テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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第40話 軍港襲撃

 

 ヴァンの後を追い、キムラスカの重要拠点の一つであるカイツール軍港へと向かうルーク達一行。

 

 あれから、キムラスカ側の国境でも同じような歓待を受けたが、急ぐと言い一行はそのまま抜けようとするが、キムラスカ軍は十二人の一個分隊の護衛をつけてきた。

 

 これで魔物や野盗への心配はなくなった。

 

 ……のだが、タルタロスの前例も有る。油断は禁物である。

 

 旅が順調な一方、ルークは一人焦っていた。

 

 一気に大所帯になった一行の歩みが異様に遅く感じてしまうからだ。

 

 早くもう一度ヴァンに会いたいという気持ちもあるが、イオンの体調も事も忘れてはいけない。

 しかも、そんな事を表に出して、ティアに子供だと思われたくないという気持ちが頭の中でない交ぜになり、ルークの歩幅と呼吸を乱す。

 

「ルーク。なんで、お前一人だけバテてんだ?」

 

 隣を歩くガイがいぶかしげに尋ねる。ルークの持久力を知るガイは不思議に思ったようだ。

 

「べつに、ぜんぜんバテてねぇし! 変なコト言うなよなっ!」

 

 ルークは、ティアやイオンの前では大人として振る舞いたかった。ヴァンのような大人は、こんな事でバテないし目くじらも立てないのだ。

 

 そして、そのヴァンが待つはずの『カイツール軍港』へと少しずつだが確実に近づいていく。

 

 

「なんだか騒がしいわ……」

 

 と、ティアが呟いた言葉に一行は歩みを止めた。先行していたキムラスカ兵をコゲンタが声を上げて制止する。

 

 ルークも耳を澄ませてみたが、特に変わった音は聞こえないが……

 

 しかし、『音』に関しては誰よりも鋭いティアの言葉だ。信じないわけにはいかない。

 それに、ミュウも何やら落ち着きが無い……のは、いつもの事ではあるが、何かに怯えているようだ。ここは用心するべきだ。

 

 ジェイドの赤い瞳がティアの視線を追い、怪しく光った。

 

「なるほど♪ カイツール軍港の方角から、確かに音素の鳴動を感じます」

 

「戦闘か?」

 

「ここからでは何とも言えませんが……。いずれにしても、譜術や譜業を連発しています。何かしらのトラブルが起っているのは間違いないでしょう」

 

 一人で得心したようなジェイドに、ガイが尋ねるが彼は曖昧に微笑み肩を竦めるのみだ。

 

 アニスは、二人のやり取りに首を捻り、

 

「どうします? 触らぬ神にナンとかカンとかって言いますし、しばらく様子を見ませんか? イオン様たちをみすみす危険に晒すよりは、ずっと……」

 

 イオンとルークを見やりつつ唸る。

 

「いや。それが狙いかもしれないぜ。俺が、イオンをさらうなら、城壁と兵士に守られた軍港に入る前に狙うからな」

 

「な、なるほどぉ……」

 

 顔をしかめて首を振るガイに意見に、アニスは腕を組んで俯く。

 

「何人か斥候を出しますか?ここから国境に引き帰すより軍港へ向かう方が近いのですが、ガイ・セシル殿言われるように罠でありますなら……」

 

 護衛部隊の隊長である軍曹が言いにくそうに言う。戦力を分散するのも危険だからだ。

 

「ごもっとも。これは、まさに『前門のライガ、後門のドラゴン』! リスクはどちらも変わりませんね♪ ふむ……」

 

 ジェイドがずれてもいない眼鏡を押し上げながら微笑む。

 

「……だが、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』とも申すがの……」

 

「強行突破ですね♪ 個人的には好きなシュチュエーションですが……」

 

 しばし黙考していたコゲンタの言葉に、ジェイドは眼鏡をいじりながら微笑み呟く。

 

「行きましょう……。もし、戦っているのがアリエッタだとしたら、僕なら止められるかもしれません」

 

 イオンが珍しく険しい表情で決然と言う。

 

