この作品は、池波正太郎著「剣客商売」をオマージュしたシーンがあります。
作品に敬意を込めて。
ルークがいる部屋の扉が開くと、翡翠色の毛玉が部屋へ飛び込んできた。
「ご主人様ぁ!」
ミュウである。ルークの前まで走り寄ると、彼の膝に縋り付いて、声を上げて泣き始めた。
こんなに力があったのかというくらいの力で縋り付いてくるので、少し痛いくらいだ。ルークは以前であれば『ウゼーッ!』と突き放してしまう所だったが……
しかし、今はルーク自身にもなぜなのか解らなかったが、そのミュウの好意が心から物凄く嬉しかった。
「ミュウ……、分かった、分かった。オレは大丈夫だよ」
とミュウの頭を撫ぜてやりながら膝から放して、何でもないように頭の上に乗せてやった。これなら嬉しさに涙ぐんだ顔をミュウに見られる事はないだろう。
「おぉ、ルーク殿、目覚めたか! まずは良かった! あははは」
ざっくばらんな、しかし優し気な声が聞こえてきた。コゲンタだ。彼はスタスタと部屋に入って来て、『休日明けに久しぶりに友人に会った』という調子で、ルークの肩をポンポンと叩いた。
「あぁ、おっさん……。うん、ちょっと寝すぎたかもな。へへへ……」
ルークは久しぶりに冗談や軽口でも言ってやろうと思ったが……
コゲンタが少し痩せたのに気が付く。
「世話……かけたよな?」
どこか”何か”を探るような口調を無意識にしてしまった事に、自己嫌悪を抱かずにはいられない。
「なぁに。わしなどティア殿の献身に比べれば、遊んでいたような物だ。床擦れにならぬように決めた時間に体勢を換え、夜も隣に布団を敷いて付きっ切りだった。実の親、兄弟でもやりたがらない者の多い“シモのセワ”まで……。頭が下がり過ぎて床にめり込みそうだったのぅ」
ルークの自己嫌悪の感情を知ってか知らずか、以前と同じように親し気に世間話のついでに軽口でも言い合う雰囲気だった。まるで”あんな事”など何も無かったかの様に安心させてくれる。
それはともかくルークには、トコズレやシモノセワがどんな事なのか分からなかったが、コゲンタの口ぶりからして非常に難しい医療技術なのだろうと思い、改めて感謝と申し訳ない気持ちで、横のティアを見やる。
だが当のティアは逆にルークに対して申し訳なさそうに表情で、頬を朱に染めて……
「非常事態だったというか……必要な事だったし……。あの、その、ごめんなさい……」
と何故か俯き気味になって、彼女にしては珍しく“ゴニョゴニョ”と呟いている。
ルークは、彼女をそんな態度と口調にさせてしまう程の苦役を強いてしまったのかと、『ジョン・ドウ』と共に状況を理解するためだったとはいえ、後悔してもしきれない。
コンコンという扉を叩く音に気が付いて、ルークを現実に引き戻した。
「は、はい……」
とティアは、やはり何かを誤魔化すように返事をして、扉を開ける。
「失礼致します……。市長がお会いできるそうです」
はたして扉の向こうには落ち着いた感じの女性が立っていて、恭しく頭を下げた。
「解りました。ありがとうございます」
「……あい解った。では行こうか」
返事をしつつティアとコゲンタも礼儀正しく礼をするので、ルークも慌てて同じように「あっ、ど、ども……」と頭を下げた。何とも我ながら間が抜けていると、ルークは胸中で頭を抱えずにはいられなかった。
先ほどの女性に先導され、相変わらず同じような回廊を右に行ったり左に行ったりしばらく歩くと、テオドーロ市長がいるという会議室に案内され、頑丈そうな扉を開けられる。
はたして白髪、禿頭に顎髭を生やした老人が会議用の長い机の奥に席に座っていた。
年齢はコゲンタよりもずっと上、庭師のペールと同じくらいだろうかとルークは思った。しかし、コゲンタは年長者とは思っても老人とは思った事はなかったし、いつも庭で元気に働いていたペールと違って、いかにも疲れたような印象を抱かせる老人だった。彼が市長なのだろう。
ティアの祖父ではあるが実の血縁は無いらしいのだが、不思議と良く似た印象をルークは抱いた。
「おぉ、ティアか。それにイシヤマ殿……。それで、君とは“直接は初めまして”だな……」
