テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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暗い道で 

 ルークはジョン・ドゥと共に(正確には彼の精神の中で)短艇に乗って、探照灯の明かりを頼りに、暗い水路を進んでいた。

 

 そこは、一言で言い表すなら洞窟であった。しかし、ルークの素人目で見ても、何らかの目的で人の手が加えられていると分かる巨大施設だった。

 岩肌が剥き出しであったが、艦船が出入りできるようにくり貫かれた地下港湾。しかも、海からでしか侵入できない断崖にある施設……いわば秘密基地だ。

 

 ジョン・ドゥが言うには、六神将の一人、《死神ディスト》が多数、所有する研究所の一つで、その中でも、主に《レプリカ》研究で使われる場所であるとの事だった。

 ここなら、ヴァンの目的の一端を伺い知る事ができるかもしれない。

 

「もっとも、何も過度な希望を抱かない事が重要だ。希望を抱かなければ絶望も覚えない。運が悪い俺なりの処世術だ。覚えておくと良い……いや……この場合、俺のようになるなというべきか? フフフ」

 

 ジョン・ドゥは黒い兜の下で、低く笑った。

 

 ルークにはその“しょせいじゅつ”という物がよく分からなかったが彼なりの自分への気遣いだと受け取った。

 

 しばらく船で進むと、水路が途切れた場所まで辿り着いた。

 

「ここから歩きだぞ」

 

と発動機を止めて、船を停止させると、一跳びで陸地へと降り立つ。

 

 無限に広がるかのように錯覚する暗い通路をジョン・ドゥは小さなランプだけで歩き続ける。

 

 静かだ。僅かに風が通る音しか聞こえないと思っていたルークは、ジョンが足音を立てずに歩いている事に気が付き、このまま闇に溶け込んで、自分がどうなっているかも分からないあやふやな存在になって消えてしまうのではないかと不安になっていく。ルークはその不安を頭の中で木剣を振るう事を思い浮かべる。

 

 しばらく歩いて、想像の素振りが二百を超えて、いい加減に我慢できなくなったルークが「なぁ!」と少し情けない声を上げた時、

 

「この辺りか……」

 

 ジョンは小さく呟いて、歩みを止める。剥き出しの岩肌、壁をしばらく探ると、目立たない位置にある凸みの部分を押し込んだ。カチリと無機質な硬い音がした。

 

 ルークは「何かのスイッチだったのか!?」この施設の造り主の秘密主義というか偏執ぶりに感心したような呆れたような感覚に苦笑した。

 

 壁の中で機械、歯車が動く音が響いて、壁の一部が迫り出し、扉のように左右に分かれて、静かに大きな口を拡げた。

 

 そこは広い部屋で、光るガラスの板(たしか、文字や絵を映し出す『画面』とかいう物だったはずだ。)が貼り付けられ、そして、大小さまざまなスイッチが並んだ巨大な演算機(ジェイドから聴いた話によれば、人間にはできない桁の計算もすげぇ速さで計算できる譜業だっけ?)が中央に置かれ、そして、それらを囲むように無数の小さな檻が置かれていた。

 

 檻の中には何もいない……

 

 いや、隅の方で何かが動いた。他の檻の柵で隠れていた檻の二か所に動物がいるのが見えた。金色というには言い過ぎだが鮮やかな黄色の毛玉とそれよりもくすんだ黄色の毛玉……果たして、それは見慣れた……そして、懐かしい(別れて大して時間は経っていないのだが、そう感じた。)大きな房のような、耳、小猿のような小さな頭に真ん丸な眼、子豚のように膨れたお腹のチーグルだった。

 

 同じように檻に入れられていた二匹だが、その様子は対照的で一匹はぐったりと床に横たわってままで、毛並みも悪いが、もう片方は閉じ込められた事への怯えを感じさせたが体調は悪くなさそうだ。