 それにルークも続く。

 

「そうだぜ! 師匠が心配だ! って師匠なら心配ないかぁ?」

 

 拳を上げて、相槌を打った。

 

「流石はイオン様♪ 素晴らしい責任感ですね。これはマルコの嫌味……もとい、提言は無駄だったようですね。悲しい事です……」

 

 ジェイドがわざとらしく涙を拭くふりをし笑う。

 

 イオンはハッとして俯いてしまった。

 どんなに自分が『ただのイオン』として決断しても、『導師イオン』でもある自分の決断が誰かの献身や犠牲を強いてしまう事を思い出したのだ。

 

 それが、“善意”からの決意だったとしても

 

「お前……いちーち感じ悪りぃぞ。どっちみち行くか戻るしかねーんだし危ないのは変んねーだから、前に進む方がトクだろーが! 騒ぎも治められるかもしんねーだろ? イオンはそう言いたいんだろ?」

 

 ルークはジェイドに食って掛かるようにイオンの肩を持った。

 

「おいおい、ルーク。あんま適当な事を言うなよ……」

 

 ガイが取り成すように二人の間に立つ。

 

「だが、導師イオンとルーク殿の言う事にも一理ある。時間がない今はのぅ」

 

 コゲンタが珍しく会話に割って入った。

 それに、ティアが続き口を開く。

 

「そうですね……。どちらかを選ばなければならない以上、キムラスカ軍の協力を得られる可能性が、高い方を選ぶべきだと思います」

 

「希望的観測ですが……。いくら六神将でも軍港全てを包囲した上に、短時間で落とせるとも思えませんね。付け入る隙は有るはずです♪」

 

 比較的冷静な彼女の言葉に、ジェイドは納得したように頷き微笑む。

 

「なるほど、ルークと違って筋は通ってるな。確かに今は一刻も早くバチカルは向かうのが、開戦を防ぐ事になるんだしな……」

 

 ガイはティアの提案に関心したように頷いた。

 

 その横でルークは一言多い親友を、大人の余裕で心の仕返しリストに記入する。しかし、ガイが一瞬見せたどこか無力感を伴った表情には気が付かなかった。

 

「決まり……というか今の手札では、他に選択肢がありませんしね♪ 当初の予定通りカイツールへ向かいましょう。できるだけ慎重かつ迅速に。ご協力お願いします」

 

「勿論です。我々も無闇な戦は望んでいません。微力ながらご協力いたします」

 

 軍曹はジェイドの微笑に強く頷くと、

 

「ルーク様、イオン様。どうか世界に平和を」

 

 とルーク達に向かって敬礼した。部下達もそれに続いて一斉に敬礼する。

 

「はい、もちろんです!」

 

「へっ……お、おう! まかせとけ!」

 

 何のためらいもなく頷くイオンに対して、ルークはおっかなびっくりな返事しか出来なかった。またしても、なんだか悔しいルーク。

 

 そして、急いでカイツール軍港へと向かうために一行は、荷物を軽くする選別を始める。

 

「イオン様、少し走ります。よろしいですね?」

 

「はい!」

 

 気遣わしげに尋ねる軍曹に、イオンは顔に緊張の色を濃くして答えた。

 

 そんなイオンを気にしながらもルークは、「息できるか?」と訊きながら、ミュウを自分の荷物袋に入れてやった。

 

 

 こうして、ルーク達はイオンを気遣いながらも、かなりの速さで軍港が見える所までやってきた。

 

 ここまでは、神託の盾騎士団や魔物には遭遇せずにやって来れた。

 

 だが、それもここまでらしかった。

 

 カイツール軍港は、今まさに魔物の群れの攻撃を受けている。

 ライガやウルフ、ボアを始めとする大小の獣型の魔物、巨大な翼を有するグリフォンやガルーダ、青い羽毛に岩の様な鋭い角を身体中に持つフレスベルクといった鳥型の魔物の大群だ。

 

 あの小さな六神将『妖獣のアリエッタ』の指揮に違いなかった。

 