孫であるティアと、もう見知っているコゲンタに優しげな笑みを向けたが……
ルークの顔をしばし見やり、ふと真剣な顔になる。
ルークはその視線に、痛みを伴ってたように身じろぎをして、その痛みを誤魔化すように口を開く。
「あ……は、はじめ……まして。えと、オレ、ルークです。いえ、その……ルークだと思ってました……」
言葉を選び、選び、自己紹介をすると、そこで詰まってしまった……。
そんなルークの唐突な奇妙な言い回しに、僅かな困惑と深い哀しみにテオドーロ、ティアとコゲンタは眉を顰めるしかない。
「えと……アグゼリュスのことでは……ご迷惑をおかけして、す……すみません……でしたっ!!」
たっぷり数秒掛けて、気持ちを整えると一番言わなくてはいけない事を口にして、バッと頭を下げた。
突然頭を下げるルークを暫し見やったテオドーロ市長は、眼を伏し大きく息を吐くと、椅子に疲れたかの様にもたれかかる。
「あぁ、預言通りか……。避けられないとしても、余りにも惨い……」
頭痛に耐えるように目頭を押さえつつ、嘆く様に呻いた。
しかし、ティアは「預言通り」という言葉を聞き咎め、
「それは……どういうことですか、お祖父様! わたしは……わたしは、そんな預言のこと聞いていません。 それではホドと同じではないですか」
と鋭く声を上げたが、途中から感情を押さえ努めて冷静に尋ねる。大切な自分自身の年老いた養祖父を“敵”を見るような眼差しで見つめる。
「……それは当然だよ。ティア」
その冷静ではあるが射殺すような視線に、身動ぎすらせず静かに口を開くテオドーロ。
「これは秘預言。ローレライ教団の詠師職以上の者しか知られてはならぬ預言だなのだから……」
「預言で分かってたなら、どうして止めようとしなかったのですかっ!!」
突然、ティアとテオドーロの間に割って入り、食って掛かるようにルークは問い詰める。
話の腰を折られたにも関わらずテオドーロは、特に咎めるような風でもなく静かに頷きつつルークの言葉に答える。
「預言とは遵守されるもの。預言を守り穏やかに生きる事がローレライ教団の教え……と信じてきた」
「お祖父様、こんな非常時に教義の話なんて! どうしてアグゼリュスの消滅を世界に知らせなかったんですか?」
教師が生徒の質問に答えるような静かな口調。
ティアは、そんな祖父の“他人事”かのような言い方に少し声を荒げた。
「そうだ! それを知らせていたら、死ななくて済む人だって……」
「痛ましい事だが……、死の予言を前にして、人は穏やかではいられなくなる」
先程までの冷静な雰囲気はなりを潜めティアとルークの非難に逃れるように俯いて、呟くように話すテオドーロ。
「そんなの当たり前……です。誰だって死にたくない……です……!」
ルークは奥歯に物が挟まるような話ばかりする市長に苛立っているようだったが、なんとか敬語で言った。
「ユリアは七つの預言でこのオールドランドの繁栄を詠んだ。その通りに歴史を動かさねば、きたるべき繁栄も失われてしまう。我らはユリアの預言を元に外郭大地を繫栄に導く看視者。ローレライ教団はそのための道具なのです」
「そっ、それじゃあ……そんなんじゃぁ、まるで……」
更に難しい言葉が出てきてルークは眉をしかめたが、分からないなりに
違和感を言葉にしようとする。
「自作自演と同じでござるな……」
それまで黙っていたコゲンタが、そんなルークに助け舟を出した。しかしその声には今までにない怒気、苦悩、悔恨、悲しみ、一言では言い表す事なできない感情が含まれているように思えた。
そう……、コゲンタはホドにいて、家族を失っていたのだと思い出したルーク。
「そ、そうだ! 自分で不幸を作っておいて、後で『これは決まってた事でした』って昔の人間のせいにして、言い訳してるだけじゃないか。そんなの……!」
「あぁ、返す言葉もない……」
コゲンタの感情を僅かでも代弁する思いでに怒りの言葉をぶつける。
その言葉と感情の重さに耐えかねるかのようにテオドーロはさらにうなだれ、ほとんどルークに頭を下げるような姿勢で、
「しかし、道具の中の歯車でしかなかった私に、何が出来たというのだろう……」