 体調の差を抜かせば二匹の顔立ちはよく似ている。もしかしたら親子あるいは、兄弟か姉妹なのかもしれない。

 

 「実験動物」という不快な単語がルークの脳裏に浮かぶ。

 

 ジョン・ドゥは、しばしチーグル二匹を交互に観察していたが、何も言わずに視線を譜業に戻した。

 

『助けないのかよ……?』

 

 こんな事を言ったルークも具体的に何をしてやれるのか思いつかないのに、「言えた立場か?」と我ながら呆れたが、すでに言った言葉を飲み込んで、無かった事にはできない。

 

「……確かに今のは冷たいな……。しかし、俺は獣医ではない。チーグルの治療できるような知識は皆無だ。何もしてられる事はない。すまんな」

 

 ジョン・ドゥは立ち止まると改めてチーグルを見つめ、血走ったように赤錆が浮いた面頬を重々しく横に振る。

 

『あっ、いや、その、あの……、こっちこそ悪りぃ』

 

 ジョン・ドゥの抑揚のない喋り方は冷たいとすら聞こえるが、ルークの不用意な発言にも責めるような色は見せず、不思議とチーグルへの申し訳なさと自分の無力を恥じる思いがある事がルークにはよく分かった。

 

「チーグルの言葉が解かれば、情報を聴き出せたかもしんな……」

 

 ジョン・ドゥの呟きに、青緑色の少し騒がしい友人……友チーグルを思い出すルーク。

 

 そして、彼は今にして思えば、割とぞんざいに扱っていた自分が、「こんな時にミュウがいてくれたら……」などと考えるなんて、ムシの良い話だと、自己嫌悪に苛まれる。

 

「だが……この俺も四面楚歌を絵に描いたような生き方をしてきた。この際、人間以外にも恩を売っておくのも悪くはない」

 

 ジョン・ドゥの足元が光を放ち、淡い緑色の譜陣が瞬時に描き出される。第七音素の……治癒術の譜陣に間違いない。

 

「癒しの力よ。『ファーストエイド』……!」

 

 優しい緑色の光が二匹のチーグルを包み込む。

 

 具合が悪そうだった方のチーグルの苦しげで早かった呼吸が緩やかなものに代わり、心なしか毛艶も良くなったように見える。

 

「応急処置に過ぎんが……。ちゃんとした人助け……チーグル助けは後詰めのお前の仲間に任せよう」

 

 無機質な声の中に照れ隠しの苦笑を混ぜているように感じるのはルークの気のせいだろうか?

 

 何故かルークは黒い甲冑の鉄仮面男に対して……

 

 それまで、お行儀よく澄ましていたのに自信満々に立ち上がり歩き出し、誕生パーティーのために新調したドレスの裾を踏ん付けて盛大に転んだ、その日の主役の14歳のナタリアと、その彼女に抱いたのと同じ感情を思い出した。

 

「ん? 何か面白いのか……?」

 

『いっ、いや! 知り合いのチーグルを思い出したもんでよ。へへへ』

 

 ジョン・ドゥは、ルークのごまかしを納得したのか、あえて問い質さなかったのか一言で済ませる。

 

 次の瞬間だった。ジョン・ドゥは何事かを察知し、暗がりへと飛び込み、息を潜める。

 

『なっ、なんだ? どうしたっ……?!』

 

 第三者に自分の声が聞こえないのは分かっているのだが、ついつい声を潜めてしまうルーク。

 

「お前の仲間達が追い付いてきた。思ったよりも早いな……まだ、彼らは見くびっていたらしい」

 

 ジョン・ドゥがルークにだけ聞こえる「心の声」で返事をし、

 

「今、会っても混乱させてしまうだろうからな」

 

 言い含めるように付け加えた。

 ルークは何故かは解らないが、なんとなく納得できなかったが「ふーん」と答えるにとどめる。

 

 すると、じきにジェイドやナタリア達が部屋の中に入ってきて、先ほどのルークと同じように『画面』などを見回している。

 

