳を持たなかった。彼らの訴えはマスコミの改竄によって罪を認可したと世間に広められ、結局誰の耳にも届く事はなかった。因果応報とはよく言ったものだ。

 

 しかし、束や各国政府の重鎮等、一部の人間はこの暗殺事件の裏に潜むとある組織の事を知っていた。第二次世界大戦時、或いはそれ以前から存在していたという世界の裏に潜む、謎の集団。

 

 【亡国機業(ファントム・タスク)

 それが、篠ノ之 箒暗殺事件の黒幕なる存在だ。

 

 箒暗殺を企てた彼らと戦う。

 テオの意志は既に定まっていた。

 

≪そう言いながら束ちゃんもちゃんと備えはしてくれていたんだろう?銀雲のアーマーと武装をね≫

「もともと、銀雲の装備とスペックは全部護身用なんだってばぁ。こうなっちゃったからには攻撃性能を調整し直したけど」

 

 従来のISを優に超える機体速度、撤退の隙を作る為のAI搭載高機動ビット、防御用のクッション付き腕部装備等が護身用に該当する事項である。

 他の鞭型装備と爪型腕部装備も加えてそれらの攻撃性能は非常に低かったのだが、束はそれら全ての出力を上げて攻撃性能を大幅に上げてみせたのだ。

 

「はぁ……テオたんの事だからもしかしてと思ってたから備えてたけど、まさかホントに協力するって言い出すなんて……トホホ、束さんの周りって頑固な人ばっかり」

≪そんな頑固者を助けてくれる束ちゃんは優しいなー、憧れちゃうなー≫

「ぶー、煽てたって何も出ませんよーだ」

 

 そう言いながら頬を膨らます束は、猫用おやつのちゅ~る(まぐろ味)を差し出しつつ以前作成した空間型コンソールとディスプレイを投影し、片手でそれらを弄り始める。

 差し出されたおやつをモグモグと食すテオの姿にほっこりしながら、束は目的の画面を映し出すとテオにそれを見せた。

 

≪もぐもぐ……これは何だい?≫

「どうやら、ドイツでキナ臭い話があってさ。遺伝子強化試験体っていう、試験管ベビーを作る研究が以前から行われてたみたいなんだけど、それが最近過激になってきてるんだよ」

≪……と言うと?≫

「今は完成形の子が現れて表面上は落ち着いてるんだけど……裏ではそれ以上の子を生み出す為にかなり危険な方法に手を付け始めてるらしい。過去に失敗した子を再利用、みたいな事もね」

≪穏やかな話じゃないね≫

 

 そう言いながら渋い表情でディスプレイ内の資料を眺めるテオ。

 生み出されている子達が全て女性であるという部分を見た彼は、束がこの話を持ち出した理由に合点が入った。

 

≪成程……未来の凄腕IS搭乗者を生み出す為か≫

「っぽい。まったく、ISを兵器扱いしている時点でアレなのに、女の子を兵器として運用するなんて……ドイツって一回滅ぼした方が良いんじゃないかな?」

≪こらこら、堅気の人達がいるんだから物騒な案は却下だよ≫

「分かってる分かってるー。私だってそっちの道に手を染める気は無いし」

 

 ひらひらと手を振っておどけてみせる束。表向きは冗談のようにも見えるが、実際彼女にその気は無い。

 

≪さて……そうなると、次の行き先はドイツだね≫

「その間に、テオたんはISの特訓だよ!ラボに別添えで訓練室を用意したから、そこでレッツパワーアップ!」

≪ははは、まるで私が主人公になったかのような展開だね≫

 

 そんな事を言いながら、2人が乗っているラボはドイツの隠れた研究所に真っ直ぐ向かっていった。

 この世に乱れを齎す、不義を排する為に。

 

 その後、世界の裏側では1つの伝承染みた話が立ち上がった。

 表沙汰に出来ない様な研究を行う施設、団体に現れる正体不明の銀の獣。弾丸を超える速さで駆けたかと思うと研究成果を悉く破壊していき、いつのまにかデータベース上の資料までもデリートさせている。

 表の世界が駆けつけた時、破壊された研究所に残っているのは気絶させられた研究関係者達と、わざと残された悪辣な研究に関する資料が微量。

 

『銀の獣が(獲物)我々を狙っている』

 

 この噂は裏世界の人間、そしてその一部である亡国機業にも広く知れ渡る事となるのであった。

 

 

 

 

 

 そして銀の獣は、新たなる舞台へと躍り出る。

 

 未来を担う若者達が集いし学び舎、【IS学園】へと……。

 

 

 

【第2章】 ―― 完 ――

 

 

 

―――続く―――




 と、いうわけで今話でテオの過去となる第2章が終了です。テオの、というよりは今作品で設定が大きく変わったキャラの過去と言うような感じもしますが。なのでテオが名前を得てからは1人称に戻そうかとも考えましたが、構成上でテオ以外の視点に移る回数が非常に多かったので、3人称で押し通しました。次回からは漸く一人称にもど……あ、亡国機業の視点じゃん。
 実際、今話では書きたい描写が沢山あったんですよね……『テオと暫く暮らせない事を寂しく思いつつも、彼の内に秘めた思いに感づき健気に見送る箒のシーン』『箒が竹刀を持って己の魂に誓いを刻むシーン』『箒が大会参加者に誠心誠意謝罪して、次の大会では勝つ!と互いに誓い合うシーン』『中学3年生になった箒が全大会の決勝戦の相手と再び対峙し、熱い試合をする青春的なシーン』とか色々……あれ、箒の事ばっかりじゃね?

 ……という訳で、別の機会にそんな話を執筆しまーす。思い出話的な感じで振り返るなり、やりようはありますからね!
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