テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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第3話 旅の始まり、そしてルークの決意

 

「ルーク様……ルーク様……?」

 

「う、うぅ……ん。も……すこし、寝かしてくれぇ……」

 

「そう……ですね。では、もう少し……」

 

 ……おかしい。いつもならココらで、執事のラムダスか親友のガイ、たまに従姉のナタリアが出て来てたたき起こされるのが『お約束』なのだが……。

 ルークは、寝ぼけた頭の内で首を傾げた。

 

 しばらくして、ルークはある事を思い出し一気に眠気が覚めた。

 

(そーいや、外にきたんだっけか……?!)

 

「待った……待った! 待った! おきる、おきるぅう~っ!!」

 

 ルークは、ガバリ! と、勢いよく起き上がると同時にノビをして身体を伸ばす。

 

「おはようございます、ルーク様。良くお眠りになられましたか?」

 

「あ~まぁまぁ……かなぁ。……つか、メシュティアリカはハヤ起きだな? いま何時くらいだ?」

 

 穏やかに微笑み挨拶をするメシュティアリカに、ルークは頷くだけで応える。

そんなルークの態度に、メシュティアリカは特に気にした様子もなく微笑み……

 

「午前六時を少し回った所です」

 

と、法衣の袂から懐中時計を取出しルークにも見えるようにして答えた。

 

「マジかよ? 未知の時間帯だな……。いつも、こんなん早ぇのか?」

 

「はい、まぁだいたいは……。一応騎士なので」

 

 メシュティアリカは実際には、一睡もしていないのだが、「一々言う事でもない……」と考え、ルークの質問に苦笑しつつはぐらかした。

 

「ふーん……」

 

 ルークは、呆れやら尊敬やらが、ない交ぜになった顔をした。

 

「ルーク様、出発する前にこれを召し上がって下さい」

 

 メシュティアリカは、腰のポーチから、懐紙に包まれた丸くて小さい物を取出し、ルークに渡した。

 

「なんだこりゃ? アメか?」

 

「これは《グミ》と言って、疲れや怪我を癒す事のできるお薬のようなお菓子です」

 

 ルークは、ふーんと呟きつつ、包みを解き《グミ》とやらを観察する。

 

「あぁ、コレかぁ。黄色いのと水色のヤツなら、屋敷で食ったコトある。コレはリンゴ味か?けっこーイケルじゃん」

 

 どうやら、ルークは《グミ》の中でも高級品《パイングミ》や《ミラクルグミ》しか食べた事が無いらしかった。

しかし、一番安い《アップルグミ》も気に入ってくれたらしい。メシュティアリカは、内心ホッとした。

そして、枕にしていた法衣を手早く着直すと、メシュティアリカもグミを一つ口に含む。

 

「そんじゃ、行こうぜ!」

 

「はい、参りましょう」

 

 ルークは居ても立ってもいられないといった様子でそそくさと立ち上がる。

 メシュティアリカは、遊び場に急ぐ子供のようなルークを微笑ましく思いながらも、これからの困難を思い、気を引き締めて、ルークに続いた。

 

「この花、朝は光らないんだな?」

 

「はい、それは……ルーク様、止まって……!」

 

「あ?」

 

 ルークが草原の草花を眺めながら歩いていると、メシュティアリカが突然、制止の声を上げた。

 彼女は、背の高い草の陰に隠れ、法衣の袂から手鏡を取出し、道の先の様子を窺う。

 

「魔物です……」

 

「あれが……」

 

 鏡には、人の頭ほどの大きさの球根の身体から、鞭のような葉を二本生やした魔物が辺りをしきりに警戒している。

 

「気づかれているの……? 警戒行動を取ってる……」

 

「どうすんだ……!?」

 

 声を抑えながらも、悲鳴じみた声を上げるルーク。一方メシュティアリカは再び、手鏡で様子を窺う。

 

「このままやり過ごす事ができれば……駄目です。こちらに気づいたようです」

 

「なにぃ!」

 

