篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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猫と少女とフランス旅行.2

「ハァーッハッハッハッハ!ようこそお客人、我が自慢の研究室へ」

 

 会社見学を始めた私達が向かった先である、開発部の研究所の1室にて。

 

 入室した私達に前に現れたのは、高らかな笑いを上げながら私達に歓迎の言葉を掛ける白衣の眼鏡男性であった。

 髪は白に近い桜色で、着用している白衣の下から花弁状のファーがはみ出している独特なファッションだ。何より際立っているのが、浮遊した椅子に座っているという事だ。一体どういう原理なのだろうか。

 

 中々に強烈なインパクトのある人物の登場で私と箒ちゃんは困惑するものの、シャルの対応は手馴れていた。

 

「こんにちは、ディストさん。今日も絶好調みたいですね」

「好調なのは当然ですとも、シャルロットくん。私の美と叡智に溢れた新たな研究が、世間に知られる前に話題の人物達にお披露目とは……中々に粋な展開だと思いませんか?思うでしょう?」

「あはは、そうですね……他の研究員の人が聞いたら怒りますよ、その台詞」

 

 やや食い気味の男性――ディストくんのテンションに愛想笑いで対応しているシャル。どうやらこの人の扱いはこんな感じで良いらしい。

 

「おっと、自己紹介をしなくてはいけませんね。私はディスト、またの名を……薔薇のディスト」

「えっ、死神って言われてるんじゃ?」

「違ぁう!それは周りが勝手に言っているだけ!笑った時の顔が骸骨に似てるからって不名誉なあだ名を押しつけられたんですよ!私はあくまでも薔薇です!バ・ラ!」

 

 死神というあだ名に対して嫌悪感を帯びながら猛反対し、もう片方の薔薇という名を強調するディストくん。まぁ理由を聞くと確かに呼ばれたくなくなるよね。

 どうでもいいけれど、薔薇だと亡国機業のあの子とモチーフが被ってるんだよね……互いに面識無いだろうから良いんだろうけど。

 

「ゴホン……まぁその辺りの話は後でキッチリさせておきましょう。それよりシャルロットくん、リヴァイヴの最終調整は完了しましたので専用機はお返ししておきます」

「ありがとうございます、ディストさん。何か大幅な変更はありましたか?」

「いえ、今回は貴方の現在の身体能力に合わせての微調整がメインとなりましたね。後は各種武装の動作確認やシステムチェックといった所でしょうか」

≪リヴァイヴの武装種類は豊富だからね、全部をテストするのも中々大変そうだ≫

 

 シャルの専用機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの武装数は約20種類、IS学園の専用機持ちの中でも断トツの装備数だ。以前一夏少年がちょっと分けて欲しいと言っていたが、そう言いたくなるのも納得出来るバリエーションである。一夏少年20人分か……。

 

「しかし改めて見ると、リヴァイヴの武装数はやはり圧倒的だな。私の紅椿も3つしか無いというのに」

≪そうだね。一夏少年3人分だね≫

「一夏3人……ぷ、くく」

 

 私の言っている事を理解した途端、箒ちゃんは思わず笑いを零してしまった。

 シャルも気付いたらしく、口元を隠しながら笑うのを堪えている。ディストくんは事情を知らないので頭上に?マークが浮かんでいるが。

 

≪そう言えば、先程新たな研究がどうこう言っていたと思うのだけれど≫

「おお、よくぞ聞いてくれました!」

 

 待ってました、と言わんばかりにディストくんのテンションが高揚している。浮遊椅子がそれに同調するかのように上下にフワフワと動いているのは、彼の感情に影響してるからだろうか。

 

「実は我がエトワール技局開発部において、新たなる第3世代ISを開発しているのですよ!デュノア社を吸収して以降初となる、これまでに無いスケールの企画を!」

「えっ?」

≪えっ?≫

「えっ?」

「はえ?」

 

 シャル、私、箒ちゃん、ディストくんの順で呆けた声が発される。

 

 私以降の者達が驚いている理由は、本来ディストくんが話した内容を知っているべきであろう人物……シャルが事情を知らないかのような反応をしたからだ。

 エトワール技局の正式なテストパイロットであるシャルが、昨今開発が進められている最新ISの存在を知らない。その事実が明らかになったため。

 

 ポカンとした表情のまま、シャルはディストくんに問いかける。

 

「あの、僕、知らなかったんですけど」

「わ、私が訊きたいくらいですよ、テストパイロットにしては訪ねてこないから、てっきりジェイドや社長から聞かされていると思っていたのですが……あの2人から聞かされていなかったのですか?」

「いえ、全然……」

 

 力弱く首を横に振るシャル。

 