苦し気な弁解。自分自身でも「納得できていない……」そんな表情だが、そんな細やかな気配りは今のルークにはできるはずもない。
ルークは歯を食いしばり喉に何かがつかえたような顔でしばらく黙っていたが、静かに口を開く。
「あんたは市長なんだろ! 大人なんだろ! 自分で考えて行動するのが大人だろっ!! だったら……!」
決して大声ではないが、しっかりと力強い言葉の眼差しでテオドーロを見つめる。大人の言い訳に対する怒りを抑えているのか、その手は強く握りしめられているのが見て取れる。
テオドーロは少しの間、啞然としたような顔をしていたが、一つ呼吸を整えてつつ
「……君の言葉で眼を覚まされる気分だよ。私は預言に縋り付いていたのかもしれない。長年の疑問を解かねばならない時が来たのだな……」
と頷き頷き、言った。
ティアが長い間の“妄執”から解き放れつつある祖父を労わるように彼の肩に手を置いて、
「お祖父様、大詠師モースも預言をご存知だったなら、預言を実現させるために導師イオンを軟禁して、戦争を起こそうとしたのですか……?」
静かに話を促す。
「ヴァン師匠も……預言を知っていてオレに……?」
ティアの疑問にルークも相槌を打った。
テオドーロは先程までの弱々しい印象を潜めて続ける。
「その通りだ……。大詠師モースは預言の成就を目的にキムラスカとマルクトの間で工作していた。それにヴァンも従っていた。いや、あれはその計画を“隠れ蓑”に故郷ホドの復讐を画策していたのであろうな……」
政治家の顔で言葉を紡いだ。「何も感じていない……」というわけではないが、何処か冷めた印象も受ける。
「……お祖父様は言いましたよね。ホド消滅はマルクトもキムラスカも聞く耳を持たなかったって。あれは嘘なのですか?」
「……すまない。幼いおまえには真実は告げられなかったのだ。……だがしかし、ヴァンは真実を知っている」
ティアは先程の怒りのこもった声ではなく、一拍置いた冷静な言葉に、テオドーロはぐっと息を飲んだが、落ち着いた声で答えた。
「いつだったか、お兄様は預言に縛られた大地など消滅すれば良いって言ってたわ。すぐに冗談めかして誤魔化していけれど……」
ティアは苦い思い出が蘇ってきた表情になる。
「……あり得るな。二人を預かったばかりの頃……。ヴァンはティア、お前から離れようとせず、何も喋らなかった。私はその時は『あんな目にあったのだから、当然だ。』と、その行動に関しては気にしなかった。思えば、その時に復讐を考えていたのかもしれん。」
そこで一つ息を整えると、「すまない」と言ってから
「しばらくして、心の傷に詳しい治癒術士に診せたが、彼には何も異常はないと診断された。他の治癒術士も同じだった。彼は心の傷を隠し通したのだ……。私は彼にに必要なのは休養と家族との時間なのだと思い直して、手を尽くした」
テオドーロは孫の追憶に誘われたのか、記憶の痛みを撫でるように、記憶を言葉にしていく。
「色々な話をし、様々な事を教えた、取るに足らない事も、大切な事も……」
しっかりとしているが重苦しい調子で話すテオドーロが不意に笑顔を作る。
「ふふっ……“子はかすがい”というのは、夫婦の間だけのことわざではなかったよ。ティア、私はまずは君を笑わせ、気を引いたよ……」
ティアをまだ幼い子供を見るような眼で優しく見つめる養老父。これが本来の彼のテオドーロ個人としての表情なのだろう。
だが、すぐに眉をしかめて続ける。痛みに耐えるような苦し気な顔だ。
「そして、ヴァンは立ち直ってくれた。いや、そう信じたかっただけだな。だが、彼は理想的な養子として振舞った。だが、本心は決して見せていないように感じた。あるいは私の存在など便宜上の養父としか思っていたのかもしれん」
「何故、相談して下さらなかったのですか……?」
罪を告白するような祖父にティアはいたたまれなくなったのか、労わるように声をかけた。
「お前には、ヴァンを復讐心に打ち勝った“立派な兄”として見て欲しかったのだ……」
テオドーロはゆるゆると首を横に振る。
しかし、彼は黙り込み、再び目頭を押さえると、