「ルーク様はこの場に! 倒すしか……ない!」

 

 メシュティアリカは、杖を両手でしっかりと握りしめ、魔物の前に飛び出した。

 

『KIiii!!』

 

 メシュティアリカを見つけた魔物は、奇妙に甲高い声を上げ、鞭のような葉を振り回し襲いかかってきた。

 その時、音叉の杖の先端が、メシュティアリカの音素に共鳴し輝いた。彼女は、それを魔物に向けて振り下ろした。

 光の球体が矢のように飛び、正確に魔物を捕らえ、魔物の突進が止まる。

 メシュティアリカは、そのまま畳み掛けるべく、二度三度と杖を振るう。

 魔物は、音素の粒と体液を飛び散らせ、宙を舞い、地面に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。

 

(良かった、なんとかなった……。でも……)

 

 メシュティアリカは、闘いに勝った事に安堵するも、無惨に倒れた魔物を見つめ……、

 

「ごめんなさい……」

 

と一言だけ、悲しげに呟いた。

 

 

 メシュティアリカは、大きく静かに息を吐き、呼吸を整える。

と、そこに、ルークが不安な表情で彼女に駆け寄ってくる。

 

「メシュティアリカ……その、大丈夫……なのか?」

 

「はい……、大丈夫です。行きましょう。貴方はわたしが御守りします。必ず……」

 

 メシュティアリカはルークに、「なんでも無い……」事であった様に、努めて柔らかく微笑み返して答えると、杖をもう一度握り直す様に胸の位置に掲げると再び歩き出した。

 ルークは、何となく釈然としない顔をしつつも、何も言わず、彼女に続き歩き出した。

 

 

 ルーク達は先ほどの魔物との戦いから、小一時間もしないうちに、新たな魔物と遭遇し戦闘になっていた。

しかも今度は、先ほどの球根の魔物だけでなく、ルークの身長ほどもある体高のイノシシが二頭。合わせて、三体が同時に襲い掛ってきた。

 メシュティアリカは、杖だけでなく、法衣の下に隠し持っているナイフを取出し、迎え撃つ。

 彼女は、先ほどの戦闘の焼き直しのように、音素の矢だけで球根の魔物を倒す。しかし、そんな事には目もくれず、イノシシは彼女に向かって猛然と突進してきた。

 メシュティアリカも、音素の矢とナイフを同時に放つが、イノシシの針金のような体毛と強靭な筋肉に阻まれ、突進の速度を緩める事しかできない。

 メシュティアリカは、とっさの横跳びで突進の軌道から逃れるが、体勢を整える前にもう一頭のイノシシが、彼女目がけて突進してきた。

 

(しまった……)

 

 メシュティアリカは、直撃を覚悟したが、イノシシの体当たりが彼女に届く事はなかった。

 地を這う衝撃の波が、イノシシの右前脚を弾き、前のめりに転倒させ、鼻を突進の勢いそのままに、したたかに地面に叩き付けた。

 その時、緋色の突風が、メシュティアリカの横をすり抜け、イノシシに激突した。火薬のような炸裂音と共に、イノシシが断末魔の声を上げ、2メートルほど地面を転がり、ぐったりと動かなくなった。

 

「ル、ルーク様……! 何故……? いけません!」

 

 そう、緋色の突風はルークであった。木剣を左手に下げ、イノシシを吹き飛ばした右手を突き出したままの姿勢で固まっている。

 

「ルーク様……?!」

 

「つっ……何でもねぇ! 来るぞっ!!」

 

ルークは、何かを振り払うかのように頭を振り、木剣を正眼に構え、メシュティアリカを庇うように前に出る。

イノシシは、大きく身体を揺すり方向転換すると、ルークと対峙し、荒い鼻息をし、小気味よく後足で地面を蹴って調子を取る。全力勝負というわけらしい。

 しばし睨み合う両者。先に動いたのはルークだった。

 

「うおぉらぁぁぁ!!」

 

