テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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 この物語のジェイド・カーティスは、原作とは方向性の違う人物です。原作の彼のファンの方には、ここでお詫びします。


第8話 犯人はこの中にいない

 

 

 ティアはすぐに、男たちとルークを追った。しかし、脚力にあまり自信のないティアはなかなか追いつく事ができない。

 食材屋の主人は、全ての状況を把握できないまま、ティアに続く。

 

「あの人たち、何であんなにキレてんだ?! ボウズがああなったのは、俺のせいか?!」

 

「わたしの責任です……! わたしがもっと……!」

 

「とにかく急ごう、預言士さん! でもきっと大丈夫だ! 行き先はローズさん……村長の所だ。村長さんならきっと上手く治めてくれる! それに、今あそこには先生もいるんだ! リンチなんてこたぁ無いよ!」

 

 食材屋の主人は、やや引きつった笑顔で子供に言い聞かせるように、ティアに笑い掛けた。

 しかし……

 

「私刑(リンチ)? ……ルーク……!」

 

 聞き捨てならない最後の単語に、ティアの顔は、さぁと青くなり、彼女は、さらに速く走り出した。

 

「あそこだ! あそこがローズさんの家だ!!」

 

 食材屋の主人が指差し、叫ぶ。

 その先には、華美ではないが立派な造りの藁葺きの家があった。

 玄関先に人垣ができていて、しきりに中を窺っている。

 ティアは、男の怒声を聞いた。彼女は、まさかリンチが始まったのではと、人垣を掻き分け中へと急ぐ。

 

「すみません……! 通してください! 通して……! ルーク……!」

 

 やっとの思いで、村長宅の玄関をくぐったティアは、一種異様な光景を目の当たりにした。それは……

いい歳をした大の男たちが、まるで叱られる子供のように、床に並んで正座していた。かなりつらそうに見えた。

 

「おぬしらなぁ……『も少し大人になれ』って話だの。もう、人の親の者もおるだろう!」

 

「『短気は損気』って言葉を知らんのかぁ? まぁ、焦って抜いても良い大根は採れんって話だの!」

 

「『疑わしきは罰せず』って言葉もあるなぁ。それらしいと言うだけで、吊し上げたら『あの村の連中は証拠も無いのに、余所者をコソ泥扱いするデタラメな連中だ。』って噂が広まったらどうする。風評被害は怖いぞぉ!」

 

「ルーク殿が、お優しい方だったから良かったものの……もし、腰の物に物を言わせていたら、おぬしら、命がいくつあっても足りなかったぞ! そこの所、分っとんのか?」

 

「さっさと謝れい……。土下座だっての!!」

 

 と、この様な形で、つかの間の道連れ イシヤマ・コゲンタが件の村人達にお説教をしていた。

激しい身振り手振りを交えた、かなりの演技派だ。

 

「ルーク! 大丈夫……なの? 酷い事されなかった?」

 

 突然のお説教現場に、しばし呆気にとられていたティアだったが、彼女と同じく呆気にとられた様な表情のルークを見つけると、すぐに駆け寄り彼に怪我や異常が無いか心配する。

 

「ティア。あぁ……、大丈夫だ。おっさんに事情を話したら、いきなり怒り出したから……助かったんだけど……」

 

「そう、良かった……。ごめんなさい……わたしが、もっと……」

 

「だから、謝んなって! それよりも、このジョーキョーどうすっかな……?」

 

 ルークは、頬を掻きつつ、ティアを諌めるように苦笑した。

 

「そうね……。どうしましょうか……?」

 

 ティアも苦笑し、首を傾げた。

 そして、コゲンタのお説教は佳境に差し掛かっていた。

 

「こうなれば、わしがおぬし等に代わって、お二人に土下座するしかないかぁ!?」

 

 コゲンタの毛細血管と男たちの羞恥心と足の痺れは、限界に近付いていた。しかし、それらの危機を救ったのは、男たちにとって予想外の人物だった。

 

「おっさん! もうイイって! やめてくれよ、ドゲザなんて! さすがにウザいって!」

 

 それは、男たちにとって憎むべき敵のはずのルークだった。

 

「ほら、オレってさ。外……というかこういう町に来るコトがほとんど初めてでさ……。買いモンのしかたもイマイチ理解してなかったんだよ。ドロボー扱いはムカついたけどよ。リンゴ食い逃げみたいな感じになっちまったのはジジツだし……。あぁもう、なんつうかぁ……」

 

 ルークは苛立たしげに髪を掻いた。ルークは怒られる事も、怒られる者を見るのも嫌いだった。屋敷でもメイド達の失敗を『自分がやった事』にして執事のラムダスに『厳重注意』を受けたり(勿論、右から左へ聞き流した)『それ以上の事』を故意にしでかし、うやむやにしたりした。他人の言い訳も、何故か頻繁にしてしまっていた。

 そして、ルークの言い訳は続く。

 

「えーと……よーするに! 今までで一番うまいリンゴだったぜ! ……ナンかちがうな? とにかく! ゼーイン悪かったってコトで! あ、いや! ゼーイン悪くないってコトで!」

 

 実に良いヤツだった。

自然に、自分も『悪くない』としているあたり、そこはかとなくスケールが小さくて、ルークは実に良いヤツだった。

 

「どうやら、ルークさんは許してくれた様だね? すまないねぇ、ルークさん。ここのところ立て続けだったもんだから、皆カリカリしていたんだよ……。村長として、もっと早くに対応するべきだった……。本当に申し訳ない……」

 

 今まで、コゲンタの後ろで事態を静観していた壮年の女性……エンゲーブの村長 ローズが、一歩前に歩み出て何の躊躇いもなく深々とルークに向かって頭を下げた。

 

「もうイイっての! アタマなんか下げんなよ。キリないぜ? おばさん」

 

 バツが悪そうに、そっぽを向き言うルーク。

いま知り合ったばかりの大人に、頭を下げられるのは初めてで、正直ルークには「どうしてイイのかわからない……」の一言であった。

 

「ありがとう。ルークさん」

 

 ローズは、そんなルークを見て、苦笑いを本物の笑顔に換えて感謝の言葉を贈る。

 

 と、その時、宿屋の主人ケリーの声が、二人の間に割って入った。

 

「待ってくれ! 俺はまだ納得して無いぞ! コイツが泥棒じゃないって証拠も無いじゃないか?!」

 

 ケリーは、痺れた足でふらつきながらも立ち上がり叫んだ。

 

「お前なぁ……。それを言っちゃあ、おしまいだっての」

 

 自分の店の食料庫を荒らされたのだから「納まりがつかない……」のは無理もない。

だが、その理屈が通れば“法治国家”というか“人間関係”すら成り立たない。

 

 コゲンタが、ケリーに再び言って聞かせようと口を開きかけるが……

 

「は~い♪ 先生! 此処は第三者の私が論理的に説明した方が、納得していただき易いんじゃないんでしょうか? と愚考しますが、ど~でしょう♪」

 

 マルクト軍の特徴的な青い軍服に身を包んだ、長身長髪のマルクト軍将校が険悪な雰囲気を物ともせず、笑顔で朗らかに手を上げた。

 将校は柔らかな微笑みを浮かべて、さほどズレてもいない眼鏡の位置を人差し指で直しつつ、皆の前に出た。

 

「大佐……、そんなコト解るのかい?」

 

「は~い、解ってしまいました! 解ってしまったんですとも! こちらの、ルーペ……もとい☆ルークさんが、食料泥棒じゃない! そう、じゃない可能性をアレコレ♪思い付いてしまったのだった。なぜなら、天才(笑)ですから!」

 

 ローズに疑問に、快活に頷き微笑む将校。

 

 しかし、『大佐』とは驚きだ。ティアは、「見た目ほど若くないのかも……」と、そんな事を考えながら、彼に注目した。

 

「不謹慎ですが、こういうシチュエーションんって憧れたんですよ~♪ では、まずは、様式美に則って一言♪」

 

 大佐は、「やれやれ~♪」と苦笑しつつ咳払いをすると、人差し指を立てた右手を高々と掲げ……

 

「犯人は、この中にいない! この謎は私が必ず解き明かします! ジェイド・カーティスの名に懸けて!!」

 

 ピシリと人差し指を虚空に叩き付け、マルクト帝国第三師団 師団長ジェイド・カーティス大佐は高らかに名乗りを上げた。

 

「うふ♪これクセになりそうですね~♪」

 

 ジェイド・カーティスは夢を見るように朗らかに微笑んだ。




 前半は、オリジナルキャラのおじさんがどんな生活をしているのかを多少描きました。これから徐々に、どんな人なのかを物語の中で描いていきたいと思います。

 そして、ついに問題の男の登場です。次回から本格的に活躍します。こうご期待(笑)。

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