篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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露店と花火と幼馴染みと

 神楽舞を終えて、シャワーを浴びて汗を流し終えた箒は浴衣に着替え直して一夏達と合流を果たした。当初は舞が終わったらお守り販売の手伝いをしようと思い至っていた箒だったのだが、雪子に友達と遊んで来いと言われ、最終的に押し負けてしまった。笑顔なのに有無を負わせないとばかりの気迫を雪子から感じたというのは、後の箒の談である。

 

 セシリア、シャルロット、ラウラの3人は日本の夏祭りに参加するのは初めてだという事で、どういった露店があるのか把握し切れていない様子だった。鈴は小、中学時代に一夏や弾との連れ沿いで何回か参加した事があるので、先の3人よりは祭りに詳しい。

 とはいえ日本人である一夏と箒、加えて2人は地元民だったという事でより詳しいという事で2人の案内で露店を回る事になった。

 

 先ず最初に選んだのは、射的であった。

 

「まぁ、露店の王道だよな」

「ふふん、射撃の達人であるわたくしにこれを紹介するとは……つまり、別に全部倒してしまっても構いませんね、という事ですわね?」

「流れるようにフラグ立てて来たわね」

 

 射撃特化ISの操縦者であるセシリアが胸を張りながら腰に手を当てる、ぶっちゃけいつものポーズをしながら名乗りを上げた。普段の訓練ではもっと激しく動く的を狙う彼女にとって、ピクリともしない物を射抜く等児戯に等しい行為であった。

 

「けど、あの液晶テレビはそうそう倒れないんじゃないかな?代わりに鉄の札が立ててあるとはいえ、結構確りしてそうだし」

≪液晶テレビが景品とは、中々太っ腹じゃないか。釣り餌は大きく豪華に……という事かな≫

「テレビ如き、我々の給金ならば購入に困るような事もないだろう」

「代表候補生はそうなのだがな……私と一夏はまだ候補生ではないから中々手の届く代物ではないな」

 

 とはいえ、テレビ以外にも景品は多数ある。それに射的自体にも興味があるという事で全員が参加。

 ここは男の甲斐性を見せるべきと、一夏は全員分のお金を支払った。これには店主のおじさんもにっこり。

 

「最近のガキにしちゃあ珍しいな。今時の奴ぁその辺をケチって男らしい所見せやしないぜ」

「でしょう?だから少しまけてくれないかなーと思ってたり」

「確かに、甲斐性良い所見せられちゃあな。俺も女房の為に少ない小遣いをプレゼントに溶かしたりしたんだ、経験はあるぜ」

「おお、それじゃあおまけを――」

「まぁ断るんだけどな。モテる男は恵まれない男の天敵だ、がはは」

 

 上げて落とされる高等テクニックにつられて、ガクッと肩を落とす一夏。

 射的は一回300円。それを女性陣5人分となると……まだ給与を貰える立場でない彼には割と痛い出費である。

 

 それぞれ銃を受けとった少女達はコルクを詰め込み、射撃体勢に移行する。誰もがそういった訓練を積み重ねているのでフォームが様になっている。

 国籍バラバラの美少女5人が一斉に銃を構える姿は非常に良く目立ち、通行人が注目し始めている。あっという間に露店前に人混みが出来上がっていた。

 

 そして少女達は、一斉に銃の引き金を引いて…………。

 

 

 

――――――――――

 

「何故だ……何故取れなかったのだ……」

「そ、そんなに落ち込むなって箒。ほら、結構良い線いってたぞ?うん」

 

 戦果報告。

 

 セシリア、跳弾を利用して大型テレビの鉄札を倒す。しかし本人の希望で桜模様の扇子と交換。

 鈴、中サイズのパンダのぬいぐるみを取得。

 シャルロット、ボードゲームを取得。

 ラウラ、木刀を取得。ちなみにこちらも景品の形状の都合で、テレビ同様に代理の札を倒して取る仕組みとなっていた。

 

 そして箒、収穫無し。唯一である。

 

「お、お姉ちゃんは悪くないぞ!悪いのはあのダルマだ!お姉ちゃんの射撃を受けておきながら倒れないなど言語道断だ!」

「いや……いいんだラウラ。これも私の修行が足りなかった証拠、私の実力よりもあのダルマの根性が上回っていた……只それだけの事だ」

≪起き上がり小法師みたいにグワングワン揺れてたのに、倒れなかったのは驚きだったよね≫

 

