私だ。篠ノ之 箒だ。
早速で申し訳ないのだが、私は現在少々面倒な出来事に出くわしてしまっている。言葉にすると意味が分からないと思われるのだが……ううむ。
「はーい、それじゃあ皆さん席に着いて下さいねー。SHRを始めますよー」
山田先生が朗らかな笑みを浮かべながら教壇へ足を運んでいく。
私にとっては既に見慣れた光景だ。彼女は私のクラスの副担任であり、担任の織斑先生に代わって授業やSHRを担当する機会が多い。これも山田先生が場数を踏んで立派な先生になる為だと千冬さんが話していたのを覚えている。
しかし、私以外の者にとってはまだ慣れたものではない。何故ならば……。
「まずは皆さん、ここIS学園への入学、おめでとうございます!」
今日はIS学園の入学式であり、授業初日。
私は現在、2度目の学園生活を送ろうとしているのだ。
何故私がこのような状況に陥っているかというと、それはとある日に姉さんと会った事を話さなければならない。
――――――――――
「やぁやぁ箒ちゃん!良く来てくれたね!」
「まぁ、今日は予定が空いてましたからね」
人目を忍んで、私は束姉さんの移動型ラボに赴いて彼女に会っていた。『箒ちゃんに見せたい物があるから、カモォ~ンポルポルくぅ~ん』という連絡を受けて。ポルポル?
相も変わらず、姉さんの研究スペースは散らかりっぱなしである。効率的に作業する為に位置を計算しつつ置いていると言うらしいが、傍からみたらゴチャゴチャしているようにしか見えない。
「それで、私に見せたい物とは?」
「ふっふっふ……何を隠そうこの束さん、とんでもない機能を持つISを開発してしまったんDA!その名は【次元干渉歪曲システム】なんDA!」
「次元干渉……歪曲システム?」
「そう!まぁ平たく言うとこの世界とは異なる別の世界に行けちゃうんDA、君達の中にも、そういう現象を目にした人がいるだろう?」
「いや、ありませんよ。というかどこに向かって言ってるんですか……」
この予測不可能な言動も変わりなく。最近はこの人のこういう所にも慣れてしまっている自分がいるのも事実である。
「それで、どうしてまたそのような機能を持ったISを造ったんですか?」
「いやぁほらさ、別の世界に行くって何かロマンを感じるよね!」
「は、はぁ」
「……」
「……」
「…………」
「……えっ、本当にそれだけ!?」
「うぃ☆」
訂正。まだまだ完全に慣れていなかったようだ。私も精進が足りないな。いや、でもそっち方面を精進したら私の思考も大変な事になるかもしれない。
「はぁ、まぁその辺りの話は置いておくとして……私が呼ばれた理由はもしや……」
「うん、箒ちゃんにテスターになってもらいたくて!」
「ですよね」
他に呼んでいる人もおらず、電話で済みそうな話を態々こうして会ってまで教えようとする辺りそういう事だったのだろう。
「つまり、私は別の世界へ行く事になるんですね。それって安全性は大丈夫なんですか?」
「へーきへーき、その辺束さんに抜かりは無いアルよ!」
「どっちですか」
とは言え、この人も実の妹を危険な目に遭わせる真似はしないだろう。7巻……無人機ゴーレム……12巻……誘拐……うっ頭が。
まぁ、偶にはこの人の戯れ事にも付き合ってあげるとしよう。一時期はこうして会う事も躊躇っていたからな。その、姉孝行?というやつだ。
「仕方ないですね……今回だけですよ」
「わーい!箒ちゃん大好き!それでねそれでね、箒ちゃんに行ってもらう世界はインフィニット・ストラトスっていう世界なんだ!」
「インフィニット・ストラトス?どこかで聞いた事のある名前ですね」
「インフィニット・ストラトスっていうのはね、宇宙空間での活動を目的としたパワードスーツで、とある事件がきっかけで兵器としての利用価値が注目されちゃって今は軍事目的に利用されちゃってるの。本来は謎の理由で女性にしか扱えない代物なんだけど、ジャック・ニクラスっていう人が動かしちゃって――」