「……いいや、これも言い訳だな。預言もそうだが、私は信じたい物だけを見ていたのだ。それがどれだけ愚かで罪深い事だったか、今になって思い知らされた心持ちだ」
とほとんど涙声になって自嘲する。
「市長殿、ここからは一つ現実的に参ろう。市長殿の悔恨あるいは、罪を清算するにはどうすればよろしいのですかな?」
言葉は厳しいが励ますような口調で言うコゲンタ。
テオドーロはそれに何度も頷いてから、
「その通り……ですな」
深く頷き、再び落ち着いた声で答え、ルーク達を見回し口を開く。
「ルーク殿、イシヤマ殿それにティア。どうかヴァンを止めて下さらんか? 育ての親でありながら、彼の真意に眼を逸らした私にこんな事を頼む資格などないのかもしれませぬ。だが、こも老人には最早できぬ事。どうかお願い致す……」
テオドーロはなるべく感情を挟まず、一気に言った。
コゲンタは、両手で「待て」という仕草をしてから、
「お待ちあれ。事ここに至って、止めるだけというのは至難の業であるという事はお分かりでござるか? ご令孫はただ捕縛した所で諦めるような方ではありませんぞ。必ず再起を期されるでござろう。そこでまた血が流れましょう」
と彼も感情を抑えて、仕事の打ち合わせをするような調子で言う。
捕まえるのではないとするなら、それはつまり……。
瞑目し押し黙る養祖父をティアは心配げな表情でを見る。
「すまない、ティア」
テオドーロは孫を労わるように見て、
「だが責任は取らねばならない私もヴァンも。ヴァンを討って下され。彼はそれほどの事をした。そうすべきだ」
と決然と言った。もう思い悩む様子は奥深くへ隠されている。
ルークはその言葉に呆気に取られて、
「オレ達が師匠を討つ………」
ぽつりと呟いた。意味は分かっているのに余りにも現実離れしたように感じたのだ。
「いや、それこそお待ちを! 討ち果たすというだけなら拙者だけでお引き受けいたす。わざわざ師弟と実の兄妹で殺し合う事はなかろう」
隣りから聞こえたコゲンタの強い調子の言葉に驚いて、はっとするルーク。
「汚れ役は、わし一人で沢山だってのぅ。あははは……」
いつもの執り成し声につい流されそうになるが、ここで甘えてはいけないと、それを顎を噛み締めて堪えて、
「いいや! ダメだ、おっさん!オレも戦うっ!!」
ばっと弱気を振り払うような右手を振り、
「テオドーロさん! いえ、テオドーロ市長! オレにやらせて下さい。オレにだってセキニンがあります! ヴァン師匠にオレなんかが敵うわけないと思うけど……」
そのまま右手を握りしめて、宣言するルーク。
「わたしもです。肉親として、いいえ、肉親だから、妹だからこそ見過ごすわけにはいきません。お兄様に手向かう事が、わたしに出来るかどうか解らないけれど……」
ティアはルークに呼応するように右手を胸に置いて、しっかりとした声で言った。
コゲンタはいかにも困った顔になって、
「あぁ、まったく、仕方のない……。お二人がそう言うならば、承知した。だがっ、最後の最後はわしの役目だ。それは譲れんぞ? よろしいなっ!」
と半ば諦めたように言うと、ごま塩頭をガリガリと掻いた。
「イシヤマ殿、若者たちをよろしくお願い致す。すまぬが、私には最早できぬ事だ……」
テオドーロはコゲンタに懇願するように頭を下げる。
コゲンタは慌てて手を頭からどけて、にっと笑うと、
「……承った。なぁに、硬い土と石、大地を相手に鍬を振るうよりは、まだまだ軽い事にござる。あははは」
少しおどけるように言った。
「ふっ……、そうか」
テオドーロはつられて笑ったが、すぐ真剣な顔になると、
「ならば、できるだけの支援はする。武器や必要な物はこちらで用意する、なんでも言いつけて下され……」
机の上に置かれた紙と筆を取ると、物資の手配書を作成し始めた。
「それから、ダァトの行政官のトリトハイム殿に正式な信書を書こう。彼は導師派でも大詠師派でもない中立の立場、聡明な方だ。事の顛末も記しておくゆえ、無下にはしないだろう」
と付け加えると、「正式書類と印鑑を取ってくる」と席を立った。
先程までの疲れた印象はない。これが彼の政治家としての顔なのだろうか……?
