篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

89 / 98
定食屋へGO!

 

 8月。それは夏真っ盛りの時期。

 

 フランスとドイツの小旅行に行っていた際は、気温についてはあまり気にならなかった。フランスにいた際に触れていたが、ヨーロッパの気候は日本と比べて基本的に穏やかで、旅行日は都合よく気温天候共に恵まれていた。

 

 しかし、帰ってきた私と箒ちゃんを出迎えてくれた日本は実に暑かった。空港内は人の密度が高かったけど空調がある程度効いていたので涼しげだった……が、外に出てみるとまるで違う世界に入ったかのような感覚だった。

 ムワァ、と身体に浴びる熱気。ジリジリと照りつける日光。

 まさに夏、といえる環境であるのは確かだが……流石に居心地が良いかと言われると首を横に振るレベルだ。これは猫でも人間でも同じである。嫌いじゃないわ!なんていう冗談も言えそうにない。

 

 帰国してから数日後。

 

 IS学園に戻った私は、1匹でトコトコと寮の廊下を歩いている。

 

≪いやぁ、それにしても暑いねぇ……≫

 

 私が制服を着るタイミングは、寮以外の学園施設内で活動をしている時と校外授業に出ている時となっている。なので寮の中にいる今の私は制服を着用していない。

 だがやはり夏の気候は容赦無く、制服を着ていなくても暑いものは暑い。この状態で服を着ようものなら……あぁ考えただけでも恐ろしい。私、熱いのも寒いのも苦手だからね。

 

 ちなみに、箒ちゃんは夏休み中の剣道部の練習に参加していてこの場にいない。他校との練習試合や小さな剣道大会参加の予定もあるので、空いている時間に竹刀を振るっておきたいのだとか。

 こんな暑い中で蒸し暑くなる剣道着を着込んで練習とは、流石箒ちゃんだ。

 

 それに対して私はというと、今日の所はこれといって用事が無い。

 シャルとラウラちゃんは未だ母国に滞在中で、日本に戻るのは数日後。セシリア姫も帰省中で、シャル達よりも帰国は早いと聞いているが今日ではない。一夏少年は夏休みの課題を進めたいといって自室で勉強に励んでいる。彼、スタートが他の子達よりも遅かったからね。箒ちゃんは先程言った通り。

 そして、海外組の中で唯一帰国していない彼女はというと……。

 

≪おや、いた≫

 

 量の廊下を曲がった先に見える、1人の少女の後姿。

 私はその子に声を掛けた。

 

≪やぁ鈴子ちゃん≫

「んー……?あぁテオ」

 

 少女――鈴子ちゃんは億劫気に手を上げながら私に挨拶を返した。鈴子ちゃんは普段活発的な子だったので、この低いテンションは流石に私も気になった。

 

≪随分静かだね。どこか具合でも悪いのかい?≫

「んぁー……そうじゃないのよ。夏よ、夏が悪いのよ全部」

 

 そう言いながら鈴子ちゃんは鬱陶しげに私服のタンクトップの襟を摘まんでパタパタと涼もうとする。彼女の身体を見てみると、珠のような汗が肌に多く伝っていた。

 

≪暑いのが嫌いなタイプなんだね≫

「えぇ、ほんっと日本の夏はこれだから大っ嫌いなのよ……偶に40℃越えとか何よ、馬鹿じゃないの?殺す気なの?としか言い様がないわよ」

 

 はぁぁ、と深い溜め息を吐く鈴子ちゃん。

 今の彼女はタンクトップにショートパンツと、寮内だからというのもあるがかなりラフな軽装だ。それでもかなり暑そうにしている所を見ると、日本の暑さと相性が悪いのだろう。人一倍暑がっているように感じる。

 

「ホントなら部屋に籠って冷房がガンガン効いた部屋でゴロゴロしてる筈なんだけどさ……エアコン、昨日壊れたのよ」

≪うわぁ……≫

「誰かの部屋に逃げ込もうにも、セシリア達はまだ帰って来てないし、あんた達の部屋では一夏が勉強してるし、邪魔するのもアレかなって」

≪別に良いんじゃないかな?どうせなら一緒に勉強するっていうのも手だと思うけど≫

「気分が乗らないのよ、勉強めんどくさいし……あいつ自主勉の時は周りに気にせず集中するタイプだから、声掛けても素っ気なくてつまんないし……そこに今のテンションで行ってもあいつをサンドバッグにしたくなると思う」

 

 ISの勉強の筈が、打たれ強さの身に付け方を勉強する方向に変わるんですね、分かります。

 しかし、折角一夏少年と2人きりになれるチャンスだというのに、暑さでふいにしてしまうとは勿体無い……鈴子ちゃんにとって夏とはそれ程までに嫌な存在なのだろう。

 