≪……取り敢えず、その件に関しては後で社長に会って訊いてみれば分かる事だろう。ディストくん、そのISはどういった内容なんだい?≫

「え、えぇ……デュノア社の開発したラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが多量の拡張領域に実弾系統武装を盛り込んでいるのに対し、今回のISはそれら実弾兵器を受け流すエネルギー・シールドや、実弾とエネルギー弾を混合させたハイブリッドウェポン等を搭載させています」

「ハイブリッド……それがテーマという事ですか?」

「その通り。最近のISには実弾無効、エネルギー兵器無効といった特性も珍しくはありませんからね。それらに対抗する為の新たな試みというやつですよ」

 

 滔々と詳細を語るディストくん。やはり開発責任者だけあってその内容を確りと理解している。

 

「元デュノア社とエトワール技局、両者の技術とノウハウを掛け合わせた新型第3世代IS。その名は……」

 

 コスモス。

 

 その名を聞いた途端のシャルの、衝撃を受けた表情を私は見逃さなかった。

 

 

 

――――――――――

 

「……そうか。ディストから聞いたんだな」

 

 エトワール技局内の社長室にて。

 

 室内には社長椅子に腰掛けるピオニー社長と、彼を挟む様に左右からジェイド殿とジェイムズ殿が立っている。そんな彼らの前に、私、箒ちゃん、そしてシャルが対した形となっている。

 

 あの後、技術部を出た私達はその足で社長室へと赴いた。仕事があると言っていたのでもしかしたら会う事は出来ないと思っていたのだが、その予想は良い方向に裏切られ、こうして話す場を設けてもらう事が出来た。

 ……机の隅の書類の山には目を瞑っておこう。

 

「社長……どうして最新ISの事を、僕に教えてくれなかったんですか?ジェイドさんがいるのにそんなミスをしたとは思えないんですけど」

「おや社長、私の方が信頼を向けられているみたいですよ」

「うるせぇやい。……今回の件に関しては、ミスとかじゃあない。俺が話す機会を意図的に窺っていただけだ」

 

 そう言う社長の言葉に、取り繕った様子は見られない。嘘か真かと問われれば、真の雰囲気を保っているが……まぁ先ずは話を聞かない事にはね。

 

「お前さん、今の専用機……リヴァイヴの事を大事に思ってるだろう」

「え、あ、はい……分かるんですか?そういうの」

「まぁ、これでも社長だからな。部下の顔色1つ見極められんでどうする。リヴァイヴをメンテナンスに出している間、お前さんが時々首元に手をやっては寂しそうにしているのを見れば、それ位は分かるさ」

 

 確かに、シャルは時折リヴァイヴの待機形態であるネックレス・トップを弄る癖があった。学園にいた時もISの点検はこまめにやっていたし、その時の様子はとても充実しているように見えた。まるで箒ちゃんが私に世話を焼いてくれる時の様に。

 

 シャルは社長に言われたように、今は身に付けている首のネックレス・トップを優しく撫でる。優しい目を向けながら、彼女は口をゆっくり開く。

 

「確かに、この子とはデュノア社でテストパイロットをしていた時からの付き合いです。デュノア社での思い出はあまり良いとは言えなかったんですけど……いや、だからこそ一緒にいたこの子に愛着が湧いたんだと思います」

 

 デュノア社での思い出。

 実父には経営の道具として淡々と使われ続け、義母には一夏少年と専用機に関するデータを収集するよう捨て石として使役された。シャルにとって、それらは気分の良い過去とは言えないだろう。

 

 故にシャルロットは、変わらずに傍に居続けたリヴァイブの事を大切に思えるようになったのだね。

 傍にいるだけでも違ってくるものがある……そうだよね?箒ちゃん。

 

「ま、そういうわけでな。折角フランスに帰ってきたお前さんにいきなり専用機の持ち替え、なんて話を持ち出してもいい気分じゃないだろ?だから話を切り出すタイミングを見計らってたのさ。技術部の連中にも、あまりその話題を出さない様にしてもらってな」

「え、でもディストさんは……?」

「伝え忘れてた。まぁディストだし、いいかなって」

「どの道、あれが隠し事を通し切れるとは思えませんでしたしね」

 

 ディストくんェ……。

 

「コスモス……どうして専用機の名前がそれなんですか?」

「何か不都合でもあったか?」

「いえ、不都合とかじゃないんですけど……」

 

 そこまでの所で言い澱むシャル。

 

 そこに言葉を挿し込んで来たのは、社長の横に控えているジェイムズ殿であった。

 