しばらくして、テオドーロが商人を呼び寄せてくれて、ルーク達は武器を新調する事になった。
ティアは杖頭を古代言語が刻まれた銀板で造られた錫杖を選んだようだ。少し重いが、これなら譜術の威力や精度を高めてくれるらしい。
コゲンタは、師から預かった刃こぼれしてしまった『カネサダ』をテオドーロに修繕を依頼して、『マゴロク』という銘の刃紋が特徴的なコダチを選んだ。何本ものカタナを見比べて、かなり“切れる色”をしていると判断した物だ。ルークには見分けが付かなかったが……。
ルークは最初、『グレートソード』という剛剣を選んだ。ヴァンの刃唸りだけで敵を打ち倒すような剣さばきに近付こうと思ったのだ。
あの絶技に太刀打ちするには、これぐらいの剛剣でなくては出来ないような気がした。
ヴァンには“稽古の上”での本気にも一度でも勝てた事は無いのだが……
何度か柄を握り直して、手応えを確かめる。少し重いが、この剛剣を充分に振る事ができるはずである。
しかし、そんなルークの核心めいた物の腰をコゲンタの声がへし折られてしまった。
「ルーク殿には、こちらの細い方が良いかもしれんぞぅ」
と、見やれば『ニンブルレイピア』というらしい軽量化する事に重きを置いたという剣を勧めてきたではないか。何やら不敵で挑戦的な眼差しでもある。
確かに鋭く切れ味が良さそうだが、『グレートソード』比べれば、かなり細身で華奢に見えたので、ルークは自分は頼りにされていないのかのような気がして悲しみと不満がない交ぜの気分になる。
そんな感情が顔に出ていたのか、コゲンタが「あぁ、ちがう、ちがう。」と苦笑と共に手を横に振って、
「何も敵を叩き切るだけが戦いではない。ルーク殿は足が速い。動き回って、相手の手足の筋を斬って戦意を削げば良い。それが我が流派の“実戦的な峰打ち”だ。あははは」
といつもの剣の稽古の助言のような口調で言い、
「勿論、それができない相手はいるが、それはギリギリまで見極めなくてはならん。言っておくが、これはただ手向かってくる者は全て殺せと言う方が容易い。だが、それでは謡将殿と変わらぬ……」
と力強く言い聞かせると、剣を鞘に収めるとルークの目の前に掲げる。
「わかるな、ルーク殿……?」
「あ、あぁ……」
ルークはおずおずと両手を剣に伸ばす。
「言うほど容易い事ではない……だが、今のルーク殿になら充分にできる」
そう悪戯に誘うような調子で言うコゲンタから剣を受け取る。
……重い……!
先程、掲げてみた剛剣よりも遥かに重く大きく感じる。
なんとか取り落とさず剛剣よりも遥かに重い細剣を持ち直し、ティアの方を伺う。
ティアは僅かな逡巡の後、ほんの少し微笑し深くゆっくりと頷く。
ルークはそれに力を貰い受けたような気がして大きく頷き返す。
これで準備は整った。いよいよ再出発である。
皆さん、お久しぶりです。大変お待たせしました。
今回は、テオドーロ市長が実質主役のお話でした。
原作だと、彼はあまりにも鈍感というか、人を見る目がないというか、ヴァンにとって都合の良いお人好しなってしまっていたので、70代、80代の宗教家で政治家のの人物が、当時せいぜい11歳の少年の復讐心にまったく気が付かないという事があるのかと思い、拙作では、ヴァンの復讐心や預言の矛盾に気が付きながら、目を背けていた。あるいは、背けざるおえなかったか……?
そして、ルークの言葉や姿勢で現実を直視し始めるという形にしました。
そして、ルークの新たな覚悟を示す話も付け足しました。
ヴァンやアッシュのように、相手を殺す、邪魔者は排除する覚悟ではなく、相手を殺さずに恨みを飲み込んで、敢えて茨の道を行くという覚悟にしました。
やはり、主人公には悪役と同じ「覇道」を歩ませず、別の答え「王道」⁽?⁾を歩ませたいと思い、このようにしました。如何だったでしょうか?