 ルークは、一気に敵との間合いを詰める。

 イノシシも負けじと突進する。

 あわや正面衝突という瞬間、ルークは身体をコマのように回転させ、上半身の力と回転の勢いを乗せて、イノシシの脇腹目がけて木剣を叩き付けた。

 イノシシはバランスを崩し、横転した。

 

 イノシシは体勢を立て直そうとするが、メシュティアリカがその暇を与えなかった。

 メシュティアリカの音叉の杖が先ほどより大きく鳴動する。彼女は、両手で強く握りしめた杖を槍のように構え、イノシシを突いた。

 

 それは、言うなれば、『音の爆発』。

 

 要領は音素の矢と同じだが、威力は段違いだった。

もっとも……音素を溜める事、そして相手の動きを封じる事が出来なければ、メシュティアリカには使えない技。

つまりは、誰かに護って貰わねばマトモに当てる事すらままならい不完全な物だった。

 

 その『音の爆発』を喰らったイノシシは鞠の様に転がり、近くの岩にぶつかって、ようやく止まった。

 

 イノシシは死んではいない様だった。しかし、白目をむき泡を吹いて痙攣している。

しばらくは動く所か立つ事もままならないであろう。

 

「もう大丈夫な様です。ルーク様……助かりました。でも、あんな危険な真似……貴方にもしもの事があったら……」

 

 メシュティアリカは、他に魔物の気配がない事を確認して初めて構えを解き、『助太刀』に頭を下げつつも、強めの口調でその軽率さを嗜めようとするが……

 

「う、うるせぇ……! 女の後ろに隠れっぱなしなんてダセェ事デキるかよ!! 母上が、男は女を守るモンだって言ってた! それにオレはヴァン師匠の一番弟子だ!護ってもらうほどヤワじゃねえ!」

 

というルークの言葉に、後を続ける事ができなかった。

 

「ルーク様……」

 

「それに……オマエ魔物に近付かれたトタン、動きがゼンゼン悪くなったぞ! もし、オレが戦わないせいでそーなってて、オマエに何かあったら……なんかイヤだ! ……じゃなくて、師匠がイヤな思いをするだろ! オレも合わせる顔がないみたいな?!」

 

 途中で気恥ずかしくなってきたルークは、『自分本意』に聞こえるよう取り繕うとするが、あまり成功していなかった。

 

「確かに……わたしは戦いがあまり得意……いえ、苦手です。音律士は本来、仲間達を戦い易いように、傷付かないように、傷付いても癒すために、譜術を行使するのが役割ですから……」

 

 自身の無力さを恥じる様に少しうなだれ、メシュティアリカは自身が『弱い』事を告白する。

 

「だったら!!」

 

「それでも。わたしは『騎士』です。自身が弱い事を理由に、本来『護られるべき御方』に護っていただく様な真似は出来ません……!」

 

「……なんだよソレ? ワケ解んねぇ……。オマエがナンて言おうとオレは戦う! 勝手に戦うからな! オマエが『騎士』とか『弱い』とか知らねぇし!! 護る護られるなんか考えない! カンケー無いね!」

 

 真っ直ぐな眼差しで凛然と言い放つメシュティアリカに、ルークは負けじと噛み付かんばかりの勢いで叫び返す。

 

 睨み合うルークとメシュティアリカ。

 

 二人は、全く目を逸らそうとしない。

 

 そして、先に折れたのは……視線を逸らしたのは、メシュティアリカだった。

 

「解りました……。確かに、わたしでは貴方を護りきる事は出来ません。協力……していただけますか?もちろん、わたしも全力で貴方を支援いたします」

 

「よっしゃぁ! まかせとけ!!」

 

 微笑みつつも不安を隠しきれない複雑な表情のメシュティアリカと、屈託の無い頼もしい笑顔のルーク。

 

 こうして、この時、本当の意味でルークとメシュティアリカの『二人の旅』が始まった。




 最初の戦闘の回でした。「魔神拳!」など技名を叫ばせず、ト書きの描写だけで、頑張ってみました。いかかがでしたでしょうか?
 分り辛かったら、すみません。

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