 セシリアの跳弾パフォーマンスも注目の的だったが、こっちもこっちで周囲の人達は固唾を飲んで見守っていた。最終的に倒れなかった時の悔しそうな声もお約束である。

 

 そしてパンダのぬいぐるみを落としてみせた鈴だが、彼女も彼女で取るまでの経緯が面白い事になっていた。

 

「あのさ、あたし隣の別の人形が欲しかったのにこいつに弾丸引き寄せられたんだけど。フォークボークかよって思う位にカクッて射線が変えられたんだけど。どういう事なの……」

「不思議だったよね……お店の人も何も仕込んでなかったって言うし」

「鈴さん、わたくしよりも先に偏光射撃(フレキシブル)を習得するのは止めていただきませんこと?」

「違うわ!あたしは隣の○ッキー人形が欲しかったってのにぃ!」

 

 バンバンとパンダの頭を叩きながら抗議の声を上げる鈴。

 

 

 

 

 

 あっちの人形が欲しいなら夢の国で待っているよ、ハハッ!

 

 

 

――――――――――

 

「じゃあ、今度は金魚すくいでもやろうぜ」

 

 一夏が次に紹介した露店は、金魚すくい。今日8月の第3日曜日は金魚すくいの日と定められており、そのせいか水槽の金魚には大物が多い。ちなみに金魚は小赤、黒出、姉金、大物といった種類がある。

 欧州出身の3人は沢山の金魚が泳いでいる水槽が珍しいようで、興味深そうに金魚達の泳ぎを見下ろしている。

 

「わぁ、金魚がいっぱい……!」

「金魚は犠牲になったのだ……我々の暇を潰す為の遊び、その犠牲にな……」

「やる前に気が滅入る様なコメントは止めて下さいませ……それにしても、こんな薄い紙に本当に金魚が乗りますの……?すぐに破けてしまいそうですが」

「まぁ、初めは誰でもそう思うよな。けどこういうのもコツがあるんだ。ちょっと貸してくれ」

 

 セシリアからポイを受け取った一夏は、水槽の前に腰を下ろす。

 

「まずこの紙なんだけどな、これって濡らさないようにするよりも全面濡らしておいた方が破れにくいんだよ」

「そうなんですの?」

「え、あたし初めて知ったわよ……なんで中学の頃に教えなかったのよ」

「その後で知ったんだよ……んで、尾の方から掬うと暴れた尾びれが紙にぶつかって余計に破れやすくなるから、頭の方から隙を見て……そぉい!」

『おお!』

 

 一夏は大物を掬い上げて手持ちのボールに収めてみせる。中々に手際の良い動作だった事から少女達の方で小さな歓声が上がる。

 

「と、こんな感じでやっていけばイケると思うぞ。まぁ後は慣れていけば自然と出来るようになるさ」

「お見事な腕前ですわ一夏さん!」

「大した技術だ。初めてお前を見直したぞ織斑 一夏」

「金魚すくいで見直されるってどういう事!?ラウラの中での俺の評価ってどんだけ低かったの!?」

「ふむ、そうだな……」

「あ、いや、言わなくていいです。多分聞いたらショック受ける気がする、きっと、恐らく、メイビー」

 

 危機察知能力が日々高まっているのか、一夏は言葉による攻撃を事前回避。賢明である。

 

 そして先程の時と同様、国籍の異なる美少女5人が揃って水槽の前に並び座る。その光景は以下略。

 

「先程の射的は戦果を残せなかったが……今度はそうはいかない、雪辱は必ず果たしてみせるぞ」

「あんた、そんな事言ってるとフラグになるわよ」

「ふっ、別に全ての金魚を掬ってしまっても構わんのだろう?」

「あっ……」

 

 

 

――――――――――

 

「何故だ……何故1匹も取れなかったのだ……」

「あー、うーん、その、箒……お前は良く頑張ったよ、うん」

 