「何でいきなりプロゴルファー!?というかISはウチにもあるでしょう!?出来事も殆ど一致してますよね!?」
「だって私達のいる世界と違って、あっちは正史世界だからね。分子世界である私達の世界が向こうに似ているのは仕方のない事なんだよルドガー君」
「誰がルドガー君ですか」
というか、姉さんの発言が色々とマズすぎる。この場で言ってはならない事をつらつらと言ってしまっている
「と、兎に角!私はそのISがある別の世界に行く事になるんですね?」
「ソーナンス!あ、そっちの世界には私もちーちゃんもいっくんも普通にいるから何も心配いらないよ☆」
「寧ろ、知らない面子の方が気が楽なような……」
「ちなみに向こうの箒ちゃんのポジションを代理するような形になるから、大体過去も一致してる筈だよ!」
向こうの世界の私……ゴタゴタに巻き込んで本当に済まない。姉さんの気が済めば解放されるだろうから、少しだけ私に場所を貸してくれ……。
ちなみに時期は4月で、一夏や私がIS学園に入学する時期に行くらしい。また此方と似たような出来事を味わうのだろうか。
「あ、ちなみに向こうにはテオたんがいないから、寂しくなったら電話してね!」
「えっ」
一気に不安になった。
――――――――――
と、いう訳である。
私が現在いる場所はIS学園だが、勝手知ったるいつもの場所とは世界規模で異なっている。構造は全く同じ筈なのだが、こうも違うと感じるのだろうか。
さて、現在はSHRに続いての1限目が終わって休憩時間に入っている所である。
一夏の方を見てみるが、机に突っ伏してしまっている。あぁ、此方でも入学前の教材を電話帳と間違えて捨ててしまったのだったな。世界が変わってもその辺りは変わらないか。
「一夏」
「ん……?」
仕方がないので、私が声を掛ける事にした。周りのクラスメイト達は機会を窺っているだけのようなので、私は遠慮なく話をさせてもらうとしよう。
一夏も私の声に反応して顔を上げると、ポカンと口を開けて私の事を見つめている。
「……もしかして、箒、なのか?」
「ん?久しぶりに再会した幼馴染みの顔などとうに忘れてしまったか?一緒に剣道をした仲だというのに……」
「わ、忘れるわけないだろ!そっか、やっぱり箒だったんだな!」
一夏の中で目の前にいる私が記憶の中にいる人物だと気付いた途端、彼は明るい表情になる。いや、厳密には別人なのだが。
「そういえば新聞見たぞ。剣道大会優勝、おめでとう」
「あぁ、ありがとう。……ちなみに確認しておきたいのだが、私の優勝は1度だけか?」
「えっ?いや、箒だなって分かったのは一回だけだったけど?他は全然違う子だったし」
「……そうか」
それを聞くと、私の中でどこかこの世界への理解というか、区別のようなものが出来てしまった。
向こうの世界では、私は剣道大会を2連覇している。テオを失った悲しみから暴の剣を振るって勝利を手にした、1度目。そしてテオが帰ってきて、昨年の過ちを心の楔として真摯に対戦相手と相対した、2度目。
そして目の前にいるこの男も、私の知っている織斑 一夏ではない。確かに姓も名も顔も声も同じだが、何より互いに積み重なった記憶が違う。そう割り切ってしまうと、こちらの一夏に恋愛感情を抱く事は無さそうだ。
「箒?どうかしたのか?」
「……いや、お前がさっきの自己紹介で盛大にこけていたのを思い出していただけだ」
「このタイミングでなんで俺の醜態を思い出してんの!?」
尚、からかう時の反応は大体同じな模様。実に面白い。
――――――――――
その後のイベントも見覚えのあるものばかりであった。
2回目の休憩時間でセシリアが一夏に声を掛けてきて、その後のクラス代表を決める場において2人が口論、決闘に至るという流れだ。あの2人はどこの世界でもファーストコンタクトで一悶着起こすのだろうか?
