咲 -Saki- 天衣無縫の渡り者   作:暁刀魚

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別に牌のお姉さんとは関係ありません。


『水神はやり』中堅戦①

「おっす、お疲れ様ー」

 

 対局室から、控え室へ戻る間の廊下、人気はなくしんと静まり返った一本道に、かつ、かつ――と、軽やかな靴音が響いた。

 同時に口元から漏れ出るのは、あっけからんとした快活な声音だ。

 

 ――依田水穂:三年――

 ――龍門渕高校(長野)――

 

 彼女はとぼとぼと控え室への道を歩いていた一に驚くほど優しげな声音で声をかけたのだ。一はそんな水穂にドギマギ言葉を絞り出す。

 

「あ、あの……ごめんなさいです」

 

「いやいやいや、一はこれが初めての全国で、調子の悪い状況だったししゃーないよ。むしろ瀬々みたいに馬鹿勝ちできる方が珍しいんだって」

 

 同じ一年生でも、瀬々と一ではそもそも立っている場所が違う。瀬々は生まれた時から背負ってきた立場というものがあり、一のような、小手先のものでは決して無いのだ。

 

「それに――モニター越しに見てたけどさ。悪くなかったよ、最後の」

 

「……え?」

 

「――次は負けない(・・・・・・)、そんな目をしてた。そーいうのは、いいと思うよ私の場合」

 

 仲間たちを信頼し、同時に自分自身の省みて、次を見据えて勝利を願う。――単純なことではない。自分の負を、誰かのせいにするのではなく、あくまで自分のモノとして受け入れて、次を目指す。それはなかなかできないことだ。

 

 それでも、一はそう想い、瞳に闘志を宿した。――それはきっと、一が誰よりも、次の機会というものを、心の底から請い願っているからだろう。

 

「だからさ、――勝ってくる。一の分まで私が、……キミの信じた仲間の一人が、キミの負けを……取り返してくる」

 

 それを水穂は、心の底から理解する。水穂という少女の原点が、かつて喪ってしまった“機会”にあるのだから。

 再び手に入れた自分の居場所に対する存在証明が――勝利という言葉にあるのだから。

 

「私だけじゃない、副将はキミのご主人様だ。そして――――大将には、衣だって居るんだよ?」

 

 だから、勝利は揺るがない。

 

 ――一は安心して、帰ってきた後の、祝杯の事を思っていればいい。そうやって水穂は、朗らかに笑ってみせた。

 

「――、」

 

 一の中に、何か熱いものが込みあげて、溜まっていく。胸の奥どころか、体中すらを焼き焦がすほどに広がるそれは――安堵と呼ぶべきものだった。

 

 

 ♪

 

 

 ――対局室入り口、二人の少女が相対する。

 

「……お久しぶりです」

 

 タレ目気味な目元が特徴的なのは、姫松高校の中堅。――つまり、エースだ。

 

 ――愛宕洋榎:二年――

 ――姫松高校(南大阪)――

 

「お久しぶり。――去年のコクマ以来かな?」

 

「団体戦となると、こうして直接座るんは初めてになりますわ」

 

 水穂の言葉に、どことかふてぶてしさを押し隠しながら洋榎が言う。水穂もまた、堂々たる仁王立ちの風体で、それに応える。

 直接、交錯した視線から、暑苦しいほどの闘志が――激突し合った。

 

「……じゃ、ウチはこっちなんで」

 

 くるりと、洋榎が体を回す。向けるのは当然、対局室――熱戦の舞台だ。それに合わせて水穂も体を動かして、後に続く。

 

「奇遇だね……私もだよ」

 

 そうやって――それから会話は続かなかった。

 必要は、なかった。

 

 

 ――そんな両者の前に、対局者たる二名の雀士が立ちはだかる。

 

 

 卓の席に、すでに場決めを終えたのだろう、二人の少女が座り込んでいる。

 

 ――佐々岡良美:三年――

 ――晩成高校(奈良)――

 

 一人は黒髪を肩の辺りで切ってオカッパにした、どちらかと言えば地味というよりは不気味という言葉が近い少女。

 もう一人は、水穂に少し近さを感じる快い笑みの似合う少女――

 

 ――五日市早海:三年――

 ――宮守女子(岩手)――

 

 四者は視線を激突させると、すぐさま自身の内へと還す。――対局は、どこか重苦しい、違和感のようなものを抱えたまま――はじまった。

 

 

 ♪

 

 

 席順

 東家:愛宕(姫松高校)

 南家:依田(龍門渕高校)

 西家:五日市(宮守女子)

 北家:佐々岡(晩成)

 

 順位

 一位晩成 :114300

 二位宮守 :109300

 三位龍門渕:92000

 四位姫松 :84400

 

 

 ――東一局、親洋榎――

 ――ドラ表示牌「{⑦}」――

 

 

 それぞれの手に渡った十三の牌が、各々の思考にそって組み替えられる。ただそれよりも早く、洋榎の第一打はバラバラの手牌の中から、繰り出された。

 

 ――洋榎手牌――

 {三三①一9⑦北九四發6中21}

 

 洋榎/打{北}

 

 すかさず水穂が手を伸ばす。こちらは簡略的ながらすでに理牌は終え、見やすく手牌が整頓されている。筒子を左端に、萬子を右端に寄せた形。その意図は、単純だ。

 

 ――水穂手牌――

 {①③⑤⑥⑧⑨345發西一八(横西)}

 

 水穂/打{一}

 

 打牌の後、引っ込んだ水穂の手を追いかけるように、五日市早海も勢い良く牌を掴んだ。何度か指の腹でその牌の在り処を確かめ、直ぐに手牌へと組み込む。

 

 ――早海手牌――

 {三三四八九②⑦479東南白白(ツモ)}

 

 早海/打{南}

 

 最後に良美は、少しだけ難しそうな顔をして、自摸った牌と、理牌のすんだ手牌を眺める。それから一息、嘆息に近いものを吐き出すと、牌を一つ、振り上げる。

 

 ――良美――

 {五五六⑦⑧⑧2349北中(横北)}

 

 良美/打{9}

 

 

 ――洋榎手牌――

 {一三三四①⑦1269發中(横①)}

 

 整理した手牌を見やりながら、洋榎は何事か考える。一度右端の役牌へと手をかざし――それから筒子、{⑦}へと軽く手をかける。

 最後にそれも取りやめると、すかさず手を{9}へスライドし、つかむ。

 

 洋榎/打{9}

 

 数瞬の思考こそあったものの、洋榎の打牌に淀みはない。本線はそもこの{9}であり、残る二つの打牌は、単純に可能性を自身の中で、シミュレートしたにすぎない。

 

 水穂/打{八}

 

 河に少しずつ溢れ出る撒き餌。各者の打牌はそれぞれのテキ(・・)を釣り上げる餌のようなものだ。洋榎の視点にはそう移り、何より洋榎が、捨て牌をそう扱っているのだ。

 さながら浮世の釣り人風情とでも言ったところか、粋な下町風の立ち振舞で、洋榎は視点をそれぞれの牌へと向ける。

 

 早海/打{②}

 

 スライドするように、少し手前で叩いた牌を、早海の右手人差し指が押しこむ。音もなく、河に次いで牌が現れた。

 

 良美/打{中}

 

 それから右端に加わる水穂のツモへと視点を一度向けてから、再び自身のツモへと返る。盲牌で指を勢い良く握りこみながら、手牌へとツモを移動させる。

 

 洋榎/ツモ{②}・打{⑦}

 

「チー」 {横⑦⑧⑨}

 

 すぐさま、水穂がそこで動く。洋榎の視点は、すぐさま対面、早海の元へと向かう。気づかれないほど一瞬だけ向けた視線の先には、ほとんど――それこそじっくり観察しなければわからないほどうっすらと――笑みが浮かんでいた。

 それから、鳴いた水穂へと目を向けると、その視線が水穂のそれと衝突した。少しだけ水穂が驚いたようにしたタイミングで、洋榎は手牌へと自分の眼を戻す。

 

(かかった餌は大きいでー。まぁそれでも鳴いてくるタイプやと思ったけど、まさか……)

 

 わからずに鳴いた――訳ではないだろう。洋榎はそう考えながらも、自分の中の思考、各者の観察へと意識を埋没させていくのだった――

 

 

 ♪

 

 

 あくまで冷静に状況を観察する洋榎とは対照的に、どこか高揚した気分を抱えたまま、水穂は思い切り良く笑みを浮かべていた。

 水穂の視点からは、飄々とした洋榎の表情が映るのであるが、水穂自身、それを真っ向からそのとおりだとは思えなかった。

 

(――やっぱあれ、狩人の目だよ。昼行灯のフリをした暗殺者、姫松最強の仕事人……!)

 

 とはいえ、あの{⑦}が、まさか速度よってはじかれたものだとは思わない。洋榎もまた、五日市早海のチカラに、気がついていないはずがないのだから。

 一巡して、ツモが回る。洋榎の打牌は、連続で中張牌。速度というよりも、チャンタ系に意識を向けているように思える。ならばと水穂は考えて、すぐさま自身のツモへと移る。

 

 伸ばした右手が――山に触れる直前、いいえもしない痺れ、違和感が突如として水穂を襲った。まるで何か大きなものに、自分自身をせき止められているかのような。

 

 一瞬の硬直だ。すぐさまそれは水穂の体から離れる――否、離した。水穂が、錘を、自身のチカラで。それは大して特別なものではない、純粋な気合によるものだ。――それが水穂の持つ、力チカラなのだ。

 

(知ったことか……っ!)

 

 勢いよく右手を振りかぶり、山の上の牌をつかむ。なでるように牌だけを掬い取ったそれは、すぐさま水穂の手元に現れる。

 

 水穂/ツモ{6}

 

(……なるほど、ね)

 

 思い描いたものではなかった。最善なツモとはいえない。一瞬的なものとはいえ、この場を支配する何かを振り切ってまでツモったのだ。思わぬ脱力を水穂は隠せない。

 ただこれを抱えるよりも、オタ風の{西}を重ねていたほうが、水穂の手は守りを得られる。当然ここはただのツモ切り、ためらうことはしない。

 

 続くツモ、そのまま吐き出す。先ほどのアレ――意識をしてツモをつかんで、しかし何の変化もなかったことで、水穂のチカラにケチがついてしまった。

 さほど分の悪い賭けではなかったが、このままただツモを追っていても一向聴から手を進められるとは思えなかった。そう考えて、思い出す。

 

 

(やはりキミも私の敵になるんだね――)

 

 ――先日のこと、第二回戦に備えたミーティングでの席のこと。

 

 

(水神――はやりっ!)

 

 

 ♪

 

 

「――はやり神?」

 

 高級感あふれるホテル備え付けのソファに限界まで体を沈めながら、後方からの言葉、衣のそれに水穂は耳を傾けた。

 

「あぁ、遠野の――岩手のほうに伝わる水神の一種でな、おそらく宮守の中堅は……それだ」

 

 どこかで聞いたことのあるようなプロ雀士が神にでもなったのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「なぁに、それ。もしかして岩手の中堅さんは神様で、神様が麻雀を打っているっていうの?」

 

「いいや、あくまでそういったものに近い、ということだな。根っからのリーダー気質、水神としては十分の素質があったのだろう」

 

 神は永水のアレだよ、といいながら、衣は水穂の隣まで持ってきて、ある雑誌のページを見せる。それは高校生雀士特集と銘打って、地元岩手の雀士を特集したローカルな雑誌のようだ。

 少し前、宮守が第二回戦の対戦相手が決まった後、透華が使用人であるハギヨシに言って集めさせたもののひとつであるようだ。

 

 中身は凡庸的なインタビュー記事で、どうやらインタビューの対象となっている宮守中堅、五日市早海の私生活に踏み込んだものであるらしい。

 他人に頼まれたことであれば、余裕があればためらわず手伝う、人を纏める立場につくことが多く、友人も多い。衣がリーダー気質だと早海を評するが、そのとおりのようだ。

 

「――時にみずほ、水神というものは、水を司る神という意味だ。麻雀において、水というのは何を連想する?」

 

「ん? んー、河、かな?」

 

 衣の問いに水穂は少しだけ考えて答える。水、という以上、それが関わるものは麻雀においてひとつ、河と呼ばれる捨て牌置き場を置いてほかにない。

 ご名答、その答えに対して衣は手をたたいて笑いながら肯定した。朗らかな様子に、水穂もつられて笑みを見せる。

 

「さて、その上で言おう。第二回戦中堅戦、水穂、お前の相手はお前と最悪といっていいほどの相性を持つ相手だ。第二回戦、最大の敵は間違いなく……宮守になる」

 

「――へぇ、どういうことかな?」

 

 そんな衣の言葉に、水穂はすぐさま笑みを鋭い刃のような眼差しに変える。

 第二回戦、最大の相手は間違いなく姫松だ。特に中堅戦は姫松のエース区間である。そんな全国最強の――さらに最強クラスを相手取って、それよりも厄介だと評する宮守の中堅、水穂は当然意識を向ける。

 

「宮守は新参の高校だよ? 別に侮るわけじゃないけど、あの愛宕洋榎より厄介だなんていわれるのは、違和感が大きいよ」

 

「別に強いというわけではないさ。中堅戦、間違いなく最強は水穂と、その最強の最強らしい相手だろう。――だがな水穂、お前と宮守の中堅は、相性というものが悪すぎる」

 

 そうやって、衣は水穂の前に回った。室内は、衣と水穂の二人だけ、残るメンバーは、それぞれ自分自身の対戦相手が残す公式戦の牌譜に目を通している。

 ただ一人、水穂だけがこの場に残され、衣から説明を受けている。――ただ牌譜だけを見てもわからない、異常な打ち手に対する説明を。

 

「端的に言おう。五日市早海、あやつの前では――あらゆる鳴きが無意味になる」

 

「……なるほど、ね。それで水神はやりが出てくるわけだ」

 

「そうそのとおり、水神の力はあくまで単純。アレはとにかく河の乱れを嫌う。鳴いて河の中の牌を掬い取れば、それを為したものにそれ相応の罰を与える」

 

 罰、それはつまり手の支配だと衣が言う。鳴いて手を進めても、鳴けば鳴くだけ――有効牌がツモれなくなる。

 結果、鳴きを主体の戦法とする水穂との相性は、最悪といってい部類になる。

 

「それはさながら、激流に命を取り込まれるかのごとく。――ひとつ鳴けば身動きを取れなくなり、ふたつ鳴けば――」

 

 一拍溜めて、衣は放つ。その顔をたっぷり闇にしみこませ、深淵から言葉をひねり出すがごとく。地獄の閻魔が、沙汰を誰かに告げるかのように――さえずるのだ。

 

 

「――命はないと、思ったほうがいい」

 

 

 ♪

 

 

『ふたつ鳴けば――――命はないと、思ったほうがいい』

 

 

 衣はそう言った。事実、ひとつの鳴きで、完全に水穂のツモは沈黙した。

 再三再四のツモ切り、これで六巡、水穂の手は完全にストップしたことになる。これは早海のチカラだけでなく、水穂自身の意気消沈具合も加わってのことだろう。

 

(衣はああやって言った。事実私は言いように支配を甘んじている)

 

 早海の打牌、良美の打牌。

 

 そして、洋榎の打牌。

 

 ――洋榎/打{②}

 

(……でも)

 

 自身のツモの不発から、水穂はひとつ調子を落とした。それにより、結果として水穂は手を止めざるを得なくなった。だが、それもここで終わる。これを鳴けば聴牌だ。たとえ早海のチカラがあったとしても、生粋のデジタルをも内包する、水穂がここで鳴かないわけには行かない。

 

 

「――チー!」 {横②①③}

 

 生物すべてが甘んじるほかにない、激流のさなか、水穂の右手が閃いた。一局面の刹那、河から浮き出た水穂の牌が、飛沫を伴って卓上の右端へ跳ねる。

 これで、水穂の手がひとつ進んだ。同時にひとつの――ゴールが見えた。

 

 水穂/打{西}

 

(命をとられる、衣はそんな表現をした。それはたとえば、他家の当り牌に射抜かれる、だとか――そんな意味合いを含んでいる。つまりこの鳴きで、誰かの当り牌をつかむ可能性が大きく増えた)

 

 本命は、おそらく洋榎だろう。純チャンに近い手作りをし、水穂の性質を理解している彼女が、{⑦⑧⑨}を鳴いた水穂の手牌を見通していないとは思えない。

 

(チャンスがあるとすれば一巡、次のツモまでに和了できたとすれば、それで問題は解決する)

 

 あくまで支配の対象は、牌を鳴いて晒したものだけ。それ以外の、他家の手配は縛らないし、相手の打牌までには干渉できない。聴牌さえできれば、鳴いても出和了りは可能だということになる。

 ――そして、それができなくとも、水穂には、聴牌したという事実がある。先ほどの失敗で失った調子を、取り戻したということだ。

 

 打牌。

 打牌。

 打牌。

 

 一巡して、当り牌は決してでない。全員がとにかく手堅いようだ。全国第二回戦の舞台、数巡の猶予があるならともかく、立った一巡では、当り牌が転がりでる確立は異様に低い。

 だからこそ、水穂は自身のツモに、万感の思いを重ねる。

 

(――支配がなんだ、神がなんだ、私は神なんか信じない。運命なんてのは、人を蝕む最悪ののろいだ。人を縛る鎖でしかない!)

 

 勢いよく右手を振り上げる。肩辺りまで持ち上げたそれを。一度後ろに引き絞り、弾丸のように突き出した。覆いかぶさるように下降するそれが、突如、自身のツモる牌の前で硬直する。

 

「……ッグゥ――ッ!」

 

 顔を思い切りしかめて、体中に奔る違和感を感じ取る。

 

(ふ、ざ、け、ん――)

 

 それでも、水穂は右手を思い切り前へ突き出した。まるでその手は振り子のように、斜め下へのスライドから、一気に牌を掴み取る。

 

 それだけで、十分だった。

 

 

「ナァ――ッッ!!」

 

 

 必要以上の爆音が、卓上はおろか、観客席、控え室――会場中に絶え間なく響いて消えていく。

 水穂のツモが、彼女の手元であらわになったのだ。

 

「――ツモォォ!! 500、1000!」

 

・龍門渕『94000』(+2000)

 ↑

・姫松 『83400』(-1000)

・宮守 『108800』(-500)

・晩成 『113800』(-500)

 

 小さな和了だ。

 必要のない維持を張ったと、後になってみれば後悔が尽きなくなるような、そんな和了。

 

 それでも水穂は和了した。たった一つだけ、ちっぽけなほど――遠くになってしまった意地が、水穂にはあったがために。

 

 

 ――宮守控え室――

 

 

「うっわ、龍門の人、やっぱりこっちがわだったんだ」

 

 隠せずにいた驚愕を少しばかりもらしながら、先ほど和了した水穂のツモを、臼沢塞は思い返す。

 違和感のあるツモだった。無意味に自身へ言い聞かせるかのような動作で、普通ならつかめるはずのない牌をつかんだ。そも、その“普通”自体が異常なのだが。

 

「面倒なことするなぁ」

 

 それに反応するように、小瀬川白望が嘆息する。やれやれといった様子で、事実彼女は多少の呆れを感情にまぎれさせていた。

 

「はじめてみた、鳴いた上で早海の支配を抜け出す人」

 

 あわせるように、鵜浦心音が言葉を漏らす。

 

「まぁ、私やシロだったらできないわけじゃないだろうけど、普通、そうしないほうがずっと楽に麻雀を打てるんだから、鳴いてわざわざ真っ向から早海とぶつかることはない」

 

 無駄ヅモのない心音や、どこか麻雀そのものを見通し悟っているかのような振る舞いをする、シロは早海に真っ向から鳴いてぶつかりあうことも可能だろう。

 それでも、彼女たちがわざわざそれをすることはない。しないほうがいっそ楽に戦えるのだ。

 真っ向からぶつかり合うには、早海という相手はいささか強大すぎる、ならばいっそ、正面からではなく回り道をして、早海にはほどほどに暴れてもらうのが彼女たちの正道だ。

 

 

 それはつまりどういうことか、簡単だ。宮守の先鋒であり、エースポジションを任された心音ですら、二年生ながら、心音や早海に匹敵するだけのチカラを持つ白望ですら――早海には、正面衝突ではかなわない。

 

 

 無論白望の場合、回り道こそが彼女の戦法である、という特性上の相性もあるのだが。

 

「とはいえ、ここからが先輩の真髄だとおもいますけど」

 

「かなり無理やりだったからねぇ、みんな気になってるんじゃないかな?」

 

 塞の言葉、胡桃の茶々入れめいたつぶやき、結局のところ四者の意識はひとつに向いている。

 この半チャンで、そうそう早海が負けることはない。特にこの状況は、まさしくオカルトの化身、早海にふさわしい、場所なのだ。

 

「がんばれ、早海!」

 

 そうやって、肩に力を入れて対局に見入る、心音の眼に疑いはない。まっすぐなほど正直な瞳で、モニターの向こう、大舞台で戦う早海の後姿を追った。

 

 ――白望だけは、そんな心音の方をちらりと見て、どこかダルそうに、重苦しい息を吐き出した。




あまり長くならないように、いつもどおりの長さくらいに鳴ったら様子を見て話をきる、なんて方法にしました。
これでも多分更新速度はそんなに和了らないと思います。完全に調子の問題なので、勢いが出てくるまでしばしお待ちをー。
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