 ジェイドが演算機の前に進み出ると、操作盤を指で叩き始める。

 

「これは……? フォミクリーの効果範囲の研究……? なるほど、データ収集範囲を広げることで巨大な物のレプリカを作ろうとしていたようですねぇ。これは興味深い」

 

「ややっ!」 

 

 かなりの速さで画面を切り替えながら観ていたジェイドが素っ頓狂な声を上げた。

 

「どっ、どうしたんですの?」

 

 彼の背後で画面を見詰めていたナタリアが驚いて尋ねた。

 

「約三千平方……! このオールドランドの地表の十分の一はありますよ!なかなかやりますねぇ~」

 

「そんな大きな物を! レプリカを作っても置き場所がありませんわ!」

 

 もうどんな物が出ても驚かないと思っていた一行も、さすがに非常識な大きさであったらしい。確かに想像すらできない大きさである。

 ただの“実験の一環”と見ても通じるが……

 

 何かそれだけではない、漠然とした胸騒ぎのようなものもルークは感じる。

 

「採集保存したレプリカ作成情報の一覧もあります。これは……マルクト軍が廃棄した筈……」

 

 いつものおどけた様子が鳴りを潜めて、呻くジェイド。

 

「大丈夫ですか、ジェイド? その情報はディストが持ち出したのでしょうか?」

 

 イオンは気づかわしげに声をかける。

 

「……お心遣い、ありがとうございます。恐らくそうでしょう。今は消滅したホドの住民の情報です。かつて私が採取させた物ですから間違いありません。ははは……」

 

 ジェイドはズレてもいない眼鏡の位置を直すようにし、痛みを堪えるような喋り方で答える。

 

「まさかと思いますが……ホドをレプリカで復活させようとしているのでは?」

 

 青ざめた顔のナタリアが恐ろしい想像を口にする。

 

 ジェイドがぐっと顎を引き締めて、少しの間押し黙り、

 

「気になりますねぇ。この情報は持ち帰りましょう♪」

 

といつもの口調で答えて、記録盤を取り出そうと操作を始める。

 

「あれっ!」

 

 周囲を警戒するために演算機やその他の機械を見て回っていたアニスが声を上げた。

 

 彼女の立つその機械の裏にはジョン・ドゥがおり、ルークは見つかったのかとギクッとしたが……

 

「これチーグル? あっ、こっちにも!」

 

 と、奥にあるチーグル達の檻へと走っていく。どうやら、見つけたのは檻に入れられたチーグル達の方であったらしい。

 

「まぁ、こんな所に閉じ込められて。かわいそうに……」

 

 ナタリアも駆け寄って跪くと、檻の中へと手を伸ばす。

 だが、弱っていながらも警戒をしたチーグルは、身を捩り檻の奥へと逃げてしまう。

 

「危険ですよ。ミュウと同じように火を噴くかも……」

 

 イオンが背後から声を掛ける。

 

 しかし、その声と同時にそのチーグルが火を噴くが、その火は小さく、ナタリアの手には全く届かなかった。

 

「弱っているのでしょうか?」

 

「おそらくレプリカと被験体でしょう。星のような模様が同じ場所にあります」

 

 イオンも心配げに、ジェイドを仰ぎ見る。

 

「レプリカは身体が弱くなる事が多いのです。こちらが恐らくレプリカなのでしょう」

 

 ジェイドが取り出した記録盤を箱にしまって懐にしまいながら近づいてくる。

 

「でも大佐? ここに認識票がついているけど、こっちのひ弱な子が被験体みたいですよ」

 

 アニスが檻の出入り口に取り付けられた認識票を指で揺らしてみせた。

 

「そうですか。確かにレプリカ情報採取の時、被験体に悪影響が出る事は皆無でありますが……」

 

 ジェイドは事もなげに答えようとしたが、

 

「悪影響って!! では、ルークは?、あの方は!?」

 