 基地の兵士達が放っているらしい矢や譜術の光弾が飛び交い、魔物の憎悪の咆哮がこだましている。まさに“戦場”だった。

 

 ルークはその光景を茫然と眺めていた。「急ぐごう」というガイの声にハッとして、また歩き出した。長い時間眺めていたように感じたが、実際はほんのわずかな時間ようだった。

 

 その時だった。城壁の向こう……恐らく艦船が停泊しているだろう方角から、爆音と同時に火の手が上がったのが見えた。

 

 水棲の魔物も動員されているのだろうか? だとしたら、挟み撃ちだ。

 

「これ……これで、どうしろってんだよ?!」

 

 と思いながら、ルークは皆を追い掛けた。

 

 

 軍港まであと少しという所に来たルーク達。

 

 魔物の大群が軍港の高い壁に猛攻をかけている。しかし、広大な軍港を完全に制圧できているわけではないようだ。

 一点突破で門を破ろうとしているのか、軍港のいくつかある門の一つに自分達の被害を顧みず殺到している。

 

 硬質の皮膚と巨大な角を持つアーマーボアの一団が破城槌さながらに城壁に突進する。

 そして、ボアたちに構わずバシリスクの一団が一斉の火球を吐き、爆炎で城壁に追い打ちをかけた。

 炎に巻かれたボアたちを踏み越えたハチェットビークたちが、その山刀のようなクチバシを城壁に叩き付ける。

 

 戦いと呼ぶのも躊躇う夥しい数の蛮勇が振るわれていた。

 

「なんという戦い方だ……。あれでは、味方すら次に何をして良いやら……」

 

「だから、『妖獣』なんです。アリエッタ様は……」

 

 護衛の騎士の一人が呆れとも恐れともつかない呟きに、ティアは『獣』を強調して答えた。

 

 人の戦の概念に囚われない魔物が戦をする。それが『妖獣のアリエッタ』の強み、ひいては神託の盾騎士団の持つ強みと言えるのだ。

 

「根暗ッタのヤツぅ……すぐチョーシに乗って、みんなに迷惑かけて。ほんとバカっ……!」

 

 普段の温厚で明るいアニスからでは想像できない声音と厳しい眼差しで、誰に言うでもなく吐き捨てる。

 見知った者が、今まさに巻き起こしている災禍を目の当たりにしているからなのか?それだけでは無い色を感じるのはルークの抱く不安のせいだろうか?

 

「あの辺りが、やや手薄だのぅ。まぁ当然、行くのに骨が折れそうだが……」

 

「っておっさん、行けたとして……あそこ、壁じゃねーかよ。あんなの登れねーよ!」

 

 コゲンタが簡単そうに言った事に、ルークは呆れた。

 

「軍曹殿たちが信号弾を持っておるから、それで中の方々に引き上げてもらう」

 

「魔物に見つかっちまうだろ。全員上がるなんて、とても無理だ。危ねーよ!」

 

 コゲンタが淡々という言葉にルークは苛立った声で言う。

 怖気づいているようで自分でもダサいと思うが、これ以上誰かが自分のために傷付くのは見たくなかった。

 

「それが我々の任務です。ルーク様とイオン様は必ずお守りします」

 

 軍曹が弓の弦を張りながら頷く。

 

「大丈夫。それにいざとなったら、譜術で飛ぶから……」

 

 ティアが安心させるように微笑みながら付け加えた。

 

「マジでか?」

 

「地の譜力で重力……大地に引っ張られる力を弱めて、思いっきり飛び上がるの。そこに風の譜術を掛ければ、越えられるわ。こういう状況でなければ、楽しい術なんだけど」

 

「なんだか良くわからねぇけど……へ、へ~」

 

 方法や原理はともかく、確かにティアの言う通り空を飛ぶというだけなら、是非のもやってみたいし実に楽しそうだ。

 魔物だらけの空へは、もちろん勘弁して貰いたいが……

 

「ではでは、もう一走りといきましょうか? こういう状況は速やかかつ静かに安全にが一番です。一気に行きましょう♪」

 

 ジェイドはいつもの調子の笑顔を浮かべながら、指を上に向ける仕草をした。

 

