一握りの希望-海- 作:のりしお
数十分で書き上げた駄作で良ければ。
海未から放たれたその言葉は深く俺の胸に突き刺さった。
「お、おい……嘘だろ?俺が分かんないのか……?」
少しもの希望を込めて、俺は海未にそう問いかけた。心のなかでは嘘だと言ってほしかったのかもしれない。妹が俺のことを忘れてしまったなどという、嘘など。
だが、俺の少しの希望は儚く消え散ったのだった。
「……すみません。穂乃果とぶつかり階段から転倒したのは覚えていますが、あなたのことは……穂乃果やことりたちのことは覚えているのですが……」
口調もまるで同じ。いつも通りの海未じゃないか。自分より穂乃果やことりのことを最優先にするところ。転倒した話を聞く限り、海未が穂乃果のことを庇ったのは容易に分かる。俺はそう言い聞かせた。
「……そうか。……俺は海未の兄貴だよ。覚えてないだろうけどな」
微かに俺の手は震えていた。急な事実と現実に対応しきれていないのだ。涙腺が刺激されて、今にも涙が出そうだった。俺はギュッと拳を握りしめて平静を装った。
「お兄さん……お名前は、なんと言うのでしょうか……?」
唾を呑み込み、震えている声をなんとか振り絞った。
「瑞稀……園田瑞稀だ」
俺はその瞬間、なにかが込み上げてきてしまい、目から大量の涙が零れた。目を隠して声を殺すが、すすり泣いてしまい嗚咽しながらも俺は泣きじゃくった。そうとう恥ずかしいのだろうが、俺はそんなところまで頭が回らなかった。
落ち着いた頃、俺は海未のベットで眠りに落ちていた。久しぶりに泣いたことと、泣きじゃくったためか、起きたときは目が腫れ上がっていた。海未は俺のことを心配したような顔で見つめていた。その儚い目を見てまた込み上げてきそうになってしまった。
「……っ、俺もう帰る、よ……」
後ろを向き、表情を見せない様にドアに手をかけると、海未は俺に一言だけ告げて深い眠りに落ちていった。
☆☆☆
『明日もぜひ、来ていただけますか……?』
病院を出ると、雨は更に酷くなっており、パーカーのフードを乱暴にかぶり自転車をやけくそに扱いだ。雨が降っている分は涙が見えることは無い。俺は我慢できずにまた泣いた。
家に着くとすぐにシャワーを浴び、早めの夕食をとってベットに潜り込んだ。今日一日でかなり色々なことがあった。
疲れ切った目を閉じると俺は、深い深い睡魔へと呑み込まれていった。
今日起きたことはすべて夢の世界で、海未が俺のことを忘れていない現実は寝れば戻ってくるという淡い思いと、希望と、願いを込めながら……。
次辺りにはもうやめてるかもしれません。