 ナタリアが驚いて、ジェイドに詰め寄る。

 

「ナタリア。心配しなくて良いですよ。レプリカ情報を採取された被検体に異変が現れるのは、ほんの数日の内にです。七年も経ってピンピンしているルーク達は大丈夫ですよ。めざせ百歳、百五十歳ですよ!」

 

 ジェイドはいつになく優しげに安心させるような口調で言い聞かせた。

 

「よかったですわ。私ったら……」

 

 ナタリアは胸を撫で下ろして、取り乱した事を謝った。無理もない事だ。

 

『ナタリア……』

 

 機械の後ろで身を縮めているルークは、心配してくれるナタリアへの申し訳なさでさらに身が縮む思いだった。

 

「ジェイド、まだ何か手がかりはあるでしょうか? これ以上長居は危険では……?」

 

「そうですよ。大佐、誰か来ちゃうかも!」

 

 イオンとアニスの不安げな声が聞こえてきた。

 

 「そうですね、引き揚げましょう。まぁ、ここは清潔な方でしたが、ディストはズボラ……いいえ、哀れにも片づけや掃除が出来ませんので、多少汚れていても気が付かないでしょうが……」

 

 ジェイドがいかにも意地悪く言った時であった。

 

 突然、大きく騒々しい警報が鳴り出す。

 

『警告。警告。不適切ナ手順ノ操作ヲ観測。正規職員ハ、タダチニ解除コードヲ入力シテクダサイ。侵入者ハ、無駄ナ抵抗ハヤメ、タダチニ武装解除ヲシテクダサイ』

 

 そして、何らかの装置の一つとしか思っていなかった譜業が、ビカビカッと赤いランプを派手に光らせ突然動きだしたではないか。

 

「なんで今更っ!!」

 

「ディストが検知器の感度を間違えたのでしょう……」

 

 頭を抱えて叫ぶアニスに、ジェイドは「面白い事になった」とでも言うように微笑んだ。

 

 すると、警告を鳴らす譜業が、ガタガタと揺れ始めると、異様に手の長い歪な人型に変形し、立ち上がった。

 

 ナタリアがすかさず矢を放つ。

 

 人型譜業の胸に命中した。だがしかし……

 

『悪質ナ敵対的行為ヲ確認。敵対的行為ヲ確認。降伏勧告ヲ省略シ、排除行動ニ移行。排除行動ニ移行』

 

 人型譜業はナタリアに向き直り、長い腕を振り上げる。

 

 背後で彼女を助けようと、ジェイドが攻撃譜術を編む。

 

 しかし、その時だった。別の譜業からも赤いランプが光り出し、前面が開き、大量のいつか見た「タルロウ」にそっくりな人形が出てきて、彼らにも襲い掛かってきたのである。

 

 ジェイドは第二の人型譜業の攻撃をかわしながらも、光の炸裂弾を放つが、狙いがそれてナタリアと人型譜業の間で炸裂し、床に亀裂が生じる。

 

 人型譜業の拳が亀裂の入った床を突き破り、ナタリアのいる足元もみるみる崩れ落ち、彼女は悲鳴を残して闇へと消えた。

 




 お久しぶりです。毎度更新をお待たせしてすみません。

 今回、前半はジョン・ドゥのちょっと偏っている人となりの解説編のようになりました。
変な人だけど、とりあえず悪い人ではなさそうだなと思って頂ければ幸いです。

 中盤は、ここでアッシュがコンピューターを操って、「ルークではこうはいかなかった」というシーンがあるのですが、その前に、一般の人がコンピューターを使うシーンがあって、ルークが「あの機械、何だ?」というシーンがあればまだ分かるのですが、数十年前までは、タイピストですら特殊技能の部類だったのに、中世的(?)世界観のアビス世界でこれは不公平だなと思い描きました。
 そして、後半はディストのビックリドッキリメカの登場です。(笑) 次回は原作とは違うナタリアのピンチを描こうと思います。
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