気持ちを取り直して目の前を見やる。視線があったのは日本人にしては珍しい赤髪の青年。惚けた顔をして時が止まったかのように固まっている。
彼、衛宮士郎がそんな反応をしてしまうのは無理もない。生前に何度も練習した召喚時のこのセリフは完璧だ。本物のアルトリアでさえも凌駕する出来の良さに感動して言葉も出ないのだろう。それでこそ練習した甲斐があったというものだ。練習を見る度に苦虫を噛み潰した様な顔をしていたランスロットとガヴェインも報われたことだろう。俺はシロウの反応に満足しつつ次の言葉を紡ぐ。
「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した。」
困惑の色が強くなったシロウの顔を見やる。魔術士として未だにへっぽこな彼では理解が追いつかないのだろう。今は説明している時間もない、俺が味方であることだけを知って貰えれば良いのだ。
いい加減に我慢の限界が来たのだろう、中庭から感じられる殺気が強まってきている。転生前では未経験の、転生後では当たり前となってしまった空気を感じる。肌で感じる殺気が自分が戦場に立っていることを実感させる。
さあ、始めよう───俺だけの聖杯戦争を。
◇◇◇
土蔵を出た俺をランサーが槍を構えて迎える。その表情からは少しの俺の動きすら見逃すまいという気概が見える。一触即発の空気、あと一歩踏み出せば戦闘が再開されるだろう。
ほんの僅かな違和感、ここでのランサーはマスターの令呪もあって乗り気では無かった筈だ。しかし実際に目の前にいるのは本気で警戒し、一切の油断もない戦士の姿。開幕直後の原作との齟齬、だがこの変化は俺にとって望ましいものだ。
「一応聞くがよ、この勝負次に預けるつもりはねぇか?」
「断る。サーヴァント同士が顔を合わせた以上二度目は必要あるまい。」
カーニバル・ファンタズムでは毎回死に、ネタキャラ化が進んでいるランサーこと、クーフーリンだが俺との相性が頗る悪い。
原作では心臓必中(必ず当たるとはいっていない)と言われながらも戦果が芳しくない宝具、
よってランサーは令呪によって全力を出せないこの戦闘で、ゲイボルグを使う前に討つことが望ましいのだ。
「ハッ!よく言った!!」
俺の返事を聞くや否やランサーは猛攻を開始する。常人の目では捉えられない神速の突き。その速さは音すらも置き去りにし突かれたことにすら気づけないだろう。最速のサーヴァントの名に恥じない刺突の壁に思わず頬が緩む───いや、笑うしかないだろう。
正直に言えばランサーのことを少し嘗めていたようだ。俺に本物程の技量はない。アルトリアの身体を持ちながら円卓の騎士の中でも下から数えたほうが早いだけの技術しか持ち得ない。
そんな俺が戦場を生き延びれたのは神スキル、直感様のおかげだった。今も直感様に全てを託しギリギリの回避でやり過ごすことしか出来ず、一方的な攻防になってしまっている。構えることすらせずにひたすら回避を続ける俺を見てランサーの顔が訝しむものとなる。
「解せねぇな。何故武器を構えねぇ。そのナリでキャスターって訳でもねぇだろう。」
すまない、ランサー。武器を構える余裕すらないんだ。本当にすまない...。俺のそんな心情は理解されるわけもなく、ランサーは勝手に熱くなっていく。
「俺を相手に武器は必要ねぇってか!?嘗めやがって!...ならばこの槍にかけて───貴様を討つッ!!!」
その言葉と共にランサーは槍先を下に構え、体勢を低くする。それと呼応するように解放される途轍もない魔力。それはまるで周囲の熱を根こそぎ奪っていくかのようだった。禍々しい殺気がランサーの持つ槍先に集中していくのが見える。
これどう見ても
取れる手段は2つ、魔力放出を併用して全力で槍の射程外から逃れるか、発動自体を妨害するのみ。前者は最速のサーヴァントであるランサーから逃れ切れるかの保証がない、ならば───。
宝具を放つ為の溜めの時間、そこにしか勝機はない。俺は即座に獲物を取り出す。真名がバレることを恐れている場合ではないので不可視の鞘を解除する。間に合うかどうかは五分五分だが、幸運E同士ならばいい勝負になるだろう。
「
「
「
俺の運命を決定付けた剣
ランサーが槍を放ち切る前に間に合ったその一撃は、彼を大きく吹き飛ばしていく。何とか間に合ったと安堵したその瞬間、頭の中に警鐘が鳴り響く。直感様に従い見ることもせずに剣を振るうと、手に伝わってくる確かな衝撃。視界の隅には鞭のような軌道を描いて心臓に向かってくる槍。俺の剣で受け止めても尚、心臓を穿とうと進み続ける。拮抗する力と力がぶつかり合い、周囲には衝撃波が起きる。魔力放出も併用して全力で着弾点をズラす。そこまでしてやっと呪いの槍は左胸と左腕の間を通り抜けていく。
危なかった、原作知識と
「凌いだというのか...我が必殺の槍、
「見事な一撃でした。アイルランドの光の御子。」
本当に見事過ぎて勘弁して欲しい。もう二度と見たくない。使用者を吹っ飛ばしても槍だけが襲ってくるなんて聞いてないぞ。一歩間違えていれば死んでいたという事実に心臓の動悸が止まらない。
ランサーがこちらを睨んでくるが戦闘を続行するつもりはないようだ。戦闘の意思がないことを確認すると露わになってしまった
「まずったぜ。こんな早々に正体がバレちまうとはな...。そのツラ覚えておくぜ、セイバー。」
そう言い残すとランサーは屋根を飛び越えて去っていく。出来ればここで仕留めたいところだったが、Cランクとはいえ戦闘から離脱するのに補正のかかる仕切り直しのスキルを持っているランサーを追うことは出来ないだろう。一先ずの戦闘の終了に気づかぬうちに息をつく。知識として知ってはいたものの、実際に体験するのとでは違うようだ。生き残れたことへの安堵と強敵と戦えたことへの興奮が程よく混じり合う。その余韻に浸りながら今後のことを考える。
あと残った仕事は二人の客人、あかいあくまこと遠坂凛とそのサーヴァントであるアーチャーを迎えることだけだ。不確定要素はただ一つ。
───アーチャーは原作セイバーと違う俺の姿を見て止まってくれるのだろうか。
直感
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。本編セイバーの場合は開き直って全てをこのスキルに丸投げしている為、感じ取ってからの反応速度が高い。