ちなみに、私は今回口を挟まずにおいた。あの時はテオが仲裁してくれたから比較的円滑に事が運ばれたが、こうしてみるとどっちもどっちなので、無理に私が口出しする必要はないだろう。それに最終的には仲直りどころかセシリアの方が恋心を抱くだろうし。
「うぅ、専門用語が全然分かんねぇ……」
「自業自得、としか言えんな」
「うぐぅ」
放課後、少し居残って教材に齧りついていた一夏にそう告げると彼はガクッと肩を落とす。反論の余地無し、だな。
「あぁ良かった。織斑君まだ教室にいてくれたんですね!」
「あれ、山田先生?」
SHRが終わり、職員室に帰った筈の山田先生が再び教室に姿を現す。確か、入寮が急遽決まって鍵を渡されるんだったか?一夏が以前にそのような事を言っていた筈だ。
「どうかしたんですか?」
「えっとですね、織斑君の寮の部屋が決まりましたので、鍵を渡しに来たんです」
そう言って山田先生は一夏に1025室のカードキーを手渡した。うん、やはり私と同じ部屋のようだな。
「山田先生、一夏と私は同室……という事でよろしいんですか?」
「同室……同室?え、箒が俺と同じ部屋って事か!?」
「は、はいそうなんです。その、色々と事情がありまして篠ノ之さんには気苦労を掛けてしまうかもしれませんが」
「いえ、大丈夫です。万が一の護身の術は身に着けていますので」
「なんで俺が厄介者みたいな扱いされてんの?」
ある意味、相当な厄介者だぞお前は。
「けどそうなると俺、荷物とか色々と取りに行かないといけないんじゃ……」
「心配ない。千冬さんがその辺りを配慮してくれているだろう」
「その通りだ」
一夏が千冬さんをまるでダースベイダーが現れたかのような顔で見やる。こっちの一夏は随分と顔に出やすいタイプのようだ、向こうも大概だったが、向こう以上だな。
「お前の荷物はこっちで手配してやったから、ありがたく思え。篠ノ之もこいつと一緒の部屋で迷惑を被るかもしれんが、1ヶ月ほど我慢してやってくれ」
「私の方は問題ありません。お気遣い、ありがとうございます」
む、こちらでは1ヶ月という期限付きなのか。私は部屋割りの都合で今も一夏とテオの3人で暮らしているが、こういう小さな差異もあるのだな。
「……篠ノ之、お前暫く見ない間に随分と大人びたな」
ギクッ。
「そう、でしょうか?まぁここ数年は政府からもしつこく聴取や監視をされていましたからね……」
「……そうか」
流石は千冬さん、色々と鋭い。恐らく合致しているであろう私の過去を正直に話したところ、合点がいったかのように相槌を打って話題を締め括らせた。下手に喋ると勘付きそうなのが恐ろしい。
とはいえ、流石の千冬さんでも私が異なる世界の人間だとは思わな……いや、あの姉さんの親友だしなぁ。
「あぁそれと織斑、荷物は着替えと携帯の充電器だけだが、別にそれで十分だろう」
「ひでぇ」
――――――――――
「さて一夏。そろそろ来週の決闘に向けての対策を始めるぞ」
夕食諸々を済ませ、同室で寛いでいた一夏に私はそう告げる。
「そうなんだよなぁ……何とかならないかな」
「何とかなるわけないだろう。お前はジャック・ニクラスとゴルフ勝負をして勝てると思っているのか?」
「なんでいきなりジャック・ニクラス!?」
はっ、いかん。つい姉さんの嘘あらすじにつられてしまった。というかジャック・ニクラスなら代表候補生どころか国家代表クラス以上だろうに。私としたことが失礼な事を。
「いいか一夏。セシリア……オルコットはイギリスの代表候補生、ISに触れる機会などお前に比べれば天と地の差があるのだ。2回しかISを起動したことが無いお前とは知識も経験も桁違いだ。そんな相手に楽観的な気持ちで挑むなど、無謀に等し……そもそもこの決闘自体無謀ではあるのだが」
「だからって、あんだけ馬鹿にされたら引き下がる訳にはいかないだろ」
「あぁ分かってる、お前はそういう奴だからな。だからこそ……全力で勝ちにいくんだ」
本来の歴史とは決定的に異なる点、それは私が似た歴史を辿り済みだという事だ。
セシリアの戦い方、癖などは既に私の頭の中に入っている。敵を知り己を知れば百戦危うからず、相手の情報が分かっているのは大きなアドバンテージになる。更に私は決闘が決まった後の休み時間の間に、山田先生に頼んで訓練機を借りる事に成功した。どうやら予約は普通に空いていたようで、難なく取り付ける事が出来たのは幸いだったな。
私の世界では、一夏は十分なIS搭乗もままならず決戦当日にテオが前座を設けて1次移行までの猶予を作ってくれた末に、あと一歩の所でセシリアに零落白夜が届かなかった。つまりこの世界では私がテオに代わって勉強を教えてセシリア対策を伝授し、先述の訓練機を一夏に乗せて試合まで確りと特訓させてやれば勝てる見込みがあるという事になる。
勝ったな、ちょっとシャワー浴びてくる。
――――――――――
いや、フラグではないぞ?