 兵士の一人が頷くと、雑嚢から望遠鏡のような筒を取り出した。だがそれは、片方には油紙が貼り付けられており、もう片方には紐が付いている。

 屋敷で従姉の誕生日を内緒で祝う為に、ガイとメイド達が用意してくれたクラッカーを思い出すルーク。

 

「イオン様、お手を……」

 

 アニスが呟くとイオンの手を取った。

 

 ティアは「大丈夫」というようにルークに頷いた。

 

 ルークは頷き返す事ができなかったが、一気に走り出すための姿勢を取った。

 

「信号筒用意。3、2、1、テーっ!」

 

 軍曹の号令と共に、兵士が空に向けて筒の紐を引いた。

 

 炸裂音と共に白煙が空へと登る

 

 城壁の上を右へ左へと走る兵士の一人がこちらに気が付き、指を差しているのが見える。

 

 それと同時に、全員が一斉に走り出した。しかし、それはルーク達だけではなかった数匹の魔物も当然気が付き、こちらに突進してきた。

 

 兵士達の何人かが矢を放ち、魔物たちの足を止める。

 

「かまわず走って!」

 

 剣に手をかけたルークに、隣で走るティアの声が飛ぶ。その二人をコゲンタとガイが追い抜いて行く。

 

 二人は、行く手を遮る魔物を走り抜けざまに斬り倒し、走り続ける。

 

 そして、ティアは投げナイフを投げ付け、迫りくる魔物を転ばせ足止めする。

 

「ルーク……!」

 

 彼女はルークへ道を作るように、ナイフを投げ続ける。

 

 

 

 城壁の兵士が槍を掲げて、こちらに向かって振りつつ何事かを叫んでいる。その隣で、もう一人が縄梯子を下ろすのが見えた。

 

「もう少しだ!」と思いながら、ルークは足を動かし続ける。

 

 ほんの少し余裕を持ったルークは、アニスに手を引かれて走っているはずのイオンを振り返る。

 

 その時、地面に大きな影がさした。

 

 グリフォン、ヒポグリフ、フレスベルグの編隊だった。その中の一頭が、アニスたちに向かって急降下して、アニスの背中を突き飛ばした。アニスはかなりの距離を飛んで地面に転がった。

 

 手を引かれていたイオンも前につんのめり、

 

「アニス!」

 

 彼は転びそうになりながらも叫び、彼女を助け起こそうとする。

 しかし、そんな彼にもフレスベルグの一頭が躍り掛かった。

 

 近くを走っていた兵士が助けようとするが、グリフォンに肩を掴まれ、空中へと持ち上げられ放り投げられた。

 

「イオンッ!!」

 

「ルーク! ダメッ!」

 

 ルークはティアの制止にも気が付かず、ミュウが入った荷物袋をティアに投げ付けると、イオンへ向かってがむしゃらに走った! 「脚! もっと早く動け!」そんな事ばかり考えて、剣を抜く事も頭になかった。イオンを突き飛ばして、フレスベルグの前に立ちはだかった。

 

 ルークは物凄い力で胴体を掴まれた。一瞬で肺の空気を奪われ、気を失った。

 

 

 

 

 




 お久しぶりです。

 今回はコミック版(作画 玲衣)に近い展開にしました。

 ゲームではここで人質になるのは軍港の整備兵なのですが……

 ここまでティアは、人を殺してでも戦争を止める。
 ジェイドは、和平のためなら多少の犠牲を厭わないと現実主義を象徴していたのに、ここでは「預言」を守るべきという、道徳観や人道主義に則った事を言い出します。

 もちろんそれは正しい事なのかもしれませんが、行動に一貫性がないように感じます。ジェイドに至っては「どちらでもよい」という始末です。ジェイドっぽいセリフと言えばそうなのかもしれませんが、例の『汚い、うつる』が、やり玉に上げるなら、同じくらい酷いセリフだと思うのですが……

 因みにそれを渋るルークを嫌な奴であるという演出がなされます。皆さんはどう感じたでしょうか?

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