「コスモスは、お嬢様の母君が愛した花なのです」

「ジェイムズさん?」

「……成程、だからその名前を強く推したんだな?ジェイムズ」

「はい」

≪どういう事なのか、教えてもらってもいいかな?≫

 

 困惑しているシャルに代わり、私が事の詳細を尋ねた。

 以下が、ジェイムズ殿達が教えてくれた事実になる。

 

 第3世代IS【コスモス】の開発段階がまだ草案が出来上がる前の頃、デュノア社を吸収合併して経営の変化にも一段落を付けたエトワール技局はその節目として新たなるISを開発しようという議題が持ち上がった。

 デュノア社の陰謀の一件で母国フランスがイグニッション・プランの参加権を失った時期にIS製造はタイミングが悪いのではないかという不安の声もあったが、最終的に採用される事となった。

 

 そんな時に、どういったコンセプトで造るかという問題が浮き上がった。浮き上がったと言っても、開発には付き物の話題ではあるが。

 イギリスのビット兵器、中国の衝撃砲、ドイツのAIC。ワンオフ・アビリティーの代替となる特殊兵装がモチーフの第3世代IS、既存のそれらに匹敵、或いはそれ以上の代物を作らなければ、今後のIS展開に後れを取る事になってしまう。

 エネルギー兵器武装の開発を主としてきたエトワール技局と、実弾兵器武装の開発を主としてきた、デュノア社の研究員達。彼らの技術を最大限に発揮させる為にはどのようなISを作れば良いのか。

 

 そんな時に、社長秘書として書記役で議題に参加していたジェイムズが2つの提案を持ち掛けた。

 1つは、実弾とエネルギーのハイブリッド兵装を目指してみては良いのではないかという事。もう1つは、もしもその方針となった暁にはISの名前をコスモスとして欲しいという事。

 ギリシア語において、コスモスは『調和』を意味する。デュノア社を吸収合併したエトワール技局にとっては縁起の良いスタートとなれる名前でもあった。

 

 そして。

 デュノア社の支配から解放されたシャルロット・デュノアの為に、亡き母が好きだった花の名を託せるように。

 

 

 

――――――――――

 

「どう思ったのだ?シャルロット」

 

 エトワール技局から出た私と箒ちゃん、シャルの計3人。

 

 ジェイムズ殿達の話を聞いてから口数の少ないシャルを気遣う様に、箒ちゃんが彼女に話しかけた。

 

「どう、って?」

「どうも何も、コスモスの件だ。リヴァイブに愛着があるとは言っていたが、先程の話を聞いたら思う所もあっただろう?」

「……そう、だね」

 

 ジェイムズ殿がシャルのお母さんの大切にしていた花の名をISに与え、彼女に贈ろうとしている。

 そんな話を聞いてしまっては、コスモスをどうするか考えざるを得ないだろう。実父や義母と違い、シャルは本当のお母さんの事が大好きだったのだから。

 

 少し迷うそぶりをした後、シャルはスッと口を開いた。

 

「……きっと、僕はコスモスを受け取ると思う。だけど、もう少し心の準備が欲しい……それが今の答えかな」

「ふむ、そうか」

≪まぁ急な話だったもんね、仕方ないさ≫

 

 いきなりの話だったから、心を整理する時間ぐらい求めても悪くない筈だ。

 コスモスの完成は夏休み中では済まないらしく、2学期の間になる予定だそうだ。シャルに早く知られるのは予定外の出来事だったようだけど、何だかんだでこの子に考える時間を与えられたのだから、良い方向に話が進んだとみて良いだろうね。そう考えるとディストくん、ファインプレー?

 

≪さて、それじゃあ気晴らしにパリの名物を堪能させてもらおうじゃないか。ガイド役のシャルさん、よろしくね≫

「……ふふ、了解っ。それじゃあ2人にはフランスの魅力を沢山知ってもらうから、覚悟してよね!」

「ふっ、お手柔らかに頼むぞ?」

 

 少しおどけ気味にトークを切り出して、私達は明るい雰囲気でパリの街へと繰り出し始めた。

 

 数日間のフランス旅行の次に待っているのは、ラウラちゃんが待っているドイツ。

 はてさて、そこではどんなイベントが待っているのかな?

 

 ……取り敢えず、彼女の所属する部隊が一番気になる所だね。

 

 

 

―――続く―――

 




 おかし、ギャグやりたいと言っておきながらやってねーじゃねえか!
 ドイツ、ドイツではちゃんとやりますから!黒うさぎ隊という濃い集団が頑張ってくれますから!(必死)

 ちなみにコスモス関連に関しては、言わずもがな当作品オリジナル設定が含まれています。こちらではアルベール・デュノアとロゼンダ・デュノアを登場させる事が出来ませんからね……。


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