 箒、見事に2連敗。

 一夏の助言をちゃんと聞いており、その通りに実行した筈なのに強敵と巡り合ってしまったばかりに敗北を叩き付けられてしまったのである。金魚がビチビチと迫真の抵抗をした時には、流石の箒もビクッとなった。

 

 勝負事に2度も敗れた箒を慰めるべく、一夏は絞る様に労いの言葉を掛けて彼女を労わる。

 ちなみに他のメンバーはテオの紹介で近くの食べ物系の屋台を皆で覗いており、箒達は彼女等から少しだけ離れた場所にいる。離れていると言っても、十歩もしない内に迫る程度の距離だ。

 

「来年だ、来年こそは必ず勝利してみせる……一夏よ、その時は必ず私の勝利の瞬間をその目に収めてもらうぞ」

「あぁ分かったって。来年も皆で来ような」

「勿論だとも。ラウラとシャルロットも楽しんでくれているみたいだしな」

 

 そのラウラは今、徐々に出来上がっていく綿菓子に輝かせた目を釘付けにされている。その傍でシャルロットが彼女をどうどうと落ち着けている姿を見せており、やはり友人でもあり姉妹の様にも見える間柄だ。尚、姉を自称しているのは銀髪の娘の模様。

 

 そんな彼女たちの様子を、微笑ましそうに見つめている箒。

 

 そして一夏もまた、そんな箒をどこか嬉しそうにしながら見つめていた。

 

「……?私の顔に何か付いているのか?」

「ん?あぁいや……箒がさ、何だかだんだん遠くに行ったような気がしてさ」

「私が、遠くに?」

 

 箒は一夏の言葉に首を傾げる。

 

「あぁ。入学して最初の頃は一緒に剣道で特訓して、ISでも箒が訓練機を使って特訓してさ……それが専用機を手にして、福音と戦ってる時には前よりもずっとずっと強くなってて……強さもそうなんだけど、心というか、精神的にも前以上に大人らしくなったように感じるんだよ。ラウラ達がお前を姉として慕い始めた時から」

「ふむ」

「それに比べて、俺は……」

 

 一夏はそこまで口にすると、物寂しそうに目を細める。

 

 確かに一夏は、ISの事など全く知らない0からのスタートから現在に至るまで確実に成長している。他の女子生徒とはスタートダッシュの位置が異なるので今も劣る面が多いものの、知識面も技術面も身に着けてきている。

 ここ最近頻発している、IS学園のイベントに絡んで発生する謎のアクシデント。謎の無人機襲来、VTシステムの発動、銀の福音の暴走。その場に居合わせていたからという理由があるが、一夏はそれらに全て参加して零落白夜による決定的な一撃を以て事件の解決に貢献してきた。

 しかしそれらの活躍も、全て周りの実力者によってお膳立てがあったからこそというのもある。鈴の衝撃砲を利用しての超加速、箒の剣武からの追い打ち、専用機持ち達による援護からの止め。彼女達の力が無ければ、一夏はまともに戦う事は出来なかったであろう。

 

 夏休みの訓練を通じて、一夏はますますそれを意識するようになった。自分で自分を見つめ直す程に、己の粗が良く見えるようになってしまった。

 

「一夏……」

 

 箒は一夏の弱音を耳にすると、彼の傍に近づいて……。

 

「ふっ」

 

 一夏の鼻を摘まんだ。鼻の穴が閉じ切る程に締められて、一夏の整った顔立ちに情けないポイントが出来上がった事によって可笑しな事になっている。

 

「ふぉ、ふぉうひ?」

 

 箒、と言おうとするも鼻を抑えられている所為で上手く発音出来ず謎の言語が口から飛び出る。

 

 そんな困惑中の一夏に構わず、箒は呆れた様子で一夏の目をジッと見つめる。身長差で箒が見上げる形となっている。

 

「まったく……お前という奴はそんな事で悩んでいたのか」

「ひょ、ひょんなこほって……」

「そんな事だとも。周りに助けられっぱなしだからどうした?私が力を付けてきたからどうした?それに気付けたのであれば、お前がこれから為すべき事はそうやって劣等感に苛まれて落ち込んでいる事か?」

「そ、そえは……」

「……とは言え、周りを気にするというのは私にも解るがな」

 

 一夏の鼻からパッと指を離した箒は、それと同時にシャルロット達の方へと視線を向ける。綿菓子と林檎飴を両手に目を輝かせているラウラと付き添っているシャルロットの姿を見て、顔を綻ばせる。

 

「私も紅椿を手に入れる前は、色々と気になっていた。私だけその様な甘い話に乗っていいのか、周りは疎ましく感じるのではないか……とな。まぁ、姉さんに色々と言われて吹っ切れたがな」

「いてて……束さんに?」

「あぁ。内容は少し長くなるので端折るが……まぁ私から言える事は……ぷふっ」

 

 箒が再び一夏の方を振り向いた時だった。彼女は一夏の顔を見た途端、吹き出してしまったのだ。

 

 彼女の視界に移ったのは、イチゴのように鼻が赤くなってしまっている一夏の顔であった。

 

「く、くく……一夏、何だその顔は……!」

「いやお前がやった事だからね!?俺は完全に被害者だからね!?」

「あ、あぁ……ふふ、分かってる分かってる。まぁ私から言える事は……ははっ」

「流石に笑いすぎだろ!?」

「ちょっとーあんた達ー?何を楽しそうにして……一夏、その鼻はオシャレか何か?」

「あの……あれだよ、ピエロのコスプレでもしようかと思ってたんだよ」

「日本の夏祭りにピエロ……?」

「でも一夏って……」

「もう既にピエロ(笑われ者)だろう」

「すみません、綿菓子と林檎飴の2刀流をしている構図の人にメッチャ辛辣な事を言われたんですけど……」

 

 騒がしくなった2人の雰囲気に気付き、他の娘達も一斉に集まり始める。一夏の周りはあっという間に美少女が囲ってしまった。

 

 箒は彼女達と一緒にやって来たテオを肩に移し、その輪から一旦抜け出す。まだ少し一夏の顔が可笑しかったようで、若干顔が笑いで引き攣っている。

 

≪やぁ箒ちゃん。少年のお悩み相談は無事に終わったかい?≫

「ふふ、いや、一夏の顔が愉快で中止してしまったよ…………ふぅ。しかしよく悩みの相談だと分かったな?」

≪少年の顔がチラッと見えたから、そんな気がしたのさ。大方、箒ちゃんや周りとの差に思う所があったんじゃないかな?≫

「お見通し、という事か」

≪年長者として培った観察眼さ≫

 

 まぁ君達よりも生きた年数は少ないけどねっハハハ、といってテオは笑い飛ばす。

 

≪それで、少年は無事に悩みを吹っ切れたのかな?≫

「ふむ……私が言う前に皆が来てしまったからな……しかしあいつならば大丈夫だろう」

≪ほう、その根拠は?≫

「あれだけ周りに人がいれば、あいつも落ち込む隙が無いだろう」

 

 彼女が向ける視線の先には、鈴に赤くなった鼻を押されそうになっているのを抵抗する一夏と、2人の光景を面白そうに眺めているセシリア達の姿であった。

 確かに、あんな風に騒がしくなっていては先程までの落ち込み方は出来ないであろう。というか周りがそうさせてくれない。

 

「まぁ、今は夏祭りを楽しませてやろうではないか。夏休みも残り少ないし、2学期が始まっても弱音が残っているようならその時に聞いてやろう」

≪……あれ、単に解決が先延ばしになっただけなんじゃ……?≫

「…………さて、私達も戻ろうか」

≪あ、スルーされた≫

 

 箒とテオは、一夏達の下へと戻っていく。

 皆が揃った後はそれぞれの好みの食べ物を食べ、遊びに興じ、祭りの締めを彩る花火を鑑賞して大いに楽しんだ。

 

 若者達+1匹の新しい思い出は、とても賑やかなものになった。

 

 

 

―――続く―――

 




 夏祭り回後編でした。
 前回、箒×一夏のシーンもあるよ!と言っておきながらかなり控えめな感じに……他の子達と長時間離れる言い分が全然思いつかなかったんですよね、箒も消極的になって2人きりになろうとしなくなりましたし……。というわけで、踏み込んだシーンは次の機会にお預けです。
 そして次回から2学期をスタートさせます。原作であった一夏宅に全員集合の回とか作ってないですけど、それ以前に全体の尺ががが……。
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