篠ノ之家の猫はIS搭乗者(全話修正中)   作:たいお

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忍び寄るいたずらネコ

◇   ◇

 

 長いようで短かった夏休みは終わった。

 

 私達IS学園の生徒達は、既に2学期の学園生活に突入している。実家や母国に帰省した子達も全員集合し、いつものお嬢ちゃん達の顔触れが学内に揃い踏む。寮の方も賑やかさが戻っていた。ここ数日は夏休み気分が抜けきれずにダラーッとした子も多かったが、千冬嬢の有難い喝を貰ってシャンとするようになった。流石は千冬嬢だ。

 『千冬様のお仕置き……やっぱり幸せ、ハァハァ』『もっと強く、もっと激しくお願いします!ジュルリ』と口走った子もチラホラいたけど、うん、平常運転だ。IS学園のお嬢ちゃん達はこうでなくちゃ。

 

 そんな中、私は1人の青少年から頼み事を持ち掛けられていた……。

 

 

 

――――――――――

 

≪私に本格的なIS指導を?≫

「あぁ、頼むテオ!この通りだ!」

 

 90度に頭を下げて、そのようにお願いしてくる一夏少年。

 

 お願いの内容はこうだ。

 もっと強くなる為に、私に直接ISの特訓をしてもらいたい。シンプルで分かりやすいね。

 

≪しかしまた改まったお願いだね。夏休みにも練習に精を出していたから、その時にでも来るかと思っていたけど≫

「その、夏休みの間は自分の実力がどれ位かちゃんと見極めておきたかったし、セシリア達が帰国してる間は箒や鈴が特訓に付き合ってくれて、皆が戻ってきてからはまた全員でやってたんだけどさ……やっぱり、テオからも本格的に練習に付き合って欲しいと思ったんだ。ほら、テオって強いし、福音の時にISの姿が変わってたりしてただろ?」

≪あぁ、第二形態移行ね≫

「そうそう、それそれ。……けど、二次移行や第二形態は授業でチラッと聞いた覚えがあるけど、第二形態移行なんて聞いた事無いんだよな……」

 

 それは当然だ。何せ第一形態と第二形態を自由に変えられるISなんて、現状でも銀雲しかいないのだから。

 本来、二次移行というのは搭乗者との同調率が一定ラインまで高まった際に生じる、次の高度なステージに移る為の現象だ。二次形態になると同時に、IS自身も搭乗者の肉体やステータスに応じた大幅な変化を起こす。基本的には二次形態の方が性能は各段に良くなっているのだ。

 態々性能面で劣っている前形態に戻るメリットなんて殆ど無いからね。なお、うちの銀雲は『働きたくないでござる!絶対に(最初から全力で)働きたくないでござる!』と供述しており……。まぁあの子にとっては長距離走でいきなり全速力を出す様なものらしいから、それ以上はツッコむまい。

 

 それらを改めて説明し終えると、一夏少年も理解してくれたようだ。福音戦の後にサラッと説明していたけど、今回は少し踏み込んだ所まで説明しておいた。

 

「そっか。それにしても第二形態か……俺の白式にもあるのかな?」

≪勿論あるとも。ただ、君と白式の同調率をその段階にまで高めるには、シャル達以上に搭乗時間を重ねなければいけないけどね≫

「うぅ、道は長いって事か……というかシャル達みたいな代表候補生ですらまだ第二形態にならないのか?」

≪こればかりはISと搭乗者の相性に左右されるからね……同調率の上り幅も個人差があるし、とにかくISに乗るのが一番確実な道だろうね≫

「うーん……あっ、それじゃあテオはどうやって第二形態になれたんだ?」

 

 あぁ、やっぱりそこ気になっちゃうんだね。乙女心に関してももう少しそれ位気を配ってくれれば良いのだけれど……まぁ少年だし仕方ないか。

 

 とは言うものの、私の場合はあまりお勧め出来る様な内容じゃないんだよね……いや、別に後ろめたい事があるとかそう言う事ではなく。

 私のISコアは心臓と共にある。肉体と非常に密接した関係にある状態であるならば、私の肉体との同調率がどうなるか……それは勿論、圧倒的に向上するだろう。それに加えて束ちゃんが1年近く掛けて私とISの相性が抜群になるよう微調整を繰り返してきたらしいから、ますますね。

 

 という事で、少年にはそのような方法は勧められませんでしたとさ。めでたしめでたし。

 

≪まぁ私は他の子達とはケースが違うからね、残念ながら参考にはならないと思うよ。それよりも少年、そろそろ授業が始まる時間だと思うのだけれど≫

「え?……あ、ホントだ!ヤバい、千冬姉の雷が……!」

 

 ちなみに私達は現在、午後のIS実習に備えてロッカールームで支度を整えている最中である。尤も、私の場合支度は必要無いから彼に付き合っているだけなんだけれども。

 雑談が思っていたよりも長引いた所為で、時間がかなり押してしまっている。このままで千冬嬢のお叱りが確定してしまうだろう。

 

 焦り始める一夏少年であったが、そんな彼の背後に1つの影が忍び寄っていた。

 

「え、あれ?」

 

 突然、困惑した声を漏らす少年。

 何せ彼は、背後に立っている1人の少女の手によって目元を隠されてしまい、視界が真っ暗になってしまっているのだ。

 

「ちょ、いきなり何が……」

「暗くってなんにも~~見えなァ~い!なぜ……明りを消したんですゥ~!」

「それ俺の台詞だよね!?というか誰!?俺に目隠ししてるのは!?」

「んもう、ここはお決まりの『だーれだ?』まで待っててくれないといけないのよ?というわけで強制時間切れー」

 

 そう言って少女は一夏少年から手を離す。

 リボンの色が黄色という事は、彼女が2年生である事を示している。纏っている雰囲気も1年生の子達よりもどこか大人めいていて、余裕を感じさせる。そして外見的に特徴的なのは水色の髪。長さはミドルでクセも幾つかあるが、動く際に揺れると流水の様な綺麗さがある。

 その少女はどこからともなく手品の様に扇子を取り出すと、小悪魔めいた笑みを浮かべた口元にそれを持っていく。

 

 水色の髪に、扇子を持った少女……あぁ成程。会った事は無いけれど、彼女がそうなのか。

 まさか学内でも有名な彼女にこんな所で会うとは思わなかったね。1学期中は彼女が不在の時期が多かったらしく、2、3年生とも交流を作っている私でも今日が初対面だ。

 

「……誰?」

 

 尚、一夏少年は知らない模様。まぁ会った事が無いのは私と同じだし、仕方がないかもね。

 ちなみに私が彼女の外見的特徴を知っているのは、2年生のお嬢ちゃん達から話だけは聞いていたからである。

 

「んふふ」

 

 少女は一夏少年の問いをはぐらかす様に微笑むだけ。

 私の方にチラリと視線を向けると、一夏少年には見えない様に扇子で隠しながら、口を動かし始める。

 まだ内緒、と。

 

 理由は不明だが、彼女がそうして欲しいならば別に断る理由は無い。

 私は尻尾で丸を作って了承の意を示すと、向こうも満足げに私に小さくウインクを送って来た。

 

「えっと、あなたは――」

「あら?」

「え?」

 

 少女が一夏少年の背後に視線をずらすと、少年もそれにつられて背後を振り向く。

 後ろには、何もおかしなものは無かった。

 

「隙ありー♪」

 

 振り向き直そうとした一夏少年の頬が、少女の扇子にムニッと押された。

 先程からずっとペースを掴まされっぱなしの少年は、状況が呑み込めずに茫然としてしまっている。扇子を押しつけられたままの顔で。

 

「うんうん、どうやら噂通りね」

 

 どういう噂なのかはさておき、少女は新しいおもちゃを手にしたかのように無邪気な笑顔で満足している。ように、と言うかその通りのような気がする。

 

「それじゃあ、私はもう行くね。キミも急がないと織斑先生に怒られるよ?」

「え?」

「貴方も、空気を読んでくれてありがと。またね♪」

≪あぁ、またね≫

 

 一夏少年が恐る恐る壁の時計を目にやっている内に、私と少女は別れの挨拶を済ませる。うんうん、彼女とはどこか波長が合うね。

 

「だぁぁぁっ!?じ、時間がヤベーイ!?ちょ、ちょっと――」

≪彼女ならもういないよ≫

「ハエーイ!?」

 

 

 

―――――――――

 

「では、遅刻した言い訳を聞こうか」

「ツエーイ……!」

「あ゛ぁ゛?」

「すいません」

 

 結局、授業には5分遅刻で到着。

 私達が着いた時には金剛力士像をスタンドの様に従えた千冬嬢が腕を組んで待ち構えており、一夏少年は『もう駄目だぁ、おしまいだぁ……!』と呟いていた。まぁ気持ちは分かるよ。

 

 正座をして千冬嬢に土下座している一夏少年の隣で、私もチョコンと座らせてもらっている。私も遅刻者だしね。

 

「えっとですね、見知らぬ女生徒がロッカールームに現れまして……」

「楽しくお喋りしてたら遅刻した、と」

「いやいや、楽しくもお喋りもしてないです!しかも初対面でしたし!」

「初対面だろうが何だろうが、遅刻した事に変わりは無いだろう。他に何か弁明はあるか?」

「うぅ……テオぉ」

 

 縋る様な視線を隣から送ってくる一夏少年。どうやら私からも何か言って欲しいらしい。

 

 まぁ、今回はあの少女の登場で完全に授業に遅れてしまったから、少年の肩を持ってあげる事にしよう。え、いつもは見捨てるのかって?まぁ男に困難という壁は付き物だしね。

 

≪千冬嬢、少々耳を拝借したく≫

「何だ?」

 

 私の方に屈んできた千冬嬢の耳に、私は顔を近付ける。

 

≪彼女が……更識 楯無が一夏少年と接触したみたいで≫

「なに、更識が?」

≪そう。特に詳細を話してはこなかったから、今回は少年の顔を見たかっただけと思われたけれど≫

「……あいつ、わざとこのタイミングで接触してきたか」

 

 ふむ、どういう事だろうか。

 

「あぁ、奴が今朝方に私に伝えてきたんだよ。野暮用が片付いたので、近々一夏に接触を開始するとな。近々と言いつつ、もうコンタクトを取り始めたか……」

≪まさか、学園の方で何か新たな方針が?≫

「……また別の機会に伝える」

 

 私達の内緒話タイムは終了。千冬嬢は私から離れ、私もそれに合わせて少し下がる。

 

「まぁ良い。今回は見逃してやるが、次は無いと思え。分かったらすぐに列に並べ」

「ち、千冬姉が遅刻を許した!?明日は吹雪でも吹くのか!?」

「……どうやらお前は吹雪の前に身体を冷たくしたいようだな。物好きな奴だ」

「すいませんでした!!」

 

 通り過ぎた雷雲に再び接近する姿勢、相変わらずの一夏少年である。

 

 

 

――――――――――

 

 翌日の朝。

 

 SHRと1限目の半分を使用して全校集会が行われた。その内容は、今月中程に開催される学園祭についてである。

 IS学園の学園祭は内容、開催時期共に他校と然したる差は無い。強いて言うならば各企業の重役ではない一般人は、来校には生徒達の持つ専用の招待券が必要になる所だろうか。色々と機密の多いIS学園ならではである。

 

「それでは、生徒会長から今月の学園祭の説明をさせていただきます」

 

 生徒会役員の子の一声によって、それまで雑談で賑わっていたホールが水を打ったようになる。

 静寂に包まれたホールの壇上に、1人の少女がコツコツと足音を立てながら中央に歩いて行く。

 

 そう、昨日一夏少年をからかいに来た更識 楯無お嬢ちゃんである。

 

「やぁみんな、おはよう。今年は色々と立て込んじゃって挨拶が遅れてしまったわね。私の名前は……更識 楯無よ」

 

 楯無お嬢ちゃんは再び何も無い所から扇子を取り出すと、バッとそれを広げた。扇子の紙面には達筆で『私が天に立つ』と書かれていた。どこの元5番隊隊長だろうか

 

 離れている一夏少年の方へと視線を向けると、声を上げそうになるくらいに驚いていた。まさか自分をからかってきた相手が生徒の長、生徒会長であるとは夢にも思うまい。

 

「エェー!?」

「「聞いたなコイツ!」」

 

 向こうが何か騒がしいな。けど周りが全く反応していないから気にしないでおこう。

 

「さてさて、今月の一大イベントである学園祭について説明しましょうか。出し物に関してのルール諸々等についてはこの後クラスで配布される資料に書かれてあるから、ここでは例年と大きく違う点だけ発表させてもらうわね」

 

 楯無お嬢ちゃんはそう言うと扇子を一旦閉じ、それを横に振るうと同時に背後に立体スクリーンが投影される。

 

 映像は、一夏少年が白式に乗って刀を振るっている姿。恐らくタッグトーナメント辺りで撮ったと思われる。

 

「例年の学園祭は各部活動毎の催し物を出し、それに対して投票を行って上位に組み上がった部活動には特別助成金が支給されるというシステムでした……しかし!今年は折角の面白いエサ……げふんげふん、唯一の男子生徒がいるとなれば、そこにあらたな確変を起こさなければならない!」

「今エサって言った!?俺の事を面白いエサ呼ばわりしかけなかった!?」

「はーいそこの男子生徒は静粛にお願いしまーす。故に私達生徒会は生徒達の日頃の要望を叶える為に、優勝した部活動には織斑 一夏……エサを強制入部させます!」

「逆!逆!」

 

 少年の訴えを余所に、周りの少女達は『うおぉぉぉぉぉ!!』と野太い歓喜の声を上げている。テノールにまで届きそうである、というか女の子が出す音域じゃないと思う。

 

「唯一の男子生徒を賭けた仁義なき戦い……その名も『各部対抗織斑 一夏争奪戦』!乞うご期待!」

 

 かくして、一夏少年の身を景品とした一大イベントが学園祭にて実施されることが確定したのであった。

 ……まぁ、これもモテる男の宿命だよ。諦めたまえ少年。

 

 

 

 

 

「あ、ちなみに唯一の猫さん生徒に関しては生徒会で絶賛検討中なので、続報を待て☆」

 

 ……あるぇー?

 

 

 

―――続く―――

 




 漸く2学期がスタートしました。(100話手前)
 たてなっちゃん!たてなっちゃん!君めっちゃ書き易いよ、たてなっちゃん!
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