テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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閑話 “ナタルさん”

 それは、ザオ遺跡への道程も案内人“王様”率いる商隊の導きによって、無事に二日目の正午を迎えた時の事だった。

 

 食べ慣れない砂漠の保存食に悪戦苦闘しているルーク達のテントに“王様”が訪ねてきたのだ。

 

「お食事中失礼いたします。実は……、治癒術士でらっしゃるグランツさんに折り入って御頼みしたい事がありまして。ルークさん、よろしいでしょうか?」

 

 “王様”は実に言い難そうに切り出す。しかし、何故そこでティアへの頼み事なのに自分に話を振ってくるのかが、ルークにはいまいち理解できない。

 そして更に謎な事に、ティアもルークの返事を待つように、こちらを見つめる彼女の視線に落ち着かず

 

「人助けなんだろ? ティアがイイならイイんじゃね?」

 

 などと、適当に頷いてしまうルーク。自分でも「どうなの?」と思ってしまうが“後悔、先に立たず”である。

 

「ありがとう、ルーク」

 

「ありがとうございます。ルークさん」

 

 ティアと“王様”の感謝の微笑みと下げられる頭に、やはりルークはたじろぐしかない。

 

「それで“王様”さん。わたしにどのような? まずは、お話を伺わないことにはなにも、どなたか急病ですか?」

 

「はい、実は……」

 

 ティアの穏やかな問い掛けに、“王様”は眉根を寄せて話はじめた。

 

 彼の話はこうだ。

 

 もう一組(と言っても一人客らしいが)の女性客の体調が優れないらしい。砂漠の熱にやられたのだろうとの事だ。この暑さ……いや、“熱さ”なら仕方がない話である。油断すればジェイドでも危険なのだと、ルークも散々脅かされた。

 砂漠の恐ろしさはともかくとして、そこで何故ティアの出番なのかというと、“王様”の部下には女の治癒術士がいないかららしいのだ。(粗野な老爺が一人と半人前の少女が一人いるらしいが)

 

「わたしもまだまだ若輩者ですが、解りました。用意をしますので、しばらくお待ちください。」

 

 それにしても、自分達以外に利用客がいたとは驚きである。恐らくは“王様”から事情を聞いただろうに、わざわざ厄介事を抱えた連中(自分達のことなのだが)と同乗するとは、どんな変わり者の女なのだろうか?

 

「助かります。ルークさん、グランツさん」

 

「はぁ……? オレは別に……」

 

 いとも簡単に深々と頭を下げる強者に、戸惑いを隠せないルーク。そもそも、ティアに頭を下げるのなら解るが、ついでに自分にまで頭を下げるのかがルークには、いまいち理解できなかった。

 

 

 

 “王様”に案内されて入った馬車の中には、何処か見覚えのある女性……いや、ティアとさして変わらない年頃の短く整えられた金髪の少女が横たわっている。

 しかし、本来なら白く美しいであろう肌は色白を通り越して蒼白で、一目で彼女の体調の悪さが窺える。

 

「貴女は、確か町で……」

 

 少女が辛そうに目を開くと、ティアを見つめた。その瞳は宝石のように深い翠色で、殺風景な馬車の中でその美しさは際立っていた。

 

「はい、一度お会いいたしましたね。わたしはメシュティアリカ・グランツ、音律士……治癒術士です。この商隊の利用客ですが、“王様”に頼まれてやって来ました」

 

 少女の声を聞いて、ティアの疑問は確信に換わる。

 彼女は町でティアを商隊の人間と間違えたマント女性に間違いなかった。

 仕草や口調で大人びた印象を受けたが、やはり自分よりも一つ二つ年上だろうとティアは思う。

 

「“王様”……? あぁ、あの方」

 

「はい」

 

 少し熱で浮かされたような調子で起き上がる少女を、ティアは慌てて、彼女の枕元に着いて助け起こした。

 

「そうなんですの……、商隊の方々の細やかな心遣いに頭が下がりますわ。もちろん貴方にも、本当にありがとうございます………」

 

「いいえ、困った時はお互い様ですから」

 

 弱々しくだがしっかりと頭を下げる少女に、ティアは柔らかく微笑み頷き返す。

 

「こんな姿勢で申し訳ありません。わたくしの名前はナタリ……いえ、あのナタ、ナタ、そ、そう『ナタル』と申しますわ! 姓などお気になさらずに! ナタルですわ!」

 

 何故かごまかすように早口で言う少女あらため、ナタル。何か『よんどころのない』事情があるのだろう。

 

 こんな言い方をされればティアも心配だったが、

 

「はい、ナタルさん。わたしの事は、ティアとお呼びください。メシュティアリカでは長過ぎますから……」

 

 そんな好奇心は努めて無視して、穏やかに頷き返した。ナタルはわずかに緊張を緩めてくれたのか微笑んだ。

 

 そして、ティアはナタルの診察を始めた。

 

「思いのほかお元気なようですが、どのような具合ですか?」

 

「目眩に悪心、ひどい発汗に眠気、典型的な熱中症……熱さ負けですわね。わたくしも曲がりなりにも治癒術士ですのに、恥ずかしい限りですわ」

 

 ナタルが冷静な口調で言った。ティアと同じ見立てだった。

 

「治癒術の勉強をされているのですか?」

 

 彼女は居心地悪げにゆるゆると首を振ると、続ける。

 

「えぇ……、それでそう……遊学のために旅慣れているつもりでしたの。油断しましたわ」

 

「油断があってもなくても、罹ってしまう時は罹ってしまうのが病気です。そのために人間は助け合うんですから。あまり思い詰めないで下さい。もしもの時はわたしたちの事も助けて下さいね」

 

「そう言ってもらえると、気が楽ですわ」

 

 少しおどけて微笑むティアにつられて、曇っていたナタルの顔もゆるんだ。

 

「まずは、身体の音素を整えます。それから、こちらに用意した塩と砂糖を溶かした水を……飲めそうですか?」

 

「正直に言いますと、あの水の味は苦手なんですの。ただ塩と砂糖を混ぜただけですのに不思議ですわ」

 

「ふふ。実は、わたしも苦手なんです。やはり、お薬は苦いという事なんですね……」

 

「ですわね……」

 

 ナタルが眉を寄せて苦笑するのを見て、ティアも真似をして苦笑してみせた。やはり同じ年頃の少女と話ができるのは嬉しいのだ。

 

 こうして、しばらくナタルの身体の音素を整えていると、テントの外から声を掛けられた。控えめだがはつらつとした少女の声だ。

 

「お客様。そろそろ出発いたしますので、後はワタシが引き継ぎますが……?」

 

 ティアと一緒に買い物をした赤毛の少女だ。彼女が、王様が言っていた治癒術士の一人だろう。

 

 少女の言葉に、ティアは頬をなでてしばし思案した。いくら人助けとは言っても、自分の本来の役目をいつまでも放り出しておくはわけにはいかない。しかし、病人を一度診ただけで、「はい、さよなら」というのも気が引ける。

 

「明日も来て下さる?」

 

 ナタルが「自分は大丈夫だ」と、微笑んだ

 

「……いいえ」

 

 ティアは少し考えて首を横に振り、

 

「夕方にはまた来ます」

 

といたずらっぽく微笑んだ。




 話が前後して良くないかなと思ったのですが、少し趣きが違うので独立させてみました。女性同士の友情という感じで描けたでしょうか?

 ナタリアの性格は変えたつもりはないのですが、後で読んでみると、49話も含めて原作より弱々しくなってしまたかもしれません。
 そして、3人の恋愛描写にするつもりで描きました。正直苦手なのでどこまで伝わったか心配です。

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