「はぁ……食堂にでも行ってかき氷でも食べに行こうかしら」

≪あれ、今日は食堂解放されてない日じゃなかったっけ?≫

「……そうだった」

 

 IS学園の食堂は寮一階に設けられており、専属の従業員が務めている。普段ならば平日だけでなく休日も機能しており、寮暮らしの学生にとっても非常に助かる存在となっている。

 しかし、働いている者達にも個人の生活というものがある。夏休みという事で帰省している学生がいる事によって、夏休み中に寮にいる学生は必然的に少なくなる期間が生じる。従業員に纏まった休みを与える事が出来るのはそこが狙い目なのだ。以前、帰省する学生が誰かを学園は把握しているといった記憶があるけど、こういった事にも予めのプランを立てておく必要があるからだ。

 で、各々の事情の都合で食堂を開く為の人員が足らず、何日か食堂閉鎖日が生じる事が寮生に事前に知らされていた。その内の1日が今日なのである。

 

 食堂が開いていない事を知った鈴子ちゃんは、ガックリと項垂れる。

 

≪事前に知らされていたのを見落としていたとはいえ、てっきり朝ご飯の時に気付いてるものかと思ったけど≫

「……動くのがだるかったから、買い置きのパンで済ませてたのよ」

 

 成程ね。

 

「はぁ……道理で寮の中も人が少ないと思ったわ。ティナも帰省中だし」

≪どうするんだい?いっそのこと、外出でもするかい?お昼前後は雲が掛かって気温が少し下がるらしいから、お昼ご飯と避暑地探しがてらに≫

「避暑地ねぇ……」

 

 そう言われてうーんと唸る鈴子ちゃん。顎に指を当て、懸命に考えている最中である。

 こういう暑い日は市販の店の殆どは空調を効かせているだろうから、一度入ってしまえばこちらのものだ。そのまま気温が落ち着く夕刻まで店内で時間を潰すなどすれば、その日の日中は涼しい思いをする事が出来る。他にも水を浴びれるプールや海水浴の案もある。尤も、鈴子ちゃんとしては誰かと一緒に行った方が楽しめるだろうから気が乗らないかもしれない。

 何にせよ、部屋の冷房が使えず他人の部屋で涼む選択肢も潰えている彼女には、気晴らしも兼ねて外出させてしまった方が良いかもしれない……というのが私の提案という訳である。

 

「…………あっ、あそこなら良いかも」

 

 

 

――――――――――

 

「というわけで弾、遊びに来てやったわよ」

「いきなり旧友が押しかけて来たと思ったら、自室を占領されたでござるの巻」

 

 鈴子ちゃんと一夏少年の中学時代の友人、五反田 弾という少年の家に押しかける事になった。彼らは中学時代によくつるんでいて、今でも時折こうして顔を会わせているのだとか。一夏少年も、一学期の休みの時にこの少年の下へ遊びに来たと言っていた。

 

「良いじゃない別に。どうせあんたの事だから夏休みなのに一緒に出掛けるガールフレンドもいなくて、家で寂しくお菓子食べながらテレビゲームしてたんでしょ」

「な、何故そこまで知って……ゲフンゲフン、大きなお世話だしガールフレンドに固定する必要なかったよな!?明らかに俺が彼女いない事を突いてきたよな!?」

「あぁ、やっぱりいなかったのね彼女」

「ぐぬぬ……そ、そういうお前だって一夏のやつと全然進展してない――」

「今度余計な事言うと口を縫い合わすぞ」

「あ、すいません」

 

 威圧に負け、潔く引き下がる弾少年……という言い方だと一夏少年と被るから、彼の事はボーイと呼ぶとしよう。シャルが男装していた時以来だね、この呼び方も。

 

「それで、えっと……お前が連れてきた猫が今有名な……」

≪初めまして弾ボーイ。私の名前はテオ、今後ともよろしくね≫

「あ、どうもご丁寧に……えっと、俺は五反田 弾だ……です」

「だです、って何よ。あんたが敬語使ってるの凄い違和感あるんだけど」

「いや中学の頃も普通に先生相手に使ってただろ!?何、その頃から変に思われてたの!?」

 

 ちなみに、私も千冬嬢から『お前が敬語を使うのはどこか気持ち悪い』と散々な評価を貰っていたり。そういう意味でも彼と気が合いそうである。

 

≪まぁ私の事は自分の接しやすい風にしてくれて構わないさ。一夏少年も普通にタメ口だからね≫

「ウ、ウス……じゃあ友達感覚で呼ばせてもらうぜ」

≪うむ、よろしい≫

 

 無事に自己紹介は終了。

 それにしても、先程から鈴子ちゃんに弄られている姿を見ていると、彼からも一夏少年と同じ素質を感じるね。弄られ役という美味しい素質が。

 

「それで、避暑地目当てで来たのは分かったけど一夏は一緒に来なかったのかよ?」

「あぁ、あいつなら学園の寮で勉強中よ」

「そいつ偽物じゃね?折角の夏休みなのにあの環境で一夏が女の子と遊ばずに勉強とか……」

 

 そしてこの場にいないのにネタにされる一夏少年。流石である。

 

「残念だけど事実よ。と言っても、中学の時からその光景はあったじゃない。あいつ、バイトもやってたから勉強面はカツカツだったし」

「あー、言われてみればそうだったな。だとしてもなぁ……夏休みに自宅に籠って真面目に勉強って、勿体ねぇなぁ」

 

 どうやら弾ボーイはその派手な赤髪のビジュアルに相違無い、遊びっ気の盛んな少年らしい。

 

「IS学園に入ってからはそこそこ頑張ってるわよ、あいつは。最近はいつも以上に熱を出してるみたいだけど……」

 

 確かにここ最近の一夏少年は、今まで以上に勉強と訓練に精を出している。アリーナの使用許可が下り次第、白式に乗って代表候補生の子達相手に懸命に鍛錬に励んでいる。まぁ、理由は大方予想がつくけれど。

 

 これまでは一夏少年に恋する乙女達に譲ってあげてたけど、そろそろ私も本腰を入れて彼の訓練に参加するべきかもしれないね。

 

 とまぁ、お堅くなりそうな話は置いておくとして。

 

≪そういえば弾ボーイの家は定食屋さんなんだっけ≫

「おう。どうせ昼食もここで食ってくつもりなんだろ?鈴とテオさ……んん、テオの分も先に頼んでおくぜ?」

「じゃああたし業火野菜炒めでよろしく。久々に食べたくなったわ」

≪私も良いのかい?といってもメニュー通りの食事は食べられないけど≫

「っと、それもそうだったな。じゃあじーちゃんにちょっと聞いてくるから、その後だな」

 

 ボーイ曰く、彼の祖父が【五反田食堂】で調理の主格を担っているらしく五反田家の頂点に立つ男なのだとか。彼の放つ拳骨や中華鍋ストライクは千冬嬢の鉄拳に勝るとも劣らない威力なのだとか。話を聞く限りでは中々に豪胆な人物のようだ。会うのが楽しみである。

 

「まっ、昼食までまだ時間があるんだしそれまでゲームでもして遊びましょ」

「あいよ。じゃあゲーム起動まではしとくから、俺が戻って来るまでに腕慣らしておけよ」

≪ふっ、5分もあれば十分さ≫

「まっ、付け焼刃で俺に勝てるのは難し……え゛っ、テオってゲーム得意なの!?っていうか出来るの!?」

≪言ってみただけだよ≫

「見りゃ分かんでしょ」

「揃いも揃って俺を弄びやがってコンチクショー!」

 

 そう言いながら弾ボーイは涙目で部屋から飛び出していった。

 会って間も無い相手を弄るのは気が引けそうな行為なんだけど……彼に関しては才能に惹かれてどうしてもね。弄られるという才能が。

 

≪ところで、何のゲームだい?≫

「【インフィニット・ストラトス ヴァ―スト・スカイ】、対戦格闘ゲームね。DLCであたし等の機体も操作できるらしいけど、まぁ弾の事だから追加してあるでしょ」

≪ほう……勿論銀雲はあるんだろうね?≫

「あるわよ。操作キャラじゃなくて、ステージギミックとして」

 

 解せぬ。

 

 

 

―――続く―――

 




 ちなみに銀雲が操作キャラじゃない理由は、スピードが圧倒的すぎてバランス調整不可能と判断されたから。カービィのエアライドでいうとライトスター相手にルインズスターでゼロヨンアタックを挑んでいる様なものなので。(謎例え)

 ちょっと執筆に詰まってしまって投稿が遅れがちになってしまって申し訳ありません……臨海学校編と過去編は前々からシナリオもある程度固まっていたので進んでいたのですが、ここから先は手探り感が強くなっていきますので……設定とか後から生やしちゃいますし。
 けっしてマリオオデッセイで遊んでたりとかアズールレーンで女の子達と親睦深めてたりとか東方幻夢廻録で健全プレイしてたとかじゃないですからね!(スマホとタブレットの2刀流をしながら)

 あ、ちなみに次回も鈴達のターンです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。