試合当日、一夏は見事に勝利してみせた。やはり訓練機による直接的な練習は効果的だったようで、私の世界と比べても被弾回数がグッと減っていたし、ビットの処理も素早かった。やはり彼は白式ととことん相性が良いみたいで、訓練の時よりも遥かに動きが良くなっていた。訓練の段階では習得途中だった瞬時加速を彼は土壇場で成功させてみせ、勝利の切欠にしてみせたのだ。
ちなみに、ISの実働訓練の際は山田先生に空いている日限定ではあるが同行してもらった。私の教え方は、うん。ギュインギュインのズドドドド……やはり伝わらないのか。
「やったぜ箒!」
「あぁ、見事だったぞ一夏」
私の世界の一夏と比べると、まだまだ未熟……と思う所だがこの場は素直に褒めるとしよう。実際、この1週間は本当に頑張っていたからな。
「あまり調子に乗るなよ織斑。今回はオルコットが油断していた事も勝因として大きい。冷静になったあいつと再び戦えばまずお前は負けるぞ」
「うぐ……分かりました」
流石に千冬さんに言われてしまっては言い返す事も出来なかったのか、一夏は素直に従った。
「それにしても、随分とオルコットの動きの癖を把握していたものだ。山田先生から訓練機を借りて練習していた事は知っているが、相手の下調べも抜かりないとはお前にしては意外だな」
「い、意外って……ま、まぁ確かにそっちは俺じゃなくて箒がやってくれたんだけどさ」
「そうなのか?」
「あ、はい」
む、これは少々風向きが悪いか……?まだ最新鋭機段階であるブルー・ティアーズの公開動画はイギリスで撮影されたPVのみ。装備内容を主としたあの動画では操縦者の癖を見出すのは至難の業だ。それこそ重箱の隅まで見る様な気持ちで取り組まない限りは。
「……まぁいい。篠ノ之も、態々こいつに付き合ってくれてご苦労だったな」
「い、いいえ。私から望んだ事ですので」
「ふっ、そうか。とにかく今日はこれで終わりだから2人とも部屋に帰ってちゃんと休むように。ではな」
そう言うと千冬さんは踵を返して去っていった。どうやら私の事は深く追及しないでくれるらしい。そうしてもらえると有難い……。
「一夏、私達も帰るとしようか」
「あぁ、そうだな」
私と一夏も、肩を揃えて寮室へと向かい始める。
「兎にも角にも、ここ一週間はよく頑張ったな。これもお前の頑張りが齎した成果だ。千冬さんはああ言ったが、ほんの少しくらい胸を張ってもバチは当たらんよ」
「そ、そうかな?」
「ただし、千冬さんも言っていたが過信は禁物だ。今度は小細工に頼らず、お前自身の実力で勝利を手にするんだ」
「……あぁ、俺はもっと強くなるさ。千冬姉の名前を守る、って大見得切った以上はな」
やはりシスコンだった!
「さて、では今日は私が夕食を振る舞ってやろう。お前の好物は変わっていないな?」
「え、箒って料理出来るのか?」
「嗜む程度にはな。気が乗らないなら大人しく食堂に向かうが、どうする?」
「……いや、そんな風に言われたらお前の料理が気になるじゃんか」
ふっ、確かにそれもそうだな。少々意地の悪い訊き方だったかな?
「ならば、今日は御馳走を作ってやろう。楽しみにしているんだぞ?」
「っ……お、おう」
はて、今の私の言葉に困惑するような箇所があっただろうか。一夏の様子が少しおかしい。
「どうした?具合でも悪くなったのか?」
「っ!?」
私は一夏の傍に近寄り、彼の顔色を窺う。別段悪くは無い、寧ろ少し赤いくらいか?熱でもあるのだろうか、それとも試合の後だから身体に熱が残っているのか。
「一夏?」
「な、な、何でもない!俺ちょっと先にシャワー浴びて来るから!」
「う、うむ?」
行ってしまった……一体どうしたというのだろうか。まああれだけ走り回れるなら病気の心配は無さそうだな。
「ともあれ、胃がもたれ易い料理は控えるべきか……ならばあの部分は代わりに豆腐を使用して……」
私はこれから作る料理のレパートリーを考えながら、買い出しの準備をする事にした。
そうだ、元の世界に帰ったら皆で持ち寄った手料理を食べるというのはどうだろうか。うん、実に楽しそうだ。ただしセシリア、お前は駄目だ。
「……後で姉さんに電話を繋げてもらおう」
テオ達がいない事を思い出したら少し寂しくなった。声を聞いたら元気になれる気がする。
「……箒がすっごい大人に見えた……それに何かいい匂いがして、上目遣いが凄く……ヤバい、何だこれ、考えが纏まらない」
―――続く?―――
番外編終了でございます。
所謂、強くてニューゲーム状態で箒が学園生活を再び送るような感じですね。書いてる途中で思いましたけど、ホントにイベント進行が起伏になったな!箒関連のトラブルが消えちゃったよ!
そして終盤に箒が鈍感スキルを開花させていますが、実はこれがリメイク後の彼女のスタイル予定だったりします。一夏Loveの感情を押し殺し続けて、やがて一夏の方が箒に恋をするも……。
本格的な始動は福音戦以降の予定だったのですが、ちょっとシーンが入れられなくて現在に至っているという点もあります。なので2学期以降は一夏⇒箒へのアクションが発生する……かも?(一夏が恋愛意識しているとは言ってない)
という訳で、今後は1話から随時リメイキングを開始していきます!詳細は近日活動報告に記載させていただきますので、是非其